「う、うだー」  
放課後。  
6時限目終了のチャイムに気付いた時には、既に第4ラウンドを終えていた。  
姫神は全裸に十字架、上条は完全に真っ裸と言う、誰かに目撃されていたら何の言い逃れも出来ない格好だった。  
「流石に上条さんは自己嫌悪です……」  
授業をサボったのはまずいかもしれない。  
明日の朝のHRが怖いなー、などとぶつぶつ言う上条の背中に聞き覚えのある声が投げかけられる。  
「ちょっとそこのアンタ。アンタの事よ」  
「うーむ。だけどあれじゃあ、まるでケダモノじゃねーか」  
我が事ながら、人事のように一人ごちる。  
「ちょーっとぉ、聞こえてるんでしょー?」  
「この所ガッコでハメを外しすぎだし……。少し自重したほうがいいかもな」  
何を今更。と、姫神が聞いたらそう言ったであろう。  
「おーい、コラー。……結局こうするしかない訳ね……」  
「しかし姫神、別れ際に『今度の土曜。付き合って欲しい』って言ってたけど何なんだろーなー」  
「だ・か・ら、どうしてアンタはいつもいつも人のことを無視すんのよー!」  
「ぐはぁっ!?」  
突如後方から、まるでドロップキックを受けたかのような衝撃に襲われて、上条は前のめりに地面に倒れ伏せた。  
「だ、誰だぁ!?ってやっぱり御坂かよ!?」  
「やっぱりっ!?て事はやっぱり分かってて無視してた訳ね!」  
地面から顔を上げた上条の眼前に腕を組んで仁王立ちしていたのは、学園都市でも7人しか居ないレベル5の超能力者第三位、泣く子も黙る『超電磁砲』の御坂美琴その人だった。  
「それは言葉の綾だっ!街中でドロップキックをかまして来るような知り合いなんてお前しか思い浮かばないっつの!」  
地面にへばり付いたまま、御坂の顔を睨みつける。  
暫し睨み合った後、急に美琴は顔を赤らめて一、二歩下がる。……心持ちスカートを押さえながら。  
「い、いつまで寝そべってんのよ!さっさと起きなさいよね!」  
「うーわー、すっげぇ理不尽。さすがお嬢様」  
ぶつくさと呟きながら体を起き上がらせ、シャツなどに付いた土埃を掃う。  
「……で、何の用でございますかーお嬢様。ワタクシのような無能力者にあなた様のような超能力者がお声を掛けられるなんてー」  
「呼び止めたら呼び止めたですっごくムカツクわ、アンタ」  
不貞腐れた様にゆらゆらと揺れながら棒読みで問うて来る上条の態度に、右手の握り拳をわなわなと震わせながら美琴は心情を吐露する。と、突然脱力し、  
「って、こんな事の為に呼び止めたんじゃないわよ。一応アンタにも伝えておく事があったのよ」  
 
「俺に?」  
揺れるのを止め、自分を指差す。  
「そうよ。あの娘……あの時の『妹達』の子、覚えてるでしょ?」  
言われて思い浮かぶのは、まだ二学期が始まったばかりのある日、突然上条の部屋を訪れ、助けを求めて来た一人の少女。  
上条自身は『御坂妹』と認識している、あの『妹達』だ。  
「そりゃーな。忘れる訳ねーだろ」  
「……それは、良かったわね」  
「……何ゆえそこでお怒りになられるので?」  
「うっさい!話の腰折るな!……それでね、昨日あの先生から連絡があって」  
あの先生、と言うのはあのカエル顔の医師の事だろう。  
「あの子の病室。今まではあの培養槽に浸かっていた訳だけど、それから出て一般病棟に移れるって言ってたわ」  
「おぉー。それはめでたい」  
御坂妹の体はとある事情により短命が余儀なくされていた訳だが、培養槽から出られると言う事は、その問題がクリアされたと見て間違いないだろう。  
「でね」  
かるくぱちぱちと手を打ち鳴らしている上条に、どことなく緊張した面持ちで御坂は切り出した。  
「今度の土曜日に病室移るらしいんだけど……、い、一緒に行かない?」  
「はぁ?」  
今何か不思議な展開を見せなかったか?  
「何なのよ、その反応は」  
「いや、まさかそっちからそんな話が振られるとは思わなかったもんだから」  
「……嫌なの?」  
少し声が震えた。  
それには気付かず、上条は答える。  
「いや、嫌じゃねーけど。意外に思ったのは一緒に行くって言う選択肢の方だよ」  
「な、何が意外なのよ」  
「いんや。ただ、意外と思っただけだよ」  
身内の見舞いなんだからこっちを誘わなくても良いんじゃないか、と、上条は思ったのだ。  
あの絶対能力へのシフトアップ実験をめぐる戦いの中で、御坂美琴が『妹達』の為にしてきた事。  
御坂妹が実験再開を阻止する為に、美琴の行動を無にしないために尽力した事。  
なんだかんだ言っても、彼女らは姉妹なのだと思った。  
家族の時間、と言うのを邪魔すると言うのは気が引けるものがある。  
「ま、そっちが良いって言うのなら、こちらとしても断る理由はないけどな」  
「そ、そう。なら良いのよ。じゃあ細かい事が決まったら電話するわ」  
「オゥ……。って御坂って俺の番号知ってたのか?」  
「……大覇星祭の時、ウチの母がアンタの父親から仕入れたらしいわ……」  
「……あんの馬鹿親父…………」  
母さんに告げ口してやろうか。  
「じゃあ、電話でねっ!」  
そう言って、美琴はくるりと踵を返した。その背に向けて、上条が声を掛ける。  
「おう。……どうせ短パンなんだからそんなに気にすんなよー」  
「ってやっぱり覗いてたのね、アンター!!」  
結局いつもの追いかけっこに移行しました。  
 
 
 

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