「唐突どすが、上条はんをイギリスに連れてきてもらえんやろか?」
そんなことを緊急連絡用の回線で言ってきた女性、イギリス清教のトップ――ローラ=スチュアートに、
学園都市総括理事長アレイスターは、微妙にイラっと来た。アレイスターは多忙なのである。
今も、買ったばかりの大乱闘スマッシュブラザーズXをやろうとしていたところなのである。
心情的には「俺はスマブラを蝶・やりてぇんだよおとといきやがれ」なのだが、
一応相手は同盟相手であるからして、仕方なく話を聞いてやることにする。
「ふむ、確かに唐突な話だな……だが、その前に聞きたいことがあるのだが」
「なんどすか?」
本当はもうぶっちゃけめんどくさいので流してもいいのだが、ローラの目が「聞いて聞いて」と言わんばかりに輝いているので、
仕様が無く聞いてやる。
「……その喋り方はどうしたのだ?」
その瞬間、ローラの表情が「待ってました!」と言わんばかりの笑顔に変わった。
「待ってましたえ! その言葉!」
(本当に言ったよコイツ……)
ローラの無駄に長い説明を要約すると、以前から自分の日本語の奇妙さを指摘されていて気になっていたので、
新たに教わり直したのだそうだ。土御門に。ほぼ百パーだまされている。
どうせなら博多弁とかにすればいいのに、そうすればハラ筋捩切れるくらい爆笑するのに、
と内心で思いながらそんなことは欠片も表情に出さないクールなアレイスター。
「……それで。君の口調の件は良いとして、上条当麻をイギリスにとはどういうことだ?」
「どう、とはどういう意味どすか?」
「何か幻想殺しを必要とする理由があるのか? こちらでは、そうした情報は掴んでいないが」
「いや、そういうのとは違うんやけど……」
そう言いながら、なにやらもじもじとし始めるローラ。
アレイスターは年齢を考えろよ、と思ったが自分も人のことは言えないので黙っていた。
「うー、どーしても言わなあきまへんか?」
「別に言わなくてもいいが、その場合は上条当麻については諦めてもらうしかない。
理由も無く上条当麻を学園都市から出すのは難しい」
「例えればどれくらい?」
「学園都市で未だにポケベル使ってる者を見つけるくらい難しい」
「ほぼ不可能やないどすか……」
仕方ないどすな、と呟くと、ローラは不意に伏目になったかと思うと、
その自慢の長い髪をくるくると指先で弄び始めた。
「笑ったら怒りますえ?」
「笑わないから早く言え」
忍耐が限界を迎えつつあるのか、微妙に不機嫌なアレイスターの様子に気付かず、
ぽっと頬を朱に染めて、なにやらぬいぐるみのような物を抱きしめながら、ローラは言った。
「実はウチ、上条はんにぞっこん、なんどすわ」
「は?」
目の前で恥らうローラに、クールガイアレイスターにしては珍しく目を点にする。
よく見ると、ローラの抱きしめていたのは上条当麻(っぽい)人形である。
どうやら手作りらしいのがまた痛々しい感じがして、アレイスターは気付かなかった振りをした。
「ぞっこん、というと、つまり、好意を持っているということか?」
「んもう、乙女にこれ以上言わせる気どすか? イケズなお人やなぁ」
(……一、三、五、七……)
素数を数えてなんとか気を落ち着かせるアレイスター。
「……君は、上条当麻とは会ったことが無い筈だが?」
「そうなんどすけど、アレイスターはんから彼の映像を見せてもろうたときに、こう、ズキュンと来たんどす」
「……つまり、一目惚れだと? 理解しがたい」
「まあ、アレイスターはんの言うことも尤もやけど……軍神呼ばれる女の子が、鬼畜戦士に一目惚れ、
なんて話もありますよって」
そんなことを言いながらくねくねし始めたローラにとんでもなく疲れたような視線を向けるアレイスター。
もう何か色々どうでも良かった。
「もういい、分かった。上条当麻を近い内にそっちへ送る。後は好きにしたらいい」
「ほんまどすか? ……食べちゃっても?」
「私は好きにしたらいい、と言った」
次の瞬間「ひゃっほーう!」と歓声を挙げ始めたローラを無視して回線を遮断する。
「……ケロロを見て眠ろう。スマブラは明日だ……」
それからしばらくの間。アレイスター以外に誰も居ない、世界で最も安全なその場所に、
場違いなほど明るいケロケロケロケロという声が響いていたという。
後日談
上条が、学園都市との交流名目でイギリスにほっぽりだされて数日たった頃。
「アレイスター、レベル5を含む学園都市の生徒の何名かがイギリスに行こうとしているが……どうする?
一応、教師が二人、引率で付いていくみたいだが……ちなみに教師の内一人はアンチスキルだ」
「どうせ上条当麻絡みだろう。ほうっておけ、めんどくさい」
土御門の報告に、Wiiを片手に心底どうでもよさそうにアレイスターは答えた。