ある日のこと  
一人のツインテールの少女が歩いていた  
「まったく・・・なんでお姉様はあんな類人猿のこと・・・」  
少女、白井黒子はブツブツと文句を言いながら歩いていた  
ことは二時間前に遡る  
 
 
彼女は先輩でルームメイトの御坂美琴と幸せ一杯で話していた  
 
いたのだが  
 
「でさ、あの馬鹿ときたら・・・」  
「まあ、ホントですの?」  
 
「その後あいつったらね・・・」  
「あ、あらそんなことを?」  
 
「まあ、そこがあいつのいいところなんだけど・・・」  
「へ、へぇ・・・」  
そんな調子でその後も三分に一回は[あいつ]がでてくる始末だった  
 
 
「せっかく私と話しているのにあの男の話しばっかり!」  
学園都市にある公園の一つを黒子は怒気をまき散らしながら歩いていた  
その恐ろしさたるや黒子の肩が不良にぶつかり不良がいちゃもんをつけようとしたところ  
「おいおい嬢ちゃん人にぶつかっておいて無視はねぇだ・・・」  
「あ?」  
「・・・なんでもないです・・・」  
といった具合だ  
「ああ、胸がムカムカしますわ!でも、これがお姉様を愛してる証拠なんですのね!」  
そんなことを言いながらくるくる回って一喜一憂する黒子  
 
器用にくるくる回転しながらもちゃんと進んでいた  
だが突然  
「!?」  
ガクッと体が落ちた  
黒子は体が宙に浮く一瞬の間に足元を見た  
そこは階段だった  
ただ、普通の階段よりもそれは明らかに小さかった  
普通の階段だったのならすぐに冷静さを取り戻し、彼女の能力である[空間移動]に難を逃れただろう  
だが階段が小さかったため地面が近く黒子自身くるくる回転していたので後ろ向きで頭から落ちている  
このまま落ちれば後頭部を打ってたたではすまないだろう  
その突然の出来事で頭の中で計算式など組むことができなかった  
ただ、ギュッと目をつぶる  
そして衝撃がーーー  
どさっ!  
・  
・  
・  
「あら?」  
後ろ向きに頭から落ちたにしてはあまり痛くない  
むしろほとんど痛くはない  
「いてて・・・大丈夫か?」  
下から聞こえてきた声に驚き、慌てて下を見る  
「どうした?どっか痛むとこでもあるのか?」  
そこには仰向けになったまま黒子を抱えて心配そうに黒子を見るあいつこと、上条当麻がいた  
「な、な、な・・・」  
顔を赤くして酷く混乱する黒子  
当然だ、黒子の学校の常盤台中学は女子校で男子禁制の寮  
極めつけは五つのお嬢様学校が作る共用地帯の男のいない街[学舎の園]  
 
多少男と話すことはあってもここまで密着する事はない  
黒子を地面に座らせて立ち上がる上条  
「まったく、気をつけろよ?一歩間違ったら大怪我してたぞ」  
そんなこと言ってるが上条の夏休みについて知る者がこの場にいたら  
おまえが言うなっ!  
と言っていただろう  
一度目は記億を失い、二度目は右腕を切り落とされ、三度目はボロボロになっていた  
特に記憶については上条は今も周囲をだまし続けている  
だからこそ気をつけろと言っているのだ  
そこでやっと我にかえる黒子  
(そうですわこの方は私を助けてくれたのですからお礼を言わなくては)  
「あ、ありが・・・」  
「それにしてもなんであんな風にくるくる回ってたんだ?」  
黒子のお礼を遮り喋る上条  
お礼を遮られてむっとしていたがどうして回っていたと聞かれてギクッとする黒子  
「そ、それはですねぇ・・・」  
言えない  
まさかお姉様を想って回っていて怪我をしそうになったなど口が裂けても言えない  
そこで黒子はとっさに嘘をついた  
「バ、バレエの練習をしていたんですの!」  
「バレエ?」  
「そうですの!淑女たるものバレエくらいどきなくては!」「ふーんこんなとこでも練習するなんて熱心なんだなお前、偉いな」  
 
そう言って黒子の頭を撫でる上条  
突然のことに顔を真っ赤にしながらも擽ったそうにする黒子  
その表情には拒絶の色はなく  
むしろ喜色があった  
だが暫くして子供扱いされているのだと気づき怒りだす  
「ほら、立てるか?」  
むっとしている黒子を宥めながら手を差しだす  
その手に自分の手を重ねて立ち上がろうとする  
「いたっ!」  
突然の痛みによろめく  
「おっと」  
しかし、すかさず上条が抱き止める  
第三者から見たら黒子を抱きしめてるようにみえるだろう  
「足けがしてんじゃないか?見せてみろ」  
顔が燃えているかのように真っ赤な黒子には全く気づかない鈍感上条  
「あー、足首が真っ赤に腫れてるな」  
自分でも見てみたが確かに腫れていて痛い  
「近くの水道で冷やして・・・ってないじゃん!?ここ公園なのに!」  
「あ、なら寮に戻りますわ空間移動ならすぐですし」  
「ていっ」  
「あうっ!?」  
そこまで言った黒子の額に上条はデコピンをした  
「あのなぁ・・・」  
上条にデコピンをされて赤くなった額を涙目でさすっている黒子に呆れたように言う上条  
「着地はどうすんだよ?空間移動たって少しは中に浮いてでるんだろ?」  
「あ・・・」  
 
すっかり忘れていましたわと言った感じで頬に手を添えている  
はぁ、とため息をついて上条は背を向けて屈む  
「?」  
その上条の行動に黒子は首をかしげる  
「ほら、なにしてんだよ早く乗れよ」  
「え・・・」  
それはおんぶをして寮まで運んでくれるということで  
おんぶということに行き着いて顔を赤くする  
「ほら、乗れよ」  
おずおずと上条の背に乗る  
上条が立ち上がり上条の首に手を回す  
そして、白井黒子は年上の男性におんぶされ送られるという  
今までの彼女の人生でも一番レアな体験をした  
 
 
歩き始めてから十数分がたった  
お嬢様学校の常盤台中学の女の子をおんぶしている  
それだけで周囲からかなりの注目を浴びたかがすぐに若いっていいねぇという表情で微笑まれた  
・・・自分たちだって若いだろうに  
不良にまで微笑まれてガンバ!という感じで親指を立てられた  
・・・なんか釈然としない  
暫く歩き続けていたら夕日が出てきて人が周囲にいなくなった  
「足まだ痛むか?」  
肩ごしに黒子を見て心配そうに聞いてくる  
「まだちょっと痛いですけど、だいぶ楽になりましたから」  
「そっか、よかったな」  
その笑顔があまりにもきれいで  
胸がドキリと鳴った  
 
「ん?どうした?」  
振り向こうとした彼の首をガシっと掴んでギギギギと無理矢理前を向かせる  
「な、なんでもありませんわ!」  
「は、はひ!?」  
そしてまた歩き出す  
少したって黒子は眠気に襲われた  
頭をこっくりこっくりやっていたら上条が前を向きながら  
「寝ててもいいぞ、まだ少しかかるみたいだし」  
空間移動を使ってのすぐは歩いてすぐとは限らない  
その上女の子をおんぶして歩いているので歩く速度は普段より若干遅い  
「そう・・・です、わね・・・少し、寝かせて、もらいます・・・」  
そして黒子は眠りについた  
その背中がとても大きく感じ、暖かで、ひどく安心した  
 
 
「寝ちまった、か・・・」  
(うう・・・自分で言い出した事だけど、上条さんはピンチですよー)  
白井黒子は中学1、2年  
その年頃はまだ未成熟の体  
しかし女の子であることには変わらない  
柔らかい肌、控えめだが確にある胸  
トリートメントだろうか?上条の頬に触れるサラサラとした髪から花のような淡く甘い匂いがした  
その上、無防備に上条の背で眠る黒子の穏やかで可愛らしい寝息が聞こえてくる  
健全な男子高校生である上条の心臓はドクドクと鳴っていた  
 
上条当麻は決意した  
「早くこいつを寮まで送り届けよう」  
女の子の寝込みを襲うなんて甲斐性はない上条だった  
 
 
白井黒子は夢を見ていた  
暖かくて、大きくて、優しく包まれている  
そんな幸せな夢だった  
だからこそ安心して眠れた  
もっと、もっと、もっと  
この温もりに包まれていたい  
 
 
 
「・・たぞ、白井」  
「うぅん・・・ふぇ?」  
「着いたぞ」  
黒子が見上げるとそこは自分が住む寮の前だった  
「で?どうする?中まで連れてくか?」  
「いえ、それには及びませんわ」  
「だけど・・・」  
「ここからなら直接ベットに行けますから」  
そう言われて渋々黒子を降ろす  
上条が触れていると[幻想殺し]の効果で黒子の[瞬間移動]が使えないからだ  
「では、ありがとうございました」  
「ああ、またなんかあったら気軽に言えよ」  
それを聞いて白井はニコリと笑ってテレポートした  
 
 
「あ、黒子お帰り」  
突然ベットの上に現れた黒子に出迎えをした御坂美琴はぎょっとした  
「ち、ちょっと!!どうしたのその足!?」  
少しだが足はまだ赤みを持ち腫れていた  
「ちょっと転んでしまいまして」  
「全く、気をつけなさいよ」  
 
「ああ!お姉様が心配してくださるなんて!もう毎回足を捻ってもいいですわ!」  
歓喜の表情でそんなことを言う黒子  
「・・・あんた絶対足に後遺症残るわよ?」  
そこまで言って、ん?と首を傾げる美琴  
「じゃあ、あんたどうやってここまで戻ってきたの?」  
「送ってもらいました」  
「誰に」  
「お姉様のよく知る人に」  
御坂美琴は検索を開始した  
御坂美琴は検索を終了した  
その間、僅か0.5秒  
もとよりそんな奴は一人しか覚えがない  
またあいつか  
そんな言葉が頭に浮かぶ  
「お姉様が言っていたあの人の良いところも何となく分かりましたわ」  
本人は気づいていないのだろうがその顔には朱が差していた  
口元がひきつる  
「そっか、そっか、ならお礼言ってきてあげるわ」  
外に出ようとする美琴  
「あ、いえもうお礼はしましたので」  
「後輩が知り合いに世話になったんだからその知り合いにお礼にいくのは当然でしょ?」  
「お姉様・・・」  
感動している黒子  
しかし、彼女は知らない  
御坂美琴がポケットにじゃらじゃらコインを入れてる事に  
 
 
「ふー、さっき自販機で買った[にがりゴーヤコーラ]はすさまじい味だった」  
上条はしかめっ面をしながら道を歩いていた  
「うう・・・まだ苦い、あれじゃソーダ水をそのまま飲んだ方がましだ」  
そんな苦い事で有名な物が二つも入っていたら当然だ  
「ふう・・・暇だなぁ」  
周囲は既に日が落ちて星が輝いている  
本来なら急いで帰らないと妖怪ハラペコシスターに頭をかじられるのだが  
ハラペコシスターはお供の猫と上条の担任で見た目12歳の小萌が買った超・豪華絢爛焼き肉セットを食べに行っている  
しかも、三連休を利用して二泊三日の泊まり掛けで  
「どんな量だっていうんだ・・・」  
上条が考えていると、ざっ!という音とともに誰かが後ろに立った  
「なんだ、御坂じゃん」  
振り向くとそこには御坂美琴が笑顔で立っていた  
上条はその時妙な寒気を覚えた  
「あんた黒子を送ってきたって?」  
「ああ、そうだけど?」  
「どうやって?」  
「そりゃ・・・こう、背中にせおっーーー」  
て、と言えなかった  
真横をオレンジ色の閃光が通り過ぎた  
ドオォォォン!!と冗談みたいな音が後ろから聞こえた  
さびた歯車みたいなギギギギという音をたてて後ろを見ると  
 
小型のクレーターができていた、アスファルトの道に  
「は、え?み、御坂センセー自分はなにも悪いことはしてないです!?ちょ、ちっ!ってなに!?」  
上条当麻は危険信号を発していた  
記憶を無くす前に見たことがあるのか  
美琴がコインを持つのを見ただけで  
逃げなくては!と思った  
「いったいなんだってんだー!?って、ぎあぁぁ!?二発同時はやばいぃ!!」  
叫びながら走り逃げ回る上条  
「とにかくあんたが悪いー!!」  
追いかけながら超電磁砲を連射する美琴  
「なんじゃそりゃー!?」  
結局、二人は朝まで命がけと嫉妬の鬼ごっこをした  
 
 
 
次の日の午後、黒子は風紀委員の仕事で地下街のゲームセンターの見回りをしていた  
足はすっかり治っていた  
「ケガが意外と軽かったのか、それとも治療が良かったのか・・・きっと両方ですわね」  
一人そんなことを呟く黒子  
その時、一角のゲームの前に人だかりがあるのに気づいた  
それは最新のゲームでゴーグルのような物を着け  
手と足にも中世の防具のような物を着けてスペースの中に入って動くとキャラがその通り動く  
今、一番人気のゲームだ  
このゲームセンターにも四台ある  
 
今は、なんと十人抜きをしている人がいるらしい  
プレイヤー以外は対戦の様子を大画面のスクリーンで見れる  
このゲームは武器も選べて相手は剣を持ってる  
だが勝ち抜きをしている人は武器を持っていなかった  
そのため、一際人が集まっていた  
足の指潰し、肘打ち、後頭部攻撃、耳への平手打ち、膝蹴り  
余りにも精巧に作られているこのゲームは人体の構造についても忠実に作られている  
故にそれを受けた相手はいとも簡単に倒れる  
しかし、その攻撃のすべてはぎこちなかった  
まるで他人の技を真似てるように  
「オラァァァ!!」  
連勝中の・・・彼は叫びながら右拳で相手のキャラを殴りとばす  
それは一番慣れた動きだった  
K.Oの文字が出てそこで彼はやめた  
周囲から人がいなくなって  
彼は機械をはずして出てきた  
「お疲れさまです」  
彼は黒子の方を向いて驚いていた  
「白井?足は大丈夫なのか?」  
開口一番に心配してくる彼に苦笑する  
微笑もうと思ったのだができなかった  
きっとそれは他の女性にも向けられる気遣いだと思ったら  
ひどく、悲しくなったから  
自分より三歳近く年上で背も自分より高い彼を上目遣いで見る  
「ええ、もう治りましたわ」  
足でトントンと地面を叩く  
 
「そっか、良かったな」  
そう言って頭を撫でてくる  
頬を朱に染めて目を細める黒子  
「そ、そういえばさっきのすごかったですわ!」  
「あれか?あれはなぁ・・・」  
そう言って気まずそうにする上条  
「なあ、さっきの俺ぎこちないとこあったか?」  
「え?そういえば、最後の右拳の一撃以外はどこかぎこちなかったような・・・」  
それを聞くと肩を落として大きくため息をつく上条  
自分が何か言ってしまったのかとオロオロする黒子  
「あの技な最後の奴以外、全部友達のなんだ」  
「お友達の?」  
「実はな・・・」  
 
 
話は数時間前に遡る  
朝まで鬼ごっこをを続けた上条は帰宅した直後に爆睡した  
そして、昼前に目を覚ましてクリームパン(一個)を食べていた  
何で昼にクリームパンを食べているのかというと  
それは上条が帰宅する前に寄ったコンビニで・・・  
 
 
午前四時  
「ね、眠い・・・朝はいいから昼飯買って寝よう・・・」そんな、説明するように呟きながら店内に入る上条  
「カップ麺あるかな?」  
「すいません、只今切らしております」  
「あり?そうなの?じゃあ、おにぎりでも・・・」  
「申し訳ありません、おにぎり、お弁当各種も只今切らしております」  
「・・・何故?」  
 
「実は商品を積んだ車が事故が原因の渋滞に捕まりまして・・・」  
申し訳なさそうに言う店員の言葉を聞いて顔を引きつらせる上条  
「パ、パンは?パンは幾らなんでもあるだろ!?」  
「あるにはあるのですが・・・このクリームパンだけ」  
こうして、上条は昼に甘いクリームパンを食べることになった  
閑話休題  
 
 
「閑話過ぎだろうが!!」  
「なに叫んでんだにゃーカミやん?」  
声が聞こえた方を向く  
そこには、扉を開けて中に入ってくる隣人、土御門元春がいた  
「よお土御門、てか勝手に入ってくんなよ」  
「カミやん朝帰りなんだろ?土御門さんはなんでもしってるんだぜい、お楽しみはどうだったにゃー?」  
上条の言い分をさらりと無視する土御門  
「・・・あれをお楽しみと言うなら俺はお前を脳外科に送る」  
「相当な目に遭ったんだにゃーカミやん・・・」  
カタカタと小刻みに震える上条を心配する土御門  
「まあ、それは置いといて」  
気を取り直して話を始める二人  
「なあ、土御門、頼みがあるんだけど・・・」  
「なんだ、カミやん?」  
真剣な顔になった友人を見てそれまでふざけていた顔が真剣になる  
「お願いだ土御門!俺は強くなりたい!」  
「カミやん・・・」  
 

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