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 『学舎の園』で起きた常盤台中学学生寮での漏電による火災は、一見、大した規模で  
ないように周囲に見なされたため、「漏電の原因は不明、調査を継続」と報道発表され  
てひとまず騒ぎは収まった。  
 マスコミの中には当然のように深い事情を嗅ぎ回ろうとするものもあったが、その辺り  
について名門・常盤台に抜かりはない。事態の沈静化は早いだろう。  
 ――と言ったことを、御坂美琴が教室で聞いたのはそれから3日後のことだった。  
「……はあ…」  
 漏電の原因が溜息をつく。  
 白井が救急車に乗せられていったことでさえショックだったのに、事態はもっと酷かっ  
たのだ。  
 凄まじいまでの電気の奔流に、寮一棟の電気関係の配線は寸毫残らずパンク。建物  
の一部では火災も発生した。配線が全滅した結果として、当然セキュリティ関係の回線  
も全滅。  
 機械式の自動消火施設も同時に備えた多重設計のおかげで、火事そのものはボヤで  
収まったものの、白井を含めた3名が入院することになってしまっている。  
 皆、命に別状はないと言うのが救いと言えば救いであろう。  
 寮は全く使えなくなってしまったので、無事だった生徒たちは修繕工事が完了するまで  
『学舎の園』敷地内に設けられた保護者・来賓用のホテルに仮住まい中である。ここ2日  
間は臨時休校で、火災云々、と言う話を3日後である今日聞いた、というのも、今日がそ  
の後の初登校だったからに過ぎない。  
「…はあ…」  
 再び、溜息。  
 自分が原因だ、などと言えるはずもない。なぜ能力が暴走したのか、その理由が理由  
である。御坂美琴とて、女の子なのだから。  
 ただ、溜息の理由には――別の大きな原因もあった。あんな事が起きたのに、昨晩も、  
その前の晩も、寝付いた途端に上条当麻が現れたのだ。  
 
 ――夢の、中に。  
 
 そうして現れた上条当麻は、事件を起こしてしまったその晩の夢と同じように美琴に触  
れて、驚きと疼きに目が覚めると、同じように身体に手が伸びている。それも、一晩に何  
度もである。  
 そんなわけで、白井を入院させたとか、寮を半壊させた、という事よりもむしろ自分の  
寝不足に溜息が出る。  
 注意力も落ちてくるし、あの失態を起こしてなお、と言うことにイライラが募る。さらには  
――  
「なんだってあいつが私の夢に出てくるのよっ……。しかも、しかも、あ、あ、あんな…」  
 独り言が口の中に勝手に出てくる。  
 あのビデオ鑑賞会と、夢のせいにしてしまいたいのだが。  
 
 振り払いきれない身体の疼きに、どうにも我慢が出来ないのだ。  
 眠れば夢に「あいつ」が現れる。それなら無理矢理にでも何か別のこと、例えば流行の  
俳優とか、マンガとかを想像して…と指を這わせて、それなのに途中から配役が入れ替  
わって、でも指は止まらず――もう少し、という時になって、自分の周囲にパチパチと弾  
ける電気火花に気付いて我に返るのだ。  
 せめて終わりまで行けたら、あんな幻視も見えないのに。  
 
 忘れてしまいたい身体の疼きが日に日に大きくなるにも関わらず、自分が欲求不満だ  
とは思いたくない御坂美琴である。  
 
 それにしても、なぜ上条当麻なのか。自分の気持ちに気付いていない(つもり)が故に、  
理解できない不可思議な感情が胸を覆う。  
 「校区外への外出を控えるように」という学校からの通達があるのだが、こうも情緒不  
安定だと、学校にも仮住まいのホテルにも居づらい。  
 かと言って、病院に見舞いに行くといって時間をつぶす、というのも――行かないとい  
うのもあんまりなので一度は行ったが――バツが悪い。  
 自然、ふらふらと足が街へと伸びていた。  
 しかし、街に出れば『現実の上条当麻に出会う』可能性を孕むという、ある意味最悪の  
事態に思い至らなかったのは何故だったのだろう。  
 
「お? 御坂じゃねーか。あれ? なんか、顔色悪い?」  
 
 ともかくも、ぼんやりと歩いていたところに名前を呼ばれ、御坂美琴は声の方向に振り  
向いた。  
「……え?」  
 振り向いた先に居るのは、髪をつんつんと立てた美琴より少し年上の学生服の少年。  
 思考が追いつかず、つま先から頭のてっぺんまで、数度見返す。見返しながら、思考が  
ようやく……はっきりしてくる。  
「ぎゃあああああっ!!!」  
 思わず、とても女の子とは思えないような悲鳴が口を突いて出た。パワーを加減する  
ことも出来ずに、狙い違わず目の前に現れた少年、上条当麻に向かって雷撃の矢が飛  
ぶ。  
「うおおおおっ!!!!」  
 驚きの悲鳴は、上条当麻の口から出たものだ。が、反射的に右手を出して雷撃を防い  
だ。かざした右手が、雷撃の矢を何事もなかったかのように掻き消す。  
 とは言え、少年の驚きの表情は変わらない。冷や汗を流しながら非難の声を上げた。  
「お、おいっ! ま、マジで殺す気かって!」  
 その声に、美琴が少しだけ我に返った。  
「あ、あ、ご、ゴメンっ、か、考え事っ、し、してたからっ……」  
 言って次の瞬間、上条が雷撃の矢を掻き消した瞬間の映像を思い出す。刹那、閃き。  
 上条の右手を無理矢理握った。いつかのように雷撃を食らわせようとして――やはり、  
何も起きない。  
(そういや何故か、何にも起きないんだった!……!!)  
 冷静さと心のブレーキが、別の何かに塗りつぶされていく。  
「ちょ、ちょっとこっち来なさいっ!」  
 握った手をそのまま引っ張って、御坂美琴は駆け出した。  
 
                     −*-  
 
 上条の手を引いて御坂美琴がやって来たのは、自らが半壊させた学生寮だった。  
 息を切らせつつ、上条が美琴を問いただす。  
「お、おい、一体ぜんたい、何なんだ? ここ、お前の寮だろ? あ、そう言やニュースで  
漏電……」  
 言葉を続けようとして、自分の手を握る少女の後ろ頭を見て上条の口が鈍った。  
「漏電、って、まさか――」  
「それ以上言ったら殺すから」  
 その少女が、振り向くことなく物騒な台詞を返す。  
「私、もの凄くイライラしてんのよ」  
 何故イライラしているのかは言わない。正確には――言えない。  
 しかし、この少年さえ無抵抗でいれば、このイライラからも、訳のわからないモヤモヤ  
からもおさらばできるはずだと、美琴の本能が理性を押しのけて告げていた。  
 押し黙った少年を無理やり引っ張ると、警備員の目を盗んで未だ修繕の済んでいない  
自室へと潜入する。  
 ドアの鍵を掛けた。電子ロックは当然のように死んでいたが、機械式のものは関係な  
い。念のため、ドアチェーンも掛けた。  
「お、おい、マジでいったい何なんだよ…?」  
 ドアの鍵を掛け、続いて部屋の中をごそごそと漁り始めた美琴に、さすがに黙り続けて  
もいられなくなったのだろう、上条が尋ねた。  
 その声に、机を漁る手はそのままで美琴が上条を一瞥する。  
「……な、何にもしやしないわよっ! アンタはちょっとだけ、じっとしてたらいいのよ」  
 ぷい、と視線を戻す。上条からは素っ気なく見える態度だったが、美琴自身はここに来  
て心臓が躍り出すのを感じていた。顔が火照る。  
(…こ、ここまで来て、や、止められないわよっ)  
 極力無表情を装って、上条をベッドに座らせた。座らせて、引き出しから取り出したアイ  
マスクをその顔に掛ける。  
「お、おい御坂っ……」  
 突然目をふさがれて、当然のごとく上条から困惑の声が上がるのだが、強引に黙らせ  
た。  
「いいから黙ってなさい」  
「……ぅ」  
 続けて、イヤーピースを耳に押し込む。  
 じっと眺めて、アイマスクの隙間から何か見えるかも、圧縮スポンジのイヤーピースだ  
けでは何か聞こえるかもと不安が過ぎった。  
 テーピング用のテープを取り出して、アイマスクと顔の隙間を埋めるように貼った。それ  
から、ワイヤレスのヘッドフォンを上条の頭から掛ける。ずれないようこれもテープで留め  
た。  
 が、まだ足りないような気がする。周囲を見回す。  
 クローゼットから、何故かシュノーケルがこぼれ落ちていた。拾いに走って、無理やり咥  
えさせた。口から外れないように、これもテープで留めた。  
 それから、テーピングテープの横にあった包帯で上条の頭をヘッドフォンもろともぐるぐ  
る巻きにした。ここまで来て、ようやくオッケー、という気分になる。  
 むしろ筆者としてはこれに耐えている上条を褒めてやりたい気分だが。  
 
「こ、これなら、み、見えないし、聞こえないし、あとは、あ……」  
 瞬間、理性が帰ってきた。しかし、もう止められない。  
 
 ブレザーを脱いだ。息苦しいような気がしたので、ブラウスの襟からリボンタイを外すと、  
ボタンをふたつ外す。  
 間抜けな格好で固まっている上条を一瞥した後、ブンブンと頭を振って、美琴はままよ  
とスカートの中に手を伸ばした。  
 短パンとショーツを下ろして足首から抜いた。  
 再び上条の方を見る。首だけミイラ男がいた。心臓がばくばく言うのを止められないし、  
頭に血が上って顔が火照る。しかし、これなら確かに何も見えないし、聞こえないだろう。  
 上条の横に座って、右手を取ると――もはや諦めたのか、少年は抵抗しない――自分  
の膝に置いた。  
 その手の感触に、自分がやろうとしていることを鮮明に思い出す。思い出したが、止め  
る材料にはならない。膝に感じる少年の手のひらの感触に、むしろ身体の疼きが強まっ  
た。帰ってきたはずの理性も、再びどこかへ行ってしまった。  
 
 ぞくり、と背中を撫でられるような感覚が走る。  
 指を伸ばした。  
 
 くちゅ。  
「ふ、ふああっ」  
 指を伸ばしたその場所は、もうとっくに濡れていた。  
 寮の中には、上条と自分以外誰もいない。その上条にも、自分の声は聞こえていない  
はずだ。もはや、声を押さえることは出来なかった。  
「ど、どうしてぇ…、もう、ぬれ、て、ひあ、るのお…」  
 一度漏れてしまうと、声を出すのを止められない。自分の声がさらに興奮を煽って、指  
が激しく動き出した。  
 シャツの上から胸をまさぐる。そこから伝わるもどかしい感覚に、ボタンを半ば無理やり  
外しながらシャツの中に手を入れた。ブラを捲り上げて手をやると、その先端もすでに固  
くなっていることが感触として伝わる。  
「あ、や、はぅ、ふぁ、あくっ」  
 自分の秘裂をまさぐる指が水気を掻き出し、つつ、と垂れて流れる感触がした。漏れ出  
す愛液が、奥からさらに溢れる。  
「ひあっ」  
 自分の声はかなり大きくなっているのだろう、なのに、指が暴れてそこでぴちゃぴちゃ  
と淫猥な音を立てているのが判った。  
「ふう、ふ、ふあっ、あ、ひぁ、あ、あ、あっ」  
 腰の力が抜ける。座っていられない。背後にばたりと倒れる。  
 倒れた拍子に自然と足が引き上げられると、膝に置いていた上条の手が滑って太腿  
の内側を撫でた。  
「ひゃうっ」  
 電流のような感触が全身を走る。  
 その『電流のような』感触に、我に返りかける。が、ガラスに映る自分が寸分たりとも電  
気火花を帯びていないのが目に入って、安堵感がさらに背中の電流を強くした。  
「やあっ、あっ、き、きもち、いいよう――」  
 自然と両脚が上条の右手を挟み込む。  
 
 頭がクラクラする。  
 太腿に滑り落ちてきた手の持ち主のことを想像した。  
 突き上げる痺れが、一段と強くなった。  
「はくぁっ、ううっ…」  
 
 倒れた拍子に胸元から抜けて、空いていた手が行き場を探して上条のシャツを掴む。  
 目がそれを追った。  
 目に入ったのは、首だけミイラ男である。あまつさえ、顔の横からシュノーケルなど出し  
てしゅこ、しゅこ、と間抜けな音を立てている。  
 自分がその姿にしたのも忘れて、指は止まらないままにムカムカと怒りが湧いてきた。  
「な、なによう、その格好……んくっ、こ、こ、んな風にしたの、あ、アンタなのにい……」  
 
 上条のシャツを掴んだ手を引っ張った。  
 しゅこしゅこしゅこっ! とシュノーケルから音がして、上条が倒れ込んでくる。  
 右手を美琴の太腿に挟まれているために、自然、上条は美琴のほうを向く格好になる。  
掴んでいた手を上条のシャツから離して、グルグル巻きにした包帯に手を伸ばした。  
 ――が、上手く、外せない。  
「なによう……っ…」  
 両手を使えば簡単に外せるのだろう、だがしかし、もう一方の手は美琴の意思を拒否  
するかのように――いやむしろ、それが本当の意思なのか――秘裂をまさぐることを止め  
ようとしない。それでも無理やり、その手を引き抜いた。  
 上条に跨って、その顔に手を伸ばす。  
 無意識に、引き倒したときに持ち上がっていた上条の足に、ついさっきまで自分の指で  
慰めていた部分を押し当てていた。  
「んっ…くふっ……!」  
 細かい動きがあるわけではないのに、刺激が付き上がる。当たっているのが上条の足  
であることが、余計に興奮を煽るのだろうか。思わず腰が動く。  
 しかし、今はなにより上条のこのふざけた格好である。  
 誰がこんな格好にしたか、と言うことはすでに美琴の頭には無い。半ば強引に包帯をむ  
しり取り、シュノーケルを引き抜いた。  
「ぶはっ…!」  
 上条がため込んだ呼吸を吐き出した。それが美琴の顔にかかる。さらに気持ちを煽ら  
れた。アイマスクを、テーピングもろとも引きはがした。  
 ビビビッ! と音がして、その下から上条の目が見えた。  
「痛てっ、てててっ、お、おいって――」  
 状況を理解できていない、上条の当惑の表情。  
 目の前に美琴の顔があるのを知って、さらに当惑の度合いを増す。  
 その目を見て、美琴は耐えられなくなった。  
「んっ、んんーーっ!?」  
 上条が驚きのうめきを上げる。  
 押さえられない感情の奔流が、美琴の両手に上条の両の頬を掴ませ、そのまま唇で  
唇を塞がせていた。  
 数秒の後に唇を離す。  
 泡を食った表情の上条が何かを言おうとして、それよりも早く美琴の唇が動く。  
 
「好きなのっ……。アンタのこと、好きなのっ……」  
 

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