この部屋に閉じ込められて、一体どれだけの日が過ぎたのか。
時計はおろか、窓すらないこの部屋では、正確な時間など分かりはしない。
ただ、時が過ぎていると実感できる、できてしまう時間はある。
それは――――。
「よーう、しばらくぶりだねぇ」
部屋の中に灯りが飛び込んできた。誰かが入ってきたみたいだ。
ああ。もうそんな時間なのか。
「今日は俺が相手だぜぇ。仲良くしてくれよな」
部屋に入ってきたのは男だった。と言うことは食事の時間ではない。ならば。
「……はい。おねがい。します」
自分の声が酷く耳障り。
「うんうん、素直になったモンだよな。これも教育の賜物?センセーうれしいよぉ」
喜色も露わに、男が私の顔を持ち上げる。
「じゃあ早速、今日のプログラムに行こうかぁ?」
男がカチャカチャとズボンのベルトを外す。
さぁ。これの時間が過ぎれば。次はきっと食事の時間。頑張ろう。
……頑張ろう?
何を頑張ると言うのか。
何を頑張れば良いのか。
私には。判らない。判りたくもない。
「さて、まずは復習だ」
そう言って男は、私の目の前に力なく垂れ下がった男根を差し出してきた。
「どうするかは、判るだろう?」
気色を隠さずに聞いてくる。そんなのは言われずとも判っている。
私は差し出された男根に手を添えて、それを口に含んだ。
口の中だけでなく、鼻の方にまで嗅ぎ慣れた匂いが充満してくる。
男が先を促すより速く、私は亀頭に舌を這わせた。先端から雁首、肉茎へと絡めていく。
「もっと奥まで飲み込むんだ……そうそう、上手だなぁ」
別にあなたの指示通りにしている訳じゃない、とは思ったがそれは口にはしない。痛いのは嫌だから。
段々を硬度を増してきたモノから、一旦口を離して一呼吸入れる。
男は何も言ってこない。これから何をするのか判っているのだ。そう思われているのも癪な様な気もする。
そんな事を考えながら、私は大きく口を開けてすっかり硬くなった男のモノを根元まで口に含んだ。鼻先をちくちくと突付く陰毛がうっとおしい。
「んぐ……。ぅ。…………っく」
喉で亀頭を締め上げ、舌を裏筋辺りにあてがう。そのまま頭を後ろに引いて口先まで亀頭を引き出してから、再び喉奥にまで飲み込んでいく。
「くっ……、いいよぉ……」
喘がないで欲しい。ただでさえ低いやる気が更に萎えてしまう。
しかし、それでも私は口淫行為を中断させない。この行いがすっかり染み着いてしまった我が身を嘆く。何の救いにもならないが。
「うっ、出る……っ!」
幾分もしない内に男は臨界点を突破したらしく、私の口から男根を引き抜く。その際に雁首を歯がかすめ、それが引き金になったのか、私の顔に白くて生臭い物を撒き散らした。
「いやいや、上手くなったもんだねぇ。こんなに早くイかされるとは思わなかったね」
先程より五割増のにやけ顔で、白く染まった私の顔を見下ろしてくる。
これで終わり、とはいかない様だ。
顔に付いた汚れを拭き取った私に、男はまっさらな巫女装束を差し出してきた。今日は着衣したままの行為を所望のようだ。
何も言わずにそれを受け取って身に纏う。
その後、四つん這いの状態で床に設置された枷に拘束される。更にギャグボールと目隠しまで装着させられた。身動きはおろか、周りの状況すら判らなくなった。
諦観が身を支配する。今日は痛いことをさせられるんだろうか。
しかし、私の予想に反して、男はそのまま何もしてこなかった。時間だけが無為に過ぎていく。
そんな中で、突然扉がノックされた。おかしい。この部屋にノックが響く事など今までなかったのに。
「お、やっと来たか」
そう言って男の気配が離れていく。次いで、ドアが開く音が聞こえた。
「あ、先生」
「よく来た。ま、入んなさい」
複数の足音が聞こえる。何が始まると言うのか。
「さて、ここにきてもらったのは他でもない」
男が入ってきた誰かに何事かを話している。
「キミたちは我が三沢塾の中でも優秀な人材だ。そんなキミたちに対して我々としても、何か特別な報いを用意した方が良いのではないか、と言う話が持ち上がってね」
声が近付いて来る。
「そこで自分が用意したのは、こういう趣向なんだが」
複数人の息を呑む気配を感じた。
「気に入ってもらえたかな?」
男の口調は腹立たしいほどに嬉しそうだった。
入ってきたのは三沢塾の生徒のようだった。
入室当初は困惑気味だったが、男の話を何の疑いも無く受け入れる辺り、ここの教師とそんなに変わらない人種のようだ。
男の方も、この話に反対しそうも無い生徒を選出して連れて来たに違いない。
「さぁ好きに使うといい。ただし前の穴は使用禁止だ。……そうだな。間違えていれる奴もいるだろうから、念のため塞いでおくか」
言って男は、緋袴を引き摺り下ろした。下着も着けていない下半身が多分会った事も無い男たちの視界に曝け出される。
それに対して感想を抱く間も無く、秘所にひんやりとしたものを貼り付けられた。前貼り、と言うものだろうか。
「……これでよし、と。さて、誰から行く?」
男に促されるように、一人の男子生徒が寄ってきたようだ。カチャカチャとベルトを外す音が後ろから聞こえてくる。
「最初はきついかも知れない。良かったらこれを使うか?」
その台詞が聞こえて暫らくしてから、唐突にぬめぬめしたものをお尻にかけられた。
ローションか何かだろう。
そう考えている内に、お尻の穴に硬い物が宛がわれた。
次の瞬間に訪れるであろう光景が脳裏に描き出される。幾度と無く見た光景だ。今更、心など動かされるものではない。
ズブリ、と私の体の内へ知らない人の男根が侵入ってきた。
「……っ」
ギャグボールを噛まされた口から唾液と共に声が漏れた。
うるさい。別にあなたのもので感じたわけではない。これは反射的にとってしまう行動だ。
投げかけられた言葉に心の中で反論する。
経験が無かったのか、数回腰を振っただけでもう射精してしまった。暖かな液体が私のお尻に振りかけられる。
周りから揶揄する声が投げかけられていた。その声に反駁しながら、その人は私から離れていく。
間を置かずに次の人が挿入れてきた。こう言っては何だが、小さい。
まぁこのままじっとしてれば良いのだろう。最初に予想していたものと比べれば、こちらの方が断然楽だ。
異変は、三人目が私の背中に放精した頃から始まった。
秘所が、酷く、熱い。
おかしい。私は全く感じてはいないというのに。
熱い。熱い。熱い。
息が乱し、体をくねらせる私の姿を見て、ずっと黙って鑑賞していた男が口を開いた。
「どうやら効いてきたみたいだねぇ?」
生徒たちへ話していた時とは違う、いつものこの男の口調だ。
「何のことかわからないかなぁ?そんな事はないよねぇ」
男の声を意に介せず、四人目がいれてきた。
今回は先程までと全く違った。
侵入してきた男根が酷く熱く感じられる。まるで焼けた杭を捻じ込まれたみたい。
「……っ!!……!」
突然の私の痴態に、周りから歓声が上がった。
「ふふん。気持ちいいだろう?」
生徒たちの悦ぶ声に気を良くしたか、男の舌が滑らかに回りだした。
「さっき貼ったものにちょっとした薬が塗ってあったんだよ。……弄りたくなってきただろう?」
男の言葉に思わず何度も肯いてしまう。
お願いだから、せめて手の拘束だけでも解いて欲しい。
「だが断る、なーんてな。最近態度が反抗的だからねぇ。ちょっとおしおきさせてもらうよぉ」
私の心の中に絶望感が芽生えた。このままの状態で放って置いたら、私の気が触れてしまいそうだ。
しかも、絶え間なく私を責めてくる人達も問題になってくる。今の状態では、この人達くらいの技巧でさえも私を逝かせるのには十分すぎる。
混乱する私に止めを刺すが如く、四人目が私の腸内で射精してきた。
灼けるような刺激が私の体を駆け巡る。
「――――――――っっ!!!!」
……もう、ダメかもしれない。
「……めがみちゃーん、姫神ちゃんってば!どうしたんですー?急にぼうっとしたりなんかして」
呆然と立ち尽くす私へ、小萌先生が心配そうに声を掛けてきた。
不意に蘇えってきた過去の映像に囚われていた私は、端から似れば随分と不審な人物だったに違いない。
「なんでもない」
短く返す私。
「ひょっとして上条ちゃんの事が心配なんですー?もうすぐ待ち合わせの時間なのに来る気配が無いですしー」
私の返事に何かを感じ取ったのか、小萌先生はそんな事を言ってきた。
「大丈夫。それは心配してない」
そう。上条君がいれば私は大丈夫。先程の映像だって、感触以外は不鮮明だった。
このままならきっと大丈夫。そう。私は大丈夫なんだ。
視線を何となく遠くへと投げると、脇の道から凄いスピードでこちらの方に走ってくる人影が見えた。
多分。今の私は。ちゃんと笑えているに違いない。
……だが、彼女は気付いているのだろうか。
大丈夫、と自らに言い聞かせている時点で。
それは既に『大丈夫』ではない、と言うことに。