イギリス清教女子寮に夜が訪れた。  
 現在この建物の中にいる唯一のXY染色体持ち(じゅんせいだんし)上条当麻も乱入者だらけの入浴タイムを終え、与えられた部屋で就寝しようとしていた。  
 しかし日本と英国の時差はおよそ九時間。眠気のピークはとうに過ぎていて、日中元気な修道女達にあちこち引き回された疲れは残っているのにどうにも寝付けないというしんどい状態に陥っていた。  
 明かりを落とした部屋の中、ふかふかベッドの上で何度もゴロゴロ寝返りを打つ。  
(う、うだー。授業中ならいくらでも寝れるってのに……かと言って、誰かの部屋に遊びに行くってのも、なあ)  
 ここは女子寮。両隣だけでなく斜め縦横まで『女の子の部屋』で埋め尽くされた神秘の建造物だ。  
 うかつに廊下を歩くだけでも痴漢気分を味わえるという、世の男子諸君にとっての天国兼地獄。  
 不幸体質を自認する上条当麻にとっては、死亡フラグ満載を通り越して確変フィーバー状態である。  
 と、その時。  
 コンコン、と廊下に通じるドアがノックされた。  
「……?」  
 上条はベッドから身を起こす。  
 聞き間違いでは、ない。  
(誰だ?)  
 この女子寮にいる人間の顔を順に思い浮かべていき、その中でこんな時間に部屋を訪ねてきそうな相手がいるかどうか考える。  
 真っ先に頭に浮かんだのは――――  
 
1.インデックスかもしれない。  
2.神裂かもしれない。  
3.オルソラかも。  
4.アニェーゼ、か?  
5.アンジェレネと……ルチア?  
6.まさか……シェリー?  
7.なんだ土御門か。  
 
 
 
 
 
 
→5.アンジェレネと……ルチア?  
 
 真っ先に頭に浮かんだのは、何故か元ローマ正教の修道女コンビだった。  
「……何でだ?」  
 自分で自分に首をかしげながらも、とりあえず上条は枕元に置いてあるリモコンを手に取り、部屋の明かりをつけた(魔術サイドの建築物であるはずなのに、ここには何故かそこかしこに学園都市製の電化製品が置いてある。あまり使われた様子のない物も多かったが)。  
 ベッドから降り、ドアの方へ向かう。素足がひんやりとしたフローリングを踏む感触で、眠気は一層削り取られてしまった。  
 ドアノブに手をかけてから、ふとシスター達による寝起きドッキリの可能性が頭をよぎったが、それでも眠れないままゴロゴロするよりかはいいやーとふらふらした頭で地雷原へのダイブを決める。警戒ゼロでドアを開けると、そこには、  
 
「――あ」  
「――ん?」  
「お、お休み中でしたか?」  
 
 俺って予知能力でも持ってたかしら、と一瞬本気で考えてしまう。  
 黄色に近い金髪を幾本もの三つ編みにまとめている小柄なシスター、アンジェレネがそこにいた。背中を丸めていることが多いため、インデックスなどよりももっと小さく見える。夜更かし中なのか、彼女は昼間見た修道服のままだった。  
 半分当ってしまった予想に驚いていると、黄シスターが不安そうな眼でこちらを見上げているのに気づいた。少し考えて、上条をノックで起こしてしまったのではないかと心配しているのだと察する。  
「いや、なかなか寝付けなくてさ。どうしようかと思ってたとこ」  
「あ、そうだと思いました。あの、ホットミルク作ってきたんですけど、よかったらいかがですか?」  
 そう言って差し出された彼女の手は丸いお盆を持っていて、その上には湯気を上げる白い液体が満ちたコップが一つ、二つ、三つ。  
「……お心遣いはとても嬉しいのですが。流石にこの時間に牛乳三杯はまずいかな、と」  
「い、いえ! 一つは私の分で」  
 じゃあ俺に二杯? と思った上条の視界に、ちらりと新しい人影が映りこむ。  
 不幸少年と同じくらいの身長で、緑がかった白髪に猫みたいな目。規律に厳しい委員長シスター、ルチアである。アンジェレネと同じく、彼女も修道服のままだった。  
 結局上条の予想は完全に当ってしまったことになる。  
「……こんばんわ」  
「こ、こんばんわ」  
 潔癖症ゆえかちょっと強張った声で挨拶され、慌ててこちらも言葉を返す。と、ここでルチアがティッシュ箱くらいの大きさの紙箱を抱えていることに気づいた。  
 表面に書かれている英語は廊下の薄暗さもあって読み取れなかったが、色合いやイラストからしてクッキーか何かだろう。  
 ようやく合点がいった。  
 二人はこれからお茶会でも始めるのだろう。自分達の分のお菓子と飲み物を用意した“ついで”に、上条の分も作ってくれたに違いない。同居人の白シスターにはない優しい心遣いにほろりとなった。  
「ありがとう二人とも。コップは朝になったら洗って返させていただきます。それじゃ、お休み」  
 お盆からコップを一つ持ち上げようと手を伸ばす。  
 しかし、その手は空振った。  
 何故なら、アンジェレネが小柄な体を上条と壁の間に滑り込ませるようにして部屋の中に侵入したからである。  
「お邪魔しまーす」  
「へ?」  
「失礼します」  
 追い討ちをかけるようにルチアまでもが中に入る。元々ここも女子寮の一室として使われていたためか、勝手知ったるといった感じで二人はテーブルなり椅子なりを並べ始めた。  
 一人ドアの前に残された上条は目を白黒させて、  
「ちょ、ま、待てって。何のつもりなんだお前ら」  
 何って、と少女達は顔を見合わせてから、口をそろえて言った。  
 
「「お茶会、ですよ」」  
 
 思考硬直きっかり十秒。上条は訳が分からない。  
「何故に、なにゆえに俺の部屋でお茶会を始めようとしているのですかあなた達は。自分の部屋は!?」  
「ゴキブリが出た、とこの子が喚くもので。とてもこの部屋では寝られないと騒ぎ出したので、適当に睡眠薬入りのミルクでも飲ませて落としてから寝床に放り込もうかと」  
「それ本人の前で言っちゃっていいの!? つかそれでも“ここ”でやる理由になってないし!」  
「まあまあ上条さん。今のはシスター・ルチア流のジョークなんですよ」  
「へーそーなんだー……………………どっからどこまでが!?」  
「あまり夜中に大声を出すと周りに迷惑ですよ。つべこべ言わずに一杯付き合いなさい」  
「それシスターさんの台詞じゃないよね!? 強引暴食までは納得できるけど暴飲は許容できませんよ俺!」  
 三分後。女性相手に口で勝った試しのない男は、連敗記録を一つ更新する。  
 
                    ◇   ◇  
 
「――――それで、今度はシスター・カテリナがスコーンに乗せて食べてみたんですけど、やっぱり美味しくなかったみたいなんですよ」  
「当たり前だと言わせてもらう。つか何で素直に米で食わねえの?」  
「それはシスター・アニェーゼのせいですね。彼女がスパゲティに入れ始めたのがそもそもの発端なので、他の食べ物にも合うのではないかと皆が考えたのです。結果は大体自爆でしたが」  
「へー……あれ、『皆』ってことは、ルチアも何かで試したのか?」  
「べ、別に私はそのような享楽に興味はありませんから。修道女として、食べ物は作ってくれた方のことを祈って大事にいただけばそれでいいのです」  
「あーシスター・ルチアはですねぇ、カレーライスと一緒に食べたんですけど、酸っぱい様な辛いような微妙な顔れふぇふぇ!? ふぁにふるんふぇふふぁあ!」  
「シスター・アンジェレネ! 貴女はいつもいつもそうやって余計なことをペラペラと……!」  
「俺としちゃ炒飯に刻んでいれるのが好みなんだが……ってか何でそんなにチャレンジ精神旺盛なんだここの連中は」  
 唐突に始まった真夜中のお茶会。お茶じゃなくてミルクだろというツッコミをクッキーと一緒に飲み下すと、思いのほか楽しく話が弾んでいた。  
 アンジェレネは次から次へとこの女子寮で起こった出来事を上条に話してくる。身振り手振りも交えて、楽しかったことも困ったことも同じくらいハイテンションで説明する姿は、  
何とはなしに夕食時に学校であったことを家族に報告したがる小学生を連想させたが、そこは黙っておくのが上条流の思いやりだ。  
 その話に間違いがあったり補足が必要な点があったりすると、すかさずルチアがサポートに入る。勤めてクールに振舞おうとしているのは見てれば分かるのだが、五分に一回はアンジェレネの頬をつねって強引に黙らせようとしているあたり、  
常日頃から爪が甘いのだろうとは容易に想像がついた。そこも黙っておくのが上条流の思いやりPART2。  
 ただ、こうしてちゃんと向かい合って話すのはこれが初めてだけど、二人がとても仲が良いのだということははっきりと伝わってきた。  
「……む、ミルクが切れてしまいましたね。キッチンに行って、おかわりを注いできましょうか」  
「お、サンキュ。手伝うか?」  
「いえ、この時間に、大人数で廊下を歩き回るのは近所迷惑でしょう。申し訳ありませんが、少しの間シスター・アンジェレネの相手をお願いします」  
「あー、ひどいです」  
 ぷーと頬を膨らませる黄シスターを尻目に、くすくす笑いながら緑シスターは部屋を出ていった。  
 テーブルを挟んで二人きりになる。ぱたぱたと足を揺らして不満を表現するアンジェレネに、上条も思わず吹き出しかける。  
 アンジェレネは少しむっとした様子で、  
「うわー、上条さんまで」  
「はは、悪ぃ悪ぃ。ていうかさ、別に『当麻』でいいぞ。あんまりかしこまった呼び方だと肩凝るだろ?」  
「いいん、ですか?」  
「もちろん。何なら『お兄ちゃん』でもいいぜ?」  
 って、これじゃシスコン軍曹(つちみかど)と同類じゃねぇかと自省。『女の子達とのお茶会』という状況に、少し浮かれているのかもしれない。面識の浅い相手だが、だからこそ新鮮さがあるというか、居心地の悪くない緊張とでも言おうか。  
 とにかく、上条当麻は上機嫌だった。  
 
「………………………………………………へ?」  
 
 だから、目の前の少女の表情が変わっていることに気づくのが遅れた。  
 
「……して……」  
 いつからかは分からない。何がきっかけかも分からない。  
 けれどアンジェレネの姿からは、元気と呼べるものがすっぽり抜け落ちていた。   
 肩を落とし、背中を縮め、萎れた花のように首を垂れている。  
「どうして……そんなこと、言えるんですか……」  
「そんなこと……?」  
 少年の声は聞こえていなかった。ただ罰に怯える子供のように身を小さくして、言い訳とも謝罪ともとれる言葉を呟き続ける。  
「私は、私達は、あなたの敵だったのに。シスター・オルソラにも酷いことをしたのに。私、覚えてます。右手です。右手で拳を作ってシスター・オルソラのお腹を殴りました。右足も使いました。肩を踏みました。痛かったと思います。自分がされたら嫌だなって思った。  
なのに、この人は罪人だからいいんだって、当然なんだって、でもその人は今、私に美味しいご飯を作ってくれて、相談にも乗ってくれて」  
 それは懺悔に似ていた。  
 似ていただけで、決して懺悔ではなかった。  
 告白しても許してもらえないほど罪が重いからではない。  
「なんで、シスター・オルソラも、上条さんも、私達を恨んだり、罰を与えようとしたり、しないんですか。恨まれたくなんてないです。でも、喜べないです。“あなた達の方が正しかったのに、何で間違ってた私達を受け入れられるんですか”」  
 そもそも“罪だとすら認めてもらえていない”。  
 上条当麻もオルソラ=アクィナスも、許す許さない以前なのだ。忘れてはいない癖に、かけらほども憎しみを抱いてはいない。一般的な道徳観から見ても排除すべき相手だというのに、席を同じくするのに些かの抵抗もない。  
 何故自分は彼らから罰せられないのか。  
 アンジェレネは、そんな思いをずっとずっと心の奥底深くに溜め込んでいた。女子寮で暮らしている間、日々の楽しさに満たされながらも。受け流すことの出来ない未熟な子供の心で。  
 今夜それが噴出してしまったのは、楽しかった時間をふと振り返ってしまったから。思い出を語る中で、暗い気持ちを抱えていた時間をも短時間で再生(リプレイ)してしまったから。  
 どうにも出来ない思いを抱えて生きていくのは、つらい。  
 だから罰を受けたい。受ければ楽になれる。  
 でも、『楽になりたいから受ける罰』は果たして罰になるのだろうか。  
 自分が楽になりたいからという理由で、『罰を受けさせる』という重荷を他人に背負わせるのか。  
 自分のことを恨んでもいない人に。  
 
「なんで、そんなに皆優しいんですか。変ですよ。変です。絶対、変です……」  
 小さな拳を膝の上で握って、幼いシスターは呟きを重ねる。意味を無くし、言葉ですらなくなっても。  
 その拳をかつての敵に、今の隣人にぶつけたのだと彼女は言う。  
「…………、」  
 上条はアンジェレネの言ったことを頭の中で反芻する。アンジェレネのしたことを頭の中で回想する。  
 天草式との戦闘。スィーツパークでは上条自身アンジェレネとルチアと戦った。連れ去られぼろ雑巾のようにされたオルソラ。アニェーゼが倒され、任務失敗の責として『アドリア海の女王』に送られた彼女達。  
そこから二度も脱走し、今度はアニェーゼを助けるために天草式と上条達と力を合わせて戦った。  
 ちゃんと反省して、償いに値するだけの働きはしたじゃないかと言ってやるのは簡単だ。でもそれはきっと相応しい答えじゃない。  
 今アンジェレネに必要な言葉は。今この夜でなければ言えない言葉があるはずだ。  
 結論は、あっさりと出た。  
「……なあ。オルソラってさ。色んな国を巡って、それでローマ正教の信者を増やす仕事をしていたんだよな」  
「…………、」  
 返事はなかったが、聞いていないわけではないらしいことは体の動きから何となく分かった。だから続ける。  
「だったらさ、あいつは“自分と違う考え方を持った相手”と常に向き合って生きてたってことだよな。それでその人に“自分と同じものを信じてもらえるよう”一生懸命に努力したはずだ。  
そうやって信者になってくれた相手に対してさ、『ところで貴方以前は異教徒でありましたよね?』なんて言ったと思うか?」  
「…………、」  
「そんなことを言う人間の言葉なんて、誰の心にも届かないと思う。過ぎたことは忘れるってんじゃない。ただ、蒸し返して憎み合うよりも、協力して未来を作る方が大切だって、オルソラはそう考えてるんじゃないかって俺は思うけどな」  
 オルソラ=アクィナスという少女は、そういう人間だ。  
 だから作る料理もあんなに美味しいのだ――と思ったことは、流石に雰囲気にそぐわないので黙っておく。  
「……じゃあ、」  
 アンジェレネが顔を上げた。  
「上条さんも、そうなんですか?」  
「いや」  
 即答。  
 少女の瞳が暗く翳る。  
 それを制すように、少年は続けた。  
「俺にはオルソラみたいな考え方は出来ない。あいつみたいな生き方をしてきた訳じゃないからな。路地裏で喧嘩してる連中に対して、自分の考えが百%伝わる訳はないって思ってる」  
 でも、  
「もし路地裏で倒れている奴がいたら、俺は絶対に助ける。助けられるかはともかくとしても、きっと逃げ出したりはしないって“その時の”自分を信じてる。  
そりゃ命は大事だ。金欠からは脱出したいし、テストでいい点取りたいし、女の子にだってもてたい。見も知らない相手のために地獄へ道連れなんてまっぴらだ。――けど、」  
 それでも、  
 
「地獄の底までついていくのが嫌なら、地獄の底から引き上げてやればいい」  
 
 それは忘れたはずの言葉。  
 たとえ忘れても消えなかった、『上条当麻の最初の決意』。  
「…………それで全部終わって、問題が解決したならさ。“全員”笑顔で帰るって決めてるんだ。それだけ。恨みとか憎しみとか、一回も持たなかったって言ったら嘘になるだろうけど、それが目的で戦ったことなんてない」  
 右の拳を握り締める理由。  
 それは呆れるくらい簡単で、愚かなほどに眩しくて、見失うほど間近にあった。  
「だから、えーと、アンジェレネやルチアも笑ってくれてると、俺としちゃミッションコンプリート! って感じで嬉しい……んだけど…………すまん、何か、上手くまとめられなかった」  
 上条が謝ると、小さなシスターは激しく首を横に振る。  
「いいえ、んと、その――」  
 そして、前髪で目が隠れるくらいに下を向き――気のせいか、頬に赤みが刺しているように見える――、小鳥が囀るような声で、  
「嬉しかった、です」  
「そっ、か」   
「何が『そっ、か』ですか。長々と恥ずかしい台詞をよくもまぁ」  
 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――と、  
 唐突に入り込んできた声に上条とアンジェレネが光速で首を回すと、いつの間にかドアが開きルチアが戻ってきていた。手にしたお盆にはコップが三つ、ちゃんと乗っている。  
 上条は目をぱちくりさせて、  
「ル、ルチア? なんか早くない? ホットミルク作ってきたんじゃ」  
「作りすぎたのを魔法瓶に移しておいたので、それを注いできただけです。……それでも冷めないよう急いで戻ってきてみれば、二人とも私に気づきもせず真面目そうに語り合ったりして。ミルクよりも先に私の心が冷め切ってしまいましたよ」  
 座布団一枚! とか言ったら耳元で車輪爆破食らうのは確実そうだったので自粛する。  
 ルチアはつかつかとテーブルに近づいてきて、その上にお盆を置いた。そして傍の椅子に座る黄シスターの方を向く。  
 アンジェレネは困っているのか恥ずかしがっているのか判断のつかない顔で、  
「シスター・ルチア、あの、その、これはですね、」  
「あなたもあなたです、シスター・アンジェレネ。悩み事があるならさっさと相談しなさい。何人修道女が住んでいると思っているんですか、ここには」  
「う……でも、一応私も修道女なので、自分の悩みくらいは自分で解決しないとって、」  
「それが出来ない半人前の癖に強がるんじゃありません。いっそ一から修行をやり直すべきだと思いますよ、明日からでも」  
「お、おい。何もそこまで言わなくても」  
 流石に聞きとがめて上条が口を挟む。けれど、ルチアは憂いを含んだ表情で少年に振り返り、  
「……でも、私も同じですね。彼女の苦しみに気づいてあげられなかった。反省すべきことが多くあります。上条当麻、あなたと今日、このように話す機会を持てたこと、本当によかったと思います」  
 感謝します、と言って、ルチアは深々と頭を下げた。はにかんだような笑みを、素直に魅力的だと思う。  
「そ、そうか」  
 背中にむずがゆいものを感じながらも、上条当麻はそれを受け入れた。  
 
                    ◇   ◇  
 
「――違いますよ、シスター・ルチア」  
 と、その時、アンジェレネが声を上げた。緑シスターは首を傾げる。  
「何がですか? シスター・アンジェレネ」  
 黄シスターは当然のことのように、  
 
「『上条当麻』じゃないです。自分を呼ぶなら『お兄ちゃん』って呼んでくれってさっき言ってました」  
 
 ふごっ!? と上条が顔面の穴という穴から空気を噴き出す。  
 ルチアはギギギと錆び付いたブリキロボみたいな動きで首を回転させ、何やら驚異的な物を見る目で上条を見ると、  
「あなたという人は……見直した直後にこれですか」  
「いや、まあ言ったけど、言ったけどもそれは『上条さん』という呼び方が堅苦しく感じたが故の発言であって、断じてそれを強要しようなどとは……!」  
「……駄目なんですか? 『お兄ちゃん』」  
「ぐおおぉっ!? 悪意ゼロのイノセンスな呼びかけが今はキツイ!」  
 輝く瞳と見下す瞳に同時に見つめられ、身悶える青少年。……アンジェレネに呼びかけられた時、心の片隅に芽生え始めた微かな『ヨロコビ』を幻想殺しの名にかけて叩き潰す。  
 ルチアは、はぁ、とわざとらしく溜息を一つつくと、持ってきたホットミルクを各人の前に並べ始める。  
「とにかく、冷めない内に飲んでください。――今夜は冷え込むという話ですので」  
「怖いですそれ。もうかなり。……あ、自分で取るよ」    
 緑シスターの手を経由するだけで温度が下がりそうな気がした――訳ではないが、この状況で給仕をさせるのが申し訳なくなり、上条はお盆の上に残ったコップに手を伸ばす。  
 だがルチアもせっかく自分が持ってきたのだから最後までやりたいらしく、慌てて手を動かし、  
「いえ、私がやりますから――――あ」  
「――――わ」  
 
 運命の悪戯と呼ぶにはあまりに陳腐。  
 ベタな展開ではあるのだけど。  
 少年と少女は、手と手を触れ合わせたまま固まった。  
 
 残されたもう一人の少女が、少し羨ましそうな表情で彼らを見ていることに気づいた者はいない。  
「……うわわわっ!? ごめん!?」  
「……ミルクがこぼれます。暴れないでください」  
 慌てて離れようとする少年の手を逆に押さえ込み、その掌ごとコップをつかんで、ルチアはコップを運んだ。  
 ことり、と底がテーブルに落ち着く音がして、ようやく指から力を抜く。  
 ふと、違和感。  
 上条は開放された掌をしぱしぱと開閉しながら見つめる。  
「どうしましたか?」  
「ああ、その……」  
 思い浮かんだのは、『法の書』事件の時。思わずルチアの肩を掴んでしまったことがあった。  
 あの時彼女は目の色を変え、激しい感情をあらわにして上条達に襲い掛かってきた。彼の手を『異教の者の爛れた手』と称し、掴まれた箇所を洗剤で洗い流したいとまで言い放ったのである。  
 なのに今は、彼女の方から力をこめて握り締めてきた。  
 心境の変化、で片付けてよいのだろうか。もうローマ正教ではないとはいえ、切り替えが早過ぎはしないだろうか。  
 しかしそれを言ったら、そもそもそこまで嫌っている相手とお茶会しようなどとは思わないはずで。  
 面と向かって尋ねられることではないが、彼の表情から、ルチアは大体のことを察したらしい。  
「……失礼ですね」  
「う、ごめん」  
「まったくもって不愉快です。今の私に、“あなたに触れられて困る場所があるとでも思っているのですか”?」  
「…………は?」  
 何だろう。とても理解しにくいことを言われた気がする。  
 というか、それを額面通り受け取ったとしたならば、  
 ………………………………………………………………………………………………、え?  
「何を想像しているのかはよく分かりませんが……それを実現しても何の問題もない、ということですよ?」  
「ええっ!? じゃ、じゃあ電撃(じょうしき)の枠を飛び越えて二次元ドリーム(みちのせかい)に飛び込むようなことでも!?」  
「例えは理解できませんが、その通りだと思います」  
「…………、」  
「ああ、もう。ムードもへったくれもありませんが、そこまで仰るのでしたら始めましょう」  
 
 
 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――、待て。  
 上条は暴走しかけた思考に待ったをかける。  
 違う。この展開はおかしい。上条当麻の人生においては、これはとてつもない『オチ』へのフラグでなければいけないはずだ。こんなことは起こるはずがない。  
何故はなく、そういうものだと半ば諦めて生きてきたはずだ。生真面目な返答がかえってドッキリの可能性を臭わせる。そうだきっとそういうオチだ。  
今頃ドアの向こうではインデックスとか神裂とかが歯や日本刀を煌かせて今か今かとターゲットが堕ちるのを待っているに違いない。  
 なのにどういうことだろう。不機嫌だったはずのルチアの顔がほのかにピンクに染まり、静々とベッドの方へ向かおうとしている。  
そして上条の隣では同じく顔を赤らめたアンジェレネが下を向きながらもしっかりと彼の袖を握っていた。  
「――待った、待ってくれ。一つだけ確認させてくれ。このままだと自分が何するか分からない」  
 頭を抱えながら発した言葉に、ベッドメイクを始めていたルチアが怪訝そうに聞き返す。  
「何でしょう。ここまで展開が進んだ上で拒否されるのは、その、女性としてとてもつらいのですが」  
「だからだな、その、えーっと、」  
 赤らんだ真顔でここまで言われて、流石の上条も確信せざるをえない。  
 ――自分は今、男として求められている。この上なく直接的で、この上なく最終的な方法で。  
 そういう欲望が自分にあるか。答えはイエスだ。女性の着替えシーンに乱入してしまった時などは可能な限りギャグで流そうとしているが、脳裏に焼きついた光景を忘れられるはずもない。「本当は見たい」という願望があればこそだ。  
 でも――  
「最初に言っておきますが、私達は体の関係を持ったからといって、それを理由にあなたの心を縛るつもりはありません。今夜限りの関係でも構わない。  
どんな無茶な要求をされても拒むことはありえませんし、責任を取ろうなどと考える必要は全くありません」  
 ルチアはベッドを整え終えると、こちらに近づいてきて、傍らのアンジェレネの体を横抱きに抱きしめた。  
「ただ、私とこの子が、今日、ここで、あなたと契りたいのだという気持ちを分かってください。他の何時でもなく他の何者でもなく、今の私達とあなたで契りたいのです」  
「シスター・ルチア、あの、私、」  
「顔を見れば分かりますよ。いいえ、ようやく分かるようになりました。一緒にしましょう。それが一番幸せな方法です」  
 アンジェレネは優しく抱いてくれる姉のような人を見上げ、小さくうなづいた。  
 そして、二人の少女はこちらを見つめてくる。  
 自分を待っているのだと、誰に言われなくても分かった。  
「……、」  
 きっとこの瞬間に、世界で最も美しい決意が目の前にある。一途過ぎて折れそうなほどの純情がこの手を求めている。  
 その手を見つめる。  
 幻想殺し。  
 あらゆる異能を壊し、否定し、消散させるこの手は、彼女らの想いを砕かずに抱きしめられるだろうか。  
 責任を感じる必要はない、と言うが、それはきっと無理だ。  
 断っても受け入れても、その事実は上条当麻という人間の血肉に刻まれ、消えることはない。  
 もしも二人を泣かせるようなことがあれば、その罪は遠からず自分を押し潰す。  
 それなら、  
「……一応聞くけど、シスターさんがこんなことしてもいいのか?」  
 背の高い少女は猫のような目を細めて、  
「言ったはずですよ。『私達は明日になったら一から修行をやり直す』と。だから今夜の私はシスター・ルチアではなく、ただのルチアです」  
「わ、私も、です。あの、私がただのアンジェレネでも、お兄ちゃんは、してくれますか?」  
 何というか、本当に口では女に敵わないことを自覚させられるばかりである。  
 答えは二人をまとめて両手に抱きしめることで返した。  
「……正直経験ないから上手くやれるかどうかわかんねぇけど、やれるだけやってみる。それでいいか?」  
「気にすることはありません。私達だってそうなのですから」  
「はいっ。その、よろしくお願いしますっ!」  
 泣かせたくない、笑顔でいて欲しいというのが自分の願いであるなら。  
 今自分に出来る精一杯で、この少女らを愛したいと、そう思った。  
 
 せっかくの新しいホットミルクは一度も口をつけられることなく、三人の淫宴の観客になった。  
 
                    ◇   ◇  
 
 ベッドはもともとダブルベッド並みの大きさがあった。二人の少女を仰向けに横たわらせ、その間に男が一人入ってもまだ余裕がある。  
 しどけなくシーツの上に四肢を伸ばした少女らに覆いかぶさり、修道服の上から両手を使ってソフトタッチに愛撫をする。  
「ン……ふぅ……は、あ、あぁ……」  
 左の手でルチアの胸元をまさぐる。下の方から持ち上げるようにしてみると、意外なほどのボリュームが掌に返ってくる。着やせするタイプなのかな、と上条は漠然と思った。  
 シーツを硬く握り、声を抑えようとしているのが可愛らしい。悪戯心で耳を舐めてみると、高い声で鳴いてくれた。直後にジト目できつくにらまれたけれど。  
「うわ、そこは……うひゃあ! ま、待ってお兄ちゃ、んんんーっ!」  
 右の手はアンジェレネの小さなお尻を撫で回していた。無駄な肉どころか脂肪のつきも薄いんじゃないかと思えるほど小さい臀部は、幼い少女にとっては性感帯にはなりえず、  
ただただ恥ずかしさのあまりに涙目になって少年の肩に顔を埋めさせる。  
 少し上がって腰の辺りに手をやると、不意に大人しくなった。腕を回して抱き寄せる形が落ち着くらしい。  
 しばらくの間そうやって睦みあい、それぞれに気分が高揚してきた所で、上条はいったん体を起こした。彼から見て左側、長身の少女の方に移動する。  
「ルチアから先にやる。やっぱりアンジェレネには、いきなりは無理だと思う」  
「お好きなように」  
「はい……お兄ちゃんがそう言うなら、仕方ないです」  
 平静を気取りながらも喜びの笑みを隠せていないルチアと、ちょっぴり残念そうなアンジェレネ。  
 上条はルチアの手を取り起き上がらせると、修道服を脱がせにかかる。  
 が、  
「……あれ? こ、この服どうなってんだ?」  
 ローマ正教式の修道服は、好みや用途で袖やスカートを足せる構造になっているため、あちこちにチャックがついている。素人目にはどれが脱ぎ着するためのチャックなのか分かりにくいのだ。  
 袖を外しかけたり、アンジェレネのスカートとくっつけそうになったり。どうにも上手く脱がせられないことに呆れたルチアは、上条の手をほどいて自分で脱ぎ始めた。  
「まったく。天草式の船の中では、気絶していたのにもかかわらず私達を素裸にしたというのに。あの時の手際はどこに行ったのですか?」  
「いやあれは魔術がかかった服だったからで……あ、ちょっと待った」  
 てきぱきと修道服を外し終え、フードに手をかけた長身の少女に待ったをかける。  
「何でしょう」  
「あーその、なんだ。フードはつけたままにしてくんない?」  
 ルチアは一瞬戸惑い、それから不審者でも見るような目で見返してきた。  
「……今夜の私はシスターではありませんと言ったはずですが。まあ、そのような容姿の女性との行為がお望みであるのならお答えします」  
「えらい言われようだな。そういうんじゃなくて――いや、やっぱりそうかもしれないけど――単純に似合ってると思ったからさ」  
 ぐ……とルチアは言葉を詰まらせてからそっぽを向いた。『そんな真正直に言われたら、何も言い返せないじゃないですか……』とかなんとかぼやいているのが聞こえる。  
意外とこういう口説き文句に耐性がないのかもしれない。上条(つかうがわ)としてもやっぱり経験がないので気恥ずかしいのだが。  
 ガーターベルトとストッキングを外すと、残ったのは上下の下着だけである。腕を使ってそれらを隠そうとしながら、強がった声でルチアが言う。  
「いくらあなたでも、ここから先は脱がせられるでしょう」  
「まあ、大丈夫だと思うけど、何で途中で――て」  
 いきなり隣のアンジェレネに耳を引っ張られた。小柄な少女は飛びつくようにして耳打ちしてくる。  
「(……駄目ですよそんなこと言っちゃ。上着を脱ぐのと下着を脱ぐのとでは恥ずかしさが全然違うんです。それも、好きな人の前なら、たぶん余計に)」  
 そういうもんなのか、と女性の心理に疎い青少年は素直に納得する。  
 改めてルチアを見る。爽やかな青いブラとショーツは、彼女にとっての最後の砦なのかもしれない。これから中へ押し入ろうというのなら、やはりそれを剥ぎ取るのは自分の仕事だ。  
何より、ギュッと膝の上でグーを固めている彼女を放っておくのは忍びない。  
 
 ブラジャーのホックは背中にあった。正面から抱きつくように腕を回し、ホックを探る。ぱちり、という小さな音がして、乳房を締め付けていた布がずり下がっていく。  
「…………〜〜っ!」  
 体一つ分だけ離れると、目の前に形の良い乳房が現れた。お椀型とでも言うのか、盛り上がった乳肉の上につんと立った乳首が乗っている。  
 男なら間違いなくむしゃぶりつきたくなる美乳だ。上条は男なので、もちろんその本能に従う。まず頂点を一吸い。それから周りをちろちろと舐め上げていく。  
「――あっ! 何をしているのですか上条当麻! 母乳も出ない乳房を吸い上げるなど、なあ、あぁ!」  
「違いますよシスター……じゃなかった、ルチアさん。ちゃんと『お兄ちゃん』って呼ばないと」  
「呼べるわけ、あん、ないでしょう!? 私の、方が、くぅっ、年上、なんですからぁ!」  
 喘ぎながら返事をするルチア。快感を受けているというより、慣れない刺激に体が怯えている様子だ。上条の両肩に置いた手が、引き寄せるのか押しのけるのか決められずにふらふらしている。  
 規律にうるさい性格の彼女だから、これまで自慰行為などもほとんどしてこなかったのだろう。未知の感覚に体が追いついていない感じだ。  
 しかし、それにしても少々過敏な反応のような……と、誰かと比べられるわけはないのだが童貞少年は考える。  
 すると再びアンジェレネが耳打ちしてきた。  
「(……ルチアさん、最近またおっぱいが大きくなってるみたいなんです。張ってきて痛いとか言ってて……贅沢な悩みだと思いませんか? お兄ちゃん)」  
 まだ子供体型のアンジェレネにとってはそうなのかもしれないが、男には分からない世界である。  
 ともかく、成長途中で乳房が張っているというなら、これ以上の愛撫は止めておいた方がいいかもしれない。この時期の乳房に刺激を与えすぎると、筋肉の筋が切れて将来垂れる原因になる、という『知識』があった。  
『記憶を失う前の上条当麻』って、なんでこんなこと知ってたんだろう?  
 考えれば考えるほどど壷にはまりそうな思考はばっさり切り落とし、上条は狙いを下に移すことにする。  
 息も絶え絶えなルチアを横にならせて、ショーツに手をかける。  
 一応目で確認を取ると、長身の少女はきゅっと目をつむった。好きにしろ、という意味だと思う。  
「じゃ――」  
 僅かにだけ浮かしてもらった腰をくぐらせて、最後の一枚を抜き取った。  
 ――――、  
 ――――、  
 ――――、  
「だ、黙ってないで、何か言ってください」  
「あ、言っていいの?」  
「じゃないと恥ずかしくて間がもちません!」  
 ではお言葉に甘えて、と上条はすっと息を吸い、  
 
「――――――――、すっげぇエロい」  
   
「………………〜〜〜〜〜〜ッッ!!??」  
 耳どころか肩の辺りまで真っ赤にしてガタガタ震えだすルチア。だが事実なのだからいかんともしがたい。  
 髪と同じ淡い色の陰毛は少なめだった。元々の体質なのか、それともきちんと手入れしているからなのか。そしてその下の秘部は――胸からの刺激に反応して、潤み始めている。  
 AV女優のように使い込まれた様子のない、綺麗なままの幼児のようなスリットが、興奮でひくひくと開きかけているのがわかった。  
 これをエロいと言わずしてなんと言おう。  
「触るぞ」  
「ちょ、待って、今は駄目、今は、ああ、ああああああっ!!」  
 くちゅ、と表面に指を当てただけで水音が聞こえた。見た目以上にしっかり潤っているようだ。  
「駄目だって、言ってるのにぃ……」  
「わるい。でもそんな声出されちゃ我慢できるものも我慢できませんことよ」  
 股下から撫ぜ上げる。指がどこかに当るたびにいちいち身悶えして可愛い声を上げるのだから、止められるはずがない。  
 上へ下へ。右へ左へ。人差し指と親指でスリットを軽く開いてみたり、小指を少しだけ差し入れてみたり。  
「く……ぁぅ、だ、だめ、当麻……。ふぅ、あん! ひぃ!」  
 翻弄される少女ははしたない嬌声をあげ続ける。普段のクールな仮面をこの手ではがしていっている感覚が、上条を更に更に高ぶらせていく。  
 ふと、中指に硬くコリッとしたものが触れた。  
(これって……)  
 考えるよりも先に、二本の指で摘んでいた。割と強めに。  
 瞬間。  
 
「だめぇ、だめぇ、あ、ああ、ああああぁあぁああああっ!!」  
 これまでにないほどの歓声を張り上げて、ルチアがとうとう絶頂に達した。もう恥も外聞もなく、一心不乱に上条の体をかき寄せて、ビクンビクンと断続的に全身を震わせている。  
 あまりの乱れように、上条の方も驚いた。噂には聞いていたが、今摘んだ陰核――詰まる所クリトリスが女性にとっての急所であるというのは事実だったようだ。  
「うわ……すごい、ルチアさん」  
 アンジェレネが惚然とした顔で年上の少女の達しぷりを見つめている。自分がそうなった姿を想像しているのか、もじもじと膝を擦り合わせていた。  
 それなら、ルチアは少し休ませた方が良さそうだし……  
「――よし。アンジェレネ、こっちこい」  
 上条は一瞬寂しそうな顔をしたルチアの頬を撫でてやってから、体を離す。足に力が入らないのか、四つん這いで三つ編み少女は近づいてきた。期待七割、不安三割くらいの顔をしている。  
「あ、あの、私も服脱ぎましょうか――きゃっ!?」  
 台詞は不意の悲鳴にかき消された。  
 襟元に手を当てた少女を押し倒し、細い足を押さえながら告げる。  
「ロングスカートは中に頭を突っ込むのが俺のジャスティス」  
「うう〜。お兄ちゃんは変態ですっ!」  
「そうです変態さんです。――だからこんなこともできます」  
 え? と目を丸くする三つ編み少女に抵抗する暇を与えず、ぶわさぁ! と修道服のスカートを捲り上げた。いつか彼女自身がやったことの再現だ。あの時の被害者はルチアだったけど。  
 ひるがえった布がアンジェレネの顔を隠してしまう。少女が慌ててそれを払いのけた時には、上条の視線は彼女の下着に釘付けになっていた。  
 流石にバックプリントではないものの、コットン生地でシンプルなデザインのいかにも子供らしいショーツ。  
『ショーツ』というよりも『パンツ』、いや『ぱんつ』と表現した方がいいかもしれない。年端もいかない相手に淫行しているのだと否応なく思い知らされる。  
 けど、  
「濡れてる、な」  
「お、お漏らしじゃ、ないですよ?」  
「分かってる」  
 泣きそうに恥ずかしそうな目を見返してやると、ほんの少し安心したようだった。  
 下着の生地の、クロッチとかいう部分に楕円形の染みが出来ていた。上条とルチアの睦み合いを見ていて、発情してしまった証だろう。外見の幼さとは裏腹に、体の機能はしっかり大人になっているらしい。  
「脱がすけど、いいよな?」  
「……、」  
 アンジェレネは答えず、手に掴んだスカートの裾を股の間にいる上条にかぶせた。リクエストに答えたのと顔を見られたくなかったのと、半々といった所だろう。  
 真っ暗になった視界の中で、手探りでショーツの感触を探す。  
 両脇に細すぎる足を一本ずつ抱えて、ふくらはぎから膝裏、太ももへと掌を昇らせる。つるつるとしたきめ細やかな肌触りが指に心地いい。  
「ふわぁ、ひっ……やん、う、うぅ、や、やぁぁ……」  
 初めは戸惑いがちだった声に甘い色が混じりだす。  
 ルチアよりさらに幼い性感が、急速に開花しつつあるようだ。存分に太ももの柔らかさを堪能した後、さらに上へと進めば、さっき服の上から散々揉みしだいた場所――お尻にたどり着く。  
(やっぱり肉付きは薄いな……これはこれで可愛いけど。ん? ここまで来たってことは、つまり)  
 軽く指先を探らせると、ショーツの上のゴム部分にあっさりひっかかる。目的地に到着していたという訳だ。  
 ならば迷う必要はない。上条は左手をアンジェレネの腰に回し軽く持ち上げると、右手でショーツを掴み一息にずり降ろす。  
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」  
 見えなくても感覚で何をされたか理解したのだろうアンジェレネが声にならない悲鳴を上げる。  
 
 本当は暴れだしたいほど恥ずかしいのに、それをしているのが誰よりも愛しい異性であるというだけで反抗できなくなってしまう。彼女に出来るのは激しく首を振って少しでも気を紛らわすことだけだ。  
 上条はもぞもぞとスカートの中で移動しながら、ショーツを三つ編み少女の足から抜いていく。丸まった薄黄色の布がぽとりとシーツの上に落ちたのを確認してから、改めて眼前の花園に目をやった。  
 黒い布越しに漏れ込む光では満足な視界は得られない。  
 それでも上条当麻は、ゼリーにナイフをすっと入れただけのような、無毛で無垢で無邪気な女性器を確かに認めた。  
 しばしの間、息をするのも忘れて見入ってしまう。  
「お兄ちゃん……恥ずかしいよぉ」  
 アンジェレネが弱々しい声を上げた。  
 じっと黙って局部を凝視されていれば、そりゃあ恥ずかしいだろう。ベッドの上に押し倒され、スカートの中に潜り込まれている状態なら尚更だ。  
 息がかかるほどの至近距離で見つめていることに今さら気づく。ここまで来たらやることは一つだろう。上条は返事をすることも忘れておもむろに――無毛の割れ目に吸い付いた。  
「――あぁっ! うん、や、やあああああぁあっ!!」  
 今度こそ全力で悲鳴を上げるアンジェレネ。ルチアと同じように指でされるものとばかり思っていたのに、やってきたのは熱くぬめる舌の感触。  
ぴちゃぴちゃと体の内側を舐め取られる異常な感に背筋が総毛立つ。もう形振り構わず足をばたつかせ、少しでも少年の口撃から逃れようとする。  
「っぷは。こら、暴れるなよ」  
「だって、だってだって…………あ……はぅ…………」  
 上条はスカートの裾から両腕だけ外に出し、逃げるアンジェレネの腰を捕まえた。  
 腰やお腹に手を添えられると、それだけで安心してしまうらしいことは最初の愛撫で分かっていた。案の定、軽く支えているだけなのにばたつきはぴたりと止まった。  
 しかし、これはアンジェレネにとってかなりの負担になる。再開された口での責めに幼い体は激しく反応して逃げたがっているのに、腰に置かれた掌の温もりによって心は安心しきってしまっているのだ。  
心と体の反応がちぐはぐで、どちらに偏ることも出来ずどちらともが追い詰められていく。三つ編み少女はまだ幼いにも関わらず、いやその幼さゆえに高速で登りつめようとしていた。  
 そんな二人の横では、息を整えていたはずの長身の少女が再び高まった肉欲に耐えられず、おずおずと自らの手で乳首と肉唇をさすり始めていた。十字教徒としては罪にあたる行い、けれど今夜の彼女はただの女だから。  
もしも一夜限りの快楽に溺れることを咎める無粋な神がいたとしても、幻想殺しの加護を越えることは出来ないだろう。  
「む……んグ……」  
「や、は、ひっ……やああああああああああああっ!!」  
 一際奥に差し込まれた舌が、蜜壷の上面、ざらりとした場所を舐め上げたのが決め手になった。  
 生まれて初めてのクンニリングスで、生まれて初めてのエクスタシーに達する。両手はスカートごと少年の頭を秘部に押しつけ、両足は彼の背中でロックして力の限りしがみつく。  
長い快感の波が通り過ぎるまで、アンジェレネは背中を丸めて数十秒もそれに耐えなければならなかった。  
 ――――ようやく三つ編み少女の手足から力が抜けた時、上条は窒息寸前だった。まあ自業自得というものだろう。  
 
                    ◇   ◇  
 

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