眠れない。眠いのだが、うとうとするだけで目が覚めてしまう。  
 きっと、調子に乗って『アレ』を最後まで見てしまったせいだろう。自分の不注意に、御坂  
美琴は歯ぎしりでもしたい思いだった。  
 隣から聞こえる、白井黒子の規則的な寝息が疎ましくさえある。  
(あんなもの、見たせい? でも、どうしてうとうとすると夢に『あいつ』が出てくるワケ?)  
 
 放課後の話である。  
 何人かのクラスメイトと談笑していると、そのうちの一人がキョロキョロと周りを気にしな  
がら話を切り出した。  
「兄さんがいるって、まえ、言ったっけ? その寮に行ってきたんだけど、こんなものを隠し  
てるのを見つけちゃったのよ!」  
 セミロングの髪をせわしなく揺らせて周りに視線を配りつつ、その少女が鞄から紙袋を  
取り出した。何気なく受け取って、「なに?なになに?」と好奇心むき出しに頭を寄せてき  
た数人で中身を覗く。  
 
『汚されたシスター 神の愛は白濁にまみれて』  
 
 間違いなく18禁ビデオです。本当にありがとうございました。  
 顔面が沸騰する。頭のてっぺんから湯気が出たような気がした。慌てて袋の口を閉じる。  
「ちょちょっと、あんた、なんてもの持って……」  
「見てみたくない?」  
 驚いたのは事実だが、興味があるのもまた、紛れもない事実である。周囲を見ると、他の  
クラスメイトも同様のようだった。それで、結局は話を切り出した少女の寮室でそれを見る  
ことになったのだった。  
 
(ううっ、あんなもの、見るんじゃなかった……)  
 
 女の子というものは、往々にして耳年増なものである。  
 その辺りは、この御坂御琴も同様だった――のだが。  
 耳年増であることと、実際の耐性というものは全く別のもので。  
 気にしていないはずの少年が知らない女の子と居るだけでパンクしそうになる美琴の頭  
には、いくらモザイクがかかっていても18禁映像は刺激が強すぎたのだ。  
 平静を装って帰っては来たものの、白井黒子にさえ看過されかける程度の装いでしかな  
い。  
 早々にベッドに潜り込んだが、案の定眠れない。挙げ句の果てには、ウトウトした隙に、  
ビデオ映像が脳裏でリプレイされ始めた。そのたびに目が覚めて、ウトウトしてリプレイが  
始まって、の繰り返しである。あげく、こういうときほど時間は過ぎていないのだ。朝はまだ、  
遠い。  
 
 ビデオの女優はシスターのコスプレで、男優はつんつんと髪の毛を立てていた。そう言う  
髪型で思い出す少年とは、顔は似ても似つかなかったのだが、アダルトビデオに男優の顔  
などそうそう映ったりはしない。しかも――『しかも』である――、さっきウトウトした隙には、  
いつの間にかそれぞれが件の少年と、そのそばにいつもいる修道服の少女に入れ替わっ  
て――  
(じょ、冗談じゃないわよっ! そ、そんなの認めないんだからっ)  
 必死になって頭の中の映像を掻き消す。シスターの方を、特に重点的に消す。  
 
 半ば頭痛さえ感じる不眠状態に、脳裏の映像を掻き消しながらも眠気が差し込んで、再  
びうとうととし始めた。すると、掻き消されなかった脳裏の少年の映像が、ベッドに横たわ  
る美琴に覆い被さって、パジャマの中に手を差し込んでその肌をまさぐる。  
 微かな声が耳元をくすぐる。  
『なんだ、こんなに火照らせて』  
(だって、あ、あんたが、触るから――)  
『ふふん、先っちょ、固くしてるな』  
(な、何よう、無理やりこねくり回しといて――)  
『こっちは、どうかな』  
(え、あ、や、だ、だめ――)  
 少年の手がパジャマのズボンの内側に潜り込む。そのまま、躊躇することなくショーツを  
捲り上げ、美琴の薄い茂みを越えて指が内側に滑り込んできた。  
 電流のような刺激が背中を走り、全身の力が抜ける。少年の指が、さらに美琴をまさぐっ  
て――  
「や、やだ、だめっ」  
 
 ――目を、開いた。薄暗さの向こうに、寮の部屋の壁が見えた。  
(ゆ、夢、よ、ね……。それにしたって、何なのアレ……って、わ、私ッ)  
 さっきまでの出来事が夢と判って、残念なような、ホッとしたような、美琴自身にも判りか  
ねるモヤモヤが胸の中を通り過ぎた。  
 そこで始めて、自分の状態に気が付く。  
 捲り上がったパジャマの裾から入れた左手で膨らみを掴み、右手は――しっかりとショー  
ツの中に差し込まれていた。  
 自分の痴態に驚いて、右手を引き抜こうとする。引き抜こうとして、指がすでに濡れてい  
た秘所を擦った。  
(!…はふっ、……っく)  
 夢の中ではなく、今度は現実で、背中に電流のような痺れが走る。一瞬固くした身体か  
ら力が抜けると、その痺れが全身に広がっていく。もともと寝不足の頭が、その痺れに朦朧  
としてきた。  
 無意識に、引き抜かれないままになっている右手の指が動く。  
 濡れそぼった『そこ』をまさぐる指が奥から漏れ出す水気に濡れて、それでも止まらない  
指にぬるぬるとまとわりつく愛液がショーツを汚した。  
 それでも、指は止まらない。止まってくれない。  
(や、あ、な、なんでよう……、ぅく、なんで、あいつが出てくんのよぅ……)  
 ついさっきの、意識が朦朧としたときの夢、あるいは夢ではなく想像だったのか――に出  
てきた少年の姿を思い起こす。  
(!!…きゃふっ)  
 それがいけなかったのだろう。  
 触れているのは自分の指なのに、突き上げる刺激が一気に強くなった。脳裏に浮かんだ  
少年の姿を消そうとして、消えてくれない。消せない。  
 それどころか、これまでに見た少年の表情が次々と思い出される。  
(そういや、…んくっ、いつも、ふっ、疲れたような力の抜けた顔、してるのに……)  
 驚いた顔、怒った顔、悲しそうな顔、いつか見た真剣な眼差し、そして、笑顔。  
 その笑顔が、瞼の裏から引きはがせなくなる。  
 コントロール出来なくなった指の動きが激しくなった。どこか無意識で押さえつけていたの  
に、そのタガが外れた。声が出るのを止められない。  
「ふあ、あ、あ、んん……んあっ」  
 薄く目は開いたままなのに、美琴の目の前からあの少年の姿が消えない。  
 ぬるぬるになった指が、夢でそうだったようにその少年のもののような錯覚が生まれる。  
「……や、あ、だめ…っ、だ、あうっ…ふっ、も、もう……っ!」  
 突き上げるように刺激が走って、意識が薄れた。  
 
                     −*-  
 
 その夜の御坂御琴の様子は、どこかおかしかった。御坂御琴ウオッチャーとしては、見逃  
すはずがない。  
 どうしたのか聞き出そうとしたが、美琴自身は苦笑いをしながらはぐらかすばかりで答え  
ない。が、少なくとも様子がおかしいことは事実である。だから、美琴がふらふらとベッドに  
潜り込んだ後も、白井黒子は美琴の様子を監視し続けることにしたのだ。  
(ふふふ、お姉様? この白井黒子、お姉様の様子がおかしいのを見逃すほど腑抜けでは  
ありませんわっ! 見たところ中々寝付けない様子ですけど――いざとなったら私が添い  
寝してでもっ)  
 美琴の監視が目的だったはずなのに、いつものように脳内では脱線を続ける白井である。  
(うふっ、うふふふふふふふ……、?……はっ、お、お姉様?)  
 ベッドに潜り込んで、頭の端だけが見える美琴を見ながら妄想が暴走中だった白井だが、  
「くふっ」  
 美琴が上げた一瞬の吐息に、明らかに艶っぽさが混じっていることには気が付いた。  
(お、お姉様ッ)  
 動きそうになる身体を無理やりに押さえて、しかしそれでも寝たふりをしていたはずなが  
ら目を見開いてしまう。  
 隣のベッドに潜り込んでいる愛しのお姉様は。  
 ぴく、ぴくと身体を震わせつつ、出てこようとする声を無理やり抑えているのか、苦しそう  
ながらも艶混じりの吐息をはっはっと吐き出している。  
(お、お姉様? と、隣に黒子がいますのにっ! ひ、ひとりでですなんてっ)  
 布団に噛み付きながらも、美琴がどういう状態なのかを動物的本能で嗅ぎつけた白井  
が、見開いた目をさらに開いた。自分の鼻息も荒くなっていることには気が付かない。もっ  
とも、美琴自身からしてすでに白井の存在を忘れているわけだが。  
(ま、まさかお姉様、あの類人猿を?!)  
 鼻息を荒くしながらも、白井にとっては最大のライバル(とは認めたくないのだが)である  
少年のことが思い出される。が、美琴がびくっ、と肩を震わせ、声を上げたことで思考が飛  
んだ。  
「ふあ、あ、あ、んん……んあっ」  
(お姉様っ! す、素敵ですわっ! 今すぐ黒子もそのベッドに飛び込んでっ)  
 白井の頭の中を邪な考えが塗りつぶしていこうとしたそのとき、しかし、それを吹き飛ば  
すような事態がその目に入った。  
 
 パチパチと、雷光が美琴の身体を包みだす。ぼんやりと美琴の周囲が光っているのは、  
まさか空気がイオン分解されているとでもいうのだろうか。  
「ひぁ、あ、ああぅ、はっ」  
 美琴の荒い息と声に呼応するように、小さな稲妻が走る。  
(え、ちょっと、まさか、これってとってもマズイ状況――)  
 白井が本能的に生命の危機を憶えたその瞬間。  
 
「やっ、と、と…うま…っ、あ、ああ――」  
 御坂御琴が件の少年、上条当麻の名を叫んだと同時に、その周囲から雷光が炸裂した。  
 
                     −*-  
 
 御坂御琴が意識を取り戻したのは、深夜だというのに部屋のドアが開かれる音を聞いて  
だった。  
 どすどすと踏み込む足音に、無理やり意識が覚醒させられる。  
 慌てて身を起こすと、その先に見えたのは、  
 
 救急隊員とストレッチャーに乗せられる白井黒子の姿。明らかに意識がないのだが、な  
ぜか表情は笑っている。  
 そして、救急隊員の大型の懐中電灯に照らされた、凄まじい部屋の様相である。  
 パソコンのモニターは吹っ飛び、本体は煙を噴いている。照明は天井のもの、机のもの、  
壁のものすべて破裂し、携帯がセットしてあったはずのクレードルは空で、爆発でもしたよ  
うな跡が残っている。目をやると、電池部分が破裂したのだろう、携帯の残骸が部屋の逆  
端に転がっていた。  
 頭の中が真っ白になり、思考が帰ってくるに従って、意識を失う前の行動が思い出された。  
 
(た、大量の、電気に耐えられなかったような…って、まさか、私がコントロールを失って?)  
 
 再び頭の中が真っ白になる。救急隊員が、美琴自身は無事なのかと肩を叩いたが、しば  
らくの間そのことにさえ気が付かなかった。  
 

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