「大体なんなのよあのちびっこは! 人のこと短髪短髪連呼してからに! あたしにゃ御坂美琴っつー立派な名前があるっての! それともなにか、髪短いのが代名詞になるぐらい珍しいってか! んなことあってたまりますか!」
風呂に入りながら悪態をつく美琴。と、そこで何かに気づいたように言葉をとめた。
「いや、考えてみるとあの子って結構あいつといっしょにいる訳よね……。
その上、あいつの周りってあの子初めとして何でかしらないけど巫女服の女とか仕切り屋の女とかがいる、と……」
髪の毛を指でくるくるいじる美琴。
「普通に考えたら、あいつの周りって長髪ばっかりじゃない。っていうことは、そういうことなの?」
そこでため息をつき、言葉をつなぐ。
「いやいやいや、でも仮に、そう仮に、ひょっとしてあいつの好みがロングヘアだとして、いや別に決まったわけじゃないんだけど、そうだと仮に仮定したりすると、あたしはいったいどうすればいいわけ?
髪なんてそんなすぐ伸びないわよ!」
と自分の叫び声で我に返って、美琴はぶんぶんと頭を振った。
「あー駄目だわ。こんな推測立ててももんもんとするだけだっての。のぼせたりして黒子の世話になるのは流石に避けたいしあがるか」
ざばざばと豪快に音を立てながら風呂からあがる美琴。
体を拭き、まだ熱い体に服をまとって部屋に戻ると、ベッドに座っていた黒子と目が合った。
と、そこで美琴の頭脳に思考が閃く。
「ねえ黒子、そういやあんた、めんどくさがりなのに髪長いわよね」
「は? いきなりどうしたんですのお姉様?」
「あーいや、あんたさ、ひょっとしてさ、髪長いのってなんか理由あったりする?」
まさかあいつの好みに合わせてるわけじゃないわよね、と思いつつも一応問いかける美琴。
「あ、この髪ですの? これはですね、聞くも涙語るも涙の事情があるんですの! お姉様が是非にと聞くならもう微に入り細を穿って説明させていただきますわ!
あれはさかのぼること二年前、私がお姉様に始めて会った時のこと、」
「あ、もういいわ。べつにそこまでして聞きたいわけじゃないし」
後輩にいきなりこんなこと聞くなんて重症だわ私、と思いつつ黒子をさえぎる美琴。
「ちょ、お姉様? それじゃなんでお聞きになりましたの?」
「いや、ちょっと気の迷いみたいなもんよ。なんか煮詰まってきちゃったし一人で散歩でもしてくるわ」
「え、お姉様? お姉様? 外行くなら私も一緒に! っていうか私とお姉様の貴重なプライベートタイムが! 得がたい二人きりの時間が!」
まだ色々と言っている黒子を置いて外に出る美琴。日暮れまでにはまだ二、三時間あり、外はかなり明るく人通りも多い。
そんな中を一人で黙々と歩き続けるが、結局胸の中の疑惑は渦を大きくしていた。
そして間の悪いことに、本日本時上条当麻はアポもなく唐突にたずねてきて街の案内を頼んだ神裂を親切にも案内していた。インデックスは小萌先生の所に遊びに行っておりいない。
ロングヘアが好みか否かを延々と悩んでいたところに当の本人がロングヘアな上に長身でスタイルもいい美女を連れて現れ、当然のようにキレる美琴。
「やっぱりロングがいいのかーーっ!」
と叫びながらレールガン発射。唐突な事態に一瞬混乱するもいい加減慣れが出てきた展開なので何とか打ち消す当麻。と、そこでようやく何がおきたかに気づく。
「うおおおやべえ! っつかこの攻撃は御坂か! いきなりレールガンで攻撃って! 下手したらっつーか気づかなかったらほぼ間違いなく上条さんの頭に通気孔が一つ開いてますよ?!
と言うか無防備な一般人相手にサーチアンドデストロイってあなたは一体何を考えているのか説明していただきたい! そうだ! われわれは釈明を要求する! というわけで答えてください御坂さん!」
「あんたのバカ話につきあうつもりはないのよ! いいわよ! どうせロングがいいんでしょ?! 髪の長さなんかで女を選別するんじゃないわよ! 身体的特徴をあげつらうなって学校の先生に習ってこなかったのあんた?!」
「何を言ってるのかさっぱりわからんのだがこれは俺が悪いのか?! とトウマは自問自答にかこつけて相手に疑問を呈してみます!」
「そうよあんたが悪いのよ! それになんでいきなりあの子たちの口調まざってんのよ男がその口調はぶっちゃけきもいのよ!」
「ひ、人にきもいなんて言うんじゃありません! 上条さんは謝罪と撤回を要求しますよ?!」
「あたしだってあんたの差別意識に謝罪と撤回を要求したいわよ!
どうせ髪長い彼女作ってその髪撫でたりその髪梳いたり膝枕してもらったら自分の顔に髪がかかったりとかその匂いが甘くてとかそんな妄想してんでしょ?! この変態! 変態!」
「ちょっ、ないことないこと妄想してんのはどこのどいつだいや完膚なきまでにお前だろ?!
大体彼女の髪長いとか妄想したことないっつーの! 恋人なんて好きな人となれたらそれだけでいーだろうが! 別に髪の長さなんて気にしねーよ!」
「なっ……!」
と、ここで会話の最中も当然のように発射されていたレールガンがやむ。後には耳まで赤くなった美琴と状況を今一理解してない当麻と状況を全く理解できなかった神裂が残された。
なお、いきなり始まった口げんかについていけなくて黙ってた神裂さんが遠慮のない二人の態度から恋人同士と勘違いして悶々とするのはまた別の話。