夕方。学園都市のバスは5時までなので授業が終わった学生は急ぎ足でバス停へと向かう。
その光景に差異はあれども名門、落ちこぼれに差はない。無論、上条の高校とて然り。
今日もいつもの時間に学校を出て、いつもと同じ様な時間に寮に帰るはずだったのだ。
「ふ・・・不幸だ」
何故か上条当麻は教室に残って一生懸命に床を磨いていた。原因は文化祭準備の為のペンキ。
結局誰が倒したかは分からないのだが、犯人が分からない以上クラスの責任だということで超民主主義的議決法
『じゃんけん』
が青髪ピアス君と吹寄さんによって可決された。
上条が負けるのはお約束のパターン。最初は3人残っていたのだが、一人の金髪アロハ野郎は義妹が心配だから
帰るとかぬかしやがったし、もう一人はナチュラルに塾があるというので帰っていった。
「っと。まぁ、こんなもんだろ。ペンキなんて完璧に取れるもんじゃないしな」
床にこびりついていたペンキをあらかた取り除いた上条は雑巾を絞り、教室隣の洗面所で洗い流すと、
黒板の右側面のフックに掛けてある可愛いクマさんの(名前はきるぐまー)のストラップがついてある鍵を手に教室を出た。
鍵を閉め、鍵を渡すために職員室へと向かう。
職員室は王道的に1階にあるため上条の階からは階段を二つ下りなければならない。
「壊れあうから、動けない〜♪♪」
そんな鼻歌を歌いながら教室の角を曲がる上条当麻。そして、夕日の光が目に入ったと思った次の瞬間、
上条は驚きのあまりに目を見開いた。
そ こ に は 階 段 の 上 で 仁 王 立 ち す る
御坂美琴の姿があった。
「は?」
思わず声が出る。あまりにも突拍子のないことに目をゴシゴシ擦る。
消えない。本物のようだ。
まだ、信じられなくて右手で思い切り頬を殴った。
痛い。消えない。どうやら、本物らしい。
「は?」
もう一回声が出た。
これでさすがに痺れを切らしたのか、美琴はその腕をワナワナと震わせると
「あぁ、もうこのバカ!!いいからコッチ来なさい!!」
と叫び、ズカズカと階段を折りて上条の袖を掴むとガスガスを上の階へと登っていった。
上条は訳の分からぬまま。足をぶつけながら、やむなくその行為に従うのだった。
連れてこられた先は屋上だった。 夕焼けにカラスの鳴き声、遠くには急ぎ足で家へと向かう学生の姿が見える。
「なっ、ちょっ・・・おい御坂」
上条の抗議の声も無視して美琴はズカズカと歩き続ける。
ここの屋上は普通の学校と同じ様な感じでたいして広くもないので、12,3歩歩いただけで端の手すりへと辿り着く。
どうやら美琴はその手すりに向かって歩いているらしく入ってきた扉がどんどん小さくなっていく。
「・・・・」
上条は無言のままで引き摺られていたが、手すりに辿り着いたのか美琴は突然立ち止まると上条へと振り返った。
「ねぇ、手出してよ」
振り向きざまにそんなことを言う美琴。上条はわけのわからないまま左手を差し出すと、
「あぁ、違う。そっちじゃなくて、右手よ。右手」
「?」
ますます訳が分からない。右手ということは幻想殺しだ。別に握手をしたいわけではないだろうし、ましてや左手は不浄などと
イスラム教徒みたいなことも言い出しはしないだろう。
結局、上条は美琴の考えが分からないので言われるままに右手を差し出した、次の瞬間
上条は右手の手首を掴まれ引かれ、まるで闘牛のように美琴の左をスゥと通り抜けると体を手すりに叩きつけられた。
「がっ!」
胸に棒が直撃して肺の中の空気が抜け出していく。ゲホゲホと咳き込む上条を尻目に美琴はポケットからロープのようなものを取り出して
『右手の手首より上の部分に触れないで』右手を手すりに縛り付けた。
「ちょ・・・げほっ。お前、何・・・してんだよ?」
フラフラする身体に無理矢理命令させてロープを千切ろうとする。
「見てわかんないの?縛ってんのよ。あ、ソレ切ろうとしても無駄よ。それ材質金属だから」
確かに外れる気配がない。 いや、そんなことはどうでもいい。ここは男として女子に、しかも自分より年下に拘束されたという事実が
一層上条の胸を苦しませていた。
「痛っ・・・これは何のマネだよ御坂?場合によっちゃ、本気でブン殴るぞ」
肺に酸素が満たされたのか痛みは残るが普通にしゃべれるようになった。本人としては相当怒りを込めていったつもりだったのだが、
美琴はまるで聞こえていない様子で
「私ね・・・アンタが好き」
なんてとんでもないことを言い出しやがった。
「・・・・・いや、ちょっと待て」
頭の中で思考を巡らせる。好き?誰を?俺?いやいや、冗談でしょ。
「今、何て言った?」
「だ・か・ら、あんたが好きだって言ってんのよ!!このバカ!!」
「・・・・御坂」
「何よ?」
「お前、変なもん食ったか?例えば、唐辛子入りケーキとか。」
こんなことを言っているが上条当麻もここまで鈍感ではない。
美琴が自分に告白している(信じられないが)ことぐらいは理解できる。
だが、しかし告白をするにしてはずいぶんと歪んでいるなとは思った。
告白するのならば普通にすればいいし、縛ることはない。
上条の背中に嫌な汗が流れていく
「(ま・・・まさか。この展開は・・・いや、待て。そんなエロゲの主人公でも体験できないような
体験があろうはずがない。)」
背中にさらに汗が流れていく。上条の前、ほんの1mほど先にいる少女は口元に邪悪な笑みを浮かべていた。
「ま、アンタが私をどう思うと知ったこっちゃないけどね。私はアンタが好きだし・・・・」
そう言いつつ上条に近づく美琴。
「そろそろ、観念しなさい」
上条に密着するように立った美琴はゆっくりと膝を折って上条のズボンのベルトに手を掛けた。
少女の口元は弛んでいた。