「私が思うに、あれはSになりきれない……ってかむしろ憧れてるだけのMだろうね。昔の栄華からまだ離れられていないんだよ。
だから私からアイツにやっているのは、あれ自身の立場をわきまえさせるための一方的な蹂躙って奴。心のあるものじゃない、犬の躾みたいなものね。
ん、これからどこに向かうかって? ああ、アイツが昨日顔にぶっかけた分の折檻がまだこれからなの。
まったくあのヘタレは三分も持たないのか……今度こそブチ殺しか・く・て・い・ね、覚悟しておきなさい」
「そんなもの、あんなキモい奴に主導権なんかあるわけないじゃない。第一、今どきはその手のことも、女から責める流れがキてるわけよ。
でもアイツ、路地裏出身だか修羅場経験済みだか知らないけど、スタミナだけはあるんだから。
動きまくって疲れたアタシを撫でるアイツが達観したような表情で、それを見ると何でだかアタシも安心して意識が……。
うう、思い返すたびに負けた気分よ。今夜という今夜はアイツを先に気絶させてやるんだからっ」
「私があの馬鹿に対して超むかつきますと思うのは、皆の前では意気地なしのくせして、床の上で二人の時はやけに手慣れたような態度を崩さないことです。
そりゃあ、歳はアレのほうが上ですから向こうのほうが人生経験豊富なのは必然かもしれないですけど、現在進行形で他の女とそれを育んでいる気がしてならないですね。
事実なら黙ってられるわけありませんよ、女として。近々その辺り超入念に探りを入れるつもりです」
カチ、とスイッチの切られる音が響く、この黒く染まった薄汚い空間は某学区の路地裏。
録音テープを操作していたのは、現在スキルアウトのまとめ役である半蔵という男である。
周りには喧嘩が取り柄的な目つきの悪い連中が大勢取り巻いていた。
「さて……浜面。奇妙な赤い服の女から流れたというこのテープによって、お前が少なくとも三人の女をとっかえひっかえしてたことがよく分かったんだが」
「へ? な、何言ってんだか。だいたい今のに俺の名前は一度も」
「俺の情報力の前でしらを切るのか?」
素敵に殺気立った連中に八方どころか16方位満遍なく囲まれ冷や汗ボットボトの浜面に、半蔵は絶対零度の視線を穿ちながら優しく語る。
「やることが出来た・・・大いに結構だよ。女の子を守るなんてな。俺も聞いたときは応援しようと思ってたんだぜ?」
「……なんで、過去形?」
「いや別に何も……ただ、お前がスキルアウトの童貞率を忘れて調子に乗りすぎているんじゃないかと思ってな?」
ガチャ、と銃器のセーフティの外れる音。ゴト、とクギバットが持ち上がる音。シャカ、と特殊警棒が伸びる音。
「いやいや待て待て待て!! 後者二つもヤバイけど最初のソレは何ですか!? 私刑(リンチ)にしては明らかに命盗る気マンマンj」
それが最後の言葉だったらしい。アーメン。