『お願い、神様 Dream_come_true』  
 
 そうして、上条家がそれまでのように二人と一匹に戻った、その日の学校の帰り道。  
 奇跡としか言い様のない偶然で、上条当麻はスーパーのタイムサービスに遭遇した。自身の不幸体  
質は、記憶喪失になってみても身にしみて判っている。こんなことに遭遇するのは天文学的確立では  
ないだろうか。  
 ともかくも、これまでの数日間で疲弊しきった冷蔵庫の空きスペースが埋まる。  
 そう、これだけの蓄えがあれば、カミジョーさんちは籠城戦も(――ひとまずは、これまで同様に  
部屋に棲息する食欲シスターさんのことは忘れて)戦えますよっ! と、買い物袋を抱えながら、上  
条は上機嫌で帰り着いた学生寮のドアを開けた。  
 すると、ドアの向こうでは、なぜか猛烈に不機嫌そうな表情のインデックスがムスー、と部屋の奥  
に座り込んでおり、その前には、さらにどういうワケか、羽をむしられた鳥のような露出度の高い修  
道服を着たアニェーゼ=サンクティスがこっちを向いて立っていた。  
 アニェーゼが笑顔で上条を迎える。  
「や、お帰んなさい上条当麻さン! お元気そうでなによりです」  
 
「……なんで、今度はお前までここにいるんだ?」  
 
 最近では、上条自身何が起きても驚かなくなりつつある。信じられないようなことなら、命に関わ  
る事件から男女間の揉め事まで、もうよりどりみどりの食べ放題、いやもう腹一杯だ。  
 突然現われたアニェーゼへの質問も、妙に冷静に口から出ていた。  
「ガードの堅いところに潜入するのはお手のモンなんですがね、さすがに学園都市ともなると苦労し  
ましたよ。実際のところは泳がされてンのかもしれませんけど……自分たちの関わった事件は、どう  
にせよ学園都市でも把握されてると見た方が正解でしょうし、こっちも何か厄介を起こそうとここに  
来たワケじゃねえですから、ちょっとの間ここにいるのは見逃してもらえるでしょうよ」  
 そう言いながら微笑む赤毛の少女は、玄関の上条のところまで歩み寄ると、荷物を上条の手から取  
ってキッチンへと置く。  
「あ、悪いな…って、そうじゃなくって! 質問の答えになってないじゃん!」  
 アニェーゼの自然な動きに身体が無意識に反応していた上条だが、さすがに突っ込み返す位の余裕  
は残っている。  
 上条の追い打ちに振り向いた少女は、一瞬だけ目を合わせると頬を赤く染めながら俯き、少年の制  
服の端をちょんと掴んで、  
「女の口から言わせるなんて…結構意地悪なんですね……あの、その、命の恩人に…お礼がしたいっ  
て…もっと言わないと駄目ッすかね?」  
 ぴったりと寄り添いながら恥ずかしそうにもぞもぞと呟くアニェーゼの姿に、さすがに上条の余裕  
も吹き飛ぶ。自分も赤面していることに気が付き、慌ててアニェーゼから視線を逸らすと、部屋の奥  
にいる居候シスターが漆黒のオーラを背負いながらこちらを睨んでいるのが見えた。  
 
 ……いや、見えてしまった。  
「とーうーまー……」  
「ど、どうしたのいんでっくすサン? ご、ご機嫌麗しくあらせられないようですが?」  
 いつもこういった台詞が自爆の原因になっているのに、やっぱり尋ねてしまう。それに対し不機嫌  
の色をさらに強めたインデックスは、  
「いつもいつもどこかで私の知らないときにもとうまはとうまでっ! 私の目の前でも関係なくっ  
て! ううっ、うう……や、やっぱり許せないかもっ!」  
 猛烈な不機嫌に、どこかやるせなさとちょっぴりそれ以外の感情を表情に出したインデックスが  
 ――どれだけ深い関係になっても、鈍い上条には含みの部分は判らないわけだが――、くわっ!   
と、このときばかりは上条にとって恐怖の対象でしかない口を大きく開いて飛び掛ってきた。  
「お、お、俺が何をしたーっ!! 不幸だーーーっ!!」  
 上条がいつもの台詞を叫ぶ。インデックスが上条を捕らえる早業に、アニェーゼすら手が出なかっ  
た。白い影が実体を見せず迫り来る。  
 狙い違わず、純白の猛獣のあぎとが哀れな捕食動物の頭部を捕らえた。  
 
 純白のシスターに噛み付かれた上条が、悲鳴を上げる。まさに野生の狩猟者と捕食者のごとき惨状  
に、その狩猟動物たるインデックスを止めようとしながらも、  
(そう、この人は…まったく、普通の人だったんですね)  
 上条が本当に科学側、あるいはどこか魔術側のスパイ的役割を負っているのではないのかと、何度  
か調べようとしたときのことを思い起こす。  
 不思議な右手を持ったこの少年は。  
 学園都市という科学側の中心地に居ながら、確かにこの少年はまったく平凡な、むしろ学園都市の  
中ではその力を目立った能力として認められていないだけに、そこに暮らす大勢の中に埋没していて  
も当然な存在でしかなかった。  
 魔術側について言えば、調べがついた限り巻き込まれているに過ぎない。裏に何かあったとしても、  
この少年の関知するところでないのは間違いないし、裏などと言うのもアニェーゼの勝手な想像だ。  
 
 だが、いや、だからこそ、だろう。  
 
 この少年と関わってから、アニェーゼはあの夢を見なくなった。ミラノの薄暗く寒い、あの路地裏  
の悪夢を。  
 上条は、衣食住という側面でなら、アニェーゼのような苦しみは受けていない。  
 が、この少年は物心ついたときから周囲に前時代的な差別でもって疎まれ(両親だけは愛情を持っ  
てはいたようだが)、捨てられるように学園都市にやって来ている。  
 そうして疎まれつつ育ってきて、それでも真っ直ぐなまま生きている。誰を分け隔てすることなく。  
人を信じて、結果、皆に愛されて今がある。本人がそれを自覚しているのかどうかは判らないが。  
 その上条だったからこそ、かたくなに凍り付いていた自身の心を目覚めさせることが出来たのだと、  
アニェーゼは信じて疑わない。  
 少女にとって、この不思議な右手を持つ少年は、真実の救い主だったのだ。  
 本当に神を信じるようになったのは、この少年に出会ってからなのではないのだろうか。  
 
 上条からインデックスが離れる。  
「死ぬ…頭蓋骨砕けて死ぬ……」  
 呻く少年の傍らに座り込みつつ、アニェーゼはインデックスに困った顔を向けた。  
「今回は本当に私の一存だけなんすよ? 彼が何かしたわけじゃねえんですから、乱暴は…」  
「――ううっ。でも、とうまはやっぱりとうまでっ! いつもわた…あ、あう、もういいかもっ」  
 悪戯を咎められた子供のような表情で、インデックスが顔を背けた。真っ赤に顔を染めている。そ  
れが怒りによるものでないことは、アニェーゼにはよく判った。  
(そう、そうですよね…、彼女も…。ルチアやアンジェレネも私の抜け駆けを知ったら、どんな顔、  
しますかね……)  
 脳裏をよぎった仲間の姿を振り払って、拗ねるインデックスに話しかける。  
「私だってこの人に命、助けてもらったんです。直接感謝を伝えたい、それは、私にも権利ありませ  
んかね? ちょいとだけ、アナタの上条当麻さん、貸してくださいよ」  
「あああああ、あなたのって、そうだけどっ、って、そうじゃなくって、じゃないことなくって、あ  
のあのあのね、ううっ――」  
 あなたの、という言葉が予想通りに効果を発揮したことに、少しだけ胸がちくりとした。  
 ロンドンでオルソラ・アクィナスが嬉しそうにこの少年の話をしたとき。神裂火織もそうだった。  
調べを入れてたときの彼を取り巻く少女たちの表情。そして今。  
(ジェラ…いや、私らしくも無い……でも、この感情に、今は…ウソ、付けないです…)  
 顔を真っ赤にして正座するインデックスを見ながら、上条に覆いかぶさった。悪戯っぽい表情を作  
ってみせる。  
「じゃ、そういうわけっすから! たった今からしばらくの間、上条当麻サン、私のモンってこと  
で! いつもは独り占めも一緒なんですから、OKですよね?」  
 その声に、上条がガバッと起き上がる。跳ね除けられそうになり、アニェーゼは慌てて上条の首に  
腕を抱きつけてしがみつく。  
「ちょ、ちょっとお嬢さん方っ! いつの間にカミジョーさんで取引して? 本人の意思は……」  
 横を向いて顔を染め、拗ねた顔のままのインデックスが答える。  
「とっ、とにかくそういうことなのっ! 人の親切は受けておくものなのっ! わ、私が許してあげ  
たんだから、で、でも、今回だけかもっ!」  
 いやだから、と反論しようとして、それを遮るようにアニェーゼが上条の耳元で囁いた。  
「そうですよ? 私だって結構、覚悟決めてきたんすから。サービスするから、遠慮なく受けてくだ  
さい?」  
 そう言って、上条が起き上がったときに首もとに抱きついたままだったアニェーゼは、少年の耳た  
ぶに唇を近づけると――いきなり、それを甘噛みする。  
「ひぃやああうっ!」  
 ばっちり視界に入ってしまったその行為と上条の悲鳴とに、インデックスが「なっ!」と表情を固  
くして立ち上がろうとして、うううと唸りながら座りなおす。上条には見えなかったが、アニェーゼ  
が悪戯っぽくも、実に嬉しそうな表情をしていたことだけは伝えておこう。  
 
「ま、覚悟決めましょうや上条当麻サン?」  
 上条の背中に抱きつく少女の声は、喜色に溢れていた。  
 
                     −*−  
 
「けっこう、手馴れてるんな…こう言うと何だけど、」  
「意外でしょう?」  
 上条の、聞きようによっては失礼な言葉に、けろりとした表情でアニェーゼが答える。  
 朝、水に浸けたままにしておいた食器洗いから、洗濯物の片付け、風呂掃除と、上条が取り掛かろ  
うとした先から、そのすべてをこの赤毛の少女に片付けられてしまった。  
 なぜか真っ赤に顔を染めて、上条のトランクスをぎゅっと掴んで凝視していたときには、思わずそ  
れを取り上げてしまったが。  
「こう見えても修道女っすからね、一通りのことは仕込まれてるんすよ。共同生活ですからね。ま、  
一般人が思ってるほどでもなくて…けっこう、かしましいって言うか、そのへんはあれです、日本で  
は諺で言うらしいじゃないですか? 女三人寄ればなんとやら、ってね」  
 思い出すかのように言って、にっこり微笑む。  
 難しい顔ばかりが印象に残っていたせいか、歳相応な無邪気さを感じる笑顔に思わず上条のほうが  
赤面してしまった。  
「あ……」  
 赤くなった上条の顔を見て、連鎖反応のようにアニェーゼも頬を染める。  
「な、何べらべらくっちゃべってんでしょうね、私」  
 恥ずかしそうに顔を背けると、アニェーゼはキッチンへと早足で立ち去る。  
 ぼんやりとそれを見送ると同時に、背後から突き刺すような視線を感じた。  
「ど、どうかしましたかインデックスさん?」  
 視線の主が誰かなどという愚問を抱いたりはしない。おずおずと振り向く。その先では、思ってい  
た通りの不機嫌そうな表情をしたインデックスが上条をじとっ、と見つめていた。  
 が、目が合うと視線を慌てて逸らす。  
「な、なんでもないもんっ」  
「あ、いや、そ、それなら良いんだけどさ」  
 その返事に、インデックスは赤くなった顔を逸らしたまま横目で上条を睨む。  
「……とうまは…、おんなじシスターでもこっちに居るのは何にも出来ないなー、とか、そんなこと  
思ってたんでしょ…?」  
「ちょ、ま、待ったインデックス! どうしてそう言う話になるの? カミジョーさんまだ何も言っ  
てません!」  
「……まだ?」  
 慌てる上条へ向ける目つきをさらに険悪にしながら、インデックスが呟く。  
「やっぱりそう思って――」  
 インデックスに掴まれていた三毛猫が、ふぎゃ! と鳴き声を上げてその手から逃れた。猫が逃げ  
出したその手が、きつく握りしめられて蒼白になっていく。ふるふると肩を震わせる純白シスターの  
噛み付きゲージがMAXになっていく様が、上条の目には確かに見えた。  
 喰い殺されるッ! と上条の脳裏に閃いたそのとき、  
「当麻さん? 大きいナベ、無いっすか?」  
 と、キッチンから声が上がる。その声に、今にも飛びかからんと腰が上がっていたインデックスが、  
空気が抜けたようにぺたりと座り込んだ。  
「ううっ。とうまのばか」  
 とりあえず、頭蓋骨の危機は去ったようだ。インデックスの様子が変なのは気になるが、とりあえ  
ずは逃げてしまうことにする。  
「あ、ああ、ちょっと待ってそっち行くから」  
 振り向く僅かな間に、二人の少女の視線が交錯して、その一瞬に行き交ったものには幸か不幸か上  
条が気付くことはなかった。  
 
 
「もうちょっと、場所、開けてください、もう一皿行くんでっ」  
 気が付くと、大量の料理がテーブル、というかいつものちゃぶ台に並んでいる。  
 意外、意外とあんまり言うのは失礼だろうとは思うが、アニェーゼが台所に立つ姿もぞの手際も、  
上条にとってはまったく念頭にない姿だったためだろうか、驚きばかりが先に立った。  
 どこからどこまでが本格派なのかは、普通の日本人の高校生に過ぎない上条当麻には見当も付かな  
いが、自身の買い物袋の中身と、アニェーゼが上条の部屋に持ち込んでいた食材がイタリアンに変身  
して目の前に並んでいく。  
「こんな材料あったか? どっから持ってきたんだ?」  
 間抜けな質問だと思いつつも、気の利いたセリフも思いつかない。  
「私が持ってきたのも、学園都市で買いましたけど? 日本って、聞いてたとおりで。ホント、何で  
も売ってるんでびっくりっすよ」  
 にっこり微笑みながらアニェーゼが答える。  
「あ、あー、そうか。気が付かないモンだな、毎日みたいに行ってても」  
 何故だろうか、この赤毛の少女の自然な表情には、悪い意味でなく――慣れない。妙に動悸が激し  
くなって、不自然に目を逸らした。  
 逆に、少女はその上条のさまが可笑しくなってきたのだろうか、わざとらしく上条の視線の先に顔  
を潜り込ませると、悪戯っぽい表情を作ってみせる。  
「ま、私は日本のマーケットなんて初めてでしたから、逆に物珍しくって色々見て回っちゃいました  
けど、普段から行ってたら、逆に変わったモノには目、行かないっすよ。それより、準備オッケーな  
んで食事にしましょう? さあ、座って、インデックスさんも」  
 急に声を掛けられ、インデックスもきょとんとした表情にしかなれない。勢いに押されて食卓につ  
いて、その後になってから慌てて不機嫌そうな表情を作っている。  
 その様子を見ながら苦笑する上条を、さらにその隣で見ながらアニェーゼが声を出した。  
「まあまあ。兎に角も、せっかくの機会なんすから、食事くらいは楽しく行きましょう! あ、そう  
だ、こんなのもあるんです! これは国から持ってきましたっ」  
 ごそごそと、部屋の傍らに置いてあった鞄から、見事なカットの入ったワイングラスが3つ出てく  
る。それを、インデックスと上条に手渡そうとする。  
「あ、これがインデックスさん、こっちが当麻さん……」  
 上条が受け取って、インデックスへと廻し、自分とアニェーゼの席の前に置いた。  
 
「じゃーん。バローロです! いいでしょ? 奮発、したんですよ?」  
 最後に出てきたのは、いかにも高級そうな大振りのボトルだった。  
「ちょい待ち、それって酒じゃん!」  
 上条が思わず声を出す。が、アニェーゼは平然とした表情でソムリエナイフを器用に使って、ボト  
ルを開けていた。  
「ちょっと無理して手に入れたんですけど…当麻さんと味わってみたかったのにな……駄目っすか?」  
 上目遣いに上条を見やる。  
 特に誰が、と言うこともなくこの手の表情には弱い。しかも、何故かさらりと流せないこの赤毛の  
少女の視線に、思わず頷いていた。  
「ま、まあ、ちょっとだけなら、な」  
「ふふふー♪」  
 上条の返事に、ぱっと表情を明るくしたアニェーゼがボトルを傾ける。三人のグラスが、深い赤紫  
色の液体に満たされた。  
 その嬉しそうな表情に、上条も無意識に見入ってしまう。ぼんやりとアニェーゼを見つめていると  
――太腿に痛みが走った。  
「はうっ!」  
 慌ててその方向を向くと、いかにもムクれてます、といった顔つきのインデックスが脚を思いっき  
りつねっていた。が、上条には顔を向けない。ギリギリと力を強めながら逆の手でグラスを掴むと、  
「と、とうまにはバローロなんてもったいないかも! それにもう、とうまはしらふじゃないみたい  
だしっ!」  
 一気にグラスの中身を飲み干す。それだけで真っ赤になった銀髪少女だったが、アニェーゼからボ  
トルをさらって次々とグラスを空けていった。  
 その後の惨状は、上条としてはあまり思い出したくはない。アニェーゼの料理は絶品だったし、始  
めて口にする超高級ワインは確かに美味だったが、インデックスが絡み酒をするとはさすがの上条に  
も思いもよらないことだった。  
 
 そのインデックスはと言うと――床にだらしなく伸びていた。あんな勢いで飲めばそりゃあこんな  
風にもなるだろう、と思い、ベッドに運び込もうと上条が手を伸ばす。  
「ごめんなさい、でも上手く行きました」  
 アニェーゼの言葉は唐突だった。  
「へ? どういうことだアニェーゼ?」  
 上条の疑問符に、少しだけ罪悪感を滲ませながらアニェーゼが答えた。  
「彼女のグラスに、かなり深く眠っちまうように術式を刻んで貰ってきたんです――あ、でも、何も  
ないです、ほんと、ただ眠るだけ。危険はないです。普通に目覚めます、自分で。何時間かは揺すっ  
ても叩いても起きないってだけです」  
 アニェーゼの言葉に、驚きと少しだけ怒りを覚えつつ、上条はインデックスを抱え上げた。やはり  
軽い。いつも思うが、こんな軽くて小さな身体のどこにあれだけの食事が収まっていくのだろう。  
「まったく、なに考えてこんなこと…。まあ、何事も無いってんなら……」  
 上条はすっかり寝入ってしまったインデックスをベッドに寝かせると、アニェーゼに目線を送る。  
危害を加えたりする意思が無いのは判っていても、ちょっとやることが乱暴ではないか、と。  
「彼女には邪魔されたくねえんです」  
 目線を向けてみると、アニェーゼはなぜか上条にぴったりと寄り添うように立っていた。少し頬を  
染めているような気がする。  
 あまりの近さに驚いて、そのまま壁に後ずさった。が、アニェーゼもそこにぴったりと連いてくる。  
背中を壁に、前をアニェーゼに挟まれて動けなくなった。  
 アニェーゼが視線をまっすぐに上条の目へと向ける。  
 手を出そうとしてためらい、何度が手を上下させた後、上条のTシャツの裾をつまむようにつかん  
だ。視線を離さないまま口を開こうとして、やはり声が出ないのだろう、ぱくぱくと唇を開閉させた  
あと、かすれた声を絞り出す。  
「……彼女が、あなたを、どう、思っているか、それが……判るから、今だけは、邪魔、されたくな  
い……」  
「じゃ、邪魔って、取引成立だろ? インデックスも、上機嫌とはいえなくても納得してんだし、何  
の邪魔するって言うんだよ?」  
 いくら鈍感な上条でも、ここまでの経過に立った今の雰囲気を考えれば、本能が状況の変化を教え  
てくる。流されてしまえばどうなるか。何となく判ろうというものだ。  
 苦労して目線を逸らすと、何か夢でも見ているのかインデックスが口を不機嫌そうに尖らせて、む  
ー、と唸っている。  
「……とうま、だれ…その子?」  
 という寝言が聞こえてしまった。  
(どんな夢見てるのインデックスさん! 俺をいったいどんな風にっ! で、いまとてもピンチなの  
ですがっ!)  
 目を挙動不審気味に躍らせる上条に対し、アニェーゼがさらに詰め寄る。その目は、やはり真剣そ  
のものだ。  
「でも、やっぱり彼女があなたを想う気持ちは……これでも同じ女です、判るんです……。だから彼  
女が知らない時間が、私にも、欲しい」  
 反論しようと口を開けようとして、しかしアニェーゼの続ける言葉に上条の声は掻き消される。  
「私だって、何だって出来ることならしたい、でも、いつも一緒にいられるワケじゃない、あなたに  
は、彼女が……、でも、でも、私だってあなたに一つしかない命を助けて貰った、だから、なんでも  
差し出して、せめてもの感謝を――」  
 アニェーゼはそこでいったん言葉を切ると、上条の目を見つめた。やや考え込むような表情になり  
つつも、なぜか頬を赤く染めて俯く。しばらく下のほうに向けた目線を泳がせていたが、再び顔を上  
げて口を開いた。  
「そっ、それでですね、こっちとしてはっ……もう、なにか差し出してお礼にっても、もう何も無い  
んです、だ、だからッ」  
 口調に変に力が入ってきた。握った両手のこぶしが胸の前に上がってくる。見た目は微笑ましい、  
のだが。  
「いや、だからさ、俺としても何か見返りが欲しくてやったわけじゃないんだし、ほら、それにその  
前は、仕方なかったのかもしれないけど、お前のこと、殴っちまった。だからお礼とか、そんな大層  
にしてもらわなくっても……」  
 上条の台詞に、赤毛の少女は、今にも泣き出しそうに瞳の端へ涙を浮かべて反論する。  
 
「そんなのっ、違うんですッ! わ、私は――シスター・オルソラを上からの命令で始末しようとし  
たとき、その間違いを何も疑ったりしてなかった! でも、それが十字教のシスターとして、いかに  
矛盾を孕んでいるのか、それまでも、もっと汚いこともしてきて、でも、何も疑いもしなかった、そ  
の、歪んだままの心を、あなたは救ってくれた!  
 ……だ、だから、ヴェネツィアでは仲間のためなら死んじまっても構わないと……っ! でも、そ  
こにも、あなたは、それが私のためじゃなかったとしても、それでもそこに現れて、結果、今度は命  
を助けてくれた――あなたは、あなたがそう思ってやしなくとも、私の命と、心を救ってくれたんで  
すッ」  
 
 目尻に涙を浮かべながら、アニェーゼ=サンクティスが叫ぶように上条へと言葉を投げかけた。  
 その言葉には、かつてオルソラ寺院で敵として向かい合ったときのような、傲慢ながらも自暴自棄  
な雰囲気も、その後女王艦隊で再び出会ったときの自己犠牲を隠した冷たさも無い。  
 少女の本気に、上条は黙るしかなかった。  
 
「こうして救われた私の――命と、心は、とっくに、主のものであると同時に、あなたのものなんで  
す――。残ったのは、この、肉の体だけ…。だから、私は、それをあなたに差し出すことで、あなた  
から受けた救いに報いたい」  
 
 そこまで言って、上条の目を見つめ続けられなくなったのか、さらに顔を真っ赤に染めたアニェー  
ゼは俯いて上条の胸に体を預けた。  
 思っていたよりもずっと小さな体。インデックスとさして変わらないのではないだろうか。肩も、  
首も、腕も、脆さを覚えるほどに繊細だった。俯いていても、フードを外した少女のうなじや耳が赤  
く染まっているのが見える。  
 小さく震えながら漏れる吐息の熱さが、上条の胸に触れた。  
「あいやだからそういうことじゃあのその、あ、あ、アニェーゼさん? なんかとんでもないこと言  
わなかった? ああああのね、じょじょじょ冗談はよしこさん?」  
 思わず少女の肩に手を置きつつも、その言葉に思考が飛びそうになる。支離滅裂な、言葉にならな  
い言葉が漏れた。  
「あ、そうだ、おれ異教徒ですよというか無神論者ってわけじゃないけど信仰心とかないですよ少な  
くとも異教徒なのは間違いないかだからねあのねその、ね?」  
 舌が回らないのは、思考が追いつかないだけではないのだろうか。何杯も煽った深紅色のワインが、  
相当に酔いをもたらしているのかもしれない。そう思い至ると、ただでさえ混乱した頭が急にずきず  
きと痛み出した気もする。  
 
 しかし、そんな上条の事情にはお構いなしに、異教徒、という単語に反応して少女が顔を上げた。  
 その顔は、なにかとっておきの悪戯を思いついたような表情に変わっていた。  
「そう、そうなんですよ! あなた、異端ですらねえんです! 異教徒なんです! それに、私はロ  
ーマ正教だから、そういうこと自体、しちゃ駄目なんです」  
 その言葉と表情に、やっぱり冗談だったか、と上条は心の中で胸を撫で下ろす。ちょっとだけ残念  
なような気もするが、それは気のせいだ。気のせい。  
 わざと、少しとあきれたような表情を作ってアニェーゼに話しかける。  
「ほんとにまったく、シスターさんの冗談にしてはスパイス効きすぎっていうか、驚かせ――」  
「だから、あなたがガマンできなくなって私を襲っちまったらいいんです!」  
「ぶはっ!!!!!」  
 ガツンッ!!!!!!  
 ところが、上条の声を遮って返ってきたのは、想像の斜め上どころか、イスカンダルあたりまでも  
ぶっ飛んだ台詞だった。  
 その、あまりにもあまりな発言に、噴き出しつつ思わず頭がのけぞる。のけぞった勢いで後頭部を  
したたかに打ち付けてしまった。視界が真っ暗になり、同時に星が飛ぶ。打ち付けた後頭部を抑えて  
しゃがみこんだ。  
「い、痛つつ……つ、あ、あの、アニェーゼさん? なに、さらっと、と、とんでもないことを…の  
たまってますか? スパイス効いてるどころじゃ……」  
 座り込んでしまったまま痛みで立ち上がるのもままならないため、なんとか目線だけでも上げて話  
しかける。  
「だって、これ以上の解決法はねえでしょう?」  
「かかかかか、解決法ってアナタっ」  
 心配そうな表情になりながらも、アニェーゼの言うことはぶっ飛んだままだ。痛む頭を抱えて、状  
況を何とか整理しようと上条は記憶を巡らせた。  
 が、それを遮ってアニェーゼが囁く。  
「なんで、この修道服、着てきたと思います?」  
 思考を止められての質問だったが、改めてアニェーゼの姿を見直した。  
 女王艦隊で出会ったときの、鳥の羽を毟ったような露出度の高い修道服だ。そう言われてみれば、  
少女はローマ正教のシスターなのだから、オルソラ・アクィナスと同じ修道服を着ているのが当然な  
はずなのだが。  
 ちらちらと見える少女の素肌に、思わず顔が火照る。この火照りが、飲んだワインのせいだけでは  
ないこともよく判る。  
「…そうだな、なんでローマ式というか、本式のじゃないんだ?」  
 とりあえず言葉を絞り出す。このままごまかしてしまってうやむやに、という考えも上条の頭に浮  
かんできたのは事実だ。  
 が、その考えはとうにお見通しといった風情でアニェーゼが上条を見上げる。  
「一度……あなたに、脱がされちゃった…服…っすから。だから、この、修道服を…。前はいきなり  
で、無理矢理だったけど、今度は……ちゃんと脱がせてほしい……の」  
 言葉を紡ぐごとに赤くなるアニェーゼの頬だが、目は上条から離さない。最後は真っ赤になりなが  
らも、小悪魔のような表情でねだるような甘い声を囁いた。  
 
「……だめ?」  
 
「ダメに決まってるんだよ!」  
 アニェーゼの背後から叫ぶような声が聞こえた。驚いた赤毛の少女が振り返る。  
「なんで? 朝まで起きてくるはず、無いのに……」  
 赤毛の少女の驚く声に、ふと思い出す。  
「あ、そう言えば……グラス、右手で……」  
 ふたたびアニェーゼが上条の方を向いた。  
 失敗を悟ったと同時に、自らの『望み』もまた絶たれたのだと言う、悲しいのだろうか、悔しいの  
だろうか、上条には読み切れない表情がその顔に浮かぶ。  
「とうまは、とうまは―――」  
 その向こうから聞こえる声もまた、どこか悲痛だ。それはそうかもしれない。インデックスにとっ  
ても、上条との引き返せない関係は、嘘いつわりなく少女にとっての本懐だったのだ。  
 誰にも奪われたくない気持ちがあっても、それは当たり前のことなのかもしれない。  
 しかし、上条に迫っていたアニェーゼの瞳も、今、見せているその顔も、彼女の本気を隠すもので  
は無い。  
 アニェーゼの背後から聞こえるインデックスの声に、罪悪感のような、何かトゲのように引っかか  
る痛みを覚える。しかし、ただ上条に会うだけのためにイギリスからやって来たアニェーゼは、学園  
都市に『潜入』した、と言った。……と、言うことは―――  
 上条の知りうる情報だけでも、学園都市とイギリス清教(それとも、その内部の『必要悪の教会』  
と、だろうか?)が協力関係にあるらしいことくらいは見当が付く。  
 先だっての事件の後、ローマから離反してロンドンに身を投じたアニェーゼとその部隊のシスター  
たちは、もうすでに『必要悪の教会』の戦力の一部として組み込まれているだろう。それでいて、潜  
入と言う言葉が出てくるのだ。  
 間違いは、あるまい。  
 この少女は、ひょっとすると、裏切りかもしれないと言う疑いを受ける覚悟でここに現われたのだ。  
 スパイスがきいた冗談、などではない。端から本気なのだ。  
 残った一つも上条に差し出したい、というその言葉も。  
 
 インデックスを裏切るようなことはしたくない。しかし、アニェーゼの本気を無碍には出来ない。  
 
 ならば。  
 
「十字教のシスター様ともあろう者が、のこのこ現れてとんでもないこと言い出したんだ、これだっ  
て……神罰、ってやつだろうさ」  
 乱暴に言い放つと、上条はアニェーゼの肩を掴んで床に押し倒した。  
「言うとおりにしてやるよ」  
 そのまま、羽をむしられた鳥、という見た目の印象通りに隙間だらけの修道服に手を伸ばすと、右  
の拳に力を込めてそれを引き裂く。  
 あっけなく、意外なほどにあっけなく黒い布地はぶつ、びいいっ! と音を立てて破れ、赤毛の少  
女の小さな身体が露わになった。  
「「ひっ…・・・」」  
 単に驚いているのか、それとも本当に怯えているのか、上条の突然の行動に小さな悲鳴が上がる。  
声と同時に髪と肩が揺れ、むき出しにされた小さな乳房が震えた。  
 そして、その背後で同時に響いた、掠れるような声。上条が一体何をし出したのかと戸惑う、イン  
デックスの声だ。その声に怯む心をぐい、と押さえつける。  
 
 飲めない酒に酔わされたのだから。理性など吹き飛んでいるのだから。それ故に、自分の行動を正  
当化する必要さえないのだから。その証拠に、湧き上がる欲望はすでにこの少女を奪う準備を整えて  
いるではないか。  
 
 両手首を捕らえて、頭の上に押さえつける。これもまた、想像以上に細かった手首は簡単に上条の  
片手に収まり、床に押しつけられてしまった。  
 破られてただの黒いボロ布になってしまった修道服を無理矢理引きはがし、傍らに投げ捨てる。少  
女が身に纏っているのは、もはや小さなショーツと、首からぶら下がる十字架だけだ。  
「う、……ああ…」  
 アニェーゼが呻いた。心なしか、怯えた目をしているような気がする。心の奥に無理矢理押さえつ  
けた罪悪感が、そして、自分から少し離れたところで動けないでいるインデックスに対する後ろめた  
さと、アニェーゼの望みだから、と、胸の中の欲望を正当化しようとしている自分への嫌悪感が、ふ  
たたび上条の心をよぎって、  
 それでも無理矢理に手を動かして、修道女として純潔を守るべき場所を隠した小さな布きれをむし  
り取った。  
「やっ、あっ――」  
 秘所をうっすらと隠す赤毛が露わになり、アニェーゼは閉じた脚をさらに強く合わせて、小さく呻  
きながらそこを隠そうともがいた。  
 そうして呻く赤毛の少女に、上条は出来る限り酷薄そうな笑みを作って囁く。  
「誘ってきたのはそっちだろ? お望み通り、獣姦の目に遭わせてやるから」  
 少女の膝の裏に、空いた手を差し込んで持ち上げる。くるりと手首を返して持ち上げた脚の足首に  
手を掴み直して、ぐっと外側に足を開かせた。  
 羞恥に顔を真っ赤に染めたアニェーゼが、そうさせまいと脚を閉じようと抗い、上条はしかしそこ  
に身体を押し込んでその抵抗を阻む。  
「へえ、綺麗なピンク色、してんじゃん」  
 脚を広げられて露わになった、男を知らないアニェーゼの花びらを食い入るように見つめた。  
 羞恥に揺れる身体は赤く紅潮し、怯えるように花びらの襞がぴくりと震える。  
「……や、イヤあ……、み、見ねえで、下さい…」  
「ふうん。じゃあ、見るのは勘弁してやるからさ。代わりに、いきなりだけど、食わせて貰うから」  
 羞恥に震えるアニェーゼの声に、極力乱暴に聞こえるように声を絞り出して、上条はさらに深く少  
女の身体に覆い被さる。  
 足首から手を離した。離した手でジーンズのジッパーを下ろし、どこか罪悪感を感じながらも、そ  
れでもこの赤毛の少女の白い肌にガチガチに硬くなっていたその分身を引きずり出す。  
「野獣は前戯、するのか? まあ、いっか。獣以下でも。どうせ、俺が気持ちよくなりたいだけだも  
んな、獣以下な異教徒が」  
 引きずり出した分身を握って、少女の秘所にあてがう。インデックスのそこも、最初は本当に入る  
のかと思うほど狭かったが、この赤毛の少女もさして変わるものではない。体格もそう変わらないし、  
あてがったそこも同じように小さい。  
 そこに無理矢理突き入れれば、どれほどか苦しいだろうと思いが至りそうになり、それを振り払う。  
「行くぞ…っ」  
 うっすらと湿っていただけに過ぎない小さな隙間に、きつい抵抗を感じながら硬くなった分身を突  
き立てる。ぶちぶちぶちっ!と引き裂くような感触がその先端に伝わり、  
「いぎ…っ! うあああ、ひあ、ぎぃ、ひっ、」  
 全身を仰け反らせ、ガクガクと暴れるように震えながらアニェーゼが悲鳴を上げる。仰け反って震  
える小さな胸の上で、十字架がすべり落ちることなくふるふると揺れる。  
「ひう、ううあ、あぐう……」  
 正気の色を失いそうなほどに瞳を見開き、激痛にもがくアニェーゼの悲鳴をできうる限り無視して  
さらに突き進む。ごくかすかなこつん、という感触を伴って、上条はその一番奥へとたどり着いた。  
 純潔を引き裂かれた襞がぴくぴくと震え、その震えが突き刺さった上条の剛直へと伝わる。  
 奥までたどり着いたことで上条の動きが止まり、それで痛みが治まったわけではないが――少女の  
身体から少しだけ力が抜けた。  
「ひう、はあ、はあ、はあ……」  
 目を虚ろにして、精気のない喘ぎを繰りかえすその少女に、上条は吐き捨てるような口調を作って  
言い捨てる。  
「馬鹿なこと言い出したばっかりに、異教徒の、獣に奪われて、気分はどうだ?」  
 その言葉を――わざと大きな声で――アニェーゼだけではなく、背後で後ろを向く銀髪の少女にも  
聞こえるように言い放ったあと、上条は苦しそうに息を吐くアニェーゼの耳元に唇を寄せた。  
「許してくれとは言わない、でも――」  
 ささやく上条に、半ば目を虚ろにしながらもアニェーゼが声を絞り出した。  
 
「だめ、ですよ上条さん……、途中で、止めたら…。私が、自分で、望んだこと、っすのに…。彼女  
が、禁書目録の、彼女がいるのに、私の望み、叶えてくれるために、下手な、演技……」  
 アニェーゼは目の焦点を少しでも上条に合わせようとしながら、痛みに引きつる顔を少しでも微笑  
ませようとしながら、言葉を無理やりに紡ぐ。  
「私のため…って……、少しでも…、思うなら、最後まで」  
 そうしてから、くう、と小さく呻きながら息を継いで、アニェーゼは呟いた。  
「あなたに突き落とされるのならば――地獄だって構わない……」  
 
「……馬鹿野郎」  
 小さく呟き返す。インデックスも、誰も彼も、どうしてこんなにまっすぐな目をしているのだろう。  
悪いのは、やっぱり俺だけじゃん、と独りごちながら、上条はその罪悪感を無理矢理に欲望で覆い尽  
くした。  
 声にもならないほど小さな声で、動くぞ、と呟いて、奥に突き刺さったその分身を半ば引き抜く。  
引き裂かれてまとわりつく襞が引きずられ、ふたたびアニェーゼが苦悶の表情から悲鳴を漏らした。  
「きはっ……あぎい、うあああ……っあく」  
 少女の決意に、気持ちを割り切らせた。それが、上条の心情にどのような変化をもたらしたのだろ  
うか? 赤毛の少女がビクビクと身体を震わせながらも苦痛に耐える姿に、どこか言い様のない興奮  
を憶え始めた。  
 もしかすると、それはアニェーゼも同じなのかもしれない。苦悶の声を上げながらも、引き裂かれ  
て迸り出た破瓜の血に透き通った蜜が混じり初めて、上条が数度ストロークを繰り返すと、その赤い  
血よりも多くの蜜が零れて伝った。  
「ひあ、あ、ああ……っ、あふ、くは、は、か、かみじょ…う、さ、……ン……」  
 アニェーゼの声に、痛みを感じているのは間違いない、そのことは判るのに、艶と喘ぎが混ざり始  
める。  
「くは、はっ、はっ、ふああああああ、あうんっ……」  
 男には決して想像の付かない痛みを感じながら、それでも上条に貫かれた――上条に――というこ  
とが、アニェーゼの心に苦痛よりも大きな悦びを沸き立たせる。  
 うれしい。だいすき。  
 言葉にしようにも、それは苦痛が阻む。言葉では伝えられないが、それでも、巨大な何かが迫って  
くる。頭の中が真っ白になる。この、なにがどうとか言い表せない悦びが、意識を覆う。  
「お、俺も、もう……っ!」  
 本当に真っ白になりそうな瞬間、上条の声が聞こえて、同時に深く突き入れられて。  
「あっ、ああっ、あああーーーーーっ!」  
 アニェーゼは、本当に真っ白になった。  
 意識が飛ぶギリギリの瞬間に、上条の熱い欲望が自分の胸やお腹に飛び散るのを感じた。  
(獣、姦、だなんて…。……出来、すぎ…ですよ、かみじょう、さん……)  
 
                     −*−  
 
 いつの間にそこにいる……ではないな、無理矢理引きずり込んだんだから。と、上条は自分の胸の  
上に全裸の上半身を横たえたインデックスに視線を向けた。  
 上に乗せて、許しを請われても止めずに突き上げて果てさせた。繋がっていた部分を抜いた以外は  
そのときの体勢のままだ。  
 初めてなのに、結局はあの後も数度致してしまったアニェーゼはと言えば、上条の腕を枕にこれも  
またピッタリと寄り添っている。  
 上条の視線に気付いたインデックスが、ふう、と溜息を吐きながら呟いた。  
「……とうまがあんなこと言い出したあと、あそこまで徹底してするとは思わなかったかも…」  
 インデックスの言葉にきょとんとする上条を見て、傍らのアニェーゼが笑った。  
 さらにきょとんとする上条に、笑うアニェーゼが解説してくれる。  
「いや、その。……外に出されちゃったっすから」  
「へ?」  
 『行為は子をなすためのもの』がローマ正教の本来である。精を注ぎ込むのではなく、その外で散  
らしたのなら、それはローマ式にとっては冒涜以外の何者でもないのだが。  
 しかし、知識の元々中途半端な上条にはますます判らない。大量のはてなマークを浮かべるその様  
が可笑しくて堪らない、と言った風のアニェーゼが、インデックスの独占状態だった上条の胸にその  
身体を乗り上げる。  
「いや、別に判んなくってもいいんすよ」  
 頬を染めながら、上条を見下ろしてアニェーゼは言う。  
「言ったとおり、これで私は寸分残らず上条さんのモノっすから。私としては、結果オーライってこ  
とっす」  
 そう言って、アニェーゼは上条の頬を挟むように手を伸ばすと、すっと目を閉じて、唇を寄せてき  
た。近づく少女の唇に、少しどぎまぎしつつも為されるがままにしていた上条だったが、  
「……調子に乗り過ぎかも」  
 傍らから声と手が同時に伸びてきて、上条の顔を塞いだ。顔を覆う手のひらの、指の隙間から頬を  
ふくらませたインデックスの顔が見える。  
「もうちょっとくらい、貸しててくれても良いのに」  
 こっちはアニェーゼの声だ。ちぇー、とわざとらしい舌打ちをしながら、上条の身体の上から下り  
るのが判った。アニェーゼの肌の感触が離れてしまうと、ずっと上条の胸の上に乗りっぱなしだった  
く肌が――正確に言うと、押しつけられていた小さな乳房が――躙って昇ってくる感触がする。顔を  
塞ぐ手が離れると、アニェーゼに替わってインデックスが上条を見下ろしていた。  
 憮然とした、しかし、さっきまでの上条と同じように、作っている表情と判るインデックスが上条  
をじとっ、と睨む。  
「私の知らないところで、何してるのか判かんないんだよとうまは。本当は、あと何人、手、出した  
の?」  
「……あの……、インデックスさん?」  
 引きつった顔で上条が答える。それを見て、インデックスは表情から力を抜くと、呆れたような溜  
息を吐いた。  
 そうして上条の首を抱いて、やや強引に唇を合わせる。柔らかい唇の感触が離れると、その唇から  
は今度は声が漏れ出てくる。  
「とうまが危ない目に遭うのはイヤだけど。どうせ自分のため、って誤魔化すんだもんね、でも、そ  
れでいちいち女の子を引っかけてくるのは、もう、してこなくても良いんだよ、……ほんとに」  
 反対側でアニェーゼが吹き出した。  
「上条さんがどんなつもりかはともかく、受け身でも浮気が心配ならロンドンには連れて来ちゃダメ  
っすね、狙ってる人数、どれくらいいるか……。誘い受けには弱そうだし」  
 好き放題言われている、と上条は二人の少女に交互に視線を慌てて廻らせながら、言葉が付いてこ  
ないままに口だけをパクパクと動かす。少女たちが、それを見てふたたび笑った。  
 
 どうしてこんなに笑われてしまうのだろう。  
 流され気味なのは認めるけど、と上条も苦笑いを浮かべた。  
 
 

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