そこは『あの』部屋だった。  
(やれやれ、今日も巫女様の研究か)  
(全く、再現不能とわかっているなら研究なんかさせるんじゃねーっての)  
(ぼやくなよ、支部長様じきじきのご命令ってヤツだ)  
耳の届くのは『あの人』たちの声。  
今はもう聞く事が無い筈の声。今はもう来る事が無い筈の場所。  
わかっている。これは夢。  
過去に起こった事を追体験しているだけに過ぎない。  
だから。一刻も早く。目を覚まさなければ。  
早く。 はやく。 ハ ヤ ク 。  
 
「……めがみちゃん!姫神ちゃん!大丈夫です!?」  
呼ぶ声に導かれ、姫神秋沙はゆっくりと瞼を開けた。  
目の前には、きぐるみのような寝巻き(と言うかそのもの)を着た家主の月詠小萌が心配そうな顔でこちらの顔をのぞき込んでいる。  
「……何事?」  
「何事?じゃないですー!」  
心底わからない風な姫神のリアクションに、小萌は両手を振り回しながら説明する。  
「姫神ちゃん、また魘されてたんですよ。これでもう何日目だと思ってるんです?」  
その小萌の説明を聞き、ふ、と姫神の表情に陰が宿る。  
その表情を見てまた、小萌も『あぁ、また話してくれないのか』と察する。  
実はこのやり取りは今夜だけのものではなかった。  
先日から夜中に突然姫神がうなされ始め、今夜で6日連続を数えていた。  
最初のうちは原因は何なのか、心当たりは、と姫神に問うていた小萌も、昨日からは強く聞かないようになっていた。  
何しろ口を開かないのだ。  
こうなってくると、小萌自身には待つことしか出来ない。  
 
 
「……というわけなんですー」  
翌日の昼休みに、月詠小萌は上条当麻を職員室に呼び出し、ここ数日の顛末を説明していた。  
「どうりでここ数日はいつもに増してフラフラしてた訳だ」  
話を聞き、さもありなんと頷く上条。  
「で、小萌先生としては姫神の不調を何とかしてあげたい、と」  
「当然です!先生と同居してるのに先生が力になれないなんて思われているのは悲しい事ですが、姫神ちゃんにそう思われてると言う事は先生にも落ち度があるからに違いないんですー。ですからここはアプローチを変えてみようと思うんですよー」  
「なるほど。で、どうして私めが職員室に呼びだされてその話を聞かされているのでせう?」  
「そんなの決まっているじゃないですか。上条ちゃんにも手伝って欲しいんですー」  
「…………」  
「…………」  
見つめ合う事暫し。  
「……って何故ゆえに!?」  
「だって誰かに協力を頼もうにも、こんな事は姫神ちゃんと親しい人にしか頼めませんですしー。クラスの中で姫神ちゃんと一番親しいのは上条ちゃんじゃないですか」  
「いやいやいや!だからって何やらデリケートな問題っぽいですし、こういうときは同性の方が適任なのではありませんでしょうか!?」  
「そうは言っても姫神ちゃんに信頼されてなければ相談とかはされないと思うんですよー……」  
小さくなりながら意気消沈する担任の姿を見て、改めて、今の話を頭の中で反芻する。  
姫神秋沙。  
三沢塾と言う科学宗教に捕らえられていた、『吸血殺し』と言う能力を持った超能力者。  
後に三沢塾がとある魔術師に乗っ取られて生じたいざこざの際に、上条当麻は彼女と出会った。  
それから合縁奇縁入り混じり今に至る訳だが、少なくともそれは今の状況にはあまり関係ないだろう、と上条は頭の中で結論付ける。  
「……あー、まぁ俺なんかでなにかの役に立つんでしたら、協力するのも吝かじゃないですけど」  
その答えに、小萌は表情を一変させて、  
「ありがとうです上条ちゃん!やっぱり上条ちゃんは優しいんですー」  
何かこう今にも抱きつきそうな面持ちで上条を見上げ、これからの予定を提案する。  
「そうとなれば善は急げです。今日の放課後に姫神ちゃんと話してもらえないですか?場所なら先生が手配するです」  
 
 
時は過ぎ、放課後。  
人気の無い視聴覚室で、姫神秋沙は人を待っていた。  
待ち人は月詠小萌。授業が終わったときに、  
『姫神ちゃん、放課後にちょっと視聴覚室で待っていて欲しいです』  
と言われ、その言葉に従って姫神は放課後のこの時間に一人、佇んでいるのである。  
残れ、と言われた理由はおおよその見当は付く。最近の夜中に自分が魘される事についてだろう。  
(小萌は。心配性)  
これは小萌には関係の無い事。  
窓へと近寄り、夕暮れに染まる校庭を見下ろす。  
部活最中の生徒や帰宅途中の生徒などの様々な姿がそこにはあった。  
今の自分には望むべくも無い世界が。  
(そう。私は。あそこには行けない)  
あんなに無邪気に笑いあったり、未来を信じて真っ直ぐに見つめる事など。  
(私には。出来ない)  
そう物思いに沈んでいると、背後のドアが開く音が聞こえた。姫神は遅れて来た相手に対し文句を告げようと振りかえり。  
そのままの姿で固まった。  
何故なら、入ってきたのは小萌ではなく。  
「よう、姫神」  
なんとなく引け腰気味な上条当麻だったからだ。  
ある意味、一番会いたくない相手だった。  
 
 
視聴覚室に入ると、お目当ての姫神秋沙は窓際で外を眺めていた。今のドアの音に気が付いたか、こちら側へ振り返る。  
「よう、姫神」  
上条が声を掛けると、何故か姫神はその動きを止めた。どこか呆けたような脱力した表情。  
その表情に上条は引っかかるものを感じた。果たして、姫神秋沙と言う少女はあんなに諦観を滲ませた少女だっただろうか?  
「姫神?どうしたんだ?」  
いい知れぬ不安を感じ、上条はその不安に突き動かされるように姫神へと歩み寄り、右手を伸ばした。  
 
近づいてきた上条の右手が、記憶の中の『それ』と重なる。  
思い出す。  
(くそっ、結局今日も進展なしかよ)  
おもい出す。  
(こんな役得が無きゃやってられっかよ……)  
おもいだしたくない。  
(あぁ、わかってるさ。あのイキモノが何の血を好むか位はな)  
やめて。  
(だったらこっちを使えば良い事だろ)  
嫌。  
(ほら、暴れるな!いい加減諦めろよ)  
いや。  
(どうせお前は)  
イヤ。  
(どこへも行けないんだからな)  
イヤァァァァ!!  
 
バシッ!  
上条の伸ばした右手を払い、姫神は両手で自分の体を抱きしめながら後ずさる。  
「姫、がみ?」  
何が起きたのかわからない、と言った風に上条が呟く。払われた右手に痛みは無いが、殴られた以上の驚きを受けた事には変わりは無い。  
後ずさりながら姫神は何事かを呟いている。耳を澄まして、上条は更に衝撃を受けた。姫神は壊れたテープレコーダーのように一つの単語を繰り返していた。それは。  
 
やめてください  
わたしはこんなことをされるためにここへきたのですか  
こんなことのためにここへつれてこられたのですか  
それならなんでつれてきたのですか  
わたしはただ■■したくなかっただけなのに  
あのひとたちを■■したくなかっただけなのに  
いや  
やめて  
いや  
いや  
 
「嫌。嫌。嫌。……」  
ぶつぶつと繰り返しながらついに窓際まで下がりきった姫神を追いかけて、上条はその肩を掴もうとする。しかし、  
「嫌ぁ!」  
両手を振り回し、姫神は上条の接近を拒絶する。その表情は恐怖で引きつり、瞳には涙が浮かんできている。上条の事を上条当麻と認識して無い様でもある。  
このまま放って置く訳にもいかない。  
上条はそう判断して、少々荒っぽい手段にでた。  
姫神の振り回している両手を掴み、強引に姫神の体を引き寄せる。  
「離してぇ!」  
その姫神の悲鳴に怯むものの、上条は、  
「落ち着け姫神!俺が判らないのか?」  
と姫神に呼びかけた。  
一度では駄目でも二度、三度と繰り返していくうちに、姫神の顔に理性が戻ってくるのが見えたので、そこで両手を離す。  
ぺたり、とその場に崩れ落ち俯く姫神。そんな姫神の肩に手を置き、しゃがみ込みながら上条は(自分の中では)優しく声を掛けた。  
「落ち着いたか?」  
「…………」  
その声に、ただ頷く。  
力なく項垂れるのみならず、その両の瞳からは新たな雫が溢れ出してくる。  
あぁ。こんな姿はこの人だけには見られなくは無かったのに。  
吸い込まれるように、目の前の上条の肩へと頭を預ける。上条もそれを拒絶したりはしない。  
その姿勢のまま、姫神はポツリと口を開いた。  
「ごめん。こんなつもりじゃなかったのに」  
そう言われても上条には何の事かは判らない。それでも、  
「気にするなよ」  
とだけは言いたくなった。  
「どうしたんだよ姫神。小萌先生が心配してたぜ?」  
「うん。判ってる。でもこれは。小萌には言えない事だから」  
「……それは、俺にも言えないか?」  
「…………出来れば。言いたくないと言うのが本音」  
「そ、か」  
ある意味わかっていた答えに上条は思わず天井を見上げる。しかし、  
「でも」  
姫神は続ける。  
「もし。私が助けを求めたら」  
これは彼に対する甘え。彼にこんな問い掛けをすればどんな答えが返ってくるかなんて、火を見るより明らかだ。それでも姫神秋沙は。  
「君は。私を助けてくれる?」  
上条当麻に助けて貰いたいと言う幻想を捨てられなかった。  
 
 
赤く染まる部屋の中、姫神は三沢塾でされていた事を語りだした。  
「……結局三沢塾には。『私』は必要なくて。『吸血殺し』が重要だった」  
「その研究が進まない事に対する苛立ちが。『私』に向いたというのは。ある意味自然な事だったのかもしれないけれど」  
「それで。『吸血鬼は処女の血を好む。処女で無くなったら能力が無くなるかもしれない』なんて言われて」  
「それから。色々されたけど。笑わせるよね。これだけ汚れても私は『穢れてない』んだって……」  
姫神の告白を、上条はただ黙って聞くしかなかった。  
怒りは、無論ある。  
それと同時に思い出したのだ。三沢塾で姫神が言った言葉を。  
(元々。私がここでどんな扱いをされていたか聞く?何のために建物のあちこちに隠し部屋があるのかとか。俗物すぎてきっと君は耐えられない)  
確かに。あの場面でこんな事は言えないだろう。ましてや会ったばかりの人間になんて言える訳が無い。  
「もういい姫神。それ以上は言わなくてもいい」  
「……やっぱり。耐えられない?」  
「あぁ」  
「ごめん。やっぱり迷惑だったよね」  
「そうじゃねぇよ。そうじゃないんだ姫神。俺が耐えられないのは……」  
そう言って上条は、そっと姫神の体を抱き寄せる。姫神は上条のいきなりの行為に目を白黒させる。  
「こんなに傷付いてるお前を助ける手段がわからない自分の無力さ加減に、だ」  
そして上条のその言葉は、姫神の心の中にある、とある願望を揺り動かした。  
 
「……君は。本当に優しいね」  
そんな君だから。  
「なぁ姫神。今更だけど俺に出来る事は無いのか?」  
私は幻想を持ってしまった。  
「して欲しい事は。あるけど」  
あの魔術師は私の身柄は助けてくれたけれど。  
「そうか、俺に出来る事なら何でもするぞ」  
私の心は助けてくれなかった。  
「大丈夫。君にしか頼めない事」  
私の心を救ってくれたのはあなた。  
だから。私の心に未だ澱むこの悪夢(幻想)を――。  
「私を。抱いて欲しい」  
あなたに殺してもらいたい。  
 
 
一瞬、何と言われたのか理解できなかった。  
思わず姫神の顔を見る。  
「ひ、姫神?」  
その呆然としている上条の顔目掛けて、  
「ちゅ」  
姫神は自分の顔を寄せて軽く唇を合わせる。  
「!?どわぁ!」  
突然の行為に、上条は驚きのあまりに姫神からニ・三歩後退り、机に足をとられて床に座り込んでしまった。  
「……そんなに驚くとは思わなかった。もしかして。初めてだったとか?」  
「いや、そういう訳じゃないけど……」  
「そう。それは残念」  
心底残念そうに呟く姫神。  
「と、とにかく。その、今言った事なんだけどよ」  
座り込んだままだとどこか気恥ずかしいので、上条は問い掛けを口にしながら立ち上がった。  
「やっぱり。初めて?」  
「そっちじゃない!そうじゃなくて、その、その前に言った事だよ」  
そう言われて、姫神は右頬に手を当て、  
「もう一度言わせたいなんて。言葉攻めとは意外とマニアック」  
「だあぁぁぁ!」  
さっきまでのシリアスな空気はいずこ!?と叫びながら上条は頭を抱える。そんな彼の姿を見て、  
「ごめんね。でも。ふざけて言った訳じゃないよ」  
その姫神の言を聞き、上条も喚くのをやめる。  
「本当はこんな事は。君に頼んじゃいけないことなんだと思う」  
自分の心の内を吐露しながら、姫神は上条の方へ一歩踏み込む。  
「だけど。君じゃないとダメなの」  
また一歩。  
「君に。抱かれたいと思ってる」  
更に一歩。その勢いのまま上条の胸に飛び込む。  
「だから。お願い。……当麻」  
言って、姫神は顔を上げる。その目にはうっすらと流れる雫が――。  
それを見て、上条も覚悟を決める。そも、この少女を泣かせるのは本意ではないし、何より。  
「分かったよ、姫神。俺で良ければ」  
その儚い想いに、心を射抜かれた。  
「お前のその幻想、叶えてやる」  
そして今度は上条から、  
「ん……」  
二人の距離をゼロにして見せた。  
 
 
啄ばむ様な軽いキスを繰り返しながら、上条は征服の下から姫神の胸目掛けて左手を差し込んだ。右手を使わないのは、万が一の場合を考えて、だ。その右手は姫神の長い黒髪をゆっくりと梳いている。  
姫神の方はと言うと、これ程までに優しく触れられた経験が無いので、上条に全てを委ねている。  
腹部を撫ぜ上がり、上条の左手は目的地へと到達した。ブラジャーを強引にずらして、程好い形をした双丘をまろび出させる。そしてその柔らかさを確かめるようにゆっくりと力を入れる。  
「ん」  
姫神は胸から送られてくるじんわりとした快感に、小さく声を洩らした。その瞬間、  
「ん!?んっ。んーっ」  
上条は姫神の口内にも侵攻を開始した。  
突然の事に驚き、思わず離れようとするが、そんな姫神の動きを上条は右手で封殺する。  
舌で歯茎を丹念に舐り、顎部で動かないで固まっていた姫神の舌を引っ張り上げてそのまま絡めあう。  
ちゅくちゅくと水音が頭に響く。こんなのは初めてのことだ。  
実は姫神にはキスの経験が無い。塾の研究者は姫神の事を、性欲処理の相手としか見て無かったのだからある意味当然の事かも知れない。  
だからさっきの「残念」は、『相手が、自分と同じ最初ではなかった事』が「残念」だったのだ。  
こうも激しく口内を攻め立てられるのも初めてだ。知らず足が内股になってくる。  
無論左手もサボってはいなかった。  
キスのパターンを変えるとともに、かるく揉み撫でるだけだった手を、堅くしこって来た頂上へと持っていき先端部を捻る様に抓む。  
「ん〜〜〜〜!」  
途端、姫神の膝が砕ける。  
「ん、おっと」  
右手を背中に回して、崩れ落ちそうになった姫神の体を支える。  
「大丈夫か、姫神?」  
「……君。ひょっとして。……経験。豊富?」  
息も絶え絶えに上条の顔を上目遣いに見て、そう問いかける。  
「えーと、……初めてではありません」  
何故か目を逸らしながら、上条は答えた。  
「ちょっと。意外。……むしろ。納得?」  
「人をプレイボーイみたいに言わないでくださいな!」  
「それは。冗談?」  
「あーっ、もう、そんなことを言う口はこうする!」  
「ぅん」  
自覚が無い言動とは正にこの事。  
 
視聴覚室の大きい教卓の上で、姫神は横たわっていた。最早身に着けているのは十字架と靴下だけと言う、ちょっとアレな格好だ。背中には上条の制服が敷かれているので、そんなに痛くは無い。  
その姫神の足を持ち上げて、同じく全裸の上条が足の間に入っていく。  
お互いに既に臨界点。最早これ以上は待てないと主張する己が分身に手を添えて、その侵入を心待ちにしている姫神の秘裂へと狙いをつける。  
「いいんだな?」  
上条の問にゆっくりと頷く。それを視認して、上条は姫神の膣内へと押し入りはじめた。  
「…………ぁぅ」  
未体験の痛みに小さな呻きを洩らす。しかしそれすらも『あの部屋』での事と比べれば。いや、比べることすらおこがましい。  
上条は少しずつ未踏の秘肉を押し割っていた。分かっていた事だが、やはりきつい。姫神の顔に目をやれば、案の定、痛みに耐えていることが判る。  
それでもここでやめると言う選択肢は、お互いに無い。  
侵入を続けていた亀頭の先端部に一際強い抵抗が掛かった。処女膜まで届いたようだ。  
「姫神、力を抜いとけよ。力むとかえって辛い」  
上条はそう言うと、腹に力をこめて一気に刺し貫いた。  
「〜〜〜〜〜〜!」  
声にならない呻きが姫神の口から零れる。その目からは涙が零れ落ちる。  
「姫神!?やっぱ痛かったか!?」  
上条の心に罪悪感が生まれる。しかし、  
「ううん……。これは。違う。嬉しくて……出てきた……涙だから」  
切れ切れに姫神が答える。  
「あんなに……されても。好きな人に……この痛みを……刻んでもらえる事が出来たから……」  
だから。嬉しい。  
「ねぇ……動いて。当麻」  
もっと私にこの痛みを。過去を塗りつぶすほどに、この快楽を私に下さい。  
姫神の求めに応じて、上条は腰の動かし始めた。  
「くっ。ぅん。んっ。んっ」  
何度か抽挿している内に、姫神の声に甘い響きが混ざり始める。結合部からは愛液が滲み始め、上条の動きを滑らかにしている。  
「くっ、ヤバ……」  
そろそろ限界だ。上条は最後の一突きとばかりに深く突き入れて、そのまま抜こうとする。が、  
「抜いちゃ……駄目」  
姫神が、突然上条の腰に足を絡めて来てその動きを妨害する。  
「ちょ、姫神、拙いって!出ちまうから!」  
「うん……膣内に……出して?」  
そう言って姫神は力を入れる。  
ぎゅぎゅっ。  
それだけで、堤防は決壊した。  
どくっ、どくっ、どくっ。  
自分の中で熱いモノが脈打っているのが分かる。  
「ふふふ。あったかい」  
 
 
日が沈みきり、月明かりだけが差し込んでくる視聴覚室の中。  
壁際で、床に腰を下ろしている上条の膝の上に姫神が座っていた。既に服は着ているが、情事の舞台となった教卓の上にはうっすらと血痕が残っていた。  
「なぁ、姫神。その、中で出して平気なのか?」  
上条の胸に背を預ける形で座っている姫神の髪を撫ぜながら、そう問いかける。  
「うん。平気」  
「そっか」  
「バッチリ危険日」  
振り返り何故かVサインをして見せる姫神。  
「っておい!」  
思わず突っ込む上条。  
「ふふふ。嘘」  
「――ははっ。どうやら大丈夫みたいだな」  
「当麻のおかげ。私一人じゃ。多分解決しなかったかも知れない」  
そう言って姫神は再び当麻の胸に背を預ける。  
「そうか、力になれて良かった」  
「うん。だからまた宜しく」  
「…………はい?」  
今、何か流れが変だった様な?  
「もしもし姫神さん?今何と?」  
「また宜しく。今日はぐっすり眠れると思うけど。またいつ眠れなくなるか分からないし」  
理に適ってるでしょ?と言った風に人差し指を立てて、姫神は答えた。あまりの展開に絶句してしまう上条。そんな上条に姫神はとどめの言葉を投げかける。  
「君は私に幻想を抱かせたのだから。その責任はきっちりとって貰うから」  
月明かりに照らされてそういった姫神の笑顔は。  
とても綺麗だった。  
 
 
おまけ1  
「ただいま」  
「お、おかえりなさいです姫神ちゃん!てっきり先に帰ってきてると思ってたですから心配したですよー」  
「ごめんなさい。小萌先生」  
「……それで、上条ちゃんとは会ってたですか?」  
「小萌先生。やってくれたね。でも。ありがとう」  
「も、もう大丈夫ですー?」  
「うん。上条君のおかげ」  
「そうですかー。やっぱり上条ちゃんは頼りになるですー」  
 
おまけ2  
「とうま、おそいー!」  
「ぎゃーっ、連絡無く遅れたのは謝りますが噛み付くのは止めて頂きたいと思う次第であります!」  
「心配したんだもん!いつもいつも勝手に怪我してくるくせにー!」  
「今日の怪我は今が最初で原因はお前だー!痛い、痛いから!」  
「…?でも、とうまの体から血の匂いがするけど?」  
「……」  
 
終われ  
 
 

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