いささか、唐突ではあるが。
幻想(おんな)殺しのレベル0。我等が上条当麻は、居眠りをしていた。
ぽかぽかとした、良い陽気である。上条さんが居眠りしているベンチの傍に咲く花々が風に揺らされる度、
なんとも癒し効果抜群な感じの花の香りが上条を包み、とてつもなく良い感じのくつろぎ空間を生んでいた。
いつも女の子……もとい、自分の為と称して他人の為に駆け回るお疲れな彼が、居眠りしてしまうのも仕方がない。
そんな彼のベンチに、歩み寄る人影一つ。
彼女の名は……
ビリっとデレる、御坂美琴(済)
フロントホック、吹寄制理
何故か巫女さん、姫神秋沙
右手で触れるな、風斬氷華
ザ・パンダ配色、白井黒子
幸呼ぶ一人花畑、初春飾利
さりげない乙女、佐天涙子
みんなが大好き、月詠小萌
作者が大好き、黄泉川愛穂(済)
→需要がないぞ、白カチュ娘
いや、名を上げるのはここでは控えておこう。その理由は「名前が明らかになっていないモブだから」ではない……ないんだってば。
ゴホン、とにかくである。彼女がこの光景に遭遇できたのはまったくの偶然だった。それは幸運と言い換えても良いくらいである。
今二人がいるこの場は彼女の生活圏内とはかけ離れた場所にあり、男女問わず誰かが近くにいる上条さんが一人でいる事など彼女の知る限りでは稀有なことであった。
そんな上条さんが一人静かにベンチに腰掛けている。
(これは、もしかして……チャンス到来なのでは?)
心にそんな淡い期待を抱き、ここを通りかかった他にある用事を思考の彼方に追いやり上条さんの座るベンチへと進路を変更する。
「ねー、上条くーん。こんな所でどうしたのー?」
普通に声が届く距離になって、いまだこちらに注意を向けない上条さんに緊張を押し殺して声をかけてみる。
…………返事がない。
聞こえなかった筈も無いし、ひょっとして無視されたかな?と絶望にも似た疑惑が湧き上がったが、上条さんの体勢と定期的に発せられる寝息からそうではない事を理解する。
「……こんなところでも寝ちゃうんだね、上条くん」
退屈な一般科目の授業中などで幾度と耳にしたこともある健やかな寝息を聞き、彼女は呆れたように呟いた。
と、その時。彼女の脳裏に天啓が降り立った。
上条さんは、授業の時でも教師に指された位では目を覚まさないような豪の者である。そして彼の隣には丁度一人が座るには充分なほどのスペースが開いている。
で、あるならば。
(今なら……行ける?)
聞くものがいれば「どこにだ」と突っ込まれるような事を考えてから、そーっと上条さんの左隣に腰を下ろした。
上条さんからしてみれば彼女は只のクラスメイト、良くて今の前に座る席の子であろう。だが彼女からは……、
「聞いてないから言っちゃうけどね、上条くん。君ってばクラスの女子に結構人気あるのよー?」
言外に「自分も含めて」の意を込めてそう告げた。
そう、彼女もまた上条属性の被害者なのである。いつからとかそんな野暮は聞いちゃいけない。だって上条さんだもの。
「だからね、席替えで近くの席になれた時はちょっと期待しちゃってたんだ。少しは仲良くなれるかなって」
言いながら起きる気配のない上条さんを、真横から観察する。
「ふぅん……いつもこんな感じで寝てるんだね」
彼女の席は上条さんの席の真ん前なので、授業中に彼の寝顔を確認した事は一度たりとも無かった。
「ま、私の席から見ようとしたら体を振り向かせなきゃいけないんだけど」
逆に、教壇上の教師から寝ている上条さんが確認されないように座る位置をちょっとずらしたりしていたり。
「ちょっとは感謝してほしいなー、って言っても上条くんは寝てるからそんなの知らないよね」
そう言って、彼女は少しずつ上条さんの横顔に接近していく。
「だから……知らない時にやってる事だから…知らない時にその御礼を要求しちゃっても……いいよね…?」
そしてその距離は限りなく零に近付き――――。
ぺちゃっ、っと言う感触を頬に感じて上条さんは目を覚ました。
「あれ……雨か?それにしちゃ明るいけど」
そう零しながら左頬に触れる。微かにだが確かに湿り気が感じられる。
「降り始めか、それとも天気雨か? って洗濯物!!絶対取り込むって発想は無いだろうし!!」
そう言って家路へと駆け出す上条さん。
真っ赤な顔で口元を抑えて歩くクラスメイトを追い抜いたことに気付く事も無く。