「……本当に、そんな格好でいいのか?」  
「はい。覚悟が鈍ってしまう前に、できるだけ早くお願いします」  
 でもなぁ、という顔をしてしまう上条当麻。あの後二人がかりで服を剥かれ、遅ればせながら真夜中の空気  
に素肌をさらしていた。  
 上半身には度重なる戦闘によってついた傷跡(カエル顔の医者のおかげで僅かなものだが)が見受けられ、  
下半身にはベッドインした直後から大絶賛ハッスルモードであった逸物が露出している。  
 窒息寸前までいったことで一度なえかけてしまったが、今更なる興奮材料を目の当たりにして平常時の1.2  
倍は硬く太く漲っている。  
「うわ……ルチアさん、とてもえっちぃです」  
「う、うるさいですよアンジェレネ! 仕方ないではないですか、男性の、その、そのような――――を直視  
できるはずがないのですから」  
 ただ一人服を着たままのアンジェレネがぼそっと言った言葉に、消え入りそうな声で反論するルチア。  
 修道服のフードのみを残して素裸の彼女は今、ベッドの上で枕に顔を突っ伏し、お尻を高く上げるという扇  
情的極まりないポーズをしていた。ほどよく肉のついた臀部も、その奥のすぼまりも、さらにその下の秘部ま  
でばっちり丸見えである。  
 上条の股間を見れないがゆえの格好らしいのだが、それで自分が見られるのは平気なのかと思わざるをえな  
い。いや、実際平気ではないのだろう。緑がかった金髪の間から覗く耳は真っ赤だし、よく見れば肩なども小  
刻みに震えている。このまま放置しておけば数分で臨界に達するのは間違いないだろう。  
 それはそれで大変魅力的なのだが、いい加減上条のモノも限界だ。白い同居人の存在により、満足にガス抜  
きも行われていない男の象徴は、極上の馳走を前にしてよだれをたらさんばかりに聳え立っている。正直、よ  
くここまで頑張った! 感動した! と言ってやりたいくらいである。  
 幻想殺しの少年は熱でふらふらしながらルチアの後方に膝立ちになり、  
「それじゃあ、入れるぞ。……できるだけ、痛くならないようにしてみるからな」  
「私の体を案ずる必要などありません。ただ貴方の満足のためにこの身を使ってください」  
 馬鹿、と小さく叱り、熱くなった彼女の腰を左手でつかんだ。右手は自分のモノに沿える。  
 腕に力を込めて高さを調節。  
 先端を軽く押し当てる。  
「――ッ」  
 少女の息を飲む音が聞こえた。  
 一度達したのと、その後の緩やかな自慰により、女性器はたっぷりと潤っていた。しかしそれでもなお処女  
の秘裂は固い抵抗で男の侵入を拒む。  
 上条は両手で腰を掴みなおし、自分の側へ抱き寄せるようにして、一気に、力づくでその抵抗を突破する。  
 
 ――ぶちっ。  
 
「ぐ……はっ、くぅぅぅぅ……!」  
 
 輪ゴムを一袋まとめて引きちぎったような感触。  
 遅れて白いシーツに落ちた数個の赤い点。  
 破瓜の瞬間、ルチアは悲鳴を上げなかった。懸命に枕に噛み付いて叫びたいのを堪える。これまでの戦闘で  
経験してきたものとは別次元の痛みに何が何でも耐える。  
 なぜなら、受け入れて一番初めに言いたい言葉が彼女にはあったから。  
「…………ど、」  
 正直目も開けていられないほど痛い。  
 それでも、必死な想いでその苦痛を押さえ込み、  
「どう、ですか」  
 後ろにいる人へ。今まさに自分を貫いている人へ呼びかける。  
 私はちゃんと貴方のものになれていますか、と。そう尋ねたかったのに、痛覚信号に埋め尽くされた脳はそ  
んな断片的な一言しか許してくれなかった。  
 意味が伝わったかどうか、そもそもちゃんと彼の耳に届いたかどうかさえ分からない。ルチアは麻痺しきっ  
た時間感覚の中でひたすら答えを待った。  
 数秒。あるいは数分。もしくは刹那の間も置かず、幻聴のように暖かな声が鼓膜を揺らした。  
 
「――ああ。どうにかなりそうなくらい気持ちいいぞ、ルチア」  
 
 その瞬間だけ、ルチアは痛みを忘れた。  
 ただ女として想い人を喜ばせていることに至福を覚える。  
(本当に――)  
 思う。  
(この人で、良かった)  
 それから、蹂躙が始まった。  
 泣き言を言ったかもしれない。耳元で囁かれたかもしれない。胸を揉みしだかれたかもしれない。体位が変  
わったかどうかすら分からない。  
 ただ嬉しかった、という思い出のみが刻み込まれていく。  
 最後の瞬間。体の中心で熱く熱く熱いものが迸ったと同時、ルチアは性感ではなく幸福感のみで絶頂に達した。  
 
                    ◇   ◇  
 
 長い射精の後、抱きしめていた腕をほどくと、細い少女の体は電池が切れたようにぐったりとベッドに沈んだ。  
 ぬるっとした感触と共に吐き出された逸物には、赤と白の液体がみっちりこびりついている。  
「はあ……はあ……」  
 上条は荒い息を洩らしながら、伏した少女の顔を覗き込む。  
 深く瞳を閉ざし、気を失っているようではあったが、ルチアの表情はどこか満足げだった。  
(……つか、途中から自分でも訳わかんなくなってたからな。勢いで中に出しちまったけど……どうしよう。  
幻想殺しは効かないよな、やっぱ)  
 自分の性欲を御し切れなかったことを悔やむ。年上とはいえ処女相手に無茶をやりすぎた感は否めない。  
 挙句の果てに許可も取らずの中出しだ。十字教では堕胎は殺人と同罪になると聞いたことがある。  
 責任を取るのが怖いとかじゃない。  
 ただそれが理由でルチアが辛い目に合うのだけは嫌だった。  
 ――もしかしたら、それも言い訳に過ぎないのかもしれないけれど。  
 と、悩んだ顔をしているのに気づいたのだろう、放置気味だったアンジェレネが声を上げた。  
「あの、大丈夫だと思います」  
「え? アンジェレネ、お前分かるのか?」  
「はい。私は部屋も隣ですし、洗濯物の量とか、普段の体調とかで大体の周期は知ってます」  
 アンジェレネによれば、ルチアの月の周期は性格同様きっちりとしたもので、日数的には今夜はたぶん安全  
日らしい。  
「……でも、ルチアさんは危険日でも全然構わなかったと思いますよ」  
 付け加えられた一言に、上条はむずがゆいものを感じた。  
 これまで幸か不幸か多くの女性と知り合う機会があったものの、こんな気持ちになったのは初めてだ。  
 無制限の信頼が心地いい。  
 無限大の未来に不安になったりもする。  
 これが恋する、ということなのかと思ってみたりした。まあ問題なのは、この気持ちの対象が『二人』であ  
るという所なのだけど。  
 あまりに気恥ずかしくて、上条は誤魔化すように口を開く。  
「あー、その、あれだ。アンジェレネはどうなんだ? そのあたり」  
「わ、私ですか? えっと、……うーん……」  
 何故かもじもじと口ごもる修道服の少女。  
「……まさか、まずい日なのか?」  
「そうじゃ、なくてですね。……えーっと、……………………私、まだ、なんです」  
「…………は?」  
 思わず尋ね返してしまう(元)童貞。確認するまでもなく、その言葉の示す意味は明らかだろうに。  
 手や口による愛撫に反応していたから、見た目はともかく体の機能はちゃんと成長していると思っていたのだが。  
 改めて“そういうものとして”彼女を見直すと、プロの試合にいきなり放り込まれた素人のような頼りなさ  
を感じてしまう。  
 細い手足、薄い肉付き、そばかすの残った顔。  
 処女がどうとか以前に、そもそも無理があるのではないだろうか。  
 
「――あ、だからやめるとか、そういうのはナシですよ!?」  
 気配で上条の戸惑いを察したのか、アンジェレネは花火が弾けるような勢いですがりついてくる。よほどの  
不安を感じたらしく、目元が潤み始めていた。  
 上条は慌てて軽い体を受け止め、  
「アンジェレネ、でも、」  
「お願いです。私、私だけこのまま置いてきぼりなんて嫌です。してくれるって、言ってくれましたよね?   
それに――」  
 アンジェレネはちら、と真下に視線を落として言った。  
「お兄ちゃんの、このままじゃ辛そうです」  
「う……」  
 情けない声を上げてしまう上条当麻。  
 たった今ルチアの処女膜を突き破り、存分に蜜壷を抉って白濁液を吐き出したはずの逸物は、未だに最大硬  
度を保ったまま反りあがっていた。胸の内では情欲の炎もいまだ猛っており、とてもではないがこのままでは  
寝付けるはずがない。  
 話の流れで少しは縮んでくれていたのなら、まだ言い訳のしようもあったのだが。  
「じゃあ……頼んでいいか?」  
 これ以上拒むのは想いを遂げようとする女性に対して失礼だと感じ、上条から言い出す。小柄な少女はパァ  
ッと花が開くように表情を輝かせた。  
 大きくうなずくと、アンジェレネは自分の修道服をするすると脱いでいく。最後に下着というより肌着に近  
いブラを取り払うと、まっさらな幼い肢体が露になった。  
 起伏の乏しい体型(スタイル)。しかし精一杯の自己主張で差し出されたその体が男にとって魅力的でない  
はずがない。  
「……あ、フードは残した方がいいですよね」  
 なんてことを真顔で言われると、色々と立場がないのではあるけれど。  
 上条は白い肌に手を伸ばし、尋ねる。  
「アンジェレネは、どういうやり方がいい?」  
「……だっこ、してもらいながら、入れて欲しいです」  
 小さな声で、けれどしっかりと自分の望みを伝える少女。ならばそれに答えるのは男の心意気というものだ。  
 あぐらをかいて座り、その上に彼女を誘う。いわゆる対面座位の体勢だった。  
 和式便所にしゃがみこむようなポーズに、最初は戸惑い気味だったアンジェレネも、上条が背中に手を回す  
と落ち着いて身を委ねてくる。  
「あ――」  
 閉じた秘裂からたれた愛液が逸物を濡らした。受け入れ準備は万端らしい。  
 恥ずかしそうにうつむくアンジェレネの頭を撫でてやる。  
「それじゃ、下ろすぞ」  
「はい。あの、」  
 アンジェレネが顔を上げて言う。  
「もし私が泣いちゃっても、絶対途中で止めないでくださいね?」  
「……約束する」  
 答え、そして強く彼女の体を抱きしめた。  
 
 アンジェレネの腰が下っていく。性器同士が触れあい、そして肉のクレバスが押し広げられる。  
「ぐぅっ……!」  
 アンジェレネの顔が歪んだ。  
 痛い。痛いけど、本当に限界になるまでは泣かない、という意思が伝わってくる。  
 これ以上見ていると続けられなくなると思い、上条は彼女の顔を右手で引き寄せ自分の肩に置く。  
 時間をかけても痛みが長引くだけ。  
 最後の抵抗は、少女の体を下ろすのではなく、自分の腰を突き上げることで突破した。  
「――あ、」  
 一瞬の間。  
「ああああぁあああああぁあああああぁああああああああああっっっ!!」  
 鼓膜を突き破らんばかりの絶叫が耳元で破裂する。同時に上条の背中に鋭い痛みがいくつも走った。アンジ  
ェレネの爪が折れそうなくらいの力で突き刺さったのだ。  
 だがそんな痛みは気にもならない。今アンジェレネが受けているものにくらべれば、丸めて捨てられる程度だ。  
 それ以上に、ルチアの時に増して狭く、その上熱い膣の感触に溺れかけていた。  
 気を抜けばまたさっきのように暴走してしまうだろう。  
(せめて、ちょっとだけでも痛みを和らげてやらないと……)  
 でなければ、この行為はセックスではなく、ただの少女の体を使用したマスターベーションに成り下がって  
しまう。  
 上条は後頭部をズキズキと責める快楽に抗いつつ、左手をアンジェレネの胸に触れさせる。  
 そういえばアンジェレネの胸を責めるのはこれが初めてだな、と思いながら、盛り上がりのない乳房を撫で  
たり、つつましく自己主張している乳首をつまんだりしてみる。  
「……、くぅっ、ああっ、はっ、ふぁ、うう……やあっ!」  
 優しく撫でさすっていると、少しずつでも感じ始めたのか、時折熱い吐息をこぼすようになる。  
 完全に苦痛を忘れさせるには至らない。しかし、アンジェレネにとってはそれで十分だった。生まれた僅か  
な余裕で精一杯の表情を作って見せる。  
「お兄、ちゃん」  
「ああ。すげー気持ちいいぞ、アンジェレネの中」  
「よか、った。あの、出来れば、早く、終わって……」  
 愛撫を受けていても、本当につらいのだろう。彼女の双眸から涙がこぼれる。  
 やめてとは言われなかった以上、最初の約束通り、射精するまで続けるのが男としての務めだ。  
 アンジェレネの体を持ち上げ、未成熟な膣の締め付けと異常なまでの熱さを貪り、暴走しないでいられるギ  
リギリのスピードで出し入れを繰り返す。  
 内臓を抉られ悲痛に顔を歪める少女の姿に罪悪感と微かな征服感を覚えながら、ひたすらに原始の欲求を満  
たしていく。  
「……、……、あ、……、んぁ、……、」  
 もはや悲鳴を上げることもせず揺さぶられるままになった小柄な少女。  
 その体内、受精能力を持たない女器官の中心めがけ、上条は二度目とは思えないほど大量の精液を吐き出した。  
 
 
 性器を引き抜き、アンジェレネの体をベッドの上に横たえさせる。  
 気絶はしていないようだが、かなり意識は朦朧としていて、瞳の焦点が定まっていない。  
「あ……おにい、ちゃ……」  
 顔を上げようとするのを、おでこを撫でて抑える。  
「ありがとな。よかったよ」  
 それだけの言葉で、アンジェレネの顔は幸せそうにほころんだ。  
 辛い経験だったろうけど、辛いだけで終わらせることがなくて、本当によかったと思う。  
「――この、ケダモノ。こんな小さい子を思うまま犯しておいて、何がよかったよですか」  
 と、その時。  
 眠っていたはずのルチアが目を開けていた。アンジェレネと並ぶように横向きに寝ていた彼女は、視線だけ  
起こして上条を睨む。  
 少年は何故か小萌先生に悪さが見つかった時のような気分になって、  
「ああああ、ルチア、お前いつから」  
「アンジェレネが挿入された時のものすごい声で目が覚めました。幸いこの部屋は貴方を招くにあたって学園  
都市製の防音壁紙とやらを何重にも貼ってあるので、他の部屋の人間が起きてくるということはないでしょうけど」  
「何だってお客様を招く部屋を防音加工せねばならんのか私には見当もつかないのですがっ!?」  
「まあ……それはその……」  
 顔をまた赤くして口ごもる長身の少女。が、数秒もしない内に強引に話題を切り替えてくる。  
「……そんなことはどうでもいいでしょう。それよりも最優先なのは“それ”の処理ではありませんか?」  
「え? うわっ!?」  
 ルチアが指差した先には、二人分の破瓜の血と、二発分の精液で大変なことになっている逸物があった。  
 しかもあれだけの連続行為の後にも関わらず、それは萎えることもなく反り返ったまま。  
(なんという耐久力……)  
 流石に自分でも驚かざるをえない。  
 破瓜を経験したことで多少は慣れが生じたのか、ルチアは上半身を起こし、上条のモノをちらちらと視界に  
入れつつ、  
「そのままにはしておけないでしょう。 もう少し出さなければ辛いのではないですか?」  
「うーん……そりゃ正直な話あと一回くらいはいけそうだけど……今のルチア達にもう一度入れるのは、何だ  
か傷を広げそうで」  
「でしたら。……アンジェレネ、ほら起きなさい。もうひと頑張りできますね?」  
 何を思ったか、ルチアは傍らに丸太のように転がっている小柄な少女の肩を抱くと、んっ、と力を入れて持  
ち上げた。  
 四肢に力の入らないアンジェレネはされるがままであるが、長身の少女の意図は察したらしい。  
「ん……お願いします、ルチアさん」  
「ええ。よい……しょ、っと」  
 ルチアはアンジェレネの顔を胸に抱きとめると、そのまま後ろに倒れこんだ。  
 すると、二人の開かれた足の間がちょうど上条の方を向くことになる。  
 精液と愛液と血液にまみれた裂かれたばかりの女性器が、ぴったり重なり合っていた。  
 上条の『知識』は語る。  
「これって……貝合わせってやつか? ……てか何で知ってんだ」  
 
 上条は自分に対して問うたつもりだったのだが、少女達は勘違いしたらしく、慌てた様子で、  
「わ、私だって好きで覚えた訳ではありません。神裂火織宛てに届いた荷物の中に日本の少女漫画というもの  
があり、まあ修道女の生活には不要なものなので早急に処分するはずだったのですが、地面に落とした拍子に  
ページが開いて――」  
「本当は皆で回し読みしてたんです。ルチアさんなんかもうはまっちゃってはまっちゃって」  
「アンジェレネ! 貴女はいつもいつも私のやることなすことを台無しに――!」  
 最近の少女漫画は過激だっていうからなぁ、と上条は適当に考えながら、じたばたしている少女達に近づい  
ていく。  
 重なった肉裂の間に逸物を押し当てると、ルチアとアンジェレネは紅潮して硬直した。  
「うあ……あんなに出したのに、こんなに熱い」  
「……流石に膣ほど性交に適したものではないと思われますが、これならば私達の負担を気にせずできるかと」  
「ああ。それに二人同時に愛せるなんて、夢みたいだ」  
 とてもとても自然に出た台詞だったのだが、愛、という単語を聞いて二人の顔が三倍は赤くなる。  
「ずるいですーこんな時に。もう顔上げられませんよぉ」  
「不意打ちにもほどがありますっ。こ、このような辱めを……」  
 もう笑うしかなかった。  
 ぐぃっと腰を突き出し、組み合わさった肉の谷を貫く。  
「「ひゃあっ!?」」  
 突然の衝撃に背筋を反らす少女達。  
 貝合わせの感触は確かに膣ほどの締め付けは望めないが、十分すぎるほどの潤滑油と、表と裏を同時に擦る  
クリトリスの刺激もあってこれはこれで極上である。  
 何より、これまでほとんど痛みしか与えられなかった少女らをこうして逸物で喜ばせることが出来ているの  
がたまらなかった。  
「ふぁ、ふぁ、やあ、んああっ!」  
「んっ、く……は、いいっ!」  
 身悶える二人を上からまとめて抱きしめる。  
 大きさこそ違えど、同じ温もりを持った体が二つとも腕の中に納まってしまう。  
 儚く不思議な癖に幻想殺しで握りしめても消えない、世界でたった一つの――いや二つのものを見つけた気  
がした。  
「ルチア……アンジェレネ……!」  
「と、ううんっ、当麻……!」  
「ああ、ああっ、お、お兄ちゃん……ッ!」  
 すでに理性は飛び、本能でそれぞれの名を呼び合う。  
 狂ったように腰をすり合わせながら、少年と少女達はありったけの想いを確かめ合った。  
 
                    ◇   ◇  
 
 たとえ日本と九時間の誤差があろうが、地球の上なら一日に一度は必ず朝が来る。  
 カーテンの隙間から漏れる朝日が目に入った、というユニットバスの中ではありえない理由で目を覚ました  
ことにより、上条はここが遠いイギリスの必要悪の教会女子寮であることを思い出した。  
(うーん……なんか体が重いな……)  
 昨日のロンドン観光の疲れかな、と思ったが違った。起こそうとした上半身の上に、柔らかくて温かい重量  
が二つ乗っかっている。  
 色合いの違う金色の髪が並んで目に入った。  
「……ん……すぅ……」  
「ふぁ……はぅ……」  
 上条の胸板に寄りかかるようにして、ルチアとアンジェレネが眠っていた。  
 付け加えるなら三人とも、昨夜の“あの”行為のままの姿である。ルチアの手が手繰り寄せている毛布が申  
し訳程度に彼らの下半身を隠しているが、その下は様々な体液で大変なことになっているだろう。  
「…………、」  
 不思議なくらい動揺はなかった。  
 むしろ夢でなくてよかったと心から思う。  
 叶うならこの温もりを感じながら二度寝を始めたい所だったが――上条の身じろぎを感じたのだろう、二人  
の少女はほぼ同時にまぶたを開けた。  
「……、ん、朝、ですか?」  
「はふ……あとごふん……」  
 目をぱしぱしさせて寝ぼけている二人に、上条は、お早う、と告げた。  
 見上げる二対の瞳と目が合う。  
 アンジェレネが昨夜の情事を思い出し、ルチアが自分達の今の有様を把握して、そろって爆発的に赤くなる  
までにきっかり十秒。  
 
 何だかよく分からない絶叫と共に、上条はベッドの上から叩き落された。  
 
「ふごふっ!? な、なぜに。今さら裸くらいで恥ずかしがるような仲では」  
「テンションの差というものを考えてください! 目覚めていきなり裸で男性に抱きしめられていれば普通は  
蹴り飛ばしますッ!!」  
「ルチアさんルチアさん! それよりもシーツとか足とかどうにかしないと……ああフードをかぶったまま寝  
たから髪もめちゃくちゃになってますっ!?」  
 きゃーきゃーと騒ぎながらとりあえずシーツや毛布を体に巻きつけ、脱ぎ散らかしっぱなしだった下着と修  
道服を抱えて部屋を飛び出していく二人。行き先は多分大浴場だろう。  
「もし朝風呂とか浴びてる奴がいたら………………生きてここから出られないだろうな」  
 床に伸びたまま見送った彼女らの走り方は、一目でぎこちないと分かってしまうものだった。そこへ血やら  
何やらで汚れた全裸姿が加われば、何があったかは明白である。むしろ浴場までの道のりの方が危険かもしれない。  
 
 しかし、それは杞憂ですんだようだ。二十分後、上条が部屋に据え付けのタオルでのろのろと身を清めてい  
ると、ノックもせずにルチアとアンジェレネが帰ってきた。二人とも見た目だけは訪ねて来た時に戻っている。  
足運びはまだ多少危うかったけれど。  
 平静になりきれていない様子のルチアがまず頭を下げる。  
「……先ほどは失礼しました」  
「いや、いいって。やっぱり調子の乗っちまったのは俺だしさ」  
「ですが、」  
 まだ何か言いたげな長身の少女を制し、着替えを終えた上条は立ち上がる。  
「それよりも腹減らねーか? まだ早い時間っぽいけど、食堂に行けばなんかあるだろ。なんなら俺が作って  
もいいし」  
「客人にそんなことをさせる訳には」  
「はいはい! お兄ちゃんの料理食べたいです!」  
 アンジェレネー! という叫びを引き金に朝一番のほっぺた引っ張りバトルが開始された。その光景に騒々  
しさよりも愛しさを感じてしまうあたり、ああ末期だなと思う。  
 上条は笑いながら二人の背中を叩き、出発を促した。  
「じゃ、行こうぜ。ああそうだ、結局飲まなかったホットミルクのコップも持っていかないとな」  
「あの、その前に……」  
 身を捻った上条の袖をアンジェレネが引き止める。  
 見ればルチアも真剣なまなざしを送ってきている。  
「ん……何だ?」  
「今日という一日が始まって、完全にシスターに戻ってしまう前にやりたいことがあるんです。さっきジャン  
ケンして勝ったので、私から」  
「……あれは絶対後だしだったと思うのですが」  
 後ろで悔しそうに呟いているルチアを尻目にアンジェレネが上条の前に立つ。  
 発情とはまた違う色合いで染まった少女の顔がとても眩しく見える。  
「ちょっとだけしゃがんでもらえますか?」  
「あ、ああ。いいけど、これってもしかして――」  
 言いかけた言葉は唇ごと塞がれた。  
 腰をかがめた少年の首に、背伸びをした少女が腕を回し、  
 んっ、とかかとを上げて、口付けをした。  
「…………!」  
 視界いっぱいにそばかすの残った少女の顔がある。  
 時間にして数秒。触れ合っている面積も極小だというのに、昨夜の情交以上の感動が押し寄せる。  
 爪先立ちの、一生懸命なキス。  
 
「……えへ」  
 顔を離し、万感の想いで息をつくアンジェレネ。上条はしばし呆然としてしまう。が、  
「まだ終わっていませんよ」  
 ぐい、と上条の体を引き寄せ、次はルチアが顔を近づけてくる。  
 向かい合って立つと二人の背丈はほぼ同じなため、うるんだ瞳にまっすぐ見据えられてしまう。  
「ルチ――」  
「男なら黙って受け取りなさい」  
 両頬に手が添えられたかと思うと、一気に唇が押し付けられた。  
 アンジェレネと違い、情熱的な勢いがあり、しかし不器用なキス。  
「…………ふぅ」  
 口が離れると。やはりルチアも満足そうに息をつく。  
 連続で呼吸を止めなければならなかった上条は酸欠と同様であたふたしながら問う。  
「はっ、はあっ、い、いきなり、てか何で」  
 立ったまま人工呼吸をされたとかではない。正真正銘恋人同士がするような口付けをされたのだ。  
 二人の処女を奪っておきながら、根本的な部分では恋愛初心者の上条当麻は戸惑うばかりである。  
「したかったからです。他に理由が必要ですか?」  
「シスターに戻っちゃったら、簡単には出来ませんもんね」  
 対して、こういう時は女の方が強いのか、ルチアとアンジェレネは胸を張って堂々と言ってのけた。  
 
「「ちなみに二人ともファーストキスなので。あしからず」」  
 
 可愛らしく唇に指を当てたポーズでそんなことを言われてしまったら、もう赤くなるしかない。  
 というか、こんな調子だといつか「また修行をやり直すことにしました」と言って、昨日のように迫ってく  
るような気がしてきた。  
 そしてそれをかけらも嫌と感じていない自分がいる。  
(くぁー…………なんつーか)  
 上条当麻は実感せざるをえなかった。  
 他人のために走り続けられる自分の幸運(ラッキー)と、  
 誰かが傍にいることで感じられるこの幸福(ハッピー)との違いを。  
 
 
 さて、これからどのくらいのペースで二人のシスターが「一から修行をやり直す」ことになるのかは――  
 この物語を読んだ貴方の想像にお任せする。  
 
 
 
おまけ  
 
「そういえば、結局どうして俺の部屋でお茶会を始めたりしたんだ?」  
「「…………、」」  
「何故そろって気まずそうに目をそらす」  
「まあ、食堂についてしまえば分かるのですが……」  
「?」  
「昨日お兄ちゃんがお部屋に入った後、この女子寮の住人全員が食堂に集ったんです」  
「ふむ」  
「ちょっとした会議をするためでした」  
「ほう」  
「議題は『お兄ちゃんは誰の部屋に夜這いに来るか?』で」  
「――――――――コラ」  
「誰もが自分だ私だと言って譲らず、議論は白熱して収拾がつかなくなりました。そして誰かが『むしろこち  
らから夜這いをしかければいいんじゃないか』と言い出してしまい、抜け駆け許すまじと雪崩れ込むようにバ  
トルロイヤルに」  
「待て」  
「七天七刀と摩滅の声とゴーレムと蓮の杖であらかたのシスターが沈んだのち、シスター・オルソラが『お夜  
食でございますよー』と言って差し出してきたおにぎりが実は睡眠薬入り」  
「具が梅干だった時点で敬遠した私達だけが生き残りました。オルソラは自分でうっかり食べてしまいましたし」  
「……なるほど。ここで防音壁紙が効いてくるのか」  
「で、一応勝者は勝者なのでお兄ちゃんの部屋に行った訳です」  
「断っておきますが、その時は夜這いに行ったつもりはありませんでした。まあ折角邪魔が入ることもなくな  
ったのですし、一度腰を据えて話してみるのも、という心づもりだったのですが――」  
「そんな目で見るな。俺だって夜這いに来られたとは思わなかったぞ」  
「でも……食べられちゃいましたよね? 私達」  
「食べ散らかされてしまいましたよね、私達」  
「だー! だからそういう言い方を――ん? ちょっと待て。もしかして食堂に行けば分かるってのは、」  
「「ぶっちゃけ後片付けとかしてませんから」」  
「うわー!! ってことはこれから行く先にあるのは修道女の屍の山!?」  
「心配いりません。峰打ちです」  
「さっき並べられた凶器の中にそれが出来そうなのほとんどないんですけど!?」  
「たぶん、そろそろ皆起き出しているんじゃないでしょうか」  
「そこへ股の間に物が挟まったような歩き方をする女が二人、一人の男性に寄りかかってやってくる訳ですね」  
「何でそんな楽しそうなのお前ら! こら両サイドから腕を取るな逃げられねぇだろ!」  
「逃げちゃダメですよ、お兄ちゃん」  
「責任を取る必要はないと言いましたが、ヤリ逃げしていいとは言っていませんし」  
「その柔軟な思考回路が今は憎いッ!!」  
「「『不幸』、ですか?」」  
「………………んな、……………………く………………………………そう、でも……ないです」  
 
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