衝撃の堕天使メイド事件から一夜明け。神裂火織は住み慣れた女子寮へと戻って来ていた。  
 
「くっ・・・決死の覚悟であの恰好をしたというのに・・・」  
 帰路に着いてからもずっと思い出されるのはその事件の事。病室の戸を開け放った瞬間、中に居た三人は時が止まったか  
のように凍り付いていた。  
「何がいけなかったのでしょうか・・・?」  
 思えばあのバカの口先に踊らされてあんなこっぱずかしい恰好をしたはいいが、その姿を見せただけではやはり恩返しに  
はならなかったようだ。気付くのが遅いですね。  
「そう言えば、あのバカが口走っていた『挟んで擦る』とは一体・・・?」  
 おぼろげながら口走っていた言葉の断片を組み合わせていく。とりあえず「胸」が関係してるらしい。それもどうやら大  
きくないといけないようだ。しかし・・・  
「何をどうすれば・・・?」  
 難しい顔のまま廊下を歩いていく。繋がりがまた戻った事だし、いっそ建宮や五和に訊いてみようか?いやいやそれはで  
きない。建宮に訊くのはなんかもうそこはかとなく嫌な予感しかしないし、かと言って五和に聞くというのもなんか釈然と  
しない。女の器がどうの言われて比べられた所為だろうか?  
「むむむ・・・」  
 そうこうしてるうちに食堂へと辿り着いた神裂。其処にいたのは  
「あらあら、随分と難しい顔をなさってますわね?」  
 オルソラと  
「久し振りに故郷の国の土を踏んで来たって割には、あんまいい顔してねえですね?」  
 アニェーゼと  
「なにかまた面倒ごとですか?」  
 ルチアだった。何時もルチアとセットでいるアンジェレネの姿が見えないのは、何かしらの当番だからだろう。  
「あぁ、いえ。大した事では」  
 無いんですが、と告げようとしてはたと気付く。アニェーゼはともかく、他の二人の胸元。オルソラのそれは、身体の他  
の部分が割とほっそりしてるのに比べて明らかに大きいようであり、修道服を押し上げているそのふくよかさは用意に見て  
取れる。  
 ルチアの方も、オルソラと比べると幾分ボリュームが足りないようだが、それでも充分大きいといえるだろう。  
 もしかしたら、この二人なら『挟んで擦る』と言うのが何なのか知っているのかもしれない。  
 しばし唸りつつ、二人の胸元をジロジロと見比べている神裂に、不信げな表情を向けるルチア。  
「?さっきから一体何を唸っているのですか?」  
「いや・・・その・・・」  
「何か悩み事ですか?私でお役に立てることならお話を聞きますが・・・」  
 言い澱む神裂に、首をかしげながらオルソラが先を促す。アニェーゼはと言うと、神裂の視線の先を辿った挙句、自身の  
胸元を見下ろして溜息を一つつくと、「チッ」と舌打を残して去っていってしまった。自分が追い払ってしまったように感  
じて少し申し訳ない気持ちになる神裂。だが、おかげと言うべきか、だだっ広い食堂に三人きりになった。  
「実は・・・」  
 堕天使コスの事は一先ず隠して、件の少年への恩返しについて話し始める神裂。借りを沢山作っているので、ただ会って  
お礼を言うだけではすまないと某バカに言われたが、自分でもそうだと思っている事。借りを返す方法としてそのバカが言  
ってた『挟んで擦る』と言うのが何を意味してるのかさっぱり見当もつかない事。  
 話を聞き終わった二人も、神裂と同じく難しい顔をしている。上条への礼なら自分達もちゃんとしたいという気持ちが少  
なからずあるが、その『挟んで擦る』というのについては皆目見当もつかないらしい。まあしょうがないよね、シスターな  
んだし。  
「そのバ、もとい土御門さんのおっしゃってた事をまとめると、その・・・この胸で何かを『挟んで擦る』んですよね?」  
「えぇ、そうらしいです。ですが、ここをそんな使い方するなんて話、今まで聞いたことが」  
「そうですね・・・私も覚えがありません」  
 うむむ〜、と三人揃って腕組みをして悩み始める。たまたま食堂の入口前を通りがかったシスターが、腕組みをした事で  
さらに大きく見える胸元を見て、アニェーゼよろしく舌打ちして去っていった。  
 
 ここで悩んでいても知らないものは知らないし、思い当たらないものは思い当たらない。という事で、三人は連れ立って  
他の誰か、に聞きに行くことにしたのだが。運が悪かったと言うべきなのだろうか。寮内にはとんど人が居なかったので、  
とりあえず外へと出ようとしてた三人が真っ先に出会ったのは、運び屋―オリアナ=トムソンだった。暴動事件の時に一時  
協力の契約を結んでいた彼女だが、一時契約が終った後、次に何か指示が出るまでの間監視という意味も込めてかこの寮へ  
と間借りしているらしい。  
 どうにも神裂やルチア辺りとは、性格的な意味で絶望的なまでに相性が悪そうな彼女だが、この場にはもう一人、オルソ  
ラが居たのだ。にこやかに話し掛けた相手がどんな人なのか、この時のオルソラはまだ知る由もなかった。  
 
次回・『挟んで擦る』お礼の仕方を訊ねられたオリアナに、悪戯心が湧きあがる。当麻の元へと訪れた4人は一体・・・?  
「さ〜ってと、んじゃ、今からやって見せてあげるからね〜?」  
「なっ!?貴方、一体何を!」  
「ちょ、なんなんですかこの状況は?!上条さんに分かるように誰か説明プリーズ!」  
「あらあら、そう言う風にやるのですか。では次は私が」  
「ん・・・こ、こんな汚いものを肌に直接触れさせるなんて、本来なら絶対にありえない事なんですからね?」  
「さぁて、あとは貴方だけよ?神裂さん?」  
「くぅ・・・や、やります、やればいいんでしょ!」  
 

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