たとえ電話越しであっても、愛娘のうろたえた顔がありありと浮かぶ  
「ふーん、じゃぁ美琴ちゃんにはもう付き合ってる男の子がいると」  
『あ、当たり前じゃない!!』  
 
声が明らかに引きつっている。さてさて、もう一息だ  
 
「きゃー、ほんとに?!  
 誰々!? お父さんには内緒にしてあげるからお母さんに言っちゃいなさい!」  
 
『そ、それは……』  
 
言葉は見る見るうちに萎んで行き、もはやごにょごにょと詳細は聞き取れないが  
そこに出てきた人物名は自分の期待通りの人物名だった  
「じゃぁ、今度見に行っちゃおうかなぁ〜」という言葉を残して通話を終了  
「ちょっと待って!」という声が聞こえた気がしたが気にしない  
 
 
我が娘ながらに恋愛に対してなんと不器用なことか、苦笑いしながらも自分の若かりしころを思い出す(年齢的な意味で)  
まぁ、それにしても……  
「もぁ〜、美琴ちゃんてば、明らかに告白もしてない風なのに強がっちゃってかわいい!!  
 ここはお母さんがひとつ娘の背中を押してあげなきゃねー!!」  
 
 
 
……と、母親が一方的に盛り上がっている一方美琴はどんよりした気持ちで携帯電話を机に置いた。  
「ど、どうしよう……」  
止める事は敵わなかった。あの母親は来ると言ったら無理に理由をつけても来る人だ  
当たり前だが、記憶を無くした事を知っていると告げたあの日から関係は一切変わっていない。  
あえて言うならこちらのどぎまぎ具合が増してしまった事ぐらいか……  
しかし、あの母親に「ごめんなさい、ただの強がりでした」とは口が裂けても言いたくない  
ならば!しかし!だけれども!!  
 
(だって、記憶喪失の事を言ったあの日からまともに顔見れないし  
その割りにアイツ、「どうしたんだよ、調子悪いのか?」とかいつも(のスルー)より優しく対応してくるし  
お母さんはお母さんでこの状況を知ったら延々とからかってくるに違いないし……  
 あ"あ"あ"あ"あ"ーーー!)  
 
煮詰まった頭でいろいろ考えた結果、プチンと何かが切れてしまった。  
 
「ええい、ごちゃごちゃ考えるのやめ!  
今に見てなさいよ!! 目に物を見せてやるわよ!!」  
 
誰に?と問いただしたくなるような台詞を叫んだ少女は勢い良く携帯電話のを手に取りダイヤルをはじめる。  
ダイヤル先はもちろんリストの先頭に登録してある電話番号。  
 
前みたいなごっこからでも良い、今のままより何かが変わるはず――!!  
 
 
 

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