「いやー悪いな神裂。あいつもいつもはここまで意味不明に襲撃してくることはないんだけどさ。まあ危害なかったみたいだからいいけど、にしてもいきなり襲ってきたと思ったらこれまたいきなり顔真っ赤にして帰ってくって一体あのデンジャラスお嬢様は何を考えてんだ?」  
「……私にそんなことを聞かれても、そもそも私は彼女について知りもしないので答えようがないのですが」  
「あ、いや、わりーわりー。上条さんはついこの間まで一人暮らしだったから自問自答の癖がついているのですよ。どうか聞かなかったことにして下さいや」  
「え、ええ。わかりました。  
 ところで上条当麻、あなたに少し聞きたいことがあるのですが」  
「ふえ? なんでせう神裂さん。今のごたごたのお詫びも兼ねて、わたくしにできることならば全身全霊でもってあなたのご要望に答えさせて頂きませう」  
「そうですか。では、とりあえず場所を変えましょう。できればゆっくり話ができる所がいいですね」  
「え、もう街案内はいいのか?」  
「はい。もう結構です。主要な交通機関といざという時に身を隠せそうな大型建築物は大体把握しましたから」  
「……一応確認しておきますけど、まさかテロでも起こして逃げ道の算段とかじゃありませんよね?」  
「違いますよ。と言っても素直に信じられないかもしれませんが、あの子が暮らすこの都市に、私が純粋な破壊活動を仕掛けることはありません。そこは信じていただきたいですね」  
「あ、うん。そうだな。信じるよ。わりぃな。  
 んじゃ、見物がもうよくて場所変えるなら、うちに帰るか。間が良いんだか悪いんだかインデックスは小萌先生の所に遊びに行ってるからゆっくり話もできるしな」  
「あ、あなたの家ですか」  
「うん? なんか問題あるか?」  
「い、いえ。別に何でもありません。そうですね、行きましょう」  
 
 
 
      ※  
 
 
 
「ところで一応聞いておきますが、さっきのあれは本当にあなたに原因はなかったんですよね?」  
「ちょっ、あんた一体何を見てたんですかーっ?! どう見たって偶然発見した敵を滅殺する動きだったでしょうよあれは!」  
「あ、いえ、確かにあの場ではあなたは何もしていませんでしたが、ひょっとしたらその前になにかしていたのではないかと……」  
「うおぉぉぉぉい! あんたの中の上条当麻は町で出会った女子中学生にいきなり命を狙われるような行為をする男なのか?!  
 ちょっと待て! それはわたくし異論を唱えざるをえませんよ?!  
 あんた俺のことをどんな鬼畜だと思ってやがるんだチクショーーー!」  
「あっ、いえ、別に悪意あってのことではなく、その、いや、でも、  
 私が知ってる範囲のような行為を私が知らない範囲でもしていると仮定すると、  
 その、どう考えても十や二十はあなたを正当な理由で恨む婦女子がいるのではというか、実際に多分いるというか、」  
「ちょ、神裂さん?! まじであんた俺のことそんな風に見てたの?! え?  
 謝罪と撤回を要求するつもりだったのにいきなり私は間違ってない発言ですかっ?!」  
「あっ、そのっ、いえっ、ちがっ、本当にこれは言葉のあやでしてっ、別にあなたの人格を罵倒している訳ではっ!」  
「いいよいいよ別に俺はケダモノだよあんたもそんな風に見てんだろ? そうやって俺の知らないところで俺の悪評は広まっていくのさ。  
 どうせそのうち触ると妊娠するとか五股十股一万股普通にかける男だとか言われるようになるんだろ?  
 いーよいーよどうせ俺は最低男だよ実際には誰とも付き合ったことないけどさ!  
 三角関係どころか直線の関係も未経験だけどさ!」  
「あの、本当にすみませんからどうか、…機嫌を…………なおし……」  
「………っ! …………………………っ! ………っ! ……………………っ!」  
「………………。………。………。………………………………」  
 
 
 
    ※  
 
 
 
 
「とまあ、無駄話してる間に我が家についたわけですが」  
「えっ?! まさかいままでの話は全部雑談……」  
「さ、細かいことは気にせずどーぞどーぞ中へ。立ち話もなんだし」  
「私、誤魔化されてませんか……?」  
「気のせいでせうと上条さんは申し上げます。ほいお茶。で、聞きたいこととは何でせう?」  
「本当に、私、誤魔化されてませんよね?」  
「ないない。ここまでの話の流れは実にスムーズでありましたよ。  
 この学園都市の殆どの人間がやってはいけないゲームだったらフラグが完璧に立ってルート入るぐらい的確な会話でありましたよ。  
 固有CGは確実に何枚か出てるでせう」  
「ふ、ふらぐ? るーと?」  
「あ、いえいえお気になさらず。ささ、本題をどうぞ」  
「よくわかりませんね……。まあいいでしょう。では、単刀直入に聞きます。  
 上条当麻、さっきあなたはあの少女と恋人や嗜好の話をしていましたね。あなた自身には、好いてる方はいるのですか?」  
「――――ぶっ! ごっへごっほ! いきなり何を言い出すんですか神裂さん!  
 いやとりあえず、あなたの顔にスプレーアートした緑茶はわざとじゃないというかあなたも悪いと言うかとりあえずこのタオルをどうぞ!」  
「……………………ありがとうございます。で、私の質問の答えは?」  
「って、まだ引っ張るの?!」  
「引っ張るも何もこれがこの場の主題です。答えなさい。あなたには答える義務があります」  
「いや、ないでしょう! いやありました! すみません! 今答えます! 答えますからそんな追い詰められて泣きそうな瞳で見つめないで頂きたい!」  
「いいから早く答えなさい。いるのですか? いないのですか?」  
「いや、声震えてるから色々あぶな、ってはい答えます今答えます。  
 ところでつかぬ事をお聞きしますが、神裂さん的には一体どのような返答をお望みで…………?」  
「これ以上答えを引き伸ばす気なら、」  
「はいぃぃぃ! いや恥ずかしいんですけどね! 恥ずかしいだけなんですけどね!  
 わかりましたよ答えますよ答えりゃいいんでしょいませんよ!  
 好きな人なんて今だかつてできたこともないし告白したりされたりのドキドキシチュエーションもどうせ未経験ですよ!  
 悪いか! 恋愛経験値ゼロで悪いか!」  
「いえ、別にそこまで自分を卑下しなくても……」  
 
「いいんだい! どうせ俺は彼女いない暦イコール年齢のさもしい男ですよ! もう!  
 ってか俺に一方的にいうだけであんたは何もなしかよ神裂さん?! 無理矢理言わされた俺には聞く権利がある!  
 俺みたいに羞恥の炎に焼かれながら告白するがいい! はいサン! ニー! イチ!」  
「いますよ。想い人。できたのはかなり最近ですが」  
「…………そうですか。って、なんであなたはそんなにさらっと言うんですか?!  
 全開バリバリに恥ずかしがって俺がバカみたいじゃないですか!  
 はい! 今の覚悟を決めた顔でさらっと言うの禁止!  
 顔赤くしてセクハラに耐える表情を浮かべながら目を潤ませて小首を傾げて『えっ、い、いますよっ!』って言いなさい!  
 上条さんの命令です! はいっ、スタート!」  
「…………予想はしてましたが、あなた本当にぼんくらですね」  
「ちょっ、いきなり罵倒した?! あなたの要求に一方的に従った末の俺の要求を無視していきなり罵倒してきましたかあなた――?!」  
「いい加減バカ話はやめなさい、上条当麻。あなたの育った地域では、こういう状況は何も意味を持たないのですか?」  
「こういう状況って、狭い部屋に異性と二人っきり、しかも相手は飛び切りの美女で、  
 俺に好きな人がいるか聞いた後自分は好きな人がいるっていうこの状況のことですか?」  
「状況の認識能力は正常なようで安心しました」  
「こういう状況って、え? ……え? ……………………え?  
 う、嘘だー。俺にそんなおいしいシチュエーションが来る訳がない。俺の思い違いだ。さもなきゃ幻覚だ。  
 わーいこの右手で頭を一撫ですれば厳しい現実にご帰還だー」  
「やってみなさい。それであなたが満足するなら」  
「えー、ってことはマジに、そういうことなわけですか?」  
「ええ。そうですよ。私の想い人はあなた。上条当麻、あなたです」  
「ま、」  
「……ま?」  
「まじですか神様ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」  
 
「正気に戻りましたか?」  
「戻りました。で、ちなみにいつからとか、聞いても――?」  
「無粋ですね、あなたは」  
「い、いきなり罵倒されましても?! むしろ聞かないほうが不自然というか聞くのが当然の空気というか?!」  
「粋で無い、と書いて無粋です」  
「いやもうそれはわかったからいい加減答えてくださいよ?! って上条さんは半分キレながら答えを強制してみます!」  
「わかりましたから、あなたもそのおかしな話し方をやめなさい」  
「了解。続けてくれ」  
「……あなた、その生き方めんどくさくありませんか?」  
「いや、愉快に生きてるぜ、俺は。それより本題を聞かしてくれ」  
「………………明確にあなたに恋心を抱いたのがいつかはわかりません。  
 ただ、きっかけはいくらでもありました。ひょっとすると、私たちが最初に会ったあの時。  
 あなたがあの子を救ってくれたあの時からずっと、私はあなたに、惹かれていたのかもしれません。  
 さあ、これでいいでしょう。あなたの問いには答えました。だから、今度は私が問いましょう。  
 私と恋人になる気はありませんか?」  
「…………へっ? は、いや」  
「あわてる必要はありません。あなたが私を好ましく思っているかどうか、それを答えるだけでいいのです」  
「いやいきなり聞かれてもですね上条さんはそんな質問にさらっと答えられるような人生送ってないと言いますか  
 とりあえず言えるのはあなたのそのグラマラスボディはわたくしのような青少年には目の毒と言いますか  
 ぶっちゃけこんなシチュエーションでしかも二人っきりでその上密室にいたりすると何かこう言葉にできないものがどろどろと」  
「あなたが混乱してるのはわかりましたから落ち着きなさい」  
「そういう神裂さんの顔もかなり真っ赤ですけへぶぁ!」  
「黙りなさい」  
「ふぁい、だまりまふ」  
 
「とにかくあなたは、へんな冗談や悪ふざけを交えず簡潔に答えればいいんです。  
 できるなら、外見的特徴ではなく内面的な特徴で評価して欲しい所ですが」  
「えーっと、最後に一回だけ聞きたいんですけど、これは本当にドッキリとかでなく……?」  
「……これ以上女に恥をかかせるつもりなら、この刀の錆にされても文句は言えないと思いませんか?」  
「だっ、だって俺こういうの慣れてないんだもん?! 動揺してても仕方ないでせう?!」  
「……くどいですよ、上条当麻。答えたくないならそう言って下さい。別に恨みませんよ。もしそうなら何も言わずに私は帰りますから」  
「無表情の上に目だけ潤ませてそんな台詞言われても?! そんな顔した女の子ほっとけるような奴は男じゃありませんよ?!」  
「ならば早く答えなさい。覚悟を決める時間は十分あったはずです。  
 今までのあなたのように、出すべき答えを出しなさい」  
「わ、わかったよ! わかりましたよ! 上条さんは覚悟を決めましたよ?! どんな答えが返ってきても上条さんは知りませんからね?!」  
「いいから早く言いなさい」  
「じ、じゃあ、言わせてもらうさ。  
 俺はなあ神裂、お前のことは嫌いじゃない。そんなにお前のことをよく知ってるわけじゃないし、  
お前の主義を否定しようとしたこともあるけど、俺はお前を尊敬してる」  
「あ、ありがとうございます」  
「お前が俺よりも何十倍も絶望を知ってるのは俺でもわかる。  
 それなのに、それでもなお、絶望の底から人を救い上げようとするのは、俺は素直に凄いと思う。  
 お前の覚悟は、救えないものすら救おうとするその信念は、その幻想は、俺にはとても心地いい。  
 そっか。そうだな。そうだそうだ。  
 今気づいたけど、俺もなんか、神裂のことが好きみたいだ」  
 
「…………それは、つまり、私と恋人になってもかまわないということですか?」  
「ちょっ、なんであなたはそうやって人が決死の覚悟で言った言葉をもう一回言わせようとするんですか?!  
 上条さんは恥ずかしさの余り顔から火ぃ噴いて悶死しますよ?!」  
「そ、そうですか。と、とりあえずありがとうございます。  
 こう、なんというか、照れるのは当然なんですが、やはり、嬉しいものですね。好きな人に、好かれているというのは」  
「や、やめてくれえええええ! そんな! そんな恥じらいながら浮かべた微笑とか! まっかな顔にはにかみ笑いとか!  
 そんな表情でこっちを見ないでくれ! 男として悶え死ぬよ神裂さーーーーん!」  
「奇声をあげながら転がり回らないで下さい、上条当麻。いくらここがあなたの家でも、看過できることとできないことがあります」  
「そ、そんなこと言われても?! 照れ屋な上条さんにはこんな甘ったるい空気には耐えられませんよ?!」  
「まったく。そんなことで、これから先することに耐えられるんですか?」  
「照れた顔も可愛いですね神裂さん! って、今恥じらいながらなんとおっしゃいました?  
 わたくしあなたのご尊顔に見とれておりましてたぶん聞き間違えたんだと思うんですがとんでもない爆弾発言が聞こえたような――」  
「ここから先、といったのですよ。まさかこの状況で、告白しあっただけで終わると思ってるんじゃありませんよね?」  
「…………………………………………へっ? え? ええええええええええええええ?!」  
 

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