「分かったんだ」  
 上条は倒れたまま言った。美琴は何も答えない。ごしごし、と。その眼を擦っているだけだ。  
良かった。と美琴は心底思う。ぶっちゃけこの馬鹿が【不幸にも】地面に落ちていた、  
石と岩の中間点みたいな物体に三連続で頭をぶつけて気絶していたので心配していたが、  
どうやらこの馬鹿は無事なようだし・・・・――――無事?  
 ごしごし、と。ごしごしごしごしと、美琴は先程よりも強めにその眼を擦りあげる。  
 
そこにいたのは、その瞳を猫のように爛々と輝かせ、その頬をトマトジュースより赤く染め、  
その息をフルマラソン走った選手でもこれはねえよと言わんばかりに荒げた、上条当麻だった。  
 
御坂美琴は確信した。ああ、こいつのネジみたいなもの、吹っ飛んじゃったんだなぁ、と。  
 
「・・・『実験』を止める方法が、分かったんだよ」  
 ある種諦観じみた、悟りを開いた修行僧のような表情だった美琴の瞳が、驚愕の色に染まる。  
多少の憧れをもっていた男を【文字通り】壊してしまったんだなぁとか思っていた美琴にしてみれば、  
当麻のまともな発言はびっくりを通り越したどっきりの領域をもつきぬけて、驚愕の域に達していたのだ。  
・・・上条が三流悪役のような笑い声を上げだしたので、その驚愕も今ではびっくりとどっきりの中間ぐらいだが。  
「考えてみれば、簡単だったんじゃねーか」  
 
――この『実験』は全部が全部、『樹形図の設計者』とかいう人の心も理解できない。  
できたとしても、それに対して何も感じない『ガラクタ』が描いた『シナリオ』に、白衣のインポ野郎共が  
従っているだけ。というものなのだ――  
 
 美琴は、本当は正しい『シナリオ』を狂っていると思わせて、『実験』を中止に追い込もうと考えていた。  
 
だが。そんな簡単な方法で『実験』が中止になるのなら、話はいたって簡単だ。  
 
 
「・・・・、『樹形図の設計者』は当然、一方通行が独り身で、友達も彼氏もまだいないってことも計算にいれてるんだろうな」  
 
 
ハッタリ如きで『実験』が止められると言うならば。  
「――――だったら、話は簡単だ。研究者達にこう思わせれば良いのさ・・・別に思わせなくても構わないが。  
『学園都市最強』の『一方通行』サンも、『恋する乙女』の一人には変わらない。ってな」  
 そう、例えば『学園都市最強』を語っている一方通行が。  
 なんてことのない、只の『恋する乙女』になってしまったとしたら。  
 例え予測演算上では『学園都市最強』という結果がでていたとしても。そんな『恋する乙女』な一方通行をみた研究者達は、  
果たして一方通行を『最強』だと思い続けることができるだろうか?  
 機械の下した予測は間違いだったと。むしろ間違いであってくださいお願いしますと思わせることは、  
不可能な事だろうか??  
 
「・・・・」  
 
 美琴はまるで真っ白な灰になったように燃え尽きていた(上条視点)。  
 上条はそんな美琴を視界に写し、ああ感激のあまり声もでないんだなーとか勝手に思っていた。  
 
「さて・・・それじゃあ一丁、俺のハニー(予定)に会いにいくとするか。  
御坂、いまハニーはどこで妹さんと女王様ゴッコして俺抜きで悦に入ってんだ?教えてくれ」  
 
「・・・・」  
 上条のとても良い笑顔。だが美琴はまるで石像になったかのように動かない。  
上条は仕方なさげにため息を吐き、まだ感激してんのかー、  
こいつと映画見に行ったら映画館から出れないかもなー。などと見当違いの方向に思考を巡らせていた。  
「仕方ない・・・俺の愛のチカラでハニー捜しの旅に出るとするか」  
 上条はその頭に拳二つ分はあるたんこぶをのせながら、颯爽と走りながら夜の町に消えていった。  
 
「・・・・私が、悪かったの?」  
 
 一人その場で燃え尽きていた美琴の呟きが、夜の町に溶けて消えた。  
 
 
 
 
 
 
後日談。  
 
『実験』は中止され(何故か研究者がそろって実験を放棄したそうだが、詳細は不明。)  
学園都市には平和が戻っていた。だが、そこには新たなる『最強』が君臨していた。  
 
 
「アクセラー、お待たせー」  
「遅ェんだよこのバカ」  
「なんだよ、昨日外でした事、まだ怒ってんのか?」  
「バ、馬鹿ヤロゥ!お前こんなたくさん人がいる前で何を――ッ!」  
「ん?俺、『ナニ』を『した』かなんて一言もいってないけど?」  
「―――ッツ!!」  
 
 
 
詰まる所、『学園都市最強』の『バカップル』が。  
 
 
 
 
 
 
後日談IF。  
 
『最強』が君臨して2ヶ月程経ったあと、学園都市に新たなる都市伝説が追加された。  
この都市伝説はまたたくまに広まり、知らない奴の方が珍しくなったそうだ。  
   
 なんでも、『学園都市のどこかには雷を纏った鬼がいる』らしく、出会ったら最後。  
問答無用で雷の餌食にされ、『どうして消さないの?いつものあんたらしくない』と、  
風紀委員がかけつけてくれるまで雷で遊ばれるそうだ。  
 
 襲われた人はその鬼が『自分』ではない『誰か』を『自分』の姿に写しているようだったことから、  
その鬼の名を、『エア・サンダー』・・・空■べ・・・ゴフンゴフン、『空超電磁砲』と呼んだそうだ。  
 
 ちなみに襲われたのは皆比較的髪を立て気味な男子高校生だったりしたそうで。  
 
   
 
『・・・死んじゃえ』  
 
 
 
とある魔術の禁書目録【電撃の結末】  
 

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