「とうまとうま、そろそろいつもの時間なんだよ」
夕食後、TVに夢中だったはずのインデックスが台所で洗い物を片付けていた上条当麻へ向けて声を掛けた。
上条が手を拭きながら今の壁に掛けてある時計へ目をやると、時計の針は『20:51』を示している。
確かに最近の日課となっている時間だった。
「わかった。ちょっと待ってろインデックス」
言って上条は、リビングの床で佇まいを正しているインデックスへと歩み寄っていく。
最近欠かさず行っている日課。
それは上条当麻の能力に由来する。
上条当麻の右手には『幻想殺し』と呼ばれる異能が宿っている。
これは『異能の力であれば、カミサマの奇跡だって打ち消せる』と言う能力(本人談)であるが、この能力には一つデメリットがある。
それは――。
「えへへ、何回やっても緊張しちゃうね」
赤くなりながら照れるインデックスの肩の上に手を置いて、上条も同じように赤面しながら口を開く。
「悪いなインデックス。本当ならこんな事をお前にしてもらうのは・・・・・・」
そんな当麻の今更な弁明を、しかし、インデックスは微笑みながら首を横に振り、
「違うんだよとうま。嫌じゃない、むしろうれしいんだよ」
今のこの状況を是としているんだと言う事を上条に告げる。
「じゃあ、とうま。はい」
そう言ってインデックスは静かに目を閉じて、顔を少し上へ向ける。そのインデックスの顔、正確には顔の下部にある、とある器官へと上条は同じ器官を近づける。
もって回って回りくどい表現だが、言葉にすれば立った二言で説明できるその行為。すなわち。
キス、接吻、口付。
上条当麻が『幻想殺し』を使用するたびに、上条の中で何かが失われている事に真っ先に気付いたのは、近くで彼のことを見続けていた禁書目録の少女だった。
その力とは心の力、すなわち精神力と呼ばれるもの。
『幻想殺し』は本来、触れるだけで効果を発揮し、上条の何かを消耗するような、そんな制限は一切無かった。
その枷が出来てしまったのは、夏休みのはじめ、インデックスとの出会いを果たしたあの事件。
今の上条には記憶の無い事だが、あの時上条が浴びた『光る羽根』が引き起こした副次効果なのか何なのか。
あれ以来、上条が能力を使うたびに精神を削るようになってしまった。
削れてしまった精神は、どこかで補充しなければならない。
幸い、インデックスの保有する魔道書10万3000冊の中に、精神を補充する為の術式を記してあるものがあった。
その中でインデックスが選択した手法が、この手段なのである。
「んっ、んん、ん」
ただ唇と唇を合わせただけでは効果は乏しい。
二人の間からはくちゅくちゅと生々しい水音が響いている。
上条の舌がインデックスのそれを絡めとろうと動きを増せば。
インデックスもそれに応え、更にその舌の動きの刺激によって多量に分泌された唾液を上条の口内へと流し込む。
「ングッ、ングッ」
インデックスによって送られてきたそれを、上条は躊躇う事無く嚥下し、今度は自分の唾液をインデックスへ送り込み、彼女の舌を奥歯の方で甘噛みして更なる分泌を促す。
自分と上条の二人分、口の中が満ちてきたそれのあまりの量に合わせた唇の隙間から零れてしまうが、そんな事はお構い無しに二人はその行為に没頭する。
始めは確かに上条の精神を癒す事が目的だったはずだ。
しかし今の二人にはそんな事は既に頭の中から消えている。
ただ、相手を感じていたい。
二人の頭を支配しているのはその感情だけだ。
ならば。
キスだけで抑えきれるものでもない。
「ねぇ、とうま・・・・・・」
「インデックス・・・・・・」
時計の針は『21:24』。
夜は、未だ永い。
部屋に淫靡な空気が満ちていく。
ずずずーっ。
「んふっ、んっ、んー」
上条によって口内の唾液と共に吐気も吸い取られ、インデックスは苦しげな声を上げた。
しかし上条はその声を意も解さず、まだ吸い取るものが無いかどうかを自らの舌で確かめる。
ぐっちゅぐっちゅ。
上条の舌による蹂躙を、されるがままに受け入れるインデックス。それでもまだ何か足りないのか。温もりを求めるかのように上条の体に縋り付く様にしがみついた。
その動きを受けて、上条も今まで肩の上に置いていた両手をインデックスの背中へと回し、お互いにしっかと抱き合う。
そんな中で、それでも舌の動きを緩めない。
ぢゅっぢゅっぢゅ。
先程の動きで再び分泌された唾液を、吸い尽くさずにインデックスの口内で攪拌する。今度はインデックスもその動きに自らも合わせ、お互いの舌を絡み合わせる。
じゅぶじゅぶ。
泡立ち、口内から零れ出てきた唾液をそのままに、二人どちらからともなく唇を離す。
二人の間に架かる銀の糸橋が静かに途切れる。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
先程まで満足に呼吸ができなかったか、少女の息づかいは少々荒く、それが却ってその場の艶めかしさを増す事に一役買っている。
対する上条はと言えば、それほど息を乱してはいない。それはまるで。
「いつも思うことなんだけれど……」
インデックスがポツリとこぼす。
「とうまは妙に慣れてるような気がするんだよ」
「またそれか。そんな事は無いって言ってるじゃねーか」
正確にはそんな記憶は無い、であるが。
確かに、妙に息継ぎのタイミングの取り方とかに手馴れた感じがしないでもないが、今の上条にとって初めての相手と言うのは目前の少女だ。
「むーっ、なんか余裕を感じる態度だよね、それ」
「何だよ、じゃ、今日はここまでにすっか」
「ちょっ…、ん……」
反射的に抗議しようとしたインデックスの唇を再び塞ぐ。更に、背に回した手をゆっくりと下の方へと這わせていく。
その動きにこれからの展開に思い、インデックスも自分の手の位置をずらす。ただしこちらは下ではなく上の方、上条の首に腕を絡ませる。
そうこうしている内に、上条の指先はインデックスの臀部と言う名の目的地に辿り着く。
そのまま指先で谷間をなぞって行く。指先に下着の感触はしない。この修道服の下にはいつものように何も着けてはいないのだろう。
無論、常時下着無しな訳ではない。ただ、これからの行為でダメにしないように予め脱いでいたのである。
もっとも、今の上条の記憶には無い事ではあるが、初対面当時にはインデックスには下着を着ける習慣は無かったわけではあるのだが。
谷間に這わせていた指を更に下へ。
そこは上条しか触れたことの無いインデックスの最奥部。
「ん……」
ピクン、と体を震えさせる。今まで何度も繰り返してきた行為ではあるが、やはり人に触られると反射的に警戒してしまうのは逃亡生活をしていた習慣故か。
「ぷはっ……、やめる訳ねーだろインデックス。お前も我慢できないだろうし……」
腰部に回していた手に力を入れ、先程から激しく猛っている自らの分身をインデックスへと押し付ける。
「俺だって、我慢できねーよ」
再度唇を塞ぐ。そしてインデックスの体を押して、その背にあるベッドへと押し倒す。
どすん、と部屋に鈍い音が響き、その音を聞いたもう一人の同居人は、気を効かせるようにリビングから出て行くのだった。
『今日の寝床も台所かね。ま、馬に蹴られない様にしないとな』
とでも言いたげに一旦二人の方を見やり、三毛猫はそのまま台所へと姿を消した。
ベッドの上で白い裸体が跳ねる。
インデックスの修道衣は、色々あったせいで今は安全ピンで留めると言うとんでもない固定方で服としての体裁を保っている。なので特定のピンを数個抜いただけで、このようにあっという間に脱がされてしまう。
そんな電光石火の早業でインデックスを脱がして、上条は遮る物のなくなった視界の中で色艶めかしく自分を誘っている箇所へ、再度右手を伸ばす。
つぷっ。
「んん!と、とうまぁ……」
「何だ、インデックス。キスだけでこんなになっちまってたのか」
上条の言葉に耳まで赤くなるインデックス。
元々性的な行為など、知識としてはあっても実際にやった事があるかはまた別の問題だ。事実、上条と一線を越えるまではそんな事などした事は無かったのだから。その時以来押入れの中から出さないでいるシーツがその証明となろう。
「……とうまは意地悪かも」
「何を仰いますか、姫」
こんなに大事に扱っているのに、とは口には出さず、上条は少女への攻めを再開する。
右手で濡れそぼった秘唇を揉み解し、口でふくらみと言うにはなだらかな胸を啄ばむ。堅くなってきている桜色の先端は刺激を与えすぎると痛がるので、舐める程度に留める。
左手はと言うと、インデックスの口元で人差し指と中指を舌と絡ませあっている。
あまり声が大きいと他の住人にばれてしまう恐れがあるのでこうしている、と言うのは建前。一番最初はそのつもりだったのだが、今では指を舐めてもらう行為に快感を感じてしまっている。インデックスとしても、上条の味を直に感じられるこの行為は大好きだ。
「んっ、んっ、んちゅっ、ふっ」
一心不乱に上条の指を舐め回す。こうしていないと、体中から送られてくる快感の波に飲まれてしまいそうになるからだ。
そんなことはお構い無しに、上条も愛撫を続ける。右手指先で秘部をなぞり上げ、手の平で桃色の真珠部分一帯を捏ねくり回す。
胸を一しきり舐め回した後、そのまま首筋まで這い上がり、そこを何箇所も強く吸いたて痕を残していく。
右手を一旦離し、指を突き入れようとした矢先に、インデックスがしゃぶっていた指から口を離して請う。
「指じゃ、指じゃいやだよ……、とうまのがいい……」
弱々しいインデックスのおねだりに、上条の理性の箍が外れかかる。
上条としては、あまり彼女に無理をして欲しくないという気持ちもある。実年齢はわからないが、その容姿はどこからどう見ても自分より年上には見えないし、これは暮らしているうちに気付いたのだが月の物があるのかどうかも疑わしい。
だから既に一線は越えているとは言え、本能の赴くままに行為に至ってはいけないと言う考えがあるのだ。
とは言うものの、結局最後はインデックスによってその箍は外されてしまうのだが。
そのインデックスの言を受けて、上条は下着ごとズボンを下ろして猛り切った男根を開放し、上体を起こして両手でインデックスの腰を掴み自分の方へ引き寄せる。
ぴたり、と密着するお互いの性器。
右手で己の怒張の位置を合わせて、上条は宣言する。
「いくそ、インデックス」
「うん……。来て、とうま」
禁書目録の少女の承認を受け、幻想殺しの少年がその胎内へと侵入する。
ずぶ。
「っ……!」
先端が挿入る。それだけでインデックスの体が強張る。
(くっ……やっぱきつい!)
何度も同じ夜を越えているが、やはりインデックスの体はこの行為には慣れてはいない。上条の侵入を阻むかのようにきつく締め付けてくる。
だがここでやめるかと聞いても首を縦に振らない事もわかっている。だから上条は、
「〜〜〜んん!?」
少しでも彼女の痛みが和らぐように、三度唇を重ね合わせた。
先刻とは質の変った水音が部屋中に響く。実際は二人の耳にしか響いて無いそれは、それでも大きく聞こえた。
「んっ、んうっ、んんっ」
上条が突き入れるたびに重ねた唇から吐気が漏れる。
二人のサイズに差がある所為か、上条の男根はインデックスの秘裂には入りきらない。全部入りきる前に先端が子宮口に届いてしまう。
奥まで届くからか、深く突かれると息が詰まりそうにもなるが、それすら今のインデックスには歓喜を与える。
(とうま、とうまとうまとうま!)
あの時。病室で見た真っ白な少年。自分のせいで酷い目にあったはずなのに、それでも変わらず接してくれた、自分を助けてくれた人。
その人を全身で感じることが出来る。これが喜びにならないのなら、何に喜べばよいのか。
ぐちゅぐちゅと音を立てて舌が絡み合う。目前の少女の顔は苦しげに眉根を寄せている。
(インデックス……)
あの時。泣きそうに笑いながら自分を見る少女。自分のせいで泣きそうだったから、せめて彼女の知る上条当麻たろう、そう思った。
果たして今の自分は上条当麻でいられているのか。
二人の情愛、苦悩、愛欲、鬱屈、その他もろもろの感情が渦巻く時間も終わりが近づく。
「くっっ、インデックス、出るぞ!」
「うん、とうま、だして!」
奥の奥まで突き入れて、上条は己が獣欲の塊をインデックスの胎内に吐き出した。
「くぅ、とうまのが、でてるよぅ……」
それを直に感じて、喜びに打ち震えるインデックス。
暫らく繋がったまま脱力する二人。先に口を開いたのはインデックスだった。
「とうま、元気出た?」
「ああ、お前のおかげだよインデックス」
「ふふ、良かったんだよ」
『幻想殺し』と言う異能がある。
これは『異能の力であれば、カミサマの奇跡だって打ち消せる』と言う能力(本人談)である。
房中術と言う技法がある。
これは噛み砕いて言えば性交によって効果を発する技能である。やりとりしているモノを考えれば常たる技術ではないだろう。
インデックスが上条を癒す為に房中術を執り行ったとして。
何度も右手に触られているのに、果たしてその効果は現れるのであろうか?
そもそも上条の中から何かが失われていると感じたのは?
「全ては藪の中なんだにゃー」
「誰に何の説明をしているかー?」
「いや、こういうのは含みを持たせるのが楽しいんぜよ」
「コップ片手に力説されてもなー」