「………。ここが学園都市。我が目的を成就させるための鍵が、ここにいる…」  
見下ろす先は、科学の総本山・学園都市。  
もともと強固な警備が敷かれていたこの街は、最近の物騒な世情を反映したように厳戒体制が敷かれているはずだ。  
どれだけの実力者であろうと、たった一人で侵入した上で無傷で帰る、ということは不可能であろう。  
だが…。  
「行かなければならない。それが我が目的を果たす、一番の早道…!」  
 
十二月某日。  
ある一人の魔術師が、学園都市に侵入した。  
目的はただ1つ。  
全ての異能を打ち消すという、ある少年…。  
 
 
            ***  
 
 
「だーーーー、今日も不幸だーーー…」  
上条当麻は疲れていた。  
今日も学校では色々と騒動が起こり、小萌先生に怒られるわ、吹寄にデコクラッシュされるわ、姫神に冷たい視線を投げられるわ…。  
さらに先ほどまでは、何故か嫉妬に狂ったっぽい男子たちに追い掛け回され、ようやく振り切った所だ。  
 
(は〜〜。ったく、あいつらはなんで俺を目の敵にすんだ?おかげでスーパーのタイムセールを完全に逃しちまうし…)  
そんなことを考えながら帰途に着く上条。  
「…ねえ、ちょっと」  
(ああ、冷蔵庫はほとんど空だったよな…。インデックスにまで襲われたくないし、寒いからうどんでも買ってくかなー)  
「聞いてんの?無視すんなー」  
(確かあそこが結構安かったはず…。でも今疲れてるしなー)  
「だから何でアンタは私を無視するわけ!?今日はかなり優しく話しかけてんのに!」  
(ま、貧乏学生なんだしそんぐらいはやらないといけねえよな…)  
「…」  
 
そう、上条は本当に疲れ切っていたのだ。  
それに色々と考え事をしていたので、話しかけられたことに気付かなかったのも仕方ないことだったのだ。  
だが、もちろんそういう事情は相手には伝わらないようで…。  
「だ・か・ら、無視すんなって言ってんでしょうがーーーーーーーっ!」  
「どわあああっ!?」  
無数の稲妻が上条に襲い掛かり、寸での所で打ち消す。  
上条の本日の不幸は、まだ続くようである。  
 
「…で、何の用だよ御坂…。上条さんはもう帰りたいのですが…?」  
「ふぇ?え、えーと別にアンタに用があるってわけじゃないんだけど…。ちょっと見掛けたから声掛けただけだし…」  
数多の雷撃を潜り抜けた後、上条は先程の襲撃犯…御坂美琴と連れ立って公園に来ていた。  
既に半泣き状態の上条を見てさすがに悪かったと思っているらしく、美琴は比較的おとなしい。  
「うう、ちょっと気付かなかっただけで死の危険が迫るなんて、さすがにひどくありませんこと…?もう今日は買い物は無理っぽいし、用  
 
が無いなら俺は帰るぞ」  
「えっ!?ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」  
 
疲れ切った体を引き摺って帰路に着こうとする上条を、御坂はあわてて追いかける。  
せっかく会ったんだし、少し話したいな…と思っていたのにこれである。  
(相変わらずデリカシーがないわね!そんなに私と一緒にいたくないわけ!?)  
美琴はまたムカムカしつつ、早足で前を歩く上条を追う。  
「そんなに早く帰りたがらなくてもいいでしょ?少しくらい付き合いなさいよ」  
そして追いつき、上条の袖を引っ張って立ち止まらせた。  
「あ〜、まだなんかあんのかビリビ…っ!?」  
上条が振り向いたその瞬間、それは来た。  
シャキン、という刃物の音がつむじ風と共に上条の目の前を通り過ぎた。  
もしその場で立ち止まらなかったら、間違いなく刃物の餌食になっていただろう。  
 
(くっ……!また魔術師かなんかの襲撃か!?ちっくしょう今日の不幸度は半端じゃねーぞ!)  
「御坂、こっちだ!」  
「えっ、な、何!?」  
美琴の手を引き、襲い掛かって来た何かから距離を取る。  
伊達に何度も命を狙われてきてはいない。  
こういう事態に対する反応は、学園都市第3位の能力者である美琴よりも上条のほうが素早い。  
「なっ…!」  
「えっ…?」  
そして二人は、それを見た。  
 
襲撃者の正体は女性であった。  
銀に近い色をした長い髪、スラリと長い手足、妙に大きな胸ーそれは、間違いなく美女であった。  
しかし、それだけではない。  
「まさか、これはあの伝説の…」  
その姿は、  
「わ、私も聞いたことあるわ。でも、まさか実在するなんて…。これがあの…」  
まさに、  
「「ビキニ甲冑(アーマー)!!!!!!」」  
…露出狂そのものであった。  
 
「ふふ、私の攻撃をこうもあっさり避けるとは感心感心。わざわざ学園都市まで来た甲斐があったという事」  
「「………」」  
謎の露出狂が何やら満足そうに話しているが、上条と美琴は何も返せない。  
ビキニ・長い手袋・太股までのブーツはすべて白と黒の牛柄であり、それ以外の部分は素肌を晒している。  
ちなみに冒頭でも述べたが、今は十二月である。  
 
「我が姿に恐れを成したか、はたまた欲情しておるのかはわからぬが、戦いの最中に動きを止めるとは致命的につき!」  
「きゃあっ!?」  
「っ、しまった、御坂!」  
素早く突っ込んできた牛柄女に対応出来ず、吹き飛ばされる美琴。  
呆然としていた(実は胸などをちら見していた)上条は我に帰り、目の前の変態は敵なのだと改めて認識する。  
「お前は一体何なんだ!目的が俺なら、御坂には手を出すな…よ?」  
拳を握り、上条は敵を見据える…のだが、目のやり場に困るのか、ちょっと逸らす。  
 
「私はヴァルキリー。強者を求めて旅をする、エロい鎧の踊り子さんにつき!」  
上条のもとへ猛然と踏み込む変態、もといヴァルキリー。  
スピードもパワーも予想以上のものであるが、上条は何とか受け流していく。  
「うおおっ!?いくらなんでもそのまんま過ぎる!てか、何でわざわざ俺を狙うのーーー!?」  
「…む」  
攻撃の手を休めるヴァルキリー。  
腕を腰に当て、不適に笑っている。  
「チッチッチィ。戦士が自分の価値に気付かないのは良くなきことにつき。上条当麻、そなたの噂は私の耳にも入りし事」  
「噂…?」  
何故だか上条はいやな予感がした。  
確かにローマ正教からは目の敵にされているが、基本的に魔術世界における上条の知名度は高くないはずだ。  
 
「あのエロい格好をしたイギリス清教の憎き聖人を、片手でやすやすと倒したとの事!我が野望を一度阻止された恨みを晴らすならば、そ  
なたの助けが必要にあるにつきィィいいいっ!?」  
「いつか聞いたような話がさらにパワーアップ!?てか完全に勘違いで狙われてんじゃん俺!不幸だああああああああっ!」  
嬉々として再び襲い来る敵に身構える上条。  
しかし、  
「うわっ、何だこれ!?」  
上条の周りを乙女たちが取り囲み、動きを封じ込める。  
 
「ハッハア、イッツ『九人祝い』!どれほどの力を持とうと、戦乙女に欲情した以上は私に勝つのは不可能!覚悟おおおおおおお!」  
「むっほおおおおおおっ!?」  
上条の能力を知ってのことか、乙女たちは決して上条の右手には触れようとしない。  
もはやこれまでーーー上条は、目を瞑った。  
その瞬間。  
「ふぎゃっ!?」  
電撃がヴァルキリーを襲った。  
 
「痛ったあ…。何なのよ、もう…」  
気絶していたらしい美琴が目を覚まし、前髪から雷撃を放ったようだ。  
サンキュー御坂…!  
掴んだ勝機を逃すまいと上条は敵に突っ込む!  
 
「う、おおおおおおおおおおおおっ!」  
「っ!?」  
二人の影が、重なった。  
バチイ!と音が鳴り、勝負が決したことを告げる。  
上条の右手はヴァルキリーの胸を捉え、そして…。  
「!!!?!??!??!!?!!?」  
ヴァルキリーの上半身を、裸にしていた。  
…どうやら、魔術的な意味合いもある服であったらしい。  
 
凍りつく空気。  
上条は顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。  
美琴は「こんな時にもアンタってヤツは…」と俯きながら、前髪をバッチンバッチン言わせている。  
そしてヴァルキリーは、  
「…………………」  
顔を赤らめながら胸を隠し、無言で上条を見つめる。  
 
「いやもうホントすいません不可抗力だったんですゴメンなさいだから御坂さん雷呼ぶの止めてーーーーーー!」  
命の危機を察し、半泣きで謝る上条。  
その様子を見ていたヴァルキリーは何かを決心したらしく、上条に近寄ってこう言った。  
「せ、攻めのプレイが好きという事?私の得意分野も攻め(羞恥プレイ)につき、じ、自信はないけども、そなたがそうしたいのなら、私は  
受けに回ってそなたのしたいがままにされるにつき…」  
「「え………」」  
 
上半身裸のまま上条に抱きつくヴァルキリー。  
今度こそ完全に固まってしまった美琴。  
突然の18禁イベント発生についていけていない上条。  
この3人はこの後、どうなるのだろうか…。  
 

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