太陽が昇る。アパートの窓に差し込んできた陽光に自然と眼が細まった。
身体を包む気怠さを振り切り、さて起きよう。と、身体を起こす。
ふと視線を下げれば、未だ隣で寝息を立てている少女の裸体が白く光に照らされていた。
生乾きの汗やその他の液体が光に照らされ、眠る少女を淫猥に飾っている。
が、こんなのはいつもの事であり、今更動揺するシーンでも無い。むにゃむにゃと幸せそうにシーツに転がる彼女を観察。
無防備な彼女の笑顔はそれだけで癒しだ。今日を生きるための活力が自然と充電される。
「・・・ん」
「お、起きたか」
寝返りをした、と上条が思った時には彼女のすべすべの頬が太ももに擦りつけられていた。
眼を細めながら自分に頬を擦り付ける彼女を見て、なんだか猫みたいだ。と、上条は思う。
彼女のさらさらの黒髪を撫でていると、彼女の意識もはっきりしてきたようだ。
とろん、としていた眼が意志を宿してこちらを見上げた。眼があった瞬間微笑む彼女はやっぱり可愛い。
「おはようございます」
「あー、おはよう」
何でもない朝の挨拶を交わして、ようやく眠気が覚めたのか。彼女はその長い黒髪を背中へ流しながら半身を起こすと、上条に抱きついた。
分厚いとは言えないが、引き締まった無駄の無い実用的な筋肉で構成された上条の胸板。
そこに彼女は贔屓目に見ても同姓の中で抜きんでたその豊満な胸部・・・おっぱいを押し当てている。
ぐにょぐにょ、とある階層の女性からしたら信じられない擬音が彼女の胸部から漏れてくる。
だが慣れているのか、本人達はそんな奇跡的な擬音を気にした様子もなく朝のコミニュケーションを次の段階に移行させる。
「ん・・っちゅぁ、はぁ」
「むぅ・・ん、んっ」
深い接吻。ディープキス。小鳥が啄む様な、なんて表現は語弊に過ぎる。
朝っぱらからそんな熱を帯びた接吻は倫理的にどうなのか。等と考え出したら、冒頭の三行で負けだ。気にしたら負けである。
そうして何分が経ったのか。お互いの唾液が橋をつくる程に舌を絡め合い、こぼれそうになる唾液を啜り合い、ようやく満足したのだろう。
彼と彼女は抱きしめ合っていたお互いの身体を解放した。
「それじゃ、風呂あびるかー」
「そうですね」
そういって微笑む彼女。先程の猫っぽさは寝起きだけなのだろう。主人の三歩後ろを実践できそうな落ち着き具合である。
朝ご飯は私が作りますいやいや俺が作るっていやいや私が俺がと喋りながらお風呂を浴びる二人。
お風呂からあがった彼と彼女は結局いつも通りに二人で朝食を作り出した。
エプロンをした彼女に毎朝の様に惚れ直す上条は、今日も彼女の背中に抱きついた。
「きゃっ」
後ろから思いっきり抱きしめる。もう、危ないですよなんて声が聞こえた気がしたけど構わず腕に力を込める。
彼女の方も満更ではないのだろう。抱きしめる当麻がうなじに顔をうずめても、くすくすと笑うだけだ。
「はやくしないと、遅刻しちゃいますよ?」
「学校休みてぇー・・・」
「ダメですよ。ほら、朝ご飯を作りましょう」
「うぃーっす」
しぶしぶ彼女を解放した上条は、朝ご飯の準備に加わる。だが彼女の調理の腕は上条から見てもかなりの腕前である
あまり手伝える事も無いんだよなー。と、彼女とこういった関係になるまでは暴食シスターの衣食住を満たしていた自負のある上条としては少々情けなく思う。
自分の家事スキルにそこそこ自信を持っていた上条故の悩みでもある。
「あ、お味噌汁作ってもらってもいいですか?」
だから、頭を唸らせていただけの自分の悩みを即座に見抜いた上でこういった台詞を言えてしまう彼女に、上条は笑い返すしかないのであった。
準備が終わって居間に料理を運ぶ。二人向かい合わせに座って頂きます。
今日の卵焼きに舌鼓を上条がうっていると、ふと目の前の彼女がそういえば、と視線をテレビから上条に向けた。
「今日は彼女が帰ってくる日ですから、お部屋の片付けが終わったら私は一回アパートに戻りますね」
「あ・・・」
考えないようにしていた日は今日だったのか。彼女との同棲もどきが始まったのは丁度一週間前。小萌先生の家でインデックスが宿泊を開始した日からだった。
何とはなしに電話でその事を彼女に話し始まったこの同棲も、今日の夕方には帰ってくるインデックスに見つからない間に終わらせなければいけない。
分かっていたことだが、今日から彼女との生活が無くなると思うと、やはり辛い。
「そんな顔をしないでください、別に今後一切会えなくなるわけじゃないんですよ?」
「そりゃあ・・・そうだけどさ」
憮然とする上条のつんつんとした髪を彼女は撫でると、微笑んだ。
「それじゃあ来週・・・付き合って貰いたい事があるんですが」
「うん?」
彼女の手元にあるのは旅行鞄。彼女が上条の部屋に来るときに持ってきた物だ。そこから取り出される一冊の雑誌。
「一緒に下見に付き合って貰えませんか?」
表紙に書かれていたタイトルを読み上げた上条は、このタイミングまでこの雑誌を出せなかった彼女の不器用さと、その愛情に微笑んだ。
「参ったな、プロポーズは俺からって決めてたのに」
「っな」
「違うのか?」
「・・・違いません」
ううー、と恨めしい声を上げる彼女の手を引っ張ってドアを開ける上条。今日の学校は休み。今決めた。
「どうせなら今行こうぜ、今!」
「えっえ・・・今ですか?」
「そう、今だ!」
慌てながらも上条の手を離さない彼女。駆けだした二人の表情は、どこまでも幸せそうだった。
帰ってきたインデックスが上条の家の居間に置いてあった結婚式場の雑誌とベッドの汚れに気付いて修羅になるまでの話だが。