昼休み、一限後の休み時間に土御門と殴り合いをしてしまったため、上条は酷く疲れてしまっていた。  
さらに不幸な事に弁当を持ってきていないというのに、昼食を買うための順番争いに出遅れてしまい  
昼食抜きが決定していた。  
 
「不幸だー、って言うか土御門の奴。あんなに必死になって否定しなくてもお前がシスコンだってことは  
皆知ってるっつーの」  
 
 机に突っ伏したまま、上条は本人に聞かれたら間違いなく取っ組み合いになりそうなことをぶつぶつと呟いた。  
 
「一体何をしているのよ貴様は………」  
 
「ん…………ああ、吹寄か。上条さんに何か用ですか?」  
 
 声をかけられたので顔を上げると、そこにはモフモフとパンを食べている吹寄整理がいた。  
 
「………あげないわよ?」  
 
「そんな味気なさそうなの美味しいのか?……って言うか上条さん、そんなにもの欲しそうな顔してました!?」  
 
「味気無くなんか無いッ!!」  
 
 そう叫ぶや否や『脳を活性化させる一二の栄養素が入った能力上昇パン』なるものを上条の口にひとつ押し込んだ。  
 
「ふごあっ!!」  
 
 無理やり押し込まれはしたが、貴重なエネルギー源を逃すわけには行かず上条はおとなしくそのパンを租借する。  
 
「どうよ?」  
 
 腰に手を当てて胸を張り、吹寄は上条に感想を求めた。その態度を見る限り、彼女にとってそのパンは  
味気ないものではないらしい。  
 しかし、吹寄は「味気なくなんか無い」といっていたがこのパンはどう考えても、  
 
「やっぱり味気ない……」  
 
「どうやら貴様にはこの味が分からないようね……」  
 
 結局同意を得ることが出来なかった吹寄は呆れたようにしながらも、上条の机の上に座った。  
呆れながらもパンの袋を机の上に置いているのは、もしかしたら食べても良いと言うことなのかもしれない。  
 
「お昼ご飯、食べないの?」  
 
 味気ないパンに手を出していいものか、右手を中途半端に突き出したまま迷っていた上条にそんな声がかけられた。  
行き場を失った右手を引っ込めながら上条が声の方を向くと、そこに居たのは吹寄と同じく  
クラスメイトである姫神秋沙だった。  
 その手には、弁当箱が2つ提げられている。  
 
「ああ……出遅れちまったし弁当も持ってきてないからな」  
 
 再びパンに手を出していいものか考え始めたため、上条は彼女の手にある弁当の存在に気がついていない。  
変わりに吹寄のほうは、なかなかパンに手を出さない上条にやきもきしつつも眼の端でその弁当を警戒している。  
 
「お弁当、作り過ぎてしまったから、良かったら」  
 
 上条が察しが悪いことは承知の上だったのか、姫神はそう言って片方の弁当を上条に差し出した。  
 ちなみに、差し出した方の弁当箱の方が明らかに大きく、どう考えても余ってしまったというレベルではない。  
 
「ありがとうございます!!」  
 
 その弁当を受け取った上条は拝み倒さんばかりの勢いで、姫神に礼を言った。  
 テンションが上がって、露骨過ぎるフラグに微塵も気がついていない。  
 
「………別にいい」  
 
 姫神のほうはといえば、受け取ってもらえただけでも嬉しいのか、若干ほほを染めつつ上条の目の前の席を拝借して  
そこに座った。  
 もしかしたら、今日だけではなく何日も弁当を渡すタイミングを探っていたのかもしれない。  
 姫神の態度を見ながら、吹寄はそんなことを考えた。  
 
「別に関係ないんだけど」  
 
「ん?どうした、吹寄」  
 
「なんでも無いわよ!!」  
 
 何で吹寄さん機嫌が悪いんだろう、と考えつつも上条は周りを窺った。  
 いつもなら、そろそろ何か不幸が降りかかってこの弁当が食べられなくなるとか、そういうタイミングだ。  
 
「………どうしたの?」  
 
 弁当のふたに手をかけたまま周りを見回して警戒している上条に姫神が声をかけた。  
 
「いや、そろそろ青髪ピアスか土御門あたりが何か言ってくるタイミングなんじゃないかと」  
 
 周りを窺ってビクビクしながらそう言った上条に、ほんの少し同情した吹寄が口を挟んだ。  
 
「……大丈夫よ。あの2人なら、メイドの国を探しに行くんやー、とか言いながらどこかに走り去ったから」  
 
「うわあ………」  
 
 普段ならそれに加わっているかもしれない上条も、その言動の痛さに引いた。  
 これからはいろいろと自重しようと思いながらも、とりあえずの安全が確認できたため2人が帰ってくる前に  
食べてしまおうと上条はその大き目の弁当のふたを開けた。  
 
「おお……!!」  
 
 そこにあったのは、和食中心のさまざまなおかず、そしておそらくご飯は炊き込みご飯だろう。  
いつだったか、姫神に分けてもらったことのあるさくさく天ぷらも、おかずの中に入っている。  
 
「おおお!!」  
 
 その豪華さに感激しつつ、上条は箸を手に取る。  
 ……目の前でその様子を固唾を呑んで見守る姫神や、その豪華さに目を丸くしつつ  
「どう見てもあまり物じゃないじゃない」  
と呟いている吹寄のことは、まるっきり視界に入っていないようだ。  
 
「まずはこの天ぷらから」  
 
 上条はそういって天ぷらを口に運んだ。  
 
「味、どうかな……?」  
 
「うまー!!やっぱりすげえな、姫神。この天ぷらがどうしてこんなにさくさくなのか分かんないけど、やっぱりうまー!!」  
 
 興奮のあまり、どこか彼の同居人のような言葉を口走っているが、姫神はその反応にほっと胸をなでおろしている。  
 
「この炊き込みご飯もうまい!!」   
 
「……良かったら、明日からも作ってくるけど」  
 
「本当ですか!? って上条さんは感激ですけど、実際迷惑じゃないのか? 毎日弁当が余るわけじゃないだろ?」  
 
 姫神の、余ったからと言うあからさまな嘘を教室の中でただ一人真に受けている上条に、クラスメート達はため息を漏らす。  
 しかしそんなことは、今の姫神にとって問題ではなかった。  
 
「別に、一つ作るのと手間は変らないから」  
 
「本当か? だったら、上条さんのお昼の食生活を姫神さんに一任してもいいですか?」  
 
 上条のその言葉に、姫神秋沙は小さく、しかし確実に頷いた。  
 そんなギャルゲーかべたな青春ラブドラマのひとコマのような二人に置いてけぼりを食らった形の吹寄は、  
いち早くその状態から脱して上条に尋ねた。  
 
「姫神さんのお弁当、そんなに美味しいの?」  
 
 聞き様によっては、嫌な意味が含まれていそうな言葉だったが、その口調の中にそんなニュアンスを探すことは出来ない。  
そして、明日からの幸せな昼食を夢見て上機嫌な上条は吹寄が思った以上の形で、それに答えた。  
 
「おいおい吹寄。この姫神のお弁当をその味気ないパンと比べちゃ駄目だぜ、何ならこのさくさく天ぷら食べてみるか?」  
 
 そう言って上条は、天ぷらをひとつ箸で掴み、吹き寄せの口元にズイと突き出した。  
 
「………え?」  
 
 これは、俗に言うあーんして、である。  
 さすがに吹寄も、これには固まった。上条に自覚が無いだけたちが悪い。  
 それに、上条が食べている弁当は、姫神秋沙が上条当麻のために作ったものだ。それを自分が食べてもいいものか。  
 困った吹寄が姫神のほうへと視線をやると、寛大な表情で頷いている。  
 こちらはこちらで、明日からの昼食を思って幸せに浸っているようだ。  
 結局、吹寄は意を決してその天ぷらを食べることにした。いい加減手が疲れたのか、上条がプルプルと腕を震わせながら  
「早くしろー吹寄ぇー」といっている。  
 
「あ、あーん……」  
 
 口に出さなくてもいいのに、なぜか「アーん」と口に出してしまった。そのことに気がついた吹寄はひそかに顔を紅くするが  
目の前の2人はそれぞれお弁当やらなにやらに夢中で気がついていない。  
 
「うまいだろ、吹寄?」  
 
 もぐもぐと、吹寄に食べさせたらすぐに自分の分を口に運んで租借していた上条が吹寄に尋ねてきた。  
確かに、その天ぷらは絶品だった。上条が騒ぐのも、理解できるというものだ。  
 しかし、ここで引き下がるのも面白くない。  
 何故だか(本人はそう思うが周りにとっては明らかなのだが)吹寄はそう思った。  
 
「でも、手間は一緒と入っても材料費が大変じゃないの?」  
 
 だから、らしくも無くこんなことを言ってしまった。  
 
 あ、と上条も声を漏らした。おそらく、姫神は上条ほどではないにしろ裕福なほうではないはずだ。  
そんな彼女に、自分の分まで材料費を持たせるわけには行かない。  
 必要な額を言ってもらってそれの三割り増しぐらいを渡せばいいかなー、と上条は考えたが、それを口に出す前に、  
そして姫神が「そんなこと気にしなくていい」と言う前に、  
 
 「だから、二日に一度は私が貴様に作ってやるわよ!!」  
 
 吹寄が、そんな爆弾を投下した。  
 
 
 
その日の昼休みは、クラスメート達にとっても注目の的だった。  
 
 吹寄制理と姫神秋沙、今日どちらが弁当を作ってくるのかはわからないが、あのフラグボーイ上条当麻に  
かつて無いほどにあからさまなフラグが立ったのだ。  
 しかし、当の本人たる上条はなぜか朝からげっそりと疲れ果てたような表情をしている。  
 時折ぶつぶつと「あれは一体何なんだ」とか、「……もしやエンゼルフォール」とか呟いているあたり、  
また何か問題に巻き込まれてテンパっているのかもしれない。  
 
「どうしたんやーカミやん、元気ないでー」  
 
「ん、ああ……青髪ピアスか、いろいろあるんだよ。上条さんにも」  
 
 普段一緒に馬鹿をやっている青髪ピアスが絡んできても、それに合わせる元気すらない。  
 
「本当に元気ない見たいだにゃー」  
 
 しかし、土御門が声をかけた瞬間に、上条の様子が一変した。  
 
「つ、土御門、お前だなお前なんだろ、奴にあんなこと吹き込んだのは!!!!!」  
 
 がばー、と上条は割りと本気の力で土御門に掴みかかる。  
 クラスメートや青髪ピアスには、上条の言う「奴」と言うのが誰なのか分からない。  
 そしてそれは土御門にとっても同じことらしかった。  
 
「お、おいおい、どうしたんだにゃーカミやん。土御門さんは何も知らないぜよ」  
 
 上条の剣幕に押されて、あわてたように土御門が答えるとその答えに偽りがないことを悟ったのか、  
上条は脱力して再び席に座った。  
 
「チクショウ、お前もやっぱり関係ないのか……昨日も居なかったみたいだし」  
 
 再びぶつぶつと呟き始めた上条に、どう声をかけたものか土御門や青髪ピアスですら様子を伺っている。  
 そのまま時間だけが無駄に流れていくかと思われたとき、上条に二人の少女が声をかけた。  
 
「上条君、お弁当」  
 
「お弁当作ってきたわよ!!」  
 
「………え?」  
 
 何か、その言葉自体は嬉しいけど二つ重なったことでラブコメめいたことになった、  
そんな気がして上条は顔を上げた。  
 
「いや最初からラブコメだけどにゃー」  
 
 そんな言葉は聞こえない。  
   
 顔を上げた上条の前には、上条のためのお弁当を抱えた少女が立っている………2人。  
 上条は何でそんなことになっているのか理解できない。  
 そもそも一日交代で作ってきてくれるとか、そういう話だったはずではないのか。  
それがどうして、2人ともお弁当を二つずつ携えているのだろう。  
 どうやらそれは目の前の少女達にとっても同じことのようで、お互いに顔を見合わせている。  
 
「えー」  
 
 どうしたものか、この状況。  
 上条当麻は、この状況でどちらかを選ぶことは出来ない。  
 気まずい沈黙の中、「そういうのってそっちで打ち合わせてくれるじゃないの?」とか、  
いろいろな考えが上条の頭にめぐる。  
 
「「………」」  
 
「何やカミやん、僕らが知らん間にそんなフラグ立てたんかー!!」  
 
 気まずい沈黙を断ち切ってくれたというだけで、上条はこの瞬間青髪ピアスを心の親友と認めた。  
 
「あ、ああ……」  
 しかしその友情は、次の瞬間に砕ける。  
 
「あれ、カミやん机の中にもお弁当はいっとるやないかー、なんやクラスメートとのルートの入ったかと  
 思ったら、鬼畜ルートかいなー!!」  
 
 余計な事を!!  
 上条の心の親友という幻想は、その瞬間上条の中で粉々に壊された。  
 じいっと見つめてくる姫神と吹寄に気圧されて、上条は仕方なくその弁当を机の中から取り出した。  
 ピンクの包みがかわいらしい。  
 
「それ、どうしたの?」  
 
「………」  
 
 普段無口な姫神が尋ねてくる。  
 しかし上条にとっては、吹寄が無口な事のほうが恐ろしかった。  
 
「ええと………う、家の堕天使メイドが……………」  
 
 上条のその言葉に土御門は吹き出し頭を抱えた。  
 しかし彼のそんな奇行をものともせず、吹寄が上条に噛み付いた。  
 
「貴様、ふざけているの!?」  
 
「ひいいいいいいいい、違うんだよ。上条さんにもよく分からないんです」  
 
「堕天使メイドって………君はあのシスターにそんなことをさせているの?」  
 
「ち、ちげーよ!!インデックスにそんなこと出来るわけないじゃん!!」  
 
 姫神からかけられたあらぬ疑いに対して上条は猛然と反発した。  
 あの、ニートシスターをたとえ堕天使と言うよく分からない称号付きとはいえメイドなどと呼ぶのは、  
本職に対してあまりにも失礼だ。寧ろそんな幻想は殺す!!  
 
「嫌ね、俺にもよくわかんねーんだけど……」  
 
 上条は、そう前置きをして昨日のことを語り始めた。  
 
 

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