黒い部屋があった。壁も床も真っ黒、10メートル四方の部屋の中央に置かれた丸テーブルと  
その周囲に並べられた4つの椅子も漆黒であり  
テーブルの中央におかれたろうそくがあるもののほとんど色を生まない。  
ロウソクの灯りによって4人の人間がいる事はわかるが、灯りが小さすぎて顔などはほとんど見えない。  
「さて、今日はお前等にお集まりいただいたわけなんですが……」  
「あァ?何なンだよこの部屋は?ったく、くだらねェ用件だったらてめェわかってんだろォな……」  
「おい、つ」  
「おぉっと!そこまでだぜぃ『旗男』!この部屋で名前を出すのは止めてもらおうか!」  
「ちょっと待て!『旗男』って何だ『旗男』って!それに何で名前を言ったらいけないんだよっ!?」  
「……やれやれ……相変わらず察しが悪いな。君は馬鹿か?そういえば馬鹿か。君は馬鹿だ」  
「おいそこの暴力神父っ!人をぽんぽん馬鹿呼ばわりしやがって!」  
「つまり、何らかの理由で名前で呼んではいけないんだろう?―――……何と呼べばいい?」  
「俺の事は『スパイ男』でいいぜぃ『煙草男』。『白髪男』も状況は飲み込めたかにゃー?」  
「まァてめェから連絡あった時点で何が起ころうが不思議じゃねェからな  
 イチイチ驚いてたりしてらんねェだろォが」  
「飲み込みが早くて助かるぜぃ。『旗男』もこれだけは理解しておいてくれ。  
 …………この部屋で『名前』を呼ぶ事がソイツの命に関わる問題に発展しかねないって事を」  
『スパイ男』の深刻な声に部屋の中の静寂に緊張が加わる。『旗男』が唾を飲み込んだ。  
「さて、全員がルールを飲み込めたトコロで本題に移ろうか」  
『スパイ男』がテーブルの上にプレーヤーが置かれた。  
「学園都市に新しく配備されたシステムを知っているか?  
 ガラスに赤外線を照射して室内の音声を傍受するっつう仕組みなんだが、  
 それの試験運転で集められたデータにこんなモンが混ざっててな……」  
 
『「うふふ、いけない子ですねー。こんなにして……」  
 (水音が続く)  
 「うぁ……その、もう……」  
 「んちゅ……もう我慢出来ないのですかー?……ふふっ、冗談ですよー。先生だってもう限界ですから。  
  そぅ……そのまま……ふあぁぁっ!?」』  
 
派手な音を立てて『煙草男』が椅子から転げ落ちた。同時に『旗男』が机を叩いて立ち上がる。  
「おいコラステ……『煙草男』ぉっ!!てめぇこ……『先生』に何してやがるっ!?」  
「ちょっ!ちょっと待て『スパイ男』っ!君はこれをどうやってっ!?」  
「だからさっき説明しただろうが。  
 新システムでヤバいデータがキャッチされたからそれの真偽を確認してるんだぜぃ。  
 片っ端から怪しいデータを消してもいいんだがそうすると操作したのがバレやすくなるんでな……  
 出来れば改竄は必要最低限に留めたいんだにゃー」  
「あァ?俺まで呼んどいてその理由がこれかよ?くだんねェ……帰るぞ」  
 
『「ひぐぅっ!?はぎぃっ!?うぁっ!?ぁあぁっ!?ミサひがぁっ!?カは……」  
 「あァ?どうした?」  
 「ひぅ……ミ  は、貴方がこ、れだけ激しくす、るのは   のコト嫌いだ、から?  
  と息も絶、え絶えに怯、えながら尋ねてみたり」  
 「馬鹿か。続けンぞ」  
 「そん―――ひゃうぅぅんっ!!?」』  
 
『白髪男』の額がテーブルに突き刺さった。『反射』を切っていたのかテーブルは砕けない。  
ようやく椅子に座りなおした『煙草男』が呟く。  
「いや、これは相手の女の子が可哀想だろう。『白髪男』、君はもっと女の子に優しくすべきだよ」  
「うるせェ!てめェこそ女に責められっぱなしでアヘ顔晒してんじゃねェっ!」  
「っ!?いやあの人本当に上手いんだぞっ!?僕だって最初は30秒もたなかったんだからなっ!」  
「そりゃてめェが早漏なだけだろォがっ!」  
「はいはい、そこまで。本当にお前等なのかどうか状況確認するからその日の流れを解説してもらえるかにゃー?」  
「はァっ!?そこまでしなきゃなンねェのかよっ!?」  
「だからデータの改竄を必要最低限にする為だ。お前だってこんな事で弱みを増やしたくはないだろ?」  
『スパイ男』の冷静な声に『白髪男』が押し黙る。  
「あ、日付は無し。ただその日を俺が確定出来る様に事細かにな。じゃ、『煙草男』から頼む」  
「ふぅ……しょうがないな。  
 あの子の様子を見に学園都市に来たら毎度の事だけど何故かすぐ『先生』に見つかってね。  
 宿泊場所は用意してるってちゃんと言ったのに『先生』の部屋に強引につれていかれて……  
 その日の夕食は確か『スッポンナベ』……って言ったかな?  
 今まで食べた事無かったんだが、あれはなかなか美味しかったよ」  
「オイ……ひとつ聞きたいんだけど『煙草男』、『先生』は夕食の材料をいつ買いに行ったんだ?」  
「うん?それは僕を部屋に案内する途中だけど……それがどうかしたのかい?」  
「いや、何でもねぇ……」  
(どんだけやる気なんだよ『先生』……)  
担任の知ってはならない一面を知ってしまい、『旗男』は次に『先生』に会う時にどんな顔をすればいいか悩み始める。  
「で、酔っ払った『先生』に押し倒されてね。  
 女性に手荒な真似をするワケにもいかないし恥をかかせるワケにもいかないし……  
 ちょっと待て!何だその軽蔑の視線はっ!  
 『状況に流されるなこのヘタレ』とでも言いたいのかっ!?」  
大体合ってたので三人は『煙草男』から視線を外した。  
「料理が特定出来たら行けるな。次、『白髪男』」  
「あァ?いちいち覚えてねェよ。あの程度いつもの事だしよ」  
「じゃあいつもの流れを頼む」  
「あ〜〜……アレだ。たまにアイツの部屋に行ったらニコニコ出迎えやがンだよ。  
 それ無視してソファーとかでゴロゴロしてたら決まってアイツが変な恰好してきて  
 ムカつくからその服ビリビリに破って犯してる」  
犯すという刺激的な言葉に『旗男』と『煙草男』が盛大にふきだした。  
一人『スパイ男』だけが冷静だ。  
「で、その恰好ってのは?」  
「あ〜〜……色々あンだが……体操服、セーラー服、ブレザー、チャイナドレス、  
 ナースにキャビンアテンダント、白衣、水着、ビキニとか古くせぇワンピースとか、あの学校指定のもあったな。  
 あ、『カナミン』だっけか?くだンねェ番組のキャラの時もあンだが……」  
流石は学園都市一位の天才、抜群の記憶能力である。制服の羅列はまだまだ続く。  
『スパイ男』も流石に記憶しきれなくなったのでポケットから取り出したメモに記録し始めた。  
 
「一番最近は黒のメイド服か」  
『スパイ男』の指の動きが止まった。  
「……おい、今何つった」  
「あァ?だからメイド服だよメイド服。見た事ねェのかてめェ」  
『白髪男』は呆れた声で返して……それから硬直した。『スパイ男』がガクガクブルブルと激しく振動していたからだ。  
たっぷり30秒間もの間震え続けた『スパイ男』はピタリと停止すると、机に拳を叩きつけて立ち上がる。  
「め……メイド服を破っただとぉぉっ!!?そのまま犯しただとォォっ!!?  
 お前っ!お前ぇぇぇぇっっっ!!!????」  
振動した時点で何かマズいと察していた『旗男』と『煙草男』が『スパイ男』を押さえつけた。  
「おっ落ち着け『スパイ男』っ!」  
「離せっ!離せぇっ!コイツに自分が何をしたのか骨の髄まで叩き込んでやるっ!」  
「だから落ち着けと言ってるんだっ!まとめ役の君が暴走してどうするっ!」  
数十秒間の激闘の後『旗男』と『煙草男』、そして『スパイ男』がようやく席についた。  
「あぁ……すまない、ふたりとも。ちょっと取り乱した……」  
「ちょっとじゃねぇよ!思い切りやりやがって!」  
「君はもう少し自分の技術の使いどころを吟味した方がいい……」  
二人とも顎やら鳩尾やらを押さえていて、かなり痛そうだ。  
中心人物の癖に我関せずを貫いた『白髪男』は勿論無傷である。  
「何なンだてめェらは……で、もういいのか?」  
「あ、あぁ……充分だ。特定には手間がかかるがこっちで何とかしよう」  
(とは言え……)  
『スパイ男』は『白髪男』の弱点を知っている。とても小さな少女だ。  
しかしその少女にピッタリのサイズのコスプレ衣装がそんなにあるとは思えない。  
つまり……  
(……こんなに愛されてるって事をコイツは解ってんのかにゃー?)  
不機嫌そうな『白髪男』の表情からはその真偽は読み取れない。  
気を取り直してプレーヤーを操作する。  
「さて、ここからが大仕事なんだが……『旗男』、これに心当たりはあるかにゃー?」  
 
『「ふぁ…くすぐったいよぉ…ひゃっ、とう ?  
  そんなにしたらも、も、もれちゃうよぉ…… うまっ!?  
  だからっ!もうだめだよぉっ! う っ!?と  !?とう―――――――」  
 (水音)  
 「ばかぁっ!と  のばかばかばかばかばかばかぁっ!」』  
 
「よし『旗男』、僕にだって慈悲の心はある」  
「ま、待て『煙草男』っ!何でてめぇはカード取り出してんだっ!?」  
「だから懺悔くらいはさせてやると言ってるんだ。その後地獄に落とすがね」  
「ほい、じゃ次行くぜぃ?」  
「次っ!?」  
 
『「だからっ!何でたたないのよっ!私が脱いであげてんのよっ!?」  
 「えっと、……まぁ男は緊張し過ぎると実はたたなくなるんだが……」  
 「そ、……そうなんだ。アンタもき、緊張してんだ……」  
 「なぁ、その、止めないか?お前だってあんな賭けくらいでこんなコト……」  
 「…………じゃない……」  
 「うん?何か言ったか?」  
 「賭けなんかでこんなコトするわけ無いじゃないっ!って言ったのよ!  
  だから……その、察しなさいよ……」  
 「お、おぉ……」』  
 
「よし『旗男』、僕の慈悲の心は今ので売り切れだ」  
「つかてめェ二股かけてンのかよ、最低だな」  
呆れた様子の『白髪男』の言葉が『旗男』の胸に突き刺さる。  
「ほい次」  
「まだあンのかよ?どんだけクズなンだてめェは?」  
 
『「気持ちいい?私。一人で練習してみたんだけど」  
 「うぁ……あぁ、確かにすっげぇいい……  
  姫 の手って柔らかくて……自分でするのとは全然違うわ」  
 「ふふ。良かった。上 君に喜んで貰えて私も嬉しい。  
  ……ねぇ。お礼は?」  
 「お尻……だよな?」』  
 
「うわああああああっ!!!うわああああああっ!!!  
 つか何でさっきから『煙草男』はカードの枚数数えてんだっ!  
 懐からカードがぎっしりつまった分厚いアルバム取り出してんじゃねぇっ!」  
「いや、なに。君が関係を持った女性の数×一万枚があるかどうか確認しておこうと思ってね」  
「すげェなァ、俺でもコレは真似出来ねェわ。感染症には気ィつけとけよ?」  
「次」  
 
『「バニー姿はなかなかの効果があった、と  カはあなたとの情事を思い返して自身の選択を評価します。  
  これが命の重みなのですね?とミサ はお腹の中の感触の意味を再確認しています」  
 「でも、ホントに良かったのか?中に出して……」  
 「貴方の全てを受け止めたい、と サカは自身の心中を吐露し、そしてそれが叶えられた事に満足しています。  
  さて、次のコスチュームのリクエストはありますか?と サ はさりげなく次の機会の催促もしてみます」』  
 
「おいコラ。アイツの奇行はこれが原因かよ?てめェ随分愉快な事教えやがったなァ……」  
「待てっ!待ってくれぇっ!俺かっ!?俺のせいなんでしょうかそれはっ!?  
 だって御……『妹』が自分から色んな服装で迫ってきたワケでっ!」  
「というかそんな体たらくでよく僕をヘタレ扱い出来たな。  
 僕がヘタレなら君は猿か?というかむしろ本当に霊長類なのか君は?」  
「……何か、俺の意図せぬところで話がこじれてきたな。  
 『旗男』からも一応状況を聞いておきたかったんだが……まぁいいか。  
 じゃ、積もる話もあるみたいだし、ここらで解散にしときますかにゃー?」  
「いやいやいやいや駄目ですよっ!このままだと俺――――ってゴルァっ!逃げんな『スパイ男』っ!」  
「さて、『旗男』。君には」  
「色々話してもらう必要があるみてェだなァ……」  
 
 
部屋の外に出た『スパイ男』は外から鍵をかけた。この部屋は完全防音で対爆仕様でもある。  
部屋の中で爆発が起ころうがプラズマが発生しようが外には漏れない。  
唯一中に持ち込んで全ての音声を記録していたレコーダーにのみ状況が記録してある。  
全ての作業が終わってこのレコーダーを処分すればこの部屋で行われた事は無かった事になる。  
「平和だなぁ……」  
天に燦々と輝く日光をサングラス越しに眺めながら『スパイ男』は穏やかに呟いた  
 
 
 
 
 
 
「ふ、不幸だあああああああああああっっっっっっ!!!!」  
 
 

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