「おい御さ……」
大雨の中、走り出した美琴に追いついた上条当麻はぎょっとした。
彼女は泣いていた。肩を震わせ耳を真っ赤にして、上条が追いついたことにも構わず涙を拭っている姿は間違いなく泣いていた。
「御坂……」
話しかけるが美琴は応えない。嗚咽を漏らしてただ顔を拭い続けるだけだ。
「……全部、偽者だったのね」
ややあって、美琴がぽつりと呟いた。
「……アンタは、アンタじゃなかったのね」
雨脚が強まっていく中でもその辛辣な言葉は上条の耳に届いた。
上条は、何も言えない。
「全部……全部全部全部! 妹達の時も海原の偽者に宣言した時も全部! ……アンタが上条当麻を演じていただけだったのね」
美琴の叫びは上条の胸を抉る。上条は違うと言いたいのだが、そう言えない。
記憶喪失がバレないように演じていたのは確かだからだ。
それでも、上条は自分が思ったことをしたという思いもあった。
「御坂、それは――」
しかしそれは結局口には出せなかった。
美琴が急に振り返ると上条の胸元に飛び込んだからだ。
「好きだったのに……」
頭一つ分、小さな体から言葉が聞こえる。
上条はただ聞いていた。
「アンタのことが……上条当麻のことが好きだったのに!」
絶叫するような告白が雨の空気を震わせる。
それが暗い空に吸い込まれて消えると再び、静寂の中を嗚咽が支配する世界に戻った。
――上条当麻は、今度こそ何も言うことができなくなった。