日本には世界でも一つしかない機関がある。  
それは超能力育成機関であり、機関には超能力を育成するための教育施設が集まった都市があった。  
通称学園都市と呼ばれるその都市には、名の通り中学から大学までの学校があり生徒用の寮もある。  
その数ある寮の一つの比較的平凡な男子寮で、何故だかバスルームで睡眠をとろうとしている青年がいた。  
名前を上条当麻。機関には無能力と認定されている彼だが、実際は『幻想殺し』という異能の力なら何だろうと打ち消してしまう非常に貴重な能力を持っている。  
とある事情で彼は夏休み以前の記憶を持っていない記憶喪失者である。彼はある一人の少女の笑顔を護るために、誰一人にも記憶喪失した事実を告げず、偽りながらごまかしながらも生活を続けていた。  
 
 
(俺はちゃんと“上条当麻“として暮らしているだろうか?)  
上条は自身に問いかける。  
自分自身で決めたことにより他人にも相談もできず、自分が自分でいられているか不安になるのも当然かもしれない。  
(誰にもバレてないてこだとは大丈夫と考えていんだよな。あーもう、変なこと考えてないで明日も学校だし寝るか…。)  
ふと学校のことを考えたからか、上条の頭に一人の担任教師の顔がよぎる。  
(そういえば、小萌先生とはどんな風に出会ったんだろ。…今の俺じゃ分かるわけないか。)  
上条は自嘲気味に呟くと今度こそ本当に眠りについた。  
 
 
(そういえば彼は駄フラグとか言ってたけど私も含まれてるのかな…。)  
上条のクラスメートであり、訳あって担任教師の月詠小萌の部屋に居候している姫神秋沙は心の中で呟く。  
(上条君にとっての私はやっぱり大多数の内の一人にしか過ぎない。分かってはいるつもりだけど…。)  
「何思考にふけってるんですかー?姫神ちゃん。」  
「わっ」  
姫神の正面には部屋の主である小萌がたっていた。考え込んでいた姫神は気づいていなかったようで、彼女にしては珍しく動揺していた。  
少し間を空け落ち着いた姫神は小萌の目を真っ正面から見つめた。  
(小萌も自分で上条君となにかあったようなことをほのめかしてたし…。)  
「…?なんか先生の顔についてますかー?」  
「…小萌が上条君と初めて会ったとき、彼はどんな感じだった?」  
姫神の言葉を聞いた小萌は、あまり上品ではない笑みを浮かべ。  
「うふふ、上条ちゃんのことを考えてたんですかー?」  
「…」  
「そうですねー。今と比べると、もうちょっとツンツンしてましたねー。」  
「ツンツン?」  
「髪のことじゃないですよ?先生が最初に上条ちゃんに会ったのはですね―」  
 
 

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