飴を貰ったifstory
「ありがとな」
「いいよぉ。あ、お兄ちゃん飴あげる。」
「いいのか? サンキュー」
と笑って言うと少女は恥ずかしそうに後ろを振り返り走っていった。
上条は飴をなめずに見送り、少女の背中を見送った後、自分の家へと帰宅の途につく。
歩いていくと、ベンチに俯いて座っている(たぶん)見知った顔が居た。
「何やってんだ? 建宮。」
そういうとゆっくり、建宮は顔を上げる。
そのゆっくりした速度は、首にある小型の扇風機が微動だにしないほど。
「上条か…まぁ、座るのよ。」
と自分の隣を右手で軽く叩く。
上条が座ると建宮はまた下を向く。
ややあって建宮は話し出した。
「なぁ、自分の好きな女が、別の男が好きなら応援すべきなんだよな。」
「えっ…。あ、いや。上条さんは思いを伝えるべきだと思うぞ。」
「そうなのか?」
今度は聖人もびっくりな速度で上条に向く。
「もっもちろんだ。」
と少し噛みながら言う。
上条はポケットの中に飴があるのを思い出す。
――選択肢――
1飴をあげる…建宮×五和
2飴をあげない…上条×姫神
3飴を二人で分ける…上条×建宮×神裂
帰宅途中、商店街を通っていると、前から見知った顔が近づいてくる。
場違いな巫女服と綺麗な黒い髪。
「お、姫神か。何してんだこんな所で。」
「私はすき焼きのお使い。三人分には少し足りない。上条君こそ。こんなところで何してるの?」
と話しながら、上条は建宮と会話中にあったメールの内容を思い出す。
「今日はインデックスがそっちに行ってるんだよな? いつも悪いな。」
「構わない。君は来ないの?」
と姫神は小首を傾げる。
「あー、上条さんは家にご飯があるので遠慮しとく。たまには一人がいいんだよ。」
と姫神の肩を右手で叩く。
ふと、姫神の着ている巫女服以外の感触。
よく見ると、白い旗が胸の谷間から出て、当たっている。
旗はすぐに消え、少し小首を傾げる。
「ねぇ。胸ばかり見てどうしたの?」
ばっと顔を上げると、少し頬を赤らめた姫神と目が合う。
「ごめんなさいっ。上条さんは決してそんな疚しい気はな…。」
途中で言葉が止まる。
何故か姫神がとても可愛く見えて。
「……そう。疚しい気があったんだ。」
そんな上条の反応を姫神はこう受け取り、一人ごにょごにょ呟いている。
「…姫gっ秋沙。飯こっちで食わないか? いつもインデックスが世話なってるお礼だ。」
と上条は姫神の右手を左手で握ると、間髪入れずに走り出す。
「え? あっ待って。」
上条はそう言われて立ち止まる。返事を聞いてなかったな。
「小萌先生に電話するから。」
と携帯電話を取りだし、通話を開始する。
その間も上条は左手を離さない。
通話が終わり、姫神は携帯を器用に服に仕舞うと、大丈夫。いこっとにっこりと笑う。
「ゆっくりしてくれ、今作るから。」
と上条は家についてやっと姫神の手を離し居間で待つように言って台所に立つ。
鼻歌交じりで2、3品作って居間に持って行く。
姫神はというと、コタツからでて上条の両手にある料理を貰ってコタツの上に置く。
「ありがとう。」
「構わない。美味しそう。」
と姫神はバレないように唾を飲み込む。
「じゃぁ、食うか。いただきます。」
「いただきます。」
『ごちそうさま。』
と二人とも同時に食べ終わり、二人して食器を下げ洗う。
上条が洗い終わったのを姫神に渡し、姫神が食器棚に戻す。
最後の一枚、上条が姫神に渡す際、お互いに手が滑り、食器が甲高い音を立てて割れる。
咄嗟に姫神が素手で拾い始め、上条は掃除機を取りに行く。
上条が掃除機をとって帰ってきたときにはすでに大きい破片はなく、細かいのだけで、それを掃除機で吸っていく。
「悪い、ケガなかったか?」
と掃除機のプラグをコンセントから抜いて姫神に聞く。
「私は大丈っ痛ッ。」
よく見ると、姫神は右手の人差し指を破片で少し切っており、血がゆっくりと出てくる。
上条は右手の手首を掴むと口先に持って行き。
ちゅっと傷口を口に含む。
「え、な、何。」
そんな言葉を気にせずに舐める。
「っぷはぁ。」
と息を継いで、ばんそーこーと言いながら姫神を居間まで引っ張っていく。
ガタン…。
玄関が開く音。
「トウマ、何をやってるのかな? 説明が聞きたいかも。」
と上条が台所から出てすぐ。玄関の戸が閉まり…。ガチャンと鍵がかかる音。カチャ…スーっとチェーンもかかる。
それを居間に向かうために背中を向けた状態で聞く。
ギギギッとゆっくりと後ろを向くと
「いんでっくすさん、なんでいる…。」
上条が言い切る前に上条の頭に噛みつく。
上条が無事生還できるかはまた別の話。