学園都市の建造物の狭間。学生の多い通学路からはそう離れていない、人気のない薄暗い路地。  
普段はここに何人かのスキルアウト……というか落ちこぼれ共が溜まっているのだが、この時に限ってはチンピラの一人もいなかった。  
居るのは、少女が一人。それもこの淀んだ空気には最も似つかわしくないと言えるであろう、常盤台の制服を着た中学生である。  
彼女がもたれかかる壁の周囲では、能力行使の名残である焦げ跡から未だ煙が立ち昇っている。  
「……雑魚相手には極力使わないって決めてたのに」  
御坂美琴は、自嘲気味に呟きながらもしきりに辺りをキョロキョロと見回して落ち着かない様子であった。  
しかし、この仕草が暴漢の類を恐れているゆえでないことは超電磁砲の異名から察して言うまでもない。  
おまけに焦っているようなその顔は、明るくはないこの場所においてもハッキリ分かるほどに真っ赤だった。  
少女の独り言は続く。  
「で、でもしょうがないじゃない、アイツらが私のことジロジロ見るからっ。だって今、私……うう、やっぱり……」  
「やっぱり、何だ?」  
俯き気味にボソボソ何か言っていた少女は、突如聞こえた男の声にびくりと硬直した。  
同時に視界に写ったのは、見紛うことなき待ち人の少年の靴。  
視線を戻せば、らしくないニヤニヤとした嫌な笑みを浮かべたボサボサ黒髪の少年の顔が目の前にあった。  
 
「と、当麻……っ」  
下の名前でこの少年、上条当麻を呼べるようになったのは最近のこと。  
彼の笑顔の意味を知っている少女は、未だ顔を火照らせながら怯えるように壁に背中を張り付けた。  
「心配だったんだぞ? こんなところで俺の美琴が傷つかないか、他の男に汚されないかとか」  
上条は後退りした美琴の細い腰にさりげなく左手を回しつつ、互いの鼻先がぶつかりそうなほどに顔を近づけて囁きかける。  
「それにしても、常盤台のエース御坂美琴サマがまさかこんなアブノーマルなシチュエーションをお望みとは。やっぱりお前Mだよな間違いなく」  
「わ、私じゃないわよっ! 元凶はアンタの家にあったエロ本じゃない! ……と、当麻は、こういうことが好きなんでしょ? だから私……」  
「野外が好きってわけじゃねえよ」  
「えっ、それってどうゆぅんっ!?」  
唇を重ねる。  
しかし、重ねるだけなのは一瞬で、上条の舌はすぐに美琴の口内をしゃぶりつくそうと侵入してくる。  
「……ん」  
そして美琴は、それに抗わない。  
誰もいない路地裏に少しの間、ぬめり気を帯びた虫の絡み合うような淫靡な音が響いては消える。  
やがて、ニチャッ、という音をたてて唇が、粘った液を間に繋げながら離れた。  
「……俺は、野外だろうと屋内だろうと、……たとえ、皆がいるところだろうとどこでも良いんだ」  
長い接吻で恍惚とした少女には、少年の優しく労るような声が随分久しぶりのできごとのように感じられた。  
しかし、自分を見つめてくる黒い瞳に魅入られ、  
「美琴がそこに居ればいい」  
「あ……」  
ただ一言言われただけで我に返り、少女はさらに顔が熱くなっていることを理解した。  
「怯えた顔、怒った顔、驚いた顔……今日は色々な顔の美琴を見ることができて俺、すっげー嬉しい」  
 
今度は唇が寄せられることはなかった。  
代わりに、腰に回していた手を下へとずらし、ミニスカートに隠れた腿を探るように愛撫する。  
「ひゃあっ……」  
「今度は、うんと恥ずかしそうな顔……見せろよ」  
押しても跳ね返してくる弾力を伴った、引き締まった両脚、そして下腹部。  
「ふぅ……ん、ぃっ……」  
それらを触れるか触れないかの絶妙な具合で撫でつつ、上条の指は美琴の一番恥ずかしいところを目指す。  
やがて、指に触れた生暖かい水の感触から、たどり着いたことを上条は察する。  
しかし、彼の目は今、他の意味で見開かれていた。  
「……直、に?」  
指に触れたのは、生暖かい愛液に濡れた布ではない。  
それは、ひだの付いた柔らかな肉そのもの。  
思わず上条が漏らした一言を耳にして、美琴は斜め下に顔を背ける。  
「……履いて、なかったんだ?」  
笑みの戻った表情で上条が問う。  
美琴は目を合わせないまま答えない。  
「へえ、そこまで本のシチュエーション通りにしてくれたんだ。……朝から学校でも、今までずっと?」  
「……」  
「違うか?」  
「…………む」  
すると、美琴は上条を睨むように見つめ返してきた。  
赤く火照った頬と、気丈さは失わないながらも潤んだ瞳の上目遣いで。  
大概の男なら容易く理性が焼き切れそうな、美琴の必殺技だ。  
無論、上条とてその男の例外ではない。  
「おいおい、そんな顔されちまったら俺」  
「分かってる……早く、来て?」  
目の前の少年の学ランの裾を掴み、胸板に頭を押しつけ、甘えた声で囁く美琴。  
上条の生殖本能が暴走したのはその後のこと。  
互いに抱擁するような格好で、二人は日の沈むまで、お互いの性を貪りあった。  
 

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