部屋にとりあえずの防御の術式を仕込んだあと、ぽてん、とベッドに倒れこむ。安ホテルのベッドは、いい加減スプリングがへたり、ギシギシ音を立てた。様々な勢力から追われる日々は、予想以上に神経にこたえている。幾房にも結んだ細い三つ編みが力なくシーツに広がる。  
“やれやれ、ってもんですね…”  
ベッドに仰向けに倒れこんだまま、少女、アニェーゼ・サンクティスはそんなことを考えた。身につけた地味なワンピースのすそが乱れるが気にしない。  
“なんでこんなことになっちまったんでしょうかね…?”  
答えはとっくにわかっている。彼女の所属する派閥から下ってきた、オルソラ・アクィナスの奪還命令。それに失敗した挙句、その責任をすべて押し付けられたからだ。  
その事件を思い出す。とはいっても、思い出すのはたった一人。自分を殴り倒し、250名もの闘争心を奪った一人の少年。  
“なんで…”  
その少年のことを考えるとき、はじめに浮かぶ言葉はいつも、何故、だ。あの少年は魔術業界とは全く関係の無い、一般人だった。少なくとも魔術業界的には。しかし、それにもかかわらず、ほとんど見ず知らずの他人を救おうと、200名からなる実戦部隊と殴りあった。  
その少年のことを考えると、アニェーゼはいつも胸が苦しくなる。胸を抱きしめて、思う。  
“カミジョウ、とか言いましたっけ・・・”  
 利害関係の無い他人を助けるその態度に、凄まじい違和感を感じたものだ。そう長くは無い人生の中で、利害に関係なく助けてもらったことが無かったから。  
 しかし、その少年はやって見せた。しかも、それが普通であるように。  
そのことを思い出すと、胸は苦しくなると同時に、熱くなる。胸だけでなく、全身が。  
 
その熱さを慰めるように、ひとりでに手が動く。  
「ん…」  
指がまだ慎ましい胸に触れ、上衣の上からその先端をやさしくさする。  
「ふううう…」  
見る間にその先端はとがり、下着を押し上げ、自己主張を始めた。  
「うんん…やあぁ」  
衣服の上からではもどかしい。  
“直に…”  
ワンピースの隙間から手を入れ、下着をずり上げる。  
「ひうっ」  
健気に起き上がった桜色のつぼみを指でつまみ、潰すように弄る。それだけで鋭い声を漏らしてしまう。  
「あ、あっ…」  
“この指が、カミジョウのだったら…”  
「ひあっ、ふう・・・んっ」  
上条の指を想像し、ひとしきり胸をいじめると、それだけで達しそうになった。  
ほほが上気し、瞳がとろんとする。幼い容姿と快感を知ったその表情。そのギャップが、この年代特有の壮絶な色気をかもし出す。  
「ん…」  
半開きの唇に人差し指を触れさせる。少しだけ濡らしたその指を、滑らかな腹部にツーッと下ろしていく。  
「ああ…」  
薄手の生地はその感触を良く伝えるばかりでなく、皮膚をこすり新たな快感を引き出していく。  
“感じるところじゃ、無いってのに…”  
本来は特に敏感ではない腹部に触れただけでこうだ。ならば、指の終着点ではどれほどの快感を呼び起こしてしまうのだろう?  
快感への恐怖と好奇心の赴くまま、アニェーゼは指を這わす。  
快感がなめるように高まっていく。  
震える片手でスカートを捲り上げた。その下の下着は、すっかり濡れぼそり、その中に息づく部位の形を浮き上がらせている。  
“見られちまい、ましたよね…”  
あの日、バランスを崩した上条にスカートの中を思いっきり見られた。そのときの視線を思い出すと、それだけ秘所が疼く気がする。  
 
その疼きにうかされる様に、秘所に触れた。  
「〜〜〜〜っ!」  
したことは、下着の上から秘所を下から上に撫で上げただけ。  
 しかし、布がいきりあがったクリトリスを擦り上げ、飛びそうなほどの快感を呼び起こした。軽く達してしまう。  
 一瞬呆けたその間にも、欲望に正直な両手は秘所を蹂躙し続ける。  
「あぅ、いや、駄目ぇ…!」  
 その手は本当に別人の手になってしまったかのようだ。  
 濡れ果てた下着をずり下ろし、容赦なくアニェーゼの秘所を攻め立て、快感を引きずり出していく。発毛の薄いアニェーゼの秘所は、すでに慎ましやかな花弁をほころばせ、蜜を滴らせていた。先ほど刺激された突起も充血しきり、ひくひくと震えている。  
「んくっ、あ、あ、ひ、ゃ」  
 クリトリスをつまみ、捻り、擦り上げる。  
「ひうっ!あうっ、強すぎるっ・・・!」  
 軽く爪まで立てると、電流のように鋭い快感が脳に走る。  
「はっ、はっ、はっ、んん、はっ」  
 綻んだ花弁のその奥に息づく、膣の粘膜を刺激する。狭い亀裂を広げただけで、白みのかった愛液が尽きることなく溢れ出してきた。  
「んんっ!」  
 人差し指を挿れる。ストリートチルドレン時代に変態相手の売春で処女などとっくに失った。  
 それどころか、膣の襞を刺激される快感も覚えている。幸か不幸か、アニェーゼのそこはクリトリスにも匹敵する快感をもたらしてくれる。  
 何度も男の剛直でえぐられたはずのそこは、しかし指一本でもきつい。アニェーゼが小柄なのもあるが、襞が吸い付いて離れないのだ。それでも指を激しく動かし、快感を貪る。  
「ん、んん、あっ」  
 さらに、中指まで挿入。蕩けたようなそこは、簡単にそれを飲み込み、しかし離さない。指にかかる抵抗が、ますます快感を引き出していく。  
「あう、ひ、あう、あああっ」  
 中指が、膣奥にあるしこりに届く。そこを激しく擦り上げる。頭が快感で埋め尽くされ、しかしなおもまだ足りない。一層擦りあげる指の動きに合わせ、くちゃくちゃと淫靡な水音が室内に響く。  
 
  両手は秘所だけでなく、その後ろのすぼまりにも伸びていく。さすがにこちらで男の相手をしたことは無いが、それでも十分な快感を与えてくれる器官と化していた。  
 「う、あう…変な感じ…」  
  軽く菊座の周辺に触れただけでも、じんわりした快感が呼び起こされる。あふれ出る愛液を指にこすりつけ、同じく愛液でぬれたそこにゆっくりと挿入していく。  
 「んんん…あはぁ…」  
  少しの間動かさない。しかし、菊座から直腸の内壁が勝手に蠢き、指に吸い付いて快感を引き出そうと催促する。  
 「ん、ん、ん…」  
  恐る恐る抜き差しを始める。ゆっくりとした動きにもかかわらず、もたらされる快感は秘所にも劣らない。  
 「あ、あひっ、ふああっ、いいっ、いいよカミジョウ…!」  
  上条の名を呼びながらはしたなくあえぐ。しかし、脳を埋め尽くす快感の前に、そんなことを気にする余裕は無い。それに、ただただ快感を貪ろうとするその姿は、淫靡な美しさに満ちている。  
 「ん、んっ、カミジョウ、もっと…!」  
  二つの穴をもっと満たして欲しい。その欲求に従い、前にも後ろにも、指を一本ずつ追加する。  
 「あふんっ、きついよぅ…」  
  限界にまで広がる膣穴と菊穴。指で埋め尽くされたそこから、狂おしい快感が呼び出される。  
 「あ、あ、ああっ、カミジョウ、カミジョウっ・・・!」  
  我慢できずに激しく抜き差しする。二つの穴も共に妖しく蠢き、最後の快感の頂点へと激流のように押し上げていく。  
 「あ、あ、あ、あ、あ…!」  
  あえぐ声が鋭く短くなり、切迫していく。体もびくびくと痙攣する。  
  そして。  
 「カミジョウ、カミジョウ、も、駄目…あ、あ、ああああああああああーっ!」  
  絶叫した瞬間、頭が白く染まった。頭に収まりきらない快感が全身を駆け巡り、全身を硬直させ、また跳ねさせる。上条を想って自分を慰める時に味わう快感は、その前のどんな快感にも勝る。  
 
 
「ふう、ふう、ふう…」  
 長く深い絶頂のあとの、荒い吐息と心地よい虚脱感。それにしばしの間身を任せる。  
 快感でまだぼんやりとする頭で考える。  
“カミジョウ…”  
 彼が見せてくれた世界は、優しかった。見ず知らずの他人にも、救いの手を差し伸べるような。  
 ストリートチルドレンだった自分がただただ望み、しかし、ローマ正教の孤児院で実戦部隊員として育てられた自分は諦めざるを得なかった世界。上条当麻は、その世界そのものだった。  
 あの日、寝ぼけた自分が彼の元を訪れたのも、その優しい世界のにおいに惹かれたからなのだろう。あの日はまだ無意識だったし、そもそも敵対していた。しかし、今でははっきりと惹かれているのを自覚できる。  
「これからどうしましょうかね…」  
 ぼんやりと呟く。当てなど別に無い。  
「…会いたい、っすね」  
 そんな言葉が、ふと口をついて出た。一瞬そんな自分に驚く。しかし、それはとてもいい思いつきに思えた。だから、  
“会いに、行きやしょう”  
 心に決めるとそれだけで、先ほどまで全身を覆っていた疲労が消えたような感じがした。  
 軽くなった体を動かし、手早く衣服を整える。姿見で確認すると、荷物を持ち、扉を開けて前に進んだ。軽い足取りで、恋焦がれた世界に会うために。  
 

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