白い部屋があった。壁も床も真っ白、10メートル四方の部屋の中央に置かれた丸テーブルと  
その周囲に並べられた椅子も純白であった。  
壁一面に備え付けられた大型ライトによって強烈な光を浴びせられ、  
椅子に座る人物の姿が照らし出される。  
胸の隆起等の体のラインから全員が女性である事は何とか解るが、  
服装に共通点はほとんどなく、また全員が被っている白い仮面によって顔は解らない。  
彼女達は個人差はあれど、大多数が落ち着かない様子でソワソワしていた。  
それぞれの前に拳大の赤いボタンと、そしてテーブルの中央に黒のスピーカーが置いてある。  
と、唐突にテーブル中央の黒のスピーカーから音が発せられた。  
『さてさて皆様、お忙しい中すみませんにゃー』  
変声機で音声が変えられているものの、口調でその人物がふざけているのが充分に伝わる。  
「アンタねっ!こんな馬鹿げた真似してくれたのっ!」  
彼女達の中のひとりがテーブルを叩いて立ち上がった。  
だがその叫びはヘリウムガスを吸った時のように奇妙な高音になっている。  
『正確にはアンタ達、だぜい?ミス・サード。  
 それに……解ってるのか?俺達に逆らったらあのデータがどうなるか……』  
彼女達のほとんどがビクッと反応する。ミス・サードと呼ばれた女の子も悔しそうに俯いた。  
『幸いここに集まってるのは全員同じ境遇なんだが……まぁ、俺達にもそれなりにデリカシーはある。  
 だから渡した仮面には変声機をつけてるし、名前ではなくコードネームで呼んでやってるんだ。  
 どうだ?寛大な措置だろう?』  
「……ふざけんじゃないわよ……アンタ達が誰で、どれだけいるか知んないけど……  
 絶対に後悔させてやるから」  
『おぉ、怖い怖い。まぁコレが終わればあのデータのオリジナルを配送してやるから  
 許してほしいにゃー』  
「それで、目的は一体何なんです?私らをあんな手段で呼びつけておいて、  
 お茶をご馳走してくれるってワケじゃないでしょう」  
『話が早くて助かるぜい、ミス・チョピン。何、そんなに難しい話じゃ無い。  
 ちょっと皆様の『体験談』っていうのを聞かせて欲しいんだにゃー』  
彼女達がざわつく。  
この正体不明の団体から送られてきたというのは自身とその想い人との情事の音声データだ。  
当然、謎の声の言う『体験談』というのもいわゆるそういう事についてだと限定される。  
「はぁっ!?  
 そんなの話してまた録音されたら永久に終わらないじゃないっ!」  
『だいじょーぶだいじょーぶ。録音装置なんてその部屋にはないぜい。  
 何ならボタンもスピーカーも分解して調べてみてくれても構わないんだが』  
「そんなの信用出来るワケないでしょうがっ!」  
ミス・サードの執拗な抗議に、……スピーカーの声の口調が変わる  
『……勘違いしてんじゃねぇよ。お前達の弱みをこっちは握ってる。  
 しかしお前達は俺達が何なのかさえ掴めてないんだ。どっちに命令権があるかくらいは解るだろ?  
 ………………それとも、ある日突然昼休みの放送代わりにあれを流され』  
と、そこで唐突に音声が途切れた。  
 
(調子に乗りすぎですっ!貴方は何でそう無闇に挑発するんですかっ!)  
(いちち……何もマジ殴りする程の事でもねーだ……  
 りょーかい、りょーかいだぜい。だからそのナイフをしまってくれ)  
 
『……あぁ、すまなかった。ちょっと回線の調子が悪くてな。  
 まぁ信用出来ないんなら次の脅迫が来た時への対策でも立てていればいい。  
 どうせやられっぱなしで済ませるつもりはないんだろう?』  
何人かの女性が頷いた。仮面の下の瞳は決してこのままでは終わらせないという強い決意を感じさせる。  
『じゃ、説明タイムと行きますか。お前達の前に赤いボタンがあるだろう?  
 自分の前のボタンが光ったらそいつの番だ。  
 ちなみに話の終わりはこの俺、マスク☆ザ☆カンチョーの独断だ。  
 何、難しい話じゃない。正直に語ってくれればそれで充分だ。  
 で、俺がオッケー出したら自分の前のボタンを押してくれ。  
 ルーレットが始まって次のヤツを決めるからな』  
 
『……じゃ、始めるぜい』  
ボタンが時計回りに点灯し始めた。  
 
回転が徐々に速度を落としていき……そしてツインテールの少女の前のボタンが一際大きく輝いた。  
『さて、最初はお前だ。ミス・ゼブラ』  
「しょうがありませんわね……少々恥ずかしいですけれど、正直にお話致しましょう。  
 私がその殿方と結ばれたのは……というのは少し語弊がありますわね。  
 私がその殿方に最初に襲われたのは、実は……公衆トイレでの事ですの!  
 白昼堂々血走った目をしたその殿方に追い回されまして……  
 公衆トイレに逃げ込んだんですけれどあっさり侵入されて……逃げ場を失った私にあの殿方は……!!!』  
 
(何か妙にノリノリよな。そもそもあのデータから察するに明らかな嘘なんだが……)  
(あぁ、実は彼女はこちらの協力者なんだよ。全てを話したら快く承諾してくれてね)  
(ちなみに、言ってる事は男女の役割を逆にすれば全て事実ですよ)  
(あァ、成程なァ。って事は最初に選んだのも全部演出ってワケかよ)  
 
「誰にも見せた事の無い私の大事な場所を散々弄んだ挙句……  
 ……凶器じみたその……あれで私の処女を奪い……うぅぅ……乱暴に私の中をかき回し……  
 そしてその狂った欲望を私の中に一滴残らず吐き出して……  
 しかも、それをネタに今まで何度も関係を強要されているのです!!!」  
あまりの熱の入りっぷりに、静寂が部屋中を支配した。  
『…………オ、オーケィだ』  
「あら、もう充分ですの?真昼間のビルの屋上である人を見ながらの羞恥プレイや  
 服をテレポートで奪われて全裸で自分の部屋まで帰るという露出プレイの話もありますのに……」  
『い、いや充分だ。つか充分過ぎだ。さっさとボタンを押して次の話し手を決めてくれ』  
ミス・ゼブラは思い切り手を振り上げた。そして  
「死ねぇこの類人猿があああああぁぁぁっっ!!!!」  
叫びと共に全力でボタンを叩き潰した。  
 
「おォ、いい感じに跳ねてンなァ」  
「えぇ、苦労して用意した甲斐がありましたね……えぇ、ホントに」  
「そういえば……仕組みは聞いてなかったな。  
 あの乳首と肛門にはったテーピングはどんな効果があるんだい?」  
「アレですか?元々はレベルの低い能力者の為の護身用武器って名目で開発されてたもので、  
 AIM力場―――――つまり、超能力の源をある神経パルスに変換するものなんです」  
「つっても触れてねェと効果がねェわ、そもそもレベル2以上じゃねェと発動しねェわで  
 あまりに使えそうにねェから開発中止になった不良品だがな。  
 まァレベル2のAIM力場で傷口に辛子塗りこむくらいの痛みが発生するらしィから  
 レベル4だと……それなりに愉快な事になってンじゃねェか?」  
「ボタンを通じて流れてくるその……AIM力場だったか?を動力としているのか。  
 猥談で精神を高ぶらせる必要があるのはこっちと同じか」  
「そういえばあの股間の呪符にはどういう効果があるんです?」  
「あれはあの陰陽博士お手製のもので、ボタンが受けた衝撃をダイレクトに伝えてくれるのよ。  
 しかも叩く時に魔力が付与されてたらボーナスダメージっておまけ付きなのが職人技よな」  
 
『あぁ、ひとつ説明し忘れてたんだが……このボタン、実は感度が鈍いんで  
 押すときは今みたいに思いっきり頼む』  
ボタンの光がある女性の前でとまる。  
かなり起伏の激しい体を白い修道服で包んだ柔らかい雰囲気の女性である。  
『ミス・オリーブ。あんたの番だぜい?』  
「あらあら……えぇと、これは困りました。  
 あまり人様にお話出来る様な事ではないのですが……  
 初めてあの方のものを飲んだ時にはその粘り気と匂い、苦さにとても驚いてしまいました」  
『……んん?ミス・オリーブ、解りやすいように話してくれ』  
「これはすみませんでした。  
 わたくしが初めてあの方と結ばれたのはわたくしのお引越しの時でございます。  
 たまたまわたくしが体を洗っているところにあの方が突入されてきまして……  
 戒律を破ってしまうという禁忌感がより一層の興奮を呼び」  
『いや、また話が飛んでるぞ。突入の後はどうなったんだ』  
「いえ、わたくしの体を見てあの方のある部分がちょっと反応してしまったのでございますよ。  
 とりわけわたくしの胸に興味を示されたようで、  
 いつか御礼をしたいとわたくしも常々考えていましたから、  
 とはいえお互い初めての身。何をしてよいかも解らずおろおろしてしまったのでございますよ」  
 
(つまり……コイツが『旗男』の原点かよ)  
(まぁ、あの胸は反則よな。大抵の男はいかれちまうってもんなのよ)  
(……そうですか?)  
(……そうなのか?)  
(……そういうもンか?)  
(…………あー……少数派に回るってのはいつの時代も寂しいもんよな)  
 
『おぉ、それで?』  
「あの方にシャワーの音で声を誤魔化していただかなければ  
 きっとあられもない姿を天 式の方々にも晒す所だったのでございますよ」  
『……また途中が激しく飛んだなオイ……』  
「一度してしまえば勝手がわかるもので、その……胸でいたしたりなど  
 あの方の望むがままに体を捧げる事に例えようも無い幸せを感じたのでございます」  
『……もういい。ボタン押して次頼む』  
「もうよろしいのでございますか?なら……えぃ♪」  
ゴスン。  
 
『アンタの番だぜい、ミス・ブランケット』  
光を放ったボタンがあるのは、まるで触覚のような強烈なアホ毛がはえたとても幼い少女の前である。  
「あの人との思い出はミ  とあの人だけのものっ!とミ カは  カは主張したいのだけど  
 そうはいかない悲しい現実と無力な自分に涙してみたり」  
 
(あァ?何でアイツがいンだよっ!関係ねェだろうがっ!)  
(おや、何でだろうね。解るかい?『仮面男』)  
(いえ、そもそも彼女達の招集は『スパイ男』に一任してましたから自分達に聞かれても)  
(いい度胸だ……よっぽど壁の染みになりてェみてェだなオイ……)  
(まぁまぁそうめくじら立てんでも……それに、本音を聞くいいチャンスでもあると思うのよ)  
(…………チッ)  
 
「実はあの人に抱かれてる時が一番好き、と  カはミサ は大胆な事実を告白してみたり。  
 あの人は普段は全然ミサ と目を合わせないんだけど、と サカはミサ は寂しい現実を語ると同時に  
  サ を抱いてる時は乱暴に見せかけて  カの様子を事細かに観察して  
   カの一番良い所をいっつもしてくれてる事とか  
 実はあの人なりの最大限の優しさを注いでくれてる、と  カはミサ は自惚れてみたり」  
『へぇ?そいつはそんなに優しいのか?』  
「それはもう、と  カは サ は発展途上の胸を精一杯張ってみる」  
 
(ニヤニヤ気持ち悪い視線を送ってくンじゃねェっ!あァっ!?何か文句あンのかよっ!)  
(あるかい『仮面男』?)  
(いえいえまさか。『扇風機男』はどうです?)  
(右に同じく、なのよ)  
(あァあァァああっっ!!!うっぜェなてめェらぁぁっ!!!)  
 
『成程成程……で、寝顔とかどうな』  
 
(……………わ、解った。もう止めにするからとりあえずプラズマ作るのはやめてくれ)  
(チッ……解りゃいいンだよ)  
(照れちゃってまぁ……)  
(可愛いところありますねぇ……)  
(最近流行りの『つんでれ』なのよな)  
(あァ何か言ったかてめェらっ!!!)  
 
『は、早くボタンをっ!』  
「あれれ、もうなの?と  カは サ はまだまだ語り足りないと言外に不満を潜ませてみたり。  
 でもまぁしょうがない、とミサ はミサ は大人しく従ってボタンを叩いてみる」  
ゴンッ。  
 
『ちゃきちゃき行こうかミス・サムライ!』   
艶やかな黒髪をポニーテールでまとめた長身の女性の前でボタンが光る。  
「わ、私ですかっ!?」  
『今更逃げ出すってのは無しだぜい?そんな事したらここにいる全員にペナルティだ。  
 ちなみに嘘をついたり、内容をボカしたりしてもペナルティ。  
 事細かに、詳細に、仔細漏らさず頼むぜい?』  
 
(止めなくていいのか?『扇風機男』)  
(…………)  
(血の涙を流す程辛いなら、耳を塞いで聞かない方が楽でしょう)  
(………………そうは、いかんのよ。我等  式は何があろうとあの方についていくと決めてんのよ。  
 あの方のありのままの姿くらい受け入れられなくてどうしてそれが叶うというのかっ!!!)  
 
「……実は……ある少年へのお礼という事でだ、だ、だ、……」  
『何だ?』  
「だ、……堕天使メイドセットという格好で会いに行ったのですが……」  
 
(だ、堕天使メイドっ!?一体何なのよそれはっ!?)  
(あー、このメイドソムリエ『スパイ男』の珠玉の一品だぜい。  
 血吐きながら組んだヒトガタの応用術式のおかげで、着てるヤツの感情に応じて羽や尻尾が動く機能付き!)  
 
『で?』  
「その……実は目的の少年に会った際にその服が破れてしまい……その…げ、玄関先で…は、裸を……」  
 
(……あー、つまり術式を組み込んじまったから触られると破れちまうわけか。  
 そういやセットの下着には自然なパンチラ演出の為に風の術式組み込んだしにゃー……)  
 
「そ、それでですね……つい叩き伏せてしまい……そ、その……介抱はしたのですが……  
 あまりに申し訳ないので……『私に出来る事なら何でも』と口走ってしまい……」  
『ほうほう』  
「それで、に、肉体関係を結ぶ事になったのですが、その、最近はその少年の要望がエスカレートして来まして……」  
 
(大丈夫かっ!?何かもう目がヤバいぞっ!?)  
(だ、大丈夫だ。これでもあの方から 草式を預かった身。そう簡単には……)  
 
「その……縛られたり、外に連れて行かれてそこで繋がったり、一日中……そ、その……  
 道具を使われたまま放置されたり……」  
 
(もう限界ですよっ!やめましょうっ!ホラ、早くこの耳栓を使って!)  
(だ……大丈夫だ……ま、まだまだぁぁっ!!!)  
 
「その……わ、私も……実は……最近……そうされるのが待ち遠しいというか、  
 そ、その……何と言うか……」  
『ハマってる?』  
「………………はぃ………………」  
 
(おいっ!おいっ!聞こえているか『扇風機男』っ!)  
(だ、だだい、だっだだだっ……だ、だいっ……  
 だだだだだーん☆)  
(マズイっ!『スパイ男』今すぐ止めてくださいっ!このままでは『扇風機男』の命に関わるっ!)  
 
『はいそこまでーっ!さっさとボタンを押して次の人を選んでくれっ!』  
「は、はいっ!」  
ガッ――――――――――!!!!!!!  
 
(うわっ!この聖人、今一瞬スティグマ解放したぞっ!?)  
(ボタンが粉々に砕け散りましたね……)  
(オイ、どうでもいいが泡吹いてンぞ。大丈夫かソイツ)  
(うわっ!こりゃ本格的にやばいんだぜい!まずはコイツの手当てが先かっ!)  
 
『一旦CMだにゃーっ!』  
 
(……ん?何か大切な事を忘れているような……)  
(何をボーっとしてるんですか『煙草男』っ!手伝ってくださいっ!)  
(あ、あぁ)  
 
 

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