神裂さんお手製の梅干に感激して、心底嬉しそうにガツガツと白米を詰め込む上条。
そんな上条の隣に座り、こちらも心底嬉しそうに眺めている神裂。
そしてその二人をやや離れた位置からじーっと見る、インデックス、オルソラ、アニェーゼ、ルチア、アンジェレネ。
五人の少女は概ねは同じ、しかし枝葉に渡ってはわずかな相違を見せる感情で上条と神裂を見ていた。
見れば上条はご飯を平らげおかわりに突入。お茶碗を受け取った神裂は甲斐甲斐しくご飯をよそいに席を立っていく。
「まあまあ。まるで貞淑な若奥様のようでございますね」
「元々世話焼きですからね。若い男なら世話の焼き甲斐もあんでしょう」
等と解説するオルソラとアニェーゼ。今出張ってもしょうがない、と言う風に落ち着いている。
その横ではアンジェレネが頭に乗せられたルチアの手にギチギチ握られていたり、二の腕あたりをインデックスにガチガチ齧られていたりと散々だ。
そんな少女達の視界に、つまり上条の所に、神裂が戻っていた。
「上条 当麻、ご飯のおかわりです。それと、その。もし足りなかったら、こ、こんなものも作ってみたのですが……」
言った神裂の手には皿。いつの間にか簡単なおかずをもう一品作って来たらしい。恐るべし聖人。
「おおっ!? この期に及んで更に美味そうなにおいが! ここはこの世の天国かッ!」
いっただっきまー! とまた食事を再開する。神裂もまた隣に腰を下ろした。
「……なんでかおりはあんなにうれしそうなの?」
インデックスが呟いた。
その手には、アンジェレネが自らの身を守るために断腸の思いで与えた生チョコのチューブがある。
「さっきから自分は食べないでとうまの食べるのを見てるだけなのにすっごく嬉しそうかも。なんでなんで?」
ぢゅーとチョコを吸いながら首をかしげる。隣のアンジェレネも同意見らしく、首を傾げようとしたがルチアに捕まれた。ギチギチと痛い。
「インデックスさんやアンジェレネさんにはわからないかも知れませんが、男の方にお料理を振舞い、食べて貰うのはとても喜ばしいことなのでございますよ?」
とオルソラ。インデックスとアンジェレネはうえーうそだーと返す。
しかし、視線の先の神裂はとてつもなく嬉しそうだ。
本音や本心を奥ゆかしい振る舞いの下に隠す事を容易とするのが大和撫子・神裂 火織なのだが、バクバクと食べる上条を幸せそうな表情で頬杖とかついちゃって見てしまっているから大分駄目だ。
そんな二人と神裂を交互に見て、オルソラが続ける
「心を込めて作ったお料理を、意中の男性に振る舞い、喜んで食べて貰う……こればかりは、女の喜びと言っても過言ではないのでございますよ?」
ぽっと無意味に頬を赤らめるオルソラ。その言葉にまだ首を傾げるお子様二人に。
「食べる専門の方には分からないのかもしれませんね」
と言ってふらふらと食堂から出て行った。憤慨するインデックスとアンジェレネは上からルチアが捕縛した。
ルチアの左手に頭を捕まれながら、インデックスは嬉しそうな上条と神裂を眺めていた。
それでも、今は未だ理解には至らなかったが。
食後、上条が熱いお茶を啜って丁寧にオルソラと神裂にお礼を言ってからのまず一言目に、
「一飯の恩は体で返す!」
と宣言して周囲の人間の赤面させつつドン引かせたのも今ではいい思い出です。
誤解を解いた上条は神裂らに連れられ、女子寮の廊下を歩いていた。
「なにぶん女所帯なもので、右も左もお見苦しいものがあると思いますのであまり余所見は……」
と、神裂が言い終わる前に。
何気なく右を向いていた上条の視界に、開いた扉とその奥で着替える一人のシスターの姿が入り込んだ。
「ッ!?」
ズバァ!と顔を逸らすが、両側から神裂の手につかまれた。
目の前にはジト目の神裂さん。
「上条 当麻? 今、何か見ましたよね?」
両頬に当てられた手に少しずつ力が入っている気がする。こわいしくつう。
「え、い、いや! 見てない! 見てないぞ何も!」
冷や汗ダラダラで弁解するが、神裂は丸っきり信じていないご様子。
上条の視界の端で、ルチアがドアを開けっ放しにしたシスターに注意をしている。
ギチギチと圧迫感を感じながらも、上条と神裂の視線による攻防は続く。
十秒と少しが過ぎ、神裂の後ろで、オルソラがぱんぱんと手を叩いた。
「はいはい。神裂さん、そろそろ離してさしあげてはいかがでしょうか? そのままちゅーでもなさるおつもりでしたら、それもどうぞお早めになのでございますよ?」
言われて、神裂は自分が上条とおでこやら鼻やらがぶつかるぐらい接近していることに気づいた。
上条の目を見据えたまま、カーッと下から上へ赤面していく。
その空気に耐えかねた上条が「……あの、神裂サン?」と言った瞬間、飛び跳ねるように後ずさって行き、廊下の隅にうずくまってしまった。
「……なんだこれ」
率直な意見を漏らす上条さんだった。