彼女の名は御坂美琴。通称ビリビリ……基、レールガン。
そんな彼女は、上条さんの姿を認めるや否や上条さんのもとへと歩み寄る。
理由は無い。彼女にとって、そんなものは必要でないくらい、上条さんは特別な存在なのである。
彼女は認めないが、そりゃもうバレバレである。つーか隠す気あんのかお前、という感じである。
「ちょっと」
自分が近づいてもノーリアクションな上条さんに、いつもながら少しイライラした様子で美琴が言う。
だが、ベンチに俯き加減のまま顔をあげることすらしない上条さんに、んん? となる美琴。
「……寝てるの?」
俯く上条さんを覗き込み、その目が閉じられていることを確認すると、急にそわそわしだす美琴。
「……最近は物騒だし? そもそもコイツは絡まれやすい性質なんだから、
こんなとこで寝かせたまま放っておくのは人としてどうなのよ?」
知るか、と傍から見れば言いたくなるようなことをブツブツ言い出す美琴。
こほん、と一つ咳払い。その後周囲をキョロキョロと見回した後。
「しょ、しょーがない。起こすのもなんだし、起きるまで、そ、傍にいてあげようかしら。
ちょうど歩き疲れてたし、良い陽気だし、花は綺麗だし、空は青いし」
いいから早く座れよ、と言いたくなるようなことをブツブツ言い出す美琴。
少し頬を赤くしながら、ちょこんと上条さんの横に、若干の間をあけて座る。
暫くそのまま、落ち着かない様子でチラチラと上条さんを気にする美琴。
上条さんは起きる気配なし。寧ろ花の香りに美琴の女の子フレグランスが混じって逆に良い感じである。
スピー、と幸せそうに眠り続ける上条さんの姿を見て、何やら決心した様子の美琴。
一センチくらい、近づいてみる。セーフ。
更に一センチ。セーフ。大丈夫そうだと安心して、次は五センチほど。セーフ。
そんなのを繰り返して、徐々にずりずりと上条さんに近づく美琴。
ぶっちゃけ、傍から見ると挙動不審の変な人だが、誰も見ていないので無問題。
そして結局、肩が触れ合うくらい近づいてみた。
コチーン、と氷像のように、いや、氷像は赤面なんてしないだろうが、それくらい固まっている美琴。
「ん……」
「ひう!?」
匂いに誘われたのか。突然美琴の方に寄りかかる上条さん。
先ほどまでの硬直は一気に氷解し、何とも可愛らしい悲鳴を上げる美琴だが、このことが逆に更に行動する切欠になったのか、
上条さんが眠り続けていることを十回くらい確認したあと、ごそごそと自分のポケットに手を入れる。
ポケットの中からは、いつぞや上条さんとペア登録した携帯電話。件のカエルさんがついているのは言うまでも無い。
美琴の携帯は、画質の良さがウリの機種である。勿論学園都市の最新モデルであるから他の機能も充実しているが、
画質の良さは特に飛びぬけていた。なんとなく画質が良い方がいいだろう、と選んだこの機種だが、今思えば、
この時の為にあったのかもしれない。
「起きたら気絶(ねむ)らすわよ……」
さり気なく理不尽言っちゃってるが、顔を真っ赤にしながらなので可愛いなもう許しちゃる、という感じである。
上条さんを起こさないように、注意しながら姿勢を変える。試行錯誤の末、こればっちりやない? という感じになれた。
流石に起きそうな気配を見せ始めた上条さんに焦りつつ、
「こいつ、こんな匂いなんだ……」
とか恥ずかしいことを呟きながら、美琴は丁度二人が納まるように携帯のカメラを合わせると、シャッターを切った。
「んぅ……?」
カシャ、というような音を聞いて、上条さんは目を覚ました。なんだかとってもリフレッシュした気分である。
それになんというかこう、柔っこかったような感触が、かすかに体に残っていたが、良い夢だったんだろうと勝手に解釈する。
「ああ、寝ちまったのか……」
伸びをしながら、ふと近くの時計に目を向ける。
スーパーのタイムセールが迫っていた。
「ヤバ!? 危うく寝過ごすトコっつーか今もピンチだ!!」
慌ててダッシュでその場を駆け去る上条さんを、近くの木に隠れて見送ると、
「……えへへ」
実に愛らしい笑みを浮かべて、美琴はさっきの写真を待ち受けに設定した。