「ふぎゅふっ……!!!」  
 獲物を狩るような視線を向けたオリアナが、その手を伸ばした。  
 藍染めのデニムの分厚い生地に阻まれていても、指などではない何か別の生き物のような、  
淫らに絡みつくその感触が上条を襲った。  
 半ば空気が抜けるかのような、情けない声が漏れる。  
「うわ、ホント、凄いんだ……。自慢して良いわよって、お姉さん、思うな」  
 絡む指を小刻みに動かしながら、今度はその肉感的な唇を上条の耳に寄せたオリアナが言う。  
「くふっ、く、お、おい、やめろよ……」  
「嫌よ」  
 理性などでは制御できない男の性に指を絡みつけられ、それでも何とか抵抗しようと口を開  
いた上条だったが、即座に拒否の声が返ってきた。  
「こんなに、自分で止められなくなっちゃうくらいにまでお姉さんを仕込んでいったのは、君  
でしょ?」  
 言って、オリアナは甘い吐息を吹きかけながら、上条の耳を甘噛みする。耳の奥から、下腹  
の奥から、背筋から駆け上がる甘酸っぱい刺激が、上条の身体を痺れさせた。声も出ない。  
 まだ痺れも抜けないうちに、オリアナの唇がそっと離れる。離れて、熱く湿った吐息と共に、  
また声が忍び込んでくる。  
「ぶん殴って仕込んじゃうなんてさ、君ってすっごいサディストなの? それとも、お姉さん  
が素質アリ、だったの? ………ううん、どっちだって良いわよそんなの……。ねえ、仕込ん  
じゃった責任、取って欲しいな、お姉さん」  
 この声は幻聴か何かなのだろうか。目の前の女は幻覚なのだろうか。それでも感じるこの柔  
らかな重みと、幻聴のように響く甘い声が、そして、絡まる指が伝えてくる痺れが、現実か幻  
かの区別を曖昧にしていく。  
 女の胸に押しつけられていた右手が動いた。  
 右手に伝わってくる感触は柔らかいのに、ただ柔らかいのではない。ぱんと張った肌が指に  
抗ってそれを押し返してくる。その抵抗が、この生意気な膨らみを揉みくちゃにしたい、とい  
う嗜虐心を掻き立てる。  
「あん……っ、くうっ」  
 女が―――上条を押し倒していたオリアナ=トムソンが、喘ぐような声を上げた。  
「やめろよ、でないと、俺も、やめないぜ?」  
 藻掻くように、上条は声を絞り出す。その言葉が、全くの逆効果だということも判らずに。  
 
「じゃあ、やめない」  
 
 半ば目を潤ませたオリアナが、その顔を再び上条の正面に向ける。  
「ちょっと待っていまの無し―――」  
「男に二言はないのよね、日本では?」  
 慌てて言い訳をしようとした上条に、オリアナはぐいと顔を寄せた。そのまま、もう一度上  
条の唇を自らの唇で塞ぐ。上条が目を白黒させているその隙にも、伸ばされたオリアナの手は  
動きを止めず、  
「ぷは………っ、くあうっ」  
 器用に上条のジーンズのジッパーを下ろして、固く反り返った上条の分身を外気の元に引き  
ずり出した。  
「やだ。君って、結構可愛い声出すんじゃない……。お姉さんったら、ゾクゾクが止まんなく  
なっちゃう」  
 唇を離して漏れ出た上条の声に、艶めかしく瞳を潤ませたオリアナが呟きを返す。そうして  
オリアナは身体を浮かすと、上条が動こうとするよりも早く(と、言っても身体は言うことを  
聞いてくれないのだが)、上条から見て下方に身体をずらす。  
「ひあっ……や、やめ……」  
 身体をずらして俯いた、と思った瞬間、オリアナが呑み込むように上条の分身を捕らえたの  
だ。  
 肉感的なその唇が張り詰めた怒張の先端に吸い付き、少しずつ口腔内へとそれを送り込む。  
 しかし、そのまま滑り込ませようとしてもお互いの表面が突っ張ったのだろう。唇と先端の  
両方を湿らそうして、くるりと先端の周囲を舌が器用に滑った。  
 どこ、と言われれば腰椎間板のあたりだろうか、なぜか冷静に場所の分析ができてしまった  
のだが、とにかくそのあたりから、かくん、と力が抜けて、その一瞬だけで爆発しそうな刺激  
が上条の捕らえられてしまった先端に向かって走る。  
「かはっ………」  
 
 上条の口から乾いた声が漏れても、オリアナの唇は止まらない。きゅぷ、と音を立てて先端  
部分が呑み込まれた。呑み込まれると同時に、上条の噴火口を舌が責め立ててきた。  
 頭部を完全に捕らえられたのみならず、胴体もオリアナの指が触手のように絡みつき、それ  
が上条のツボを知っているかのような強さで―――それも、一様の強さではなく締め上げたり、  
緩めたりしながら―――上下する。  
 咥えられただけで爆発しそうなのに、叩き付けられるような快感が乱暴に背骨を駆け抜ける。  
上条は抵抗すら忘れて、自分の髪をむしり取らんばかりの勢いで頭を抱えるばかりだ。そうし  
なければ、すぐにでも出してしまいそうなのだ。  
 そうして上条がその刺激に耐えていると、今度はその先端部――亀頭を上顎に押しつけるよ  
うにしながら、ぐいと竿までも呑み込まれる。  
「うあ……」  
 唇と舌が絡みつくように竿の表面を流れ、上条がその刺激に耐えきれずに呻くと、その先端  
が喉の奥に当たって、今度はぬるりと唇が上へと動き、いつの間にか、分身の竿からその下の  
ぱんぱんに張った袋に移っていた(ことにも上条は気がつかなかった)指に変わって、オリア  
ナの唇、舌、そして口腔全部が上条の分身を捕らえて上下する。  
(ぴちゃ、くちゅ、ぴちゅ、くちゅ、ぷちゅ……)  
 その唇が立てる淫靡な音に混じって、オリアナ自身の荒くなった呼吸が唇の隙間から漏れ、  
咥え込まれて唾液でびちゃびちゃになった怒張とその根本をくすぐった。  
 刺激が全身を暴れる。耐えるしかできない上条には、それを狂おしげに見上げるオリアナの  
視線に気付くだけの余裕は、ない。  
 いつ爆発してもおかしくないほどに責め立てられ、上条自身耐えきれない、と思い始めたそ  
の瞬間。  
 一瞬、オリアナがその唇を緩めて、  
「あふっ、はあ、あふ…………」  
 上条の背筋を電撃のように走る喘ぎを上げ、次の瞬間には再びぎゅうと怒張を咥え直した。  
同時に袋をつかんだ指にも少しだけ力が籠もる。  
「んんん……っ、んむっ、んんっ」  
 呻いたのはオリアナだ。上条はと言えば、声も出ない。  
 びくびくと震え―――いや、暴れながら、限界を超えた怒張が白く濁った欲望を吐き出す。  
びゅるびゅると激しく吹き出す下半身とは対照的に、口からは声にならない呻きしか出ないの  
だ。  
 ようやく激しすぎる射精の快感から身体が解放されはじめると、オリアナがそっと上条の怒  
張をその口から抜く。  
「ん、んぐ、…………けほっ、はっ、はあ……」  
 挑発的な瞳を上条から逸らさないまま、オリアナは口の中に吐き出された欲望を飲み下すと、  
息を荒げながら呟いた。  
 
「はあ、はあ、やだ、すっごく、濃いのね……。それに、こっちも、もう……」  
 オリアナが唇を喜悦に歪める。その目線の先には、出したばかりだというのに再び固くそそ  
り立つ上条の逸物があり、  
「ちょい待ち、あの、その目は……何?」  
 上条の呟きを無視してオリアナがその身体の上に覆い被さる。  
「君ってモテそうだし、エッチくらいこれから幾らでもするだろうから……って、もう、いっ  
ぱいしてる? まあ、とにかく」  
 大きく足を開いて上条に跨ったオリアナは、そう言いながらサイドの紐だけで身体に張り付  
いていた下着を短いスカートから抜き出した。  
 
「女の子の方から無理矢理、って言うのも、一回くらい、あっても良いわよね?」  
 
 ちょっと待てー!!!! と、心の中で上げた叫びは声にならず、すっかり濡れそぼったオ  
リアナの秘裂が上条を呑み込んだ。  
 
 
 
 
 
「やっ、あ、何か来る……っ、ふあ、ああっ、きちゃう、き、きちゃ、あ、あ、ああああああ  
あああ――――」  
 甲高い嬌声と共に、組み敷いた細い身体が跳ねる。身体は細いのに何度見直しても豊満な乳  
房が激しく揺れた。  
 そうしてオリアナはがっちりと上条の身体を捕らえていた両足にも(きっと無意識に)力を  
込めると、上条の分身をくわえ込んでいた蜜壺が絞り上げるように上条に食い付く。  
 その刺激に、もちろん限界ギリギリだった上条は耐えられない。オリアナに腰をホールドさ  
れていなくても、そうしない余裕などなかっただろう。  
「うくっ……っ!」  
 びゅるっ! びゅっ、びゅくっ!  
 二回目だというのに――いや、最初に口淫で出してしまったから三回目か――、腰の奥の方  
から叩き付けるような感覚と共に大量の欲望が吐き出される。  
「ああん、きゅあはっ、あうう……、きみが、君が、中で、いっぱい……」  
 焦点を合わせきれない瞳を必死に向けながら、オリアナが両手を伸ばす。  
 その腕が、自分の肩に、首に絡みついてくるのに、上条は抵抗しない。むしろ自分からその  
腕に包まれる。  
 目の前の、潤んだ瞳の要求くらいは判る。相手が力の入らない腕に無理に力を込めてくるそ  
の前に、上条はオリアナの力の抜けた、それ故に淫靡すぎる艶を放つ唇を貪った。  
 
 
                     −*−  
 
 
「なんで、こんなことに……」  
 クッションのよく効いたソファーにへたり込むように腰を落とすと、上条当麻は額に汗を浮  
かべながら呟いた。  
「あら。言ってくれるじゃないの」  
 上条の呟きを茶化すような声で遮ったオリアナが、ソファーのすぐ隣に滑り込んできた。オ  
リアナはぴったりと上条に身体を寄せると、手に持った背の高いタンブラーを手渡してくる。  
「紅茶でも良いかな、って思ったんだけど、せっかく君がここにいるんだし。ジャパニーズ・  
スタイルのアイスコーヒーなんて言うのも悪くないと思わない? お姉さん、結構好きなの  
よ」  
 そう言いながら、さらに身体を密着させてきた。  
「冷たいコーヒーって、日本発祥なんでしょ?君と飲むにはちょうど良いかもね」  
「い、いや、そうじゃなくって……っ!」  
 ひとり、話し続けるオリアナに何か言い返そう、いや、何かではなくって、こういう事態に  
なってしまったことについて――と口を開きかけ、思いだした直前の行為に赤くなって、上条  
の口が止まる。  
「こんなこと、って言うのはないと思うんだ、お姉さん。だって、最後の方ってば、お姉さん  
頭の中真っ白になっちゃって、君に気絶させられるかと思ったのに」  
「……………っ!……」  
 反論できない上条の顔をのぞき込むその表情は、実に嬉しそう、あるいは楽しそうと言うべ  
きか、上条にしてみれば『遊ばれちゃってる』感が丸出しの悪戯っぽそうな表情である。  
 大覇星祭のあの日、『キスが良い?』と聞いてきたあの時も、表情だけならこんな感じ、で  
はあった。それでも、上条たちと学園都市で戦った、そのときのオリアナはやはり心のどこか  
に仮面を隠していたのだろう。  
 いま、上条の隣で可笑しげに微笑む瞳には、どこか少女めいて邪気がない、そんな気がした。  
「お姉さんね、心の何処かではやっぱり判ってたのに」  
 慌てる上条の表情をじっくりと眺めてから、少しだけ真剣な表情になったオリアナがぽつり  
と呟く。  
「結局、自分さえも信じられなかった結果がアレだったのよね」  
 その声音の変化に、上条の頭にも冷静さが返ってくる。隣に座る碧眼を、じっと見つめた。  
「判ってたのに、それを押し殺してた。それで、誰もが笑っていられるためには、って、君と  
戦ったそのあと、ずーっと考えてた」  
 自分の瞳を見つめる黒い目を見つめ返して、オリアナが続ける。  
「お姉さんには、微力かもしれないけれど力がある。そのことを、本当に必要としている誰か  
のために使わなくちゃいけないのよね」  
 上条の瞳を見つめ返す碧色の瞳が、少しだけその輝きを増したように見えた。そうしてその  
光が、上条の目にまぶしく映る。  
「そう、それで、そのことをお姉さんに教えてくれたのは、君なのよ?」  
「え……?」  
「そう、君なのよ。答えを教えた――ううん、とっくに持っていた答えに目を向けさせてくれ  
たのは、間違いなく、君。そうして、そこに向かう決断の、そのための力をくれたのも、君」  
 オリアナの微笑みが力強さを増す。  
 何かに縋り付こうとしていた過去を捨て去って、その微笑みは力に溢れている。上条にも判  
るほどに。  
「だからさ、またお姉さんが迷っちゃいそうなときは、君のパワーを分けて欲しいな―――」  
 オリアナが瞳を細めた。  
 
「―――今日みたいに、ね」  
 
 ぶほあっ! と、上条は口に含みかけたアイスコーヒーを派手に吹き出す。  
「げふっ、か、かはっ………、お、オリアナ? オリアナさん?」  
 むせ返りながら、上条当麻は焦燥した表情でオリアナに向かって振り返った。反対方向に吹  
き出すだけ、十分に余裕があるような気がしないでもないのだが、上条の名誉のためにそれは  
気のせいと言うことにしたい。  
 しかし、当のオリアナはと言えば、そんなことなど全く気にも介していない様子で上条にし  
なだれかかると、細い指を上条の胸元でつつ、と滑らせる。  
 そんな仕草が、またも直前の情事を思い起こさせて、焦りながらもみたび上条の顔に血が上  
る。  
「いけない? こういうことでだって、女って変われるものよ? でも、それが誰でも良いっ  
て訳じゃないんだ、それはお姉さん、判って欲しいな……。君じゃなきゃ、ダメなの」  
 焦りながら、赤面しながら、納得できるようで納得できない、いや、できないわけでもない。  
どう答えて良いのだろうか。パクパクと金魚のように口を動かしていた、そのとき―――。  
 
「残念、お邪魔さんがきちゃった。お迎えよ」  
 オリアナがそう言った瞬間、バタン、とドアが開いて、数人の少女のものと思われる声がけ  
たたましく響いた。  
 
「か、上条さんっ! 何でこんなところに入ってきてたんっすか! そいつに何か―――」  
「いつもいつもいつもとうまはどうしてとうまなのっ! どうしてこんなところにいるの!   
迷った、じゃ言い訳にはならないんだよ?!」  
 そのほか、いつもの――と言うか、ここ数日すっかりとお馴染みになった面々の声が背後か  
ら聞こえる。振り向くのが恐ろしいのは何故だろうか。返事をしようにも、声が出ない。  
 からからに乾いた喉を湿らそうと、手に持ったタンブラーからコーヒーを口に含む。何故、  
手が震える?  
 そうして、ようやく声を、しかし振り向くことはできずに声を絞り出そうとした、そのとき。  
「あら。お姉さんだって、そこの部隊長さんなんかと一緒で、この坊やにガツン、と往かされ  
ちゃったクチなのよ? せっかく会えたんだもの、お姉さんにだって彼と旧交を温める機会く  
らい、あっても良いと思うのよね」  
 そう言って、上条が口を開くよりも早くするりと腕を絡ませて。  
 
 オリアナの、滑らかで艶やかな唇が、上条の頬に触れた。  
 
 それは、ひんやりとしているのに何故か暖かくて、暖かいだけではなく何か強い意志のよう  
のものがあり、  
 あり、  
 あ――――――――。  
 
 
 
 
 
 そうしてそれが、上条の、初めてのロンドン塔訪問の最後の記憶ともなったのだった。  
 蛇足だが、上条当麻はその日のその後のことは思い出さないようにしている。今でも。  
 
 

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