「ふむ」
窓もドアもないビル。その一室にいるのは、学園都市統括理事長である『人間』アレイスター・クロウリー。そして、
「…ちっ」
無数の機械で溢れかえるこの部屋にはおよそ似つかわない、アロハシャツにサングラスの男。土御門元春。
彼は苦虫を噛み潰したあと、逆さまに浮かぶ『人間』に問いかける。
「本当にアレを放っておくのか?」
「かまわんよ。どうやらここに踏み入ったのは偶然のようだしな。
それに、『人ではない者』を追い払う方法など、私が知る由もない」
どの口がほざきやがる、という一言を飲み込み土御門は続ける。
「…あれほど多くの女を操れる力を持つ淫魔に、このまま精力を与えてしまえば、
さらに大きな混乱を呼ぶ可能性があるんだぞ?」
「ふむ。では彼女には『食糧』にでもなってもらおうかな?」
「………なに?どういうことだ?」
「餌を与えられた家畜は、違う生物を育てるための食糧になる、ということだ」
育てる…?まさか………
「アレイスター…貴様、幻想殺しのためにわざと…?」
「さてね」
クソ…と吐き捨てる土御門。
わかっていたことだが、どうにも読めない。この『人間』の心の内が。
「…学園都市内の情報規制はどうするんだ?」
「私が君達の仕事を奪うわけにはいかないな」
何度目になるかわからない舌打ちをしたあと、土御門は『案内人』に連れられて部屋を出ていった。
1人に戻った『人間』は、新たなモニターを呼び出し、それを見つめながら呟いた。
「幻想殺しの少年に気がある女性を介して…か。
なかなかの愛されようだな、イギリスから駆けつける女性がいるとは」