「もう……」  
 と言って姫神は己の唾液に塗れた肉茎から口を離して立ち上がる。  
 スカートを捲り上げて既にびしょ濡れになっていたショーツを脱ぎ捨て、天を突くようにそそり立っているペニスに手を添えて、その上に座るように自らの胎内へと向かい入れた。  
 「う……ふぅぅ……」  
 肉壁を割って体の奥へと進入してくる感触を吟味するようにゆっくりと腰を下ろすが、半ばほどまで入ったところで、  
 「あっ!?」  
 膝の力が抜けてしまったのか、そのまま座るように腰を落としてしまう。腰と腰が密着し、陰茎の先端から根元までが姫神の内部へと収納される。  
 今まで幾度ともなく受け入れ、慣れ親しんだといっても過言ではない上条の怒張から期せず放たれた不意の一撃は、しかし今の姫神にとっては致命的な一撃となった。  
 「――――――っ!!」  
 叫びを飲み込むが如く口元を堅く噛み締めながら姫神の体が小刻みに細かく震えた後、糸の切れた人形のように脱力した上体が上条の体へともたれ掛る。  
 ここまででも、今日この日まで重ねてきた二人の営みの記憶の中でも類を見ないほどの乱れようを見せてきた姫神の、更に群を抜いた達し方に流石に不安を覚えたか、  
 「おい、姫神?大丈夫か?」  
 上条は脱力したまま動かない姫神の両肩を両手で起こし上げて、その顔を覗き込んだ。  
 「……もっと。たりない……の」  
 しかし姫神は上条の問い掛けに答えず、突き刺さったままの上条の分身をさらに深く飲み込むかのように腰を密着させたまま前後に揺らし始めた。  
 「……こっち。も」  
 そして肩で姫神自身の体を支えている上条の左の掌を、己の乳房へと導く。服と下着越しでも分かる柔らかな手ごたえが上条の掌に伝わってくる。  
 「もっと。もっと……私の体を求めて……当麻」  
 その言葉を聞いて、上条は『為すがまま』と言う方針を選択した己の判断を恥じた。  
 そんな生温い事で『今』の姫神が満足する訳が無いのだ。  
 ならば、どうするのか。どうするのが最善なのか。  
 ……答え(覚悟)は決まった。  
 「わかったよ姫神――――行くぞ?」  
 言って上条は右手を背中に回し、ブラウスの下へと潜り込ませた。肌を撫ぜ上げながら目指すのはブラのホックだ。  
 目的地に到達するや否や、いつぞやの再現よろしく容易くホックを外し、手早く肩紐をずらしてそのまま右腕ごとブラジャーを服の下から引き抜いた。  
 次いで、添えられたままだった左手で服越しに乳房を揉みしだく。いや、揉むと言うよりも握るといった方が近しい力の込め具合だ。  
 それによって、ブラを外された事で服の上からでも認識できるようになった乳首が更に強調され、上条はその先端部分を服ごと口に含んだ。  
 口内からは布のざらつきや嗅ぎ慣れた姫神の味や体臭といった情報が脳へと送られてきて、それらが更に上条の中に眠る何かを後押しする。  
 「ぅ……んん…」  
 上条がやっと積極的に己の体を求めてきた事も相まって、姫神の体の内で燻っていた淫欲が活性化を始める。先ほどまで感じていた飢餓感とはまた違う未達感が、姫神に上条を求めさせていた。腰の動きも先刻よりスムーズになってきている。  
 
 上条の方も、その姫神の動きに対応しながらも服の上から乳首を丹念に舐る。舌で感じていたその硬度が最高潮に達したところで、上条は迷うことなく前歯を突き立てた。  
 「ひぐぅっ……!?」  
 突然の刺激の転調に、姫神の喉の奥から悲鳴未満の叫びが零れた。しかし上条はそれに構わず、突き立てた歯を左右に動かしてコリコリと乳首を攻めあげる。  
 「ああぁっ!?」  
 先程よりも零れる声が大きくなった。一応公共の場でこれ以上の声は拙い、と妙に冷静な思考が脳裏を掠め、上条は比較的フリーな状態の右手を姫神の口へと持っていき、人差し指と中指をその中へと突き入れた。  
 前触れもなく咥内に闖入してきた指を、しかし姫神は待ち受けていたかのように舌でそれを歓待する。  
 「んちゅっ……。んん。ん。ん」  
 ぬちゃりぬちゃりと音を立てて繰り広げられる擬似的な口淫行為。合わせられた指先を鈴口に見立て舌で穿るかと思えば、頬の裏側に押し当てて指の腹を舐め回していく。  
 指を口に入れる行為自体は対インデックスの際に多用している上条だが、インデックスとの時とはまた違う姫神の応対にえもいえぬ高揚感を感じてしまった。  
 その高揚感が高まり続ける淫欲を更に昂ぶらせ、その波に飲まれるかのように二人の動きも加速していく。  
   
 急き立てられる様に行為に没頭している、それ故か。  
 二人は、とある異変に気づく余裕は無かった。  
 
 
 
  行間 三  
 
 その光景を見てしまったのは、天使の悪戯か悪魔の祝福か。  
 今になって思い返す。  
 先行する彼に遅れて彼女を探し始めた自分は、もしかしてこの場面を想定していたのではないのだろうか、と。  
 目撃情報を元に彼女がいるであろう場所にたどり着いた私の視線の先では、彼と彼女が公の場であるにも拘らず濃厚な接吻を交わしていた。   
 思い返せば、確かに。  
 彼女の転向初日から二人は妙に親しげな雰囲気はあったし、最近では揃って姿を見せなる事も少なくはなかった。  
 だが、だからと言って。  
 ここまでの仲になっているとは、流石の私も考えてはいなかった。  
 そうやって硬直する私に気付くこともなく、二人は連れ立って女子トイレの中へと姿を消していった。  
 普段の私であるならば、そのような破廉恥な行為を目撃したのなら躊躇なく彼に飛び掛って注意の叱責を浴びせている筈だ。  
 しかし、今の私が取った行動は……。  
 
 隣の個室から、くぐもった嬌声や微かな湿り気のある音が聞こえてくる。  
 今までにそういった行為の経験は無いが、私だって木石ではないし、知識だって相応にある。  
 だから今二人が行っている行為は、脳裏に描かれている画とそんなに差異は無い筈だ。  
 その音に耳を欹てながら、私は服の裾を噛み締め声を洩らさぬように自らを慰めていた。  
 本当に、なんでこんな事をしているのだか。  
 疑問は尽きないが、私の両手はそんな事お構いなしと言わんばかりに濡れた秘所を擦りあげ、乳房を揉みしだく。  
 何がなんだか自分でもよくわかっていない。わからないけど、今は……この衝動に身を任せるのも悪くはないのかも、しれない。  
 
 
 

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