上条当麻は、身体にのし掛かる重みで目を覚ました。
「う…うん…?」
狭いバスタブの中、完全な覚醒には至らない。重い頭を覚醒させ、背伸びをしようと手を上に伸
ばそうとして、その腕が、後ろ手に縛られていることに気が付く。
その驚きに、頭が覚醒に至る。慌てて周りを見回し、間違いなくバスタブの中であることを確認、
そして―――
全く見覚えのない、やや幼げな少女が自分に跨っていることに気が付いた。
「え、なに? なにこの状況? アンタ誰? ひょっとして何、魔術関係の……」
慌てて大きな声を出す上条の口を、目の前の少女が慌てて塞いだ。
「だめだよう、インデックスちゃんが起きちゃうから」
そう言った、整った顔つきの少女の頭の上で、三毛の猫耳がぴくりと跳ねた。
(ね、ネコ耳っ?)
その手で上条の口を塞いだまま、その、上条には全く見覚えのないネコ耳の少女が口を開いた。
「あのね、あたし、スフィンクス」
口を塞がれたまま、なにーっ!!!! と驚きの叫びを上げようとして、モゴモゴと口の中で声が
跳ね返る。スフィンクス、と名乗った少女は上条の口を押さえたまま、
「だって、そうなんだもの」
と言って、ようやく上条の口からその手を離した。
「ちょっとまて、何か、これはその、なにか悪い夢か?」
上条の慌てきった呟きに、ぴく、とふたたびそのネコ耳を動かして少女が答える。
「夢じゃないよ、あのね、当麻くんはさ、魔術とか超能力とか打ち消すでしょ、でも、世の中にはエネ
ルギー保存の法則って言うのがあって、打ち消されたように見えてそのエネルギーは別の形で存
在するわけ。それが、当麻くんの周りでAIM拡散力場に近い状態を作り出していて――」
「いや、わかった、もういい」
上条の呟きに、何とかこの状況の説明を、と言葉を繋いでいたネコ耳の少女が口を閉じて上条を
見つめる。それから、ふたたび口を開いた。
「判ってくれたならいいんだよ! さすが当麻くんだよう」
少女がややつり目気味の瞳を細めて笑顔になった。対して、上条から出てくるのは溜息である。
「百歩譲ってお前がスフィンクスだとして、お前の説明はさっぱり理解できん。と、いうことで、俺が
ネコよりお馬鹿だというのが判ったから、もう説明しないで」
溜息と共に、よよと嘆きの声を上げた。嘆きながら、疑問の言葉を続けて口にする。
「で、お前、雌、というか、女の子というか、そうだったのか」
聞いて、少女が笑いながら手を振って答える。
「やだよう。三毛が雄なワケ、ないじゃない。そんなの天然記念物モノだよ」
たった今、弱い数ヶ月にして目の前にいる化けネコはどうなんだ、と言う台詞を飲み込んで、上条
はふたたび自分に跨る少女に尋ねる。
「そう言うことにしておいてだ、なんで今ここにいる。で、俺を縛ったのはお前?」
「うん。その右手で触られたら、元に戻っちゃうし」
さらりと答えて、ネコ耳の少女は後ろに身体をずらしつつ、上条のスウェットのズボンに手を掛け
た。
「ちょ、おい、何してますかっ!」
いきなりズボンを脱がし掛けられて、上条が悲鳴を上げる。
「えー。インデックスちゃんとはいつも一緒にいるけど、ごはん、食べさせてくれてるの、当麻くんだし。
暖かいところで寝てられるし。それも、当麻くんのおかげだし。何も出来ないから、身体でお返しし
てあげる」
そのつり目を上目遣いにしながら、少女が言う。しかし、その手は止まらず、上条の抵抗も虚しく
ズボンもろともトランクスもはぎ取られて