12月24日。深夜。  
とあるマンションのとある部屋に、一人の少年が窓から入室した。  
白く、白く、白い少年。一方通行だ。  
「……、全員、寝てるみてェだな」  
小声で呟いてから暗視ゴーグルを装着。白くて大きな袋を担ぎ直して、杖は無いので床を這うように移動する。  
今宵限り、彼は悪党ではなく夢の運び人……つまりはサンタになっているのだ。打ち止め限定の、ではあるが。  
黄泉川達がいるとはいえ、向こうは大人である。子供一人だけで寂しい想いをしていないか、彼は以前から気に病んでいたのだ。  
(こンなことしか、してやれねェからな)  
ならばせめてプレゼントだけでもと思い至ったのが、このサンタ作戦だ。  
担いでいる袋には全51種のプレゼントが詰め込まれている。打ち止めが欲しがりそうなものを徹底的に予想して、選びに選び抜いた品々。この中から彼女の希望するプレゼントを置いていく予定である。  
ちなみに、代理演算をフルパワーで使用して予測したため一度バッテリー切れの地獄を見たのは秘密である。  
「…………ここか」  
寝室のドアノブをゆっくりと回し入室する。気付かれてしまっては元も子もないので、細心の注意を払いながらだ。  
 
部屋の中に設置されている、やや大きめのベッドの上。打ち止めは一方通行に背を向ける形で眠っていた。  
彼女の顔は見えない。だが、それで良いと一方通行は思った。  
自分はプレゼントを届けに来ただけ。寝顔に見とれて長居をするわけにはいかないのだ。  
(さっさと終わらしてさっさと帰る。それだけだ)  
そう心の中で決めて、ベッドに近づく。  
枕元には翌日の着替えらしきものと、片方だけの赤い靴下が置いてあった。  
「……、」  
それを手に取ると紙の感触が伝わってくる。予想通りだ、と一方通行は一人ごちた。  
「……さァって、ラストオーダーちゃンは何をご所望かなァ?」  
呟いて紙を取り出し、開き、見る。  
 
 
 
『一方通行』  
 
 
 
そう、書いてあった。  
「…………………………、ハァ?」  
思わずゴーグルを外し、懐中電灯で照らす。『一方通行』。変わらない。  
なンだァ? 道路標識が欲しいのかコイツは? と思っていたら、『アクセラレータ』とルビが振られていることに気付いた。  
逃げ道は消滅した。打ち止めの希望するプレゼント。それは、  
「…………、俺の事か?」  
『一方通行』そのものだった。  
 
 
 
気恥ずかしさのようなもので五分程悶絶してから、どォしろってンだ、と頭を抱える白サンタ。  
当然だが、一方通行は後にも先にも一人しかいない。代わりなどいない。いたら偽物だ。殺す。  
彼女の希望を叶えるとなると、自分がここに残らなくてはならない。だが、今の彼は基本的に人前に姿を晒せない身。打ち止めに見つかるなど論外である。  
 
ここに残るか、それとも去るか。  
 
選択肢は二つだが、選ぶ余地は実質無かった。  
今宵限りのサンタはゆっくり立ち上がりながら、  
「ハッ、蔑めクソガキ。どォせ俺にゃァこっちしかーー」  
言いながら振り返ろうとして、視点が高くなったことで、それを視界に捉えた。  
 
 
"何かを期待する表情"で眠る、小さな少女を。  
 
 
「……、」  
それを見た一方通行は、力無くため息を吐きながら、  
「ーーこっちしか、選べねェよ」  
言った。  
 
 
 
 
 
12月25日。早朝。  
とあるマンションのとある部屋に、  
「やっぱりサンタさんは実在したんだってミサカはミサカは喜びを表現するためにプレゼントに抱きついてみるーっ!!」  
と言いながら白い少年に抱きつく少女と、その少女に抱きつかれて顔を赤くしている少年がいたとか。  
 

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