イタリアから帰って退院も済ませた、ある日の帰り道。  
(記憶喪失っていうのは、相変わらず隠した状態で――ホントに良かったんだろうか俺?)  
 買い物袋を両手に提げて、所帯じみた雰囲気を背負いながらも上条当麻は別のことに頭を悩  
ませていた。  
 普通なら、そう、記憶喪失を隠しているなどという特殊な状況がなければ、だ。役得どころか、  
俺ってモテモテ? などと自惚れても良いような状況をイタリアで体験してきてしまったのだ。  
 
 初めてが4P。  
 おいこら上条、俺と変われ。あ、いや、これはおいといて。  
 
 そのうちのふたりは、普段の住まいであるイギリスに帰っていったため、あんなことはまあ当面  
ありえないのだろうが、問題は、残るひとり――で、ある。  
 自分の気持ちはどうか、と問われれば、きっとその娘のことが好きなのだ。だから、記憶喪失を  
隠してでも、その少女が望む、自分の元での保護、と言う選択肢を取ったのだ。しかし。  
 しかしである。  
 食っちゃったのだ。要するに、やっちゃった。  
 本当に良かったのだろうか。  
 しかし事実は事実、すでに既成事実であってどうしようもなくて。  
 その少女、インデックスはいままで家事らしい家事なんてちっともしなかったのに、ちらちらと上  
条の様子を伺いながらシーツの交換などしている時があって。  
 こんなこと、良くないはずなのだ。『記憶喪失の俺』は、『インデックスを助けた上条当麻』じゃな  
くって――と、普段は今まで通りにユニットバスに逃げ込むのだが。  
 少女がシーツを交換した日に風呂桶で寝ようなどとすれば。  
「う…っ」  
 頭骨が疼く。とりあえず、上条はとりとめのない想像をすることを止めた。  
 
 そうして意識を帰宅することに集中しようとして、顔を上げたそのとき。  
 アルファベットの『X』の形をしたペンダントを下げ、ここ学園都市では奇抜とも言える服装をした  
少女が、上条当麻を待ち伏せするように現れた。  
 見覚えのあるその顔に、と言うより、他の事を考えていたときに現れた意外な人物に驚いて、動  
作が止まる。何か言おうとしても、パクパクと口が動くのみだ。  
 
「確かにわたしはー……いろいろやったけど? でも、全部ひっくり返して無理矢理視線の向きを  
変えさせたのは、あなた、じゃない。違う? 上条当麻くん。だから、」  
 少女は、上条が驚きの表情から声を絞り出すその前に、ひとりでに語り始める。  
「わたしの喉を治した科学、その陣営の総本山をもう少し見てみたいと思ったって、それは自然な  
ことだとは思わない?」  
 しかし、上条が訊きたいのはそんなことではない。  
「いや、違って! いま、お前が学園都市を見たいとか、居るっていう、そんな理由は良いんだ理  
由は! それでどうして――」  
「だって、わたしは不法侵入者だし。お金、持ってても、IDがどうとかで泊まるところとか、全然無  
いし。ここまで何日かは、泣く泣くバス停ー、とか、地下街の片隅ー、とかで野宿したけど、ちょっ  
と寝ただけで変なドラム缶がピコピコ言いながらやって来るし、それに、わたしみたいなうら若き  
乙女が野宿なんてしてると、目つきの悪い若い衆とかが寄ってきちゃうしー」  
 ここ数日間の『過酷なホームレス生活』を語りながらも、顔などの色つやが良いところにこの少  
女の胡散臭さを感じている上条なのだが――少女が語り終えることだけは、とりあえず、待つ。  
「そうなれば、しばらくここに居るためには、どこか寝泊まりする場所だって欲しいじゃない。上条く  
んは、わたしに…無理矢理……あんなこと、したわけだしー……」  
 奇妙な服装の少女がポッ、と頬を染めながら続けた言葉に、話し終わるのを待つつもりだった  
上条もさすがに慌てて反論を返した。  
「かっ、カミジョーさんがあなたに一体何をしましたかっ! アレのことをどうこう言うなら、それは  
君の責任でしょうがっ、違う? 違うのテルノアさん!!!」  
 詰め寄る上条に、テルノアと呼ばれた少女が見るからにオーバーなリアクションで両手を口元  
に持って行くと、これまた演技臭ただよう表情で上条を見つめる。  
 
 ―――自称『元・魔術師』、テルノア。  
 学園都市の中から見れば奇抜な服装、というのも、いずれかの十字教の魔術的組織(と思わ  
れる)に関係するのだろう、そういった服装だからだ。  
 彼女は、断片的に手に入れた上条の〈幻想殺し〉についての情報から、それを科学最大の悪と  
断じて学園都市に潜入。街もろとも強力な震災術式で〈幻想殺し〉を消そうとした張本人である。  
 その事件は、例によって例のごとく上条の「その幻想をぶち壊す!」というセリフとともに阻止さ  
れた、のだが―――  
 
 その、上条の命を、そして学園都市の破壊を狙った少女が目の前にいる。  
 事件は一応解決を見たため、まあ良しとする。科学というものの存在価値を認めて、それに興  
味を持つというのも、悪いことではない……むしろ、相互理解のためには良いことだ。  
 上条自身としても、事件は片付いたのだし、お互いに偏見を持つことが無くなったと言うのであ  
れば、命を狙われたのも過去のこと。この少女を恨む理由も無ければ、避ける理由も無い。  
 ずっと学園都市に居た、と言うのだから、結構な期間この学園都市を見て回っていたのだろう。  
だが、突然上条の前に現れたと思えば、いかにも誤解を招くような(それも、男女間のトラブルで  
あるかのような)言動をした挙句。  
 
 あまつさえ、『学園都市で身の置き場がないからおまえん家へ連れて行け』などと言い出した。  
 上条の反論も、今回に限れば正論なのだろう……と、思う。  
「それがどこをどうすれば、カミジョーさんがアナタにどうこうしたから責任取れなんて話にッ?」  
 承伏できない。テルノアの境遇には同情しないでもないが、それで自分が保護しろなんて話に  
はならないはずだ。それに何より、今の上条家にはすでに居候が一人と一匹、いる。  
 しかも、その一匹じゃなくて一人の方は、さっき思い返していたように、新婚の若奥さまもかくや、  
と言わんばかりの上機嫌で鼻歌なんか歌いながらベッドのシーツを交換してたりするわけで――  
それで最近機嫌も良かったりするのだが――、それが邪魔されるような状況になれば。  
 それでも、それら状況を何とかすることにして保護したとして、カミジョーさんちの家計はどうな  
るのッ! と、連れて行くことが前提の考えが浮かんでしまうのも、あんまりにもお人好しじゃんオレ、  
と上条は頭を抱えた。  
 しかし、拒否されたテルノアは瞳をうるうるっ、と揺らすと、  
 
「ああっ、あなたにっ……、あなたに捨てられたら、わたし…っ」  
 
 あまりのショックに足下がおぼつかない、と言った風に身体を揺らしながら言葉を紡ぐ。  
 胸のペンダント、じつはロザリオである――アンデレ十字、と呼ばれるものだ――が、もつれる足  
に合わせて揺れた。  
「わたし、この、この東京砂漠で飢えた野獣に弄ばれて、身も心もズタボロになって……そうなん  
だっ……」  
「だあああっ、そ、そういうことじゃなくって……へ?」  
 周囲を、いつの間にやらギャラリーが取り巻いていた。  
 
――聞いた? あの人、あの女の子弄んで…  
――こんなところで捨てる捨てられるの痴話喧嘩?  
――あの男の子、どっかで見たような……  
 
 マズい。この状況は余りにもマズ過ぎる。もし、誰か知り合いでも居たら。  
 上条の背中をダラダラと脂汗が流れ落ちる。  
「うわああ、畜生、やっぱり上条さんは不幸です不幸でしょう、あああ不幸だーーーーっ!!!」  
 やむなくテルノアの手を取ると、上条は一目散に寮に向かって駈けだした、というより――むしろ、  
ギャラリーの無遠慮な視線からから逃げ出した…のだった。  
 
                     −*-  
 
 エレベーターに乗り込んで七階のボタンを押した。  
「はあああ……」  
 溜息が思わず口をついて出る。そんな上条の姿を見て、背後の少女が言った。  
「なに? そんなに肩、落としちゃって。こんな美少女と一緒に居るのに、このこの憎いよー?」  
 肩を落とした上条は、その軽口にさらにがくりと首を落とすと、のろのろと顔だけを振り返らせた。  
呻くような声で、その意思に反して連れてこざるを得なくなった少女に毒づく。  
「……カミジョーさんは、連いて来てほしいなんて一言も言って無いのですが?」  
 睨む元気もない。  
 恨めしい、と言う気分だけは視線に込めたつもり、の上条なのだが。  
「そんなコト言っておいて、襲っちゃ、い・や・よ?」  
 そんな上条の視線に臆することもなく、テルノアから帰ってきたのはそんな言葉だった。  
 微妙に頬を染めているのは本気なのか演技なのか、この少女が少々天然ボケっぽいのは確か  
だが、それでもまるで読めないあたりも、ますます上条の肩を落とさせる原因になる。  
 はあああ、と再び深く溜息を吐き出すと、いつの間にか辿り着いていた部屋のドアを開けた。  
 上条が帰ってきたその気配に、この部屋の同居人が飛び出してくる。  
「とうまっ! おかえりなさ……い……ねえ、なんでとうまがこの前の地震娘と一緒にいるの?」  
 上条の姿を認めて嬉しそうに飛び出してきた純白のシスターは、上条の後ろから、もう一人別の  
者が姿を現したことで訝しげな表情になり、それが女性であることで不機嫌さを増し、さらにそれ  
が『上条によって改心させられた(イコール、上条が無自覚に恋愛フラグを押っ立てた…と、イン  
デックスのみならず、上条の周囲の少女は見なしている)』多数の少女のうちのひとりであること  
を確認して、見るからに険悪な表情に変わって上条を睨み付けた。  
「い、いや、これはだなインデックス?」  
 これまで数ヶ月を共に過ごし、イタリアに行ったときにはついに行くところまで行っちゃったふたり、  
である。さすがの上条も、いかに目の前の少女が不機嫌か、そしてまた自分の頭骨がどれくらい  
危機に晒されているかを察知する。  
 慌てて弁解を始めた。  
 
「ふーん。それでその娘を連れてきたんだね。で、とうまが余すところ無く面倒見てあげるんだね、  
と、そういうことなんだね、とうま」  
 
 その弁解を聞いて、上条家の居候としてなら先達である、純白の修道着を来た銀髪シスターが  
とげとげしく言葉を吐き出す。  
 言葉のみならず、その視線も氷のように冷たく、痛い。  
 その態度や様子から、さらに危険な兆候を嗅ぎとって、上条は言い訳を続けた。  
「い、いや、だから、これはねインデックスさん? さっきも言ったとおりで、これは交通事故みたい  
なものですのよ? カミジョーさんは被害者ですのよ? あのまま独演会を続けて貰ってはカミ  
ジョーさん街を歩けなくなっちゃうッ」  
 しかし、インデックスの機嫌は直る様子を見せない。  
 ここは、賭けに出るしかない――二者択一、生か死か、である。本当は今でも恥ずかしい。上条  
当麻、こう見えてまだまだ純情である。  
 しかし、もはや四の五の言ってはいられない。まず、無理矢理でも良い、困った、という色を残し  
たまま笑顔を作った。  
「だから、どうして怒らなきゃならないんだ、インデックス? 俺がお前のこと、どんなに想ってるか、  
知ってるだろ? これだって、インデックスをないがしろにしようなんて……俺が、考えてると思う  
のか?」  
 歯が浮きそうである。恥ずかしいのだ。しかし、あれからも幾度か肌を重ねたのも事実だし――  
記憶喪失、という負い目も、こうなってしまえば今の気持ちでカバーするしかないと思うのも確か  
なのだ。ぐっ、と照れを堪えて目の前の少女を抱きしめた。  
「あ…っ……」  
 
 わずかに驚きの声を上げたインデックスも、抱きすくめられて上条の胸に顔を埋める形になって、  
肩の力が抜けていった。  
「わ、わかったから、とうま」  
 少女の声にも微かに照れの響きが入る。赤く染まった頬を上条の胸に押しつけながら、インデッ  
クスが答える。  
「お人好し、なんだから。とうまは…。少しだけなんだからね」  
「判ってくれて嬉しいですよカミジョーさんは」  
 ようやく安堵の溜息が漏れる。そうして落ち着いたところで、今度は背後からの無遠慮な視線に  
気が付いた。  
「はあー、やっぱり、英国清教会の禁書目録の修道女がこんなところにいる理由は、こんなことだっ  
たんだ…」  
 ややジト目で上条を見上げて、テルノアが呟く。  
 その視線が、少しだけ残念そうなと言うか、なにかもの寂しげに見えたのは上条の見間違いなの  
だろうか。  
 え、と上条が言葉を返そうとして、その隙を与えずテルノアの唇が動き、  
「幻想殺しは修道女殺しの処女殺し、っていう噂もどうも本当っぽい気がしてきたな、わたし」  
 上条からすれば、冤罪と言うほかない台詞を吐き出したのだった。  
 
 
 幻想殺しは修道女殺しの処女殺し――そんな言葉が、上条の耳に飛び込んでくる。  
 その台詞を発した少女、テルノアはといえば、あまりの言葉に呆然とする上条を尻目にぶつぶつ  
と呟き続けたままだ。  
「……けっこう奥手ふう、だったのになあ…。うわさ、本当だったんだ…。むー…」  
 今度はこっちかっ! と、声に出そうになり、飲み込んだその台詞に代わって、上条の胸元から呻  
くように怒りの呟きが聞こえた。  
「……とうま? それ、ほんと? 私が知らないとき、どこで何してたのか、詳しく――」  
「インデックスさんっ! どうしてそんな凶悪な目つきで睨みますかっ! カミジョーさんは、カミ  
ジョーさんは誓ってアレが初めてですのよっ?」  
 胸元に銀髪のシスターを軽く抱きしめた体勢のまま、半泣きになって上条が叫ぶ。  
 バッ、と振り向いて、その怪しい噂を口にした少女にも泣き叫ぶように言った。  
「ど、どこでそんな無責任な噂を仕入れて、と言うか、勝手な憶測を騙りますかっ!」  
 その声で我に返った、と言う風のテルノアは、上条の言葉に何がおかしかったのだろう、といっ  
た表情になると、それを強調するように首をかしげてから戻し、上条とは目を合わさずに答える。  
「体制も宗派も無視して構成が進む、いわゆる『上条勢力』の男女比が、圧倒的に女性優位に傾  
いているのは―――上条当麻が…全部……そのー…、食っちゃってる…から、って、ある情報筋  
から」  
 話を進めるにつれてテルノアは俯き加減になり、どうも顔を赤くもしているようで、両手を手持ち  
無沙汰に身体の前で合わせてもぞもぞと動かしている。  
「あ、ソースは言えないよ、信用問題だし」  
 そこまで言って、少女は一旦大きく一息入れ、話を続けた。  
「でも、本命はいないって聞いたし、ちょっと確かめてみたくもあったし、わたしがここに来た最初の  
目的は、やって正しいことじゃないって気が付いたし、それなら、そのうわさの真偽を、って」  
 呟くように、やや口の中に篭った感じの声で話していたテルノアだったが、ここへ来てようやく顔を  
上げた。困惑気味な表情になっている上条の、その目を見据える。  
 
「先にも言ったけど、わたしのやろうとしていたことが正しくないって気が付かせたのは君だし。そ  
れに、それが君の男性フェロモン的なもののせいじゃないのも確かだし。ここにわたしを連れてく  
るときの感じも、うわさの女殺しと違うじゃない、と思ってみたりしたけど、そしたら、どう見たって  
男女の云々、な、そんな関係な感じで英国清教会の禁書目録の修道女がいるし。部屋に」  
 
 テルノアの口上に対し、何と言っていいのかとますます困惑を深める上条が言葉をひねり出す  
前に、話題に上がった当の本人のうちの一人――インデックスが口を開いた。  
「あなたたちがなんて言ってるかはともかく、私がとうまと一緒にいて、どういう関係かなんて関係  
ないかも。でも、見てのとおりに思っていいから、ここにいても邪魔は無しなんだよ、テルノア」  
 インデックスの顔は笑っているのだ。しかし、口調は断定的で反論を許す雰囲気ではない。  
 この純白シスターがここまで強い態度に出る、と言うのもなかなか目に入るものではないのだが、  
なぜインデックスはこんなに語気を強めているのだろう、と思いつつも上条はインデックスを見下ろ  
した。  
 上条の目線に気づいた銀髪碧眼の少女が、上条を見上げる。  
 その瞳が上条の目線と合うと、インデックスは頬を染めつつ、  
「私がまっとうに生きていられるようになったのもとうまのおかげなんだから、とうまと添い遂げるの  
だって思し召しだと思うんだよ」  
 テルノアだけにでなく、上条にも言い聞かせるように言葉を紡いだ。  
「とうまが朴念仁だからって、そういうのを狙ってきてもだめなんだからね? ……って、そう、とう  
まが朴念仁だから、無責任にそんな噂を立てる人がいるのかも」  
 そこまで、二人分の言葉を聞いて、ようやく上条も慌てだす。  
「ちょ、インデックスさん? あの、そのですね?」  
 しかし、インデックスは言ってしまったことでやや自分の世界に入ってしまっていたのだろう、上  
条が話そうとするのを遮って、ふたたびその唇を開いた。  
「大丈夫だよとうま、私はとうまのところから離れないもん」  
 そう言って、上条の背中に回した腕に力を込める。上条としても、これ以上話をこじらせたくは  
無い。やれやれと肩をすくめた。  
 その隣では、アンデレ十字の少女が同じように肩をすくめる。  
「寝泊りするところが欲しかったのも事実だし。この話はこの辺にしとこう」  
 言いつつも、上条に対して不敵にその瞳を輝かせたのは―――気のせいだったのだろうか。  
 
                     −*-  
 
「じゃ、寝るわ。疲れたよホント、お前らも適当に」  
 本当に疲れた。  
 食事の時もその準備の時も、インデックスはテルノアが言い出した上条に対する噂に、かえって  
それを言い出した少女に対する危機感、あるいはライバル意識のようなものでも覚えたのか、上  
条の隣からぴったり離れなくなってしまった。  
 そのあとも、いちいち監視でもするかのように、洗い物をしたり風呂の用意をしたりする上条と居  
間の間を行ったり来たりして、決して目だけは離さない。  
 インデックスの気持ちもわからないでもないのだ。  
 しかし、そもそも自分がそんなに女の子に注目されるようなことなどあり得ない(と上条は思って  
いる)し、イタリアでのアレは何かの偶然が重なりに重なった結果で、その間違いが無ければ、(イ  
ンデックスには悪いけれど)今でも清い関係のはず……で、ある。  
 第一、学校でだって、面倒ごとと言うか不幸と言うかそういうことはあっても、浮いた噂になるよう  
なことなど何も無いし、ビリビリはいつもどおりケンカを売ってきてそれはもう大変迷惑だったし、テ  
ルノアが現われたのだって、上条にしてみれば不幸の一貫に過ぎない――それも、『いつもの不  
幸セット』に出血大サービスでくっついてきた、余分なオマケだ(という、上条の今日の回想)。  
 ともかくも、そんなこんなで今日は猛烈に気疲れした上条である。それで、少しでも早く寝ようと毛  
布を掴んで立ち上がった、そのとき。  
 
「…? どこで寝るの上条くん。わたしは床に布団を出してもらったんだし、ベッドで寝ないの? 彼  
女が待ってるじゃない。わたしに気を使って――ってワケじゃ、無いか。うわさはうわさ、事実は事  
実で気にしなくても」  
 
 上条にはどこか挑発的にも聞こえる…もちろん、本人にそのような意思があるのかどうかは判ら  
ないが、そんな口調でテルノアが言った。しかし、そんな挑発に乗ってはいられない、早く休みたい  
一心の上条当麻である。  
 が、背後から別の声が聞こえてきた。  
「そ、そうだよとうま! こんなのに遠慮してそんな狭いところで寝ること無いんだからっ! い、いつ  
もどおり一緒に寝たら良いんだよっ!」  
 あれは絶対にブラフだ。  
 そのように感じたから上条はいつものようにユニットバスに向かったのだが、何をどう思ったのか、  
それとも単純にブラフに引っかかったのか、インデックスがとんでもないことを叫びだした。  
 まさか今日のこの状況で、そんなこと出来るはずが無い、と、その言葉を発した少女に向かって  
振り返り――  
 その、射殺さんばかりの視線に身体が固まる。  
 視線以外は笑顔のインデックスが、ベッドの脇をバンバンと叩きながら再び言った。  
「この子は床で寝るって言ってるんだし、床って言っても布団もあるんだし、とうま一人が遠慮する  
必要なんか無いんだよ、だからいつもどおりに…っ!」  
 茶化されただけだと思うのだが。  
 しかし、インデックスの視線は真剣に痛い。ここでインデックスの言葉を却下した場合、上条は明  
日の朝日を拝めないのではないかという予感――いや、むしろ相当な確実性を伴った予言めいた  
もの――が脳裏をよぎる。  
 今の顔は間違いなく引きつってるんだろうなあ、と思いつつも、顔だけでなく身体ごと向き直って  
返事を返す。  
「そ、そうだ、な、いつもどおりで良いって言うんならいつもどおりで。よりにもよってこんなところで寝  
るこたあ無いよな、ははは」  
 ぎこちなく、インデックスの待つベッドへと歩みを進めた。  
 よいしょ、とベッドの上に乗って、インデックスより少し奥に乗り込んで座った。一人はベッドの下、  
もう一人は事実上の恋人、とは言っても、女の子二人に挟まれて冷静でいられるほど、上条はオト  
ナ(あるいは不感症)ではない。  
 ぴく、とインデックスの方が震えるのが見えた。本人も、ここへ来て煽られたことに気づいたのか  
どうか、それなら、気づいたことで羞恥心のようなものが帰ってきたのだろうか。  
 それならそうで、この意地の張り合い(……というより、インデックスが一方的に意地を張ってい  
るように見えるのだが)を早く止めてくれれば、と上条が考えていると。  
 
 インデックスが上条の方を向いた。  
 手を伸ばして、上条のスウェットの袖の端をちょこんと摘む。やや俯き加減ながら、顔が真っ赤な  
のが上条にも判った。  
(テルノアの茶化しに気がついて――怒ってる? でもそれで俺に当たるの…は、勘弁して欲しい  
のですが――)  
 などと、上条は背中に脂汗が浮かぶのを感じつつもベッドの向こうに視線を移してみる。  
 上条からすればひたすらにこの状況を演出するために煽り続けた天然ボケ、テルノアが如何にも  
興味津々、という表情でこちらを伺っていた。  
 思うところは数あれど、とにかく今はインデックスが怒っているならそっちが先、と視線を戻した。インデックスが俯いていた顔を上げる。  
「……い、いつも――通り、なんだから…、とうま、お、お、」  
 真っ赤な顔のまま、銀髪の少女が喉に詰まった言葉を懸命に吐き出す。  
「……お?」  
 
「おやすみのキス、してくれなきゃ、だよ」  
 
 なんですとーっ!!!!! と、上条がシリアス調に顔面へと影を落としつつ硬直するのを前に、  
インデックスが上条へとにじり寄る。  
 その胸元へ身体を寄せると、じっ、と上条の瞳を見つめて――それが何か、もの凄く思わせぶり  
に見えたのは何故だろうか――顔を上げると、目を閉じた。  
(これはっ! 完っ璧に! 逃げられない状況をっ!)  
 背中をダラダラと脂汗がこぼれ落ちる。が、その様に思ったとおり、逃げられない状況をテルノア  
ではなくインデックスに作られてしまった。  
 今更思うに、ひょっとするとテルノアは本当に素でボケていただけで、それを自分たちが勝手に意  
味を取り違えていたのではないだろうか。  
 しかし、もう遅い。ベッドの脇では件の天然少女が頬を染めながら、興味深そうにこちらをジッと見  
つめている。ここで、人がいるから、なんて言い出しても、やはり明日の朝日が拝めないのではな  
いのだろうか、という強迫観念に襲われる。  
 横からの視線以上に強く感じる、目の前の純白シスター(今は寝間着のシャツ姿だが)からの圧  
力に上条は抗しきれない。  
(み、見るからに、ほっぺたでオッケー、という様子ではないよな…、し、しかしっ!)  
 心臓が早鐘を叩き出した。  
 改めて見ても、やはり整った顔立ちのインデックスに顔を寄せる。  
 『いつも』などとは、もちろんインデックスの口から出任せだ。自分の動きも表情も、ものすごくぎこ  
ちないのだろうな、と、行動そのものについては考えないようにしながら――  
 テルノアからは唇を重ねているように見えるように、と首を傾げてその視線を塞ごうとして。  
 インデックスの腕が、いつの間にか上条の首の後ろに回っていた。  
 お互いの唇が、上条の思惑を無視して重なる。  
(んむっ……っ、…い、インデックスっ!)  
 しかし、その驚きもそれまでの思惑と同じようにスルーされて、  
「んっ…」  
 インデックスが艶めかしく嘆息を漏らした。  
 頬を染めて上条の唇を吸うインデックスの顔が大写しになる。  
 こうなれば覚悟もクソもない。  
 目を閉じるのがマナーなのだろうか、と思いつつ、上条も目を閉じた。恥ずかしいやら照れくさい  
やらその他諸々で、目を開けていられなかったと言うのもあるのだが。  
 数秒後、唇を離そうとして、首に回された腕に阻まれる。  
 そのままインデックスは触れるか触れないか、というギリギリのところまで浮かせた唇の角度を  
変えて、再び唇を合わせる。インデックスの小さな唇が、上条の唇をついばむように吸った。  
 何度か、同じような行為を繰り返す。  
 いつの間にか、上条もまた同じように少女の唇をついばんでいた。  
「ふあ…っ」  
 名残惜しげな嘆息とともに、インデックスが唇を離した。  
 頬を染めながら上目遣いに上条を見つめると、首に回したままの腕に力を込めて、今度は上条  
の耳元に唇を持っていく。  
 かすれた声とともに吐き出される熱い吐息が、上条の耳元をくすぐった。  
「……とうま…、あのね、朝、見たでしょ? シーツ、替えたよ?」  
 思わず吹き出しそうになった。『シーツ、替えたよ?』だって? と、いうことは、つまり……、上条  
の背中を、再び汗が伝い始める。  
(人前でキスというか接吻というかでも耐え難く恥ずかしかったのにッ!)  
 焦りと恐れと羞恥が上条の脳内で徒競走を始めた。  
 それでも頬を染めながら自分を見上げるインデックスの顔は視界に入ってくる。混乱のままに、  
上条はやや強引にインデックスを抱きかかえて、  
 
 布団に潜り込んで即座に寝たふりを始めた。  
「……とうま? ねえ、とうまってば?」  
 無理やりに胸元に抱え込まれたインデックスが、一応は小声で上条に話しかける。  
 しかし、ここはこの銀髪の少女が怒ろうがどうしようが誤魔化し通すしかない。まさか、人前でおっ  
ぱじめられる訳が無いでしょうがーっ! と、上条も心中泣きそうなのだ。  
 いつ、この獣化少女がこの腕を振り解いて噛み付いてくるのだろう、とビクビクしながら、それでも  
寝たふりをしていた上条の耳に、インデックスの声ではない声が聞こえる。  
「むむー。そ、そんな風に見せ付けられるのは私としても心中穏やかじゃないんだけど。でももうこ  
れ以上見せるとかじゃないよね? 寝て良い? 灯りはこのヒモ引っ張ったら消えるんだよね?」  
 それは、インデックスの暴走に置いてけぼりにされていたテルノアが、考え込むような、呆れたよ  
うな――しかし、目を閉じているのでどんな様子か実際のところは判らないが――、ふう、と溜息を  
吐きながら出した声、であった。  
 直後、カチカチと音がして、目蓋越しにも蛍光灯が消えて、周囲が暗くなったことが判る。  
「……うむむむ、うー…」  
 インデックスの不満げな声が聞こえた。体が一瞬強張ったが、インデックスの上条のスウェットを  
掴んでいた手の力が弱まる。諦めてくれたのだろうか。  
 そのまま、インデックスは首のすわりのいいところを探してか、上条の腕の上でもぞもぞと頭を動  
かしていたが、それが見つかったのだろう、静かになった。  
 諦めてくれたかインデックス、と心の中で安堵しつつ、最近になって、なんとかベッドの上でこの少  
女と同衾しながらでも眠れるようになった上条の目蓋が本当に重くなる。  
 意識が睡魔に連れ去られ、遠のいていった。  
 
                     −*-  
 
 なにかこう、下腹部がもぞもぞする。  
 奇妙な感触に上条は目を覚ました。半覚醒状態のなか、感じる感触が下腹部のある一点からで  
あること、それが熱くてぬるぬるしていること、ときおり吸い上げられるような感触が混じることを感  
じて――  
 突如覚醒に至り、がばと布団をめくり上げながら上条はその奥に首を向けた。  
 その視界の先では、  
「んむっ、ふ、ふあ、ひゅむ、う……」  
 上条のスウェットのズボンを下ろして、その奥にしまってあったモノに愛しげな視線を送りつつ、小  
さな口で――くちゅくちゅ、ぴちゃぴちゃと音を立てながら、それを咥えこんだ同居人の姿が、あった。  
 その体格同様に小さな手のひらで根元を握り、薄桃色の唇をいっぱいに開いて、硬くなったそれ  
を口腔内に無理やり収めている。もう片手は、自らの太ももの付け根の間に差し込まれているのが  
見えた。その腕が小刻みに震えて、不規則な荒い呼吸が唇の隙間から漏れる。  
 布団を捲り上げられたことで、相手が目を覚ましたことに気がついた銀髪碧眼の少女が、潤んだ  
目で上条を見上げた。見上げながらも、咥えこんだそれをさらに飲み込もうと頭を動かした。  
「んんっ、くふ…」  
 上条も、自らのものが喉の奥に当たったのか、と感じるほどの抵抗に触れて、今度はその唇が上  
がっていく。  
 唇の柔らかい感触と、口腔内の熱い感触、さらにつつ、と固くなったその裏側を伝う小さな舌の感  
触に背筋が痺れた。耐え難い快感が上条の背中を走る。  
「……はふう…」  
 くちゅ、と小さな音がして、少女の唇が上条のそれを離すと同時に小さな嘆息が聞こえた。  
 腕枕に抱きかかえていたはずの少女、インデックスが頬を上気させ、そして潤みながらもいたず  
らっぽい光を湛えた瞳で上条を見上げる。  
 インデックスが両手をあげて上条の肩を掴んで這い登ってきた。顔と顔が触れそうなほど近づくと、  
咥え込まれて痛いほどに固くなった上条のそれに、太腿の付け根と付け根の間を擦りつけてきた。  
「ひうっ……、あは…」  
 その碧眼を細めて、銀髪の少女が熱い吐息を漏らす。  
 固くなって敏感さが増していたこともあってか、目の前の少女がすでに下着を脱ぎ捨てていて、  
上条が固くしているのと同様に、この少女もすでに濡らしていることが感触として伝わってきた。  
「ちょ、おい――」  
 
「いじわるしちゃ、やだよ…なんにも関係ないもん……とうま、ねえ…」  
 上条が言葉を発しようとしたそれよりも早く、インデックスが甘えた声を出す。  
 確かにここ何日かは、毎日、毎日毎日ヤってたらカミジョーさんタダでさえアホなのにもっとアホ  
になっちゃう! と我慢はしていたが。  
 銀髪を乱し、碧眼を潤ませたインデックスは、上条よりももっと我慢の限界に近かったのだろうか。  
上条の怒張を挟み込んで、自らの腰を小刻みに動かしている。  
 
 はっ、はっ、と小刻みに吐き出される乱れた甘い吐息が顔や首に当たって、  
 少女の濡れた襞が固くなった先端を撫で、  
 頭の中がこの少女への渇望に塗り変わっていくと同時に――  
 
 ベッドの脇で寝ているはずの不意の客人のことを、上条は忘れた。  
「や、やらいでかっ」  
 理性が飛んでしまえば、羞恥心もクソもない。そもそも溜まっていたのだし、誘ってきたのは相手  
の方と上条は強引にインデックスの腰を抱え上げて持ち上げ、肩で逆立ちするような格好になっ  
た少女の足を大きく開く。  
「ひゃん、や、だめだよ、こんなの恥ずかしい―――」  
 インデックスが羞恥の悲鳴を上げた。その声を無視して、上条は目の前に開いた少女の花びら  
のような秘所に吸い付く。その先の、銀色の薄い茂みが鼻先をくすぐった。  
「ひいあっ……」  
 吸い付かれて、インデックスがさらに声を上げる。とっくに濡れていた襞の奥に舌を伸ばした。舌  
で、襞と襞の間を押し開いて進む。押し広げられて、襞の奥に溢れていた蜜が漏れ出す。  
 少しツン、とした雌の匂いが上条の鼻腔に広がって、咥えられて硬くなっていた逸物がさらに硬さ  
を増す。ビクビクと震えるそれは、硬くなり過ぎて痛みすら覚えさせた。  
「や、やあん、だめ、あ、ふあう、あふ、あ―――」  
 銀色の茂みの向こうのやや幼げな顔が、真っ赤に頬を染めて荒い息を吐く。  
「きゃふっ、うっ、あ、は、あああ、ふあ、」  
 溢れ出した愛液が上条の顎を濡らし、つつ、と溢れさせた当の本人のお尻を伝う。腰を高く抱え  
上げられているために、その蜜は前にも漏れだして茂みを濡らし、白いお腹から小さな乳房へと  
伝う一本の光る線を描いた。  
 いつもならもっと――それは指であったり、舌であったりするのだが――、『準備』をするところな  
のだが、何故か今日は耐え難い。不意打ちをされたせいだろうか。いつもよりもっと、濡れている  
ような気がするからか。  
 上条は抱え上げた少女の腰をベッドに下ろすと、シーツを固く握りしめていた少女の腕を掴んで  
強引に半身を起こさせた。  
 そうしてシャツの裾に手を移すと、それを捲り上げてすっぽりと抜き取る。シャツを抜き取られて  
支えが無くなった、インデックスの白い裸体がぽふ、と後ろに倒れてベッドに埋まる。乱れた長い銀  
髪がその小さな乳房にかかって、元々色は薄いのだけれど、銀色の髪の隙間から顔を覗かせた  
ことで乳首のピンク色が強調されて見えた。  
 荒い息を吐き出しながらスウェットの上を脱ぐ。邪魔なその衣類を傍らに投げ捨てると、碧色の  
瞳を潤ませた少女にのし掛かる。  
「あ……」  
 インデックスの、一瞬のためらうような声にも上条は動きを止めず、すっかり濡れそぼった少女の  
小さな割れ目に熱くたぎった分身を押し込んだ。  
「―――ひああああ―――っ」  
 
                     −*-  
   
(え、うそ、まじ、ちょ、えええ―――)  
 禁書目録の修道女を保護している、というのは知っていたし、目の前で濃厚なキスシーンを見せ  
つけられて、(くやしいけれど)噂通りにどうやらそう言う関係のようだ、とも思ったけれど、まさかそ  
のずっと先の行為まで始められるとは、夢にも思わなかった。  
(ううっ、み、見せつけてやって来たって無駄って言いたいワケ?)  
 硬直化していた思想、というか思考を正されて、それでも誇ることも見下すこともせず、見も知ら  
ぬ誰かを助けて威張りもせずに立ち去った少年に衝撃を受けた。  
 命を狙って追っていたそのときから、噂通りに周囲は女の子だらけだとは思ったけれど、それでも  
引っぱたかれてその姿が眩しく見えるようになってしまったのだ。  
 それなのに――  
 目の前で夜の営みが始まってしまった。寝たふりで監視めいたことをしていたのではあるけれど、  
まさか、まさか本当に始めるなんて。  
 ショックを感じて、それでも目が離せなくて、気が付けば、  
(や、すご、……んん、やだ、こっちも…)  
 片手が下腹部に伸びていた。上条が頭を揺らすのに合わせて指が割れ目をなぞる。  
 禁書目録の修道女がシャツを抜き取られて、少年が覆い被さろうとするときにはすっかりぐしょ  
ぐしょになっていた。見せつけられている、という思いが拭い落とせないままに指は動いて、  
 目の前で上条当麻が組み敷いた少女を貫く。  
 指が勝手に動いて、自分の秘所に潜り込んだ。  
「きひゃ、くう――」  
 思わず漏れた声は別の声に掻き消されて、部屋の中に響く嬌声に、やっぱり指は止まらない。  
 
                     −*-  
 
「ひあっ、や、らめ、まだ――」  
 果てたばかりでぴくぴくと震える少女の身体を強引に持ち上げる。繋がったままで後ろを向かせ  
て、腰の上に座り込ませる。力は入らない。身体を支えきれない。自らの体重が、咥え込んでいる  
上条の怒張を奥まで押し込んだ。  
「きゅふっ、ひゃん」  
 目を見開いて悲鳴にも似た声を上げる。  
 敏感になりすぎた感覚が、突き上げる上条の感触に耐えられない。許しを請うかのように、イン  
デックスは動かない身体を無理矢理ひねって後ろを向き、潤んだ碧眼で上条を見つめた。言葉に  
なる声は、出せない。  
「……と、うま…、ひう、とうま、ゆるひ――」  
 しかし、その潤んだ瞳も上気した頬も、今の上条にすればさらに興奮を煽る材料でしかない。  
「ダメ、俺はもっとインデックスのこと、感じたい」  
 腰の上に抱え上げた少女に顔を寄せて囁く。  
「誘ってきたのに、お預けはずるいだろ、インデックス? 俺も、欲しい…」  
 絶頂を迎えたばかりの真っ白な頭に、大好きな少年が自分を求める言葉が流れ込んできて、繋  
がりっぱなしだった身体を後ろから抱きかかえられ、その弾みで深く突き上げられ、  
「あっ、あっ、あああああ――――――」  
 真っ白な頭のなかが、さらに真っ白になる。  
「またイったのか?」  
 上条に囁かれ、背中にゾクゾクと歓びと同時に猛烈な羞恥がこみ上げてきても、応えることも出  
来ない。  
「俺も――」  
 求めてくる声もよく判らない。くにゃ、と力の抜けた身体は言うことを聞かないし、そもそも頭の中  
は真っ白でなにも考えられない。感じるのは、ただ上条が自分を求めて突き上げてくる、その熱さ  
だけだ。  
「ふあ、あっ、ああんっ、あっ、あっ、」  
 漏れる嬌声すら意識の埒外である。ただただ感じるままに、勝手に漏れ出す。  
 そうして、自分のことを感じている、と判る少女の声は上条をさらにさらに煽り、上条の動きはどん  
どん激しくなる。  
 腰の上で突き上げられて踊る少女の身体が、激しく突き上げるそのたびにきつく締め上げてくる。  
 締め上げられれば締め上げられるほど、上条の突き上げはさらに強くなり、そして、  
「ひあ、あっ、あっ、らめ、ひいあ、あっ、あ、あ――」  
 
 ただでさえ狭いインデックスの秘所が、さらに強く締め上げてきた。ビクビクと体を震わせ、半ば  
目の焦点を失いつつ嬌声を上げるインデックスは、もはや限界が近いのだろう。  
 バックの騎乗位から突き上げる腰の動きを早めた。自らも、そろそろ限界だ。  
「らめ、らめ、らめ、あああっ、ひああ」  
 上気しきってピンクに染まったインデックスの背中が、腰が、お尻が上条の上で跳ねる。  
 体が跳ねるのに合わせて踊る銀髪が、そのリズムを一瞬変えた。同時に、少女の秘所が上条を  
折れそうなほど締め上げる。  
「ふああああ――――っ」  
 みたび絶頂を迎えた少女の、ひときわ高い声と締め付けが、上条の限界を突き崩して、  
「うっ、くっ……」  
 上条もまた、強く締め上げるその中に欲望を吐き出す。  
「きゃうふっ」  
 その、吐き出された熱い欲望を受け止めたインデックスの白い肌が踊るように震えて、力を失っ  
た。くた、と後方に倒れ、上条の身体の上に仰向けに重なる。  
 
「はっ、はあっ、インデックス…?」  
 声を掛けるも、応答は無い。  
「また、やっちまった…」  
 上条の激しい攻めに、インデックスは気を失っていた。  
 いくら溜まっていたとはいえ、少々やり過ぎた――と頭を掻きながら、欲望を吐き出した分身を  
そっと抜き出して、気を失った銀髪の少女をベッドに横たえる。服、着せてやらなきゃ、と周りを見  
回し、  
「そうそう、その前に…」  
 きれいにしといてやらなきゃ、とティッシュボックスを手に取ろうとして。  
「ううう、うふふ――」  
 突如、ベッド下から呻くような声が響くと同時、何者かの濡れた手に手首を掴まれた。  
 
 はっとしてその先を見る。果たしてそこには、息を乱し、もぞもぞと太ももをすり合わせながらやや  
恨めしげな表情でこちらを見る少女――おっぱじめたばっかりに、上条からすっかりその存在を忘  
れ去られていた不意の泊り客――テルノアの姿があり、  
「こんなのまで見せ付けて…こんなのまで……ただじゃ…済ませてあげないんだから…」  
 ぶつぶつと呟きながらテルノアは上条ににじり寄ると、そのけして大きくは無い身体で上条を押し  
倒した。  
「見せ…、つけて……諦めさせようだなんて、この…テルノアさんに対して……良い、度胸…じゃ、  
ない? でも……それは、なし……。ちゃんと……残さず食べたげるから――」  
 言って、反対の手で欲望を吐き出したばかりの上条自身を握り締めた。  
「ちょ、ちょと、待って、イッたばかりは敏感で―――」  
 突然押し倒され、上条も混乱が抜けない。間抜けな回答が口をつき、それでも、  
「も、問答無用なんだからっ」  
 やはりどう見ても正気とは言い難い少女が、さらに深く上条に覆いかぶさった。  
 
                     −*-  
 
 太陽が黄色い。  
 げっそりと目の下に隈を作って、上条は学校への道を歩いていた。夕べは眠れた気がしない、と  
いうかほとんど寝ていなくて、気が付いたら少女が二人、気を失っていて。  
 きれいに後始末をして服を着せて、気が付いたら薄明るくなっていた。  
 インデックスが気を失っていてくれたことだけが救いなのだろうか。とにかく目を覚ました二人の少女はやたらと上機嫌で肌もつやつやしていてテンションも高かった。  
 夕べ突然転がり込んできた少女テルノアは、とりあえず保護を求めた組織からの返事が来るまで  
置いといてね、などと上目遣いに言い出すし、インデックスも打って変わってなぜか別段反対はし  
ないし。  
 どうなるんだろう俺、と、溜息をつく元気も無いまま、通学路を歩く上条の背中に声が投げかけら  
れた。  
「どうしたの貴様? なんか、影、薄くない?」  
 振り向いた先のクラスメイトに愛想笑いを浮かべて、前を向こうとしたら目眩がした。  
 クラスメイトの少女が何か言っているようだ。そうです、不摂生なんです、と頭の中だけで返事をし  
て――やっぱり、溜息をつく元気も無い今日の上条、なのだった。  
 

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