「ごめん、木山さん……俺、木山さんのこと嫌いじゃないんだけど……」  
 
それはまあ、私とて一応生物学上は女に類する人間である。  
人並みに恋をすることもあれば、その相手に好かれるためにはどうすればいいのだろうと思い悩むことだってあったのだ。  
柄にもなく可愛らしい服を着てみたり、少しばかりではあるが化粧をしてみたり  
勇気を出して積極的にその意中の彼にアプローチをかけ、そして最終的にこちらからの告白に思い切った事も一度だけあった。  
身だしなみには最大限の注意を払い(この辺りはそういったことに疎い私の変わりに当時の友人が甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた)、シチュエーションもおよそ考えうる完璧なものをセッティングした。  
雰囲気が恐らくは二人の間で形成できる最上のものが出来上がる瞬間を見極め、覚悟を決め、勇気で心を奮い立たせ、そして、私は精一杯の気持ちを込めて彼にその思いのたけを伝えた。  
……その告白に対する彼の返答が冒頭のセリフである。  
 
「けど俺……木山さんのことは、そういう風に思えないって言うか……」  
 
……ああ、知っていた。知っていたとも。  
私が男子達の間でなんと思われ、よばれているか……そして彼も少なからず私にそういう印象を抱いていたことも。  
 
『残念美人』  
 
『残念』で『美人』って一体どういうことなのだと思う。  
正直、これならまだ単純に「可愛くない」といわれた方が受けるダメージは少なかったであろうと思った。  
それならば、未完成な自分はここからまだ可愛くなれる、その努力もする……という気もおきたかもしれない……まあ、柄ではないだろうが  
しかし『残念美人』というその言葉は、まるで既に完成したものに一点の取り返しの付かない汚点があると言われているように思えて(もちろん、考えすぎといわれてしまえばそれまでかもしれないが)  
なにか心の奥に、強力なボディーブローを食らわせた後のようにじわじわと広がる痛みを感じずにはいられなかった。  
それ以来私は色恋沙汰をあからさまに敬遠するようになった。  
今の研究に興味を持ち、積極的に携わり始めたのがその頃で、そんな暇がなかったという事ももちろんあるにはあったが  
それ以上に私は臆し気味で、自分からそういった事柄には近づこうとはしなかった。  
その頃から自分の性質や容姿の特徴のことも己で自覚し始めた(最終的に自分で認めているのだから、これまた世話がないと思う)というのもあり  
『残念』、『惜しい』、『がっかり』、というパンチを貰うのも、もうたくさんだと思っていたのだ。  
 
しかし……いや、だからこそ……だろうか……  
 
『可愛い』……『好き』……『美人』……という真っ当で、愛に溢れる言葉に  
妙な……これまたらしくない  
まるで少女のような憧れを持ち続けて捨てられなかったのは。  
…………そんなことを言ってくれる男性など、この先もきっと現れないであろうと分かってはいたというのに。  
 
 
 
 
「先生、すげえ可愛い…………大好き、先生」  
 
思考がトリップしていたのは恐らく一瞬であったらしい。  
下半身に目をやると、そこには思考がトリップする前とまったく同じ―――私のショーツに手をかけ  
顔をこれ以上ないというほどの距離にまで近づけている―――体勢の彼がそのまだ小さな口で歯の浮くような……しかし、何故か私の血の巡りを加速させる言葉をひたすらに私に囁いてくる。  
 
「やっ……めるん……だ……今ならまだ……」  
「ここまでしておいてそれはないんじゃない先生……ここでやめられたら、先生だって困るんじゃないの?」  
「そんな……わけっ……やめるんだ……はや……く!」  
 
焦点の微妙に合っていない―――確実にアルコールのせいでそうなっている―――目で私の目を挑発的に見つめながら、彼はおかしそうに聞く。  
私はその彼の問いに言葉で……言葉だけでも強い反論を必死に示そうとする。  
なんとかここで踏みとどまらせる。踏みとどまってほしい。そうしないと私は……しかし、そんな行為と思いがまったくの無駄であるということを、彼はあっさりと……嗤いながら証明して見せた。  
 
「……ごめん、やだ」  
 
アルコールのせいで合いも変わらず脚に力が入らなかった……それを差し引いてもあまりにあっけない……  
あまりにもあっけなく、そして勢いよく、私の秘部を唯一包んでいた紫色のショーツが、彼の手によってずり下ろされた。  
 
「や……ぁ……」  
 
秘部が外気に晒された感覚、それを今まさに生徒に見られているという無情感、そして何よりも最後の願いさえ届かなかったという絶望感が私におよそ普段の私からは想像もできないような声を発せさせる。  
 
「だ、めだ……見ない……で」  
 
……さらに次の瞬間またも襲ってきたのは、決して見られたくはなかった場所……いや、『決して見られたくはなかった状況』を見られてしまったことへの羞恥心だった。  
 
「……やっぱり濡れてるね」  
 
ずり下ろされたショーツと露になった秘部、その間には確かにぬらぬらという光を反射する糸の橋がかかっていた。  
その光が私自身の目にも入り、私はどうしようもない羞恥と自らの無様さに覆われた。  
しかし、彼はそんなことなどお構い無しとばかりに手を止めようとはしない。  
 
「先生、俺の責めで感じてくれたんだ……嬉し……ちゅ」  
「ふああっ!」  
 
彼が私の秘部の上にある陰毛の生え際のさらに少し上。具体的にいうと丁度外から子宮の高さに相当して見えるだろう場所に軽く口付け、私はそれだけで面白いように反応した。  
その反応のあまりの過敏さに、私は自分自身の体を信じられなくなる。  
 
(ぅ……うそ……だ……)  
 
いくら今まで手をつけられていなかった下半身とは言っても  
性感帯などあるはずのないそんな場所に、軽く口付けられただけでこれほどまでに自分は反応し、乱れている。  
……ダメだ。ダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだ―――!  
 
本当に今更に、今まで何度も感じたはずの感覚を今度こそ、本当に、本当に強く感じた……分かってしまったのだ、恐らくコレは最後通告。  
今まで何度も警告を受けていながら、それをことごとく有用には活用できなかった自分への……最後の警告。  
私の体は私にこういっている。「ここで止まれなければ、もう止まることはできない」と。  
まず最初に感じたのは恐怖だった。  
生徒である彼への……ではない。このまま、本当に彼と交わってしまうのかという、あってはならない未来への恐怖。  
このまま、教え子に縛られ、翻弄され、なすがままにされて行為の終わりを迎える自分……そんな事態への恐怖。  
そこから派生した羞恥心―――自分よりも一回り以上も小さい(身体的にも経験的にも)男子に全てをさらけ出され、身体を弄ばれ、そしてそれに恐怖しているという羞恥心―――が第二の感情の波として押し押せてきた。  
それらの波はうねり、音を上げて私を飲み込もうとする。そう、『絶望』という海に。  
……しかし、ここで私は己のうちにある感情の波がその二つだけではないということに気づく。  
それがなんなのかまでは分からない。  
しかし、どうやら絶望とは違うらしい……もうほんの少し温かく、優しく……そして魅惑的な……  
しかし、何故だろう。この波にも私は呑まれてはいけないと感じた。恐らく呑まれれば最後、引き返すことはできなくなる。それが直感で分かった。  
この感情の波はいったい―――  
 
「先生って、今日は大丈夫な日?」  
 
思考は恐ろしいほどに長くしていたように思える。  
しかし、私の秘部の至近の距離から私の顔を見上げる彼の様子を見る限り、どうやら先ほどのトリップと同じく、あの思考は一瞬ないし数秒であったようだ。  
……そして更にもう数秒を先の言葉の理解に使用する。そして気づき、戦慄した。  
本気なのだ。彼は本気でこれから私の事を……  
 
「ねえ、どうなの、先生」  
 
……しかし同時に、これは好機でもあると直感が告げた。  
そうだ、恐らくこれが先ほどの警告が告げた『最後の引き返すべき道』。ここでこのチャンスを掴まなければ、私は先ほどの二つの感情の波に呑まれる事になるだろう。  
だがしかし、そのチャンスをつかむことができれば、少なくとも最悪の事態だけは避けられる……それも確信できた。  
感謝すべきは、アルコールに犯されてもなおそこまでの思考を損なわない彼の理性というべきであろうか。  
結論から言うと、今日は安全な日である。  
しかし、それを彼にバカ正直に伝えるわけには行かない。それはイコール、私が最後のチャンスを掴みそこねるということだからだ。  
 
「ぅ……今日は……」  
 
細心の注意を払い、顔をできるだけ恐怖と懇願の色で塗りたくった。  
決してバレないように、悟られないように……呑み込まれないように。  
 
「あぶ……ないん……だ……だから」  
 
本当に必死だった。この最後のチャンスをつかむために必死で真実を隠した。  
真実味はかなり出ているはずだ、なにしろ今私が抱えている恐怖はその日であろうとなかろうと等しくかもし出されるものであるから。  
私にとってその日かどうかは大きく関係はない。ただ彼と交わるという行為にただただ恐怖していたのだから。  
私がもっとも恐れることは彼とこのまま交わり、決して越えてはならない一線を越えてしまうことだったのだから。  
そのために私は最後の思いを込め、精一杯真実味を帯びた表情で彼へと懇願した。  
しかし―――  
 
「……先生が嘘はダメだと思うなあ」  
「―――え」  
 
今までがそうであったように  
最後まで彼は、その悪魔のような笑みで私の思いを一蹴した。  
 
ちゅ……く、ちゅ……じゅぶっ……ずっ、ずずずずずずずずっ!  
 
「やぁ、ああぁぁぁぁぁっ!!」  
 
頭の中が真っ白になった直後でようやく認識できたのは、恐らく彼が私の秘部を口に含み、力いっぱい吸い取ったということ……そして、その責めは今なお続行中ということだった。  
 
ずずずっ、じゅぶ、じゅ、じゅ……じゅる、じゅるるるる  
 
「ふぁあっ! やっ、い……ひゃ……ひゃああぁぁんっ!!」  
 
今までの快感が全てまとめてきても敵わないほどの快感が、秘部にまとめて集中し、そのまま私を責め続ける。  
 
じゅる、ずずっ、ちゅ……ぴちゃ……ちゅ、ちゅ……ちゅぶっ  
 
「ど……どお……ひて……」  
 
もはや口は人語を発する機関としての機能を有しておらず、呂律の回らないその舌はその発音をかろうじて発するだけだった。  
しかし、そんな私の問いとも言えない問いに、律儀にも少年は答えた。  
 
「先生ってさ、嘘つくときいつもよりちょっとだけジト目が深くなるよね」  
 
ぐちゅ  
 
「ふひゃあっ!」  
 
口から一度解放された秘部であったが、そこには休みなど与えられず、次は彼の細い指……それが一気に二本押し入った。  
 
ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅ  
 
「や、やめ……とめ……はっ、あぁぁぁっ!」  
 
指を激しく出し入れし、そこから飛び散る愛液も気にしないとばかりに彼は言葉を続ける。  
 
「自分で気づいてないんじゃないかって思ってたけどね……まあ、俺以外に気づいてるやつもそんないないだろうけど」  
 
グジュグジュグジュグジュグジュグジュグジュ  
 
「ふっ、あっ、あぁっ、んっ……やぁ」  
「他にも先生のことならなんでも分かるよ。ちょっと何かに傷ついてるけど俺たちに隠そうとしてる時の顔も、困った時のしぐさも、急いでる時にでるクセも……先生のことなら、誰にも負けないぐらい知ってる」  
 
グジュグジュグジュグジュグジュグジュグジュグジュグジュグジュ  
 
指を突きいれ、抜き差し、擦り、開き、曲げる。  
それらの行為がなされるたび、私は情けない嬌声を上げ、涎を上と下の両方の口から垂れ流し、視界がまた霞んでゆく。  
それは恐らく、限界が近いというサイン。  
自分よりもずっと小さく、幼く、ましてや自分が教え導くべき立場にある生徒になすがままに体を嬲られ……そして達するという限界を知らせるサイン。  
 
「先生、好き。可愛い先生も綺麗な先生もちょっと危なっかしい先生もえっちな先生も全部……全部大好き」  
 
グジュグジュグジュグジュグジュグジュグジュグジュグジュグジュジュグジュグジュグジュ  
 
指の速さが、今までよりも一層上がった。  
今までのいわゆる前戯的な動きではない……完全に、確実に、その指は私を堕とそうとしていた。  
 
「だから先生……イって。俺の指で……先生が大好きな俺の指で気持ちよくなってイって」  
「だめ……だ……やぁ……だ……め……ダメぇぇぇぇぇっ!」  
ぐじゅり  
 
その、最後の力を込めたひとつきで  
 
ぷ……しゃあぁぁぁぁぁぁ  
 
私は頂へと上りつめさせられた。  
 
「あ……あぁ……ぅ……」  
「先生イってくれたんだ……俺の指で気持ちよくなってくれた?」  
 
盛大に潮を吹く私の秘部をいつもとかわらぬ笑顔で見つめながら、彼は満ち足りたよう……優しく、本当に優しく。  
心の底から愛おしく思うものを撫で愛でるような優しい声で、彼は私に語りかけてきた。  
 
「好き……先生」  
 
……思えば私は、この声に、この彼の言葉に……どうしようもないぐらいに逆らえずにいた。  
そう、多分……最初に彼に『好き』だといわれた時からずっと……  
 
「あ………ぅ…」  
 
『先生、好き』  
ドクン  
 
『嘘。本当は好き。大好き。愛してる。結婚してほしい。ずっと一緒にいてほしい。  
ずっと俺のこと見ててほしい。』  
ドクン  
 
『先生のぼーっとした所も、危なっかしい所も、恥じらいない所も  
いい匂いがするところも、柔らかいところも、優しいところも……全部大好き。本当に好き』  
ドクン  
 
『先生のことなら、誰にも負けないぐらい知ってる』  
ドクン  
 
『先生、好き。可愛い先生も綺麗な先生もちょっと危なっかしい先生もえっちな先生も全部……全部大好き』  
ドクン  
 
(……ああ、そうか)  
 
その瞬間、私は唐突に理解した。  
先ほど、私が優しく魅惑的だと、しかし決して呑まれてはならないと感じたあの三つ目の感情の波の正体。  
それは―――『歓喜』。  
 
私は……喜んでいたのだ。  
自分よりもずっと幼い彼に「好き」だと「愛している」と「綺麗」だと「可愛い」と。  
そんな風に言われ、愛され……ともすればこうやって嬲られることでさえも―――  
 
(嬉し……かったのか)  
 
―――私は歓喜し、己の快感としていたのだということ。  
 
(私……は……)  
 
そしてもう一つ……先のこととほぼ同時に、私には理解できたことがあった。  
 
その『歓喜』の波が、今まで必死に自分が築いてきた倫理という名の防壁を  
既に、もはや壁といえないまでにボロボロに砕いていたこと…………私は確かに、それを感じ取っていた。  
 

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