モールから出たのは8時を少し回ったぐらいだった。  
上条は出たとたん思いのほか寒く感じ、体を身震いさせる。  
ふと、頭に何かが落ちた気配がして、上を見る。  
「雪…か?」  
手を出すとその上に雪がいくつか落ちてくる。  
「みたいね、明日降ったらよかったのに。」  
と横に居る御坂は今日買ったサンタのような服を上から羽織りながら言う。  
「…電車。とまってないよな?」  
「え?」  
その一言で、二人とも雪の中を駅へと走る。  
「こっちはあまり降ってないが、あっちがわかんないからな。」  
 
行く間にも、雪はしんしんとゆっくり降るものから、吹雪へと変わっていく。  
そして、案の定、雪で電車は不通となっていた。  
「あー。やっぱりか…、回復の目処も立ってないし、どうする?」  
上条は電光掲示板とその近くにある臨時の掲示板を交互に見ながら、後ろに居る三坂に聞く。  
「どうするったって、電車が動かなきゃ帰れないじゃない。」  
「だよな、タクシーは高いし…。野宿はダメだから、どこか泊まるか?」  
「と…泊まる。」  
その一言で、御坂の顔は真っ赤になる。  
「わ、私たちそんな関係じゃ…。って私何言ってんだろ。」  
と一人あたふたし始めた御坂を見ながら上条の口元がほころぶ。  
「何言ってるんですか。そんなやましい事上条さんは…。」  
と駅から出て辺りを見回すと、いくつかのホテルがある。  
「ほら、ここら辺は普通のですよ。」  
と上条は一番近いホテルへと足を進める。  
御坂はまだ顔を真っ赤にしたままそのあとをついていく。  
 
「申し訳ございません。当ホテルはこの雪のせいで生憎満室となっております。」  
と一件目。  
「大変申し訳ございません。あいにく本日は予約がいっぱいで…。」  
と二件目。  
「申し訳ございません、こちらのホテルは本日はとある方の貸切となっております。」  
と三件目。  
四件目にいたっては、何か事件があったのか、警察が溜まっていた。  
 
「全滅ね。」  
と御坂は手に息を吹きかけながら言う。  
寒いのか服越しに体をさすっている。  
「美琴、寒いか? これでもつけろ。」  
と上条は御坂に自分が着けていたマフラーを巻いてやる。  
「あっありがと…。」  
御坂は頬を赤らめながら言う。  
その後も少し歩いたところで上条はあるものを見つける。  
「うぅぅ…、みっ美琴さん。アッアレでもいいか?」  
と上条が見つけ、指を差した先は明らかにラブホテル。  
学生が八割を超える学園都市には似つかないものだが、残り二割の一般人&八割の中の大学生・高校生には人気があるとか…。  
「え、あ、うっうん。」  
御坂は上条が指したソレの「Hotel」の部分しか見ていず、ソレが何なのかはわかっていない様子だが。うなづく。どうやらマフラーで頭がいっぱいのようだ。  
上条は顔を真っ赤にしながら御坂の手を握っていく。  
傍目はもちろんカップルに見えるだろう。  
 
ついたソコは少し高い塀に囲まれ、一見古風な和風の家。ここら辺の大地主の家と言われても違和感はないだろうが、ここは学園都市、そんなものがあるはずもない。  
本来あるはずの木の門は無く、小さな鉄製の扉がひとつ。  
さすがの御坂もここまで来て気づいたのか、あたふたしているが、上条は御坂の手を引いて入っていく。  
鉄製の扉の先は小さな部屋で、右側には料金表と部屋の写真が、左側には小さな窓があり、この場で泊まりと休憩を決めるようになっていた。  
上条が小さな窓まで行くと、中からやけに低い男の声で「どうします?」と聞かれ。  
「と…、泊まりで。」  
「毎度。部屋は?」  
聞かれた上条は御坂にどこの部屋がいい?とたずねる。  
「え? じゃ、じゃあ。ココ。」  
と御坂が差したのは至って普通の洋風の部屋。  
上条がそれを伝える前に、小さな窓から小さな鍵と、一枚のパンフレットが出てくる。  
上条はソレを受け取ると、パンフレットにその場で軽く目を通す。  
パンフレットには、小さな地図と料金後払いとしか書かれてなく、上条と御坂は入ってきたのと逆側の鉄の扉からその部屋を出る。  
部屋を出たソコは…。外だった。正確にはさっきあった塀の中。  
そこにはコテージのようなものがいくつか立ち並び、上条はもう一度パンフレットに目をやる。  
パンフレットにはココと矢印がついた場所があり、そこに行くと、一つのコテージが建っている。  
上条は恐る恐る鍵穴に鍵を通す。  
ガチャ―という音とともに扉が開く。  
「美琴、入るぞ。」  
と後ろに居る御坂に声をかける。  
うんっと小さな声が返ってくることを確認して中に入る。  
 
部屋の中はシンプルで、テレビ・ソファー・ベッド・風呂・冷蔵庫など必要最低限のものだった。  
「この部屋、静かよね。」  
御坂はそういいながら、ソファーへと腰を下ろす。  
「雪が降ってるからじゃないか?」  
「そうなの?」  
「雪には防音効果があるらしいぞ。」  
「よく知ってるわね。」  
「小萌先生がな…。」  
と上条は御坂の隣に座る。  
「そういえば、風呂入るだろ?」  
座ったのもつかの間、立ち上がりそういうと風呂場のほうへ歩いていき、風呂の準備をする。  
「あっ、ごめんね。気が利かなくて」  
「気にしなくてかまいませんよ、カミジョーさんは慣れてますから。」  
御坂はソファーから少し腰を浮かせ、風呂場に行こうとするが、風呂場からの上条の声を聞いてソファーに又腰を下ろす。  
風呂の準備もすぐに終わったのか、上条はそそくさと戻ってくると、御坂の横に座る。  
「そういえば、とうまは何を買ったの? ド○キの後もちょこちょこ何か買ってたみたいだけど? まさか…、あの子へのクリスマス、ぷっプレゼント?」  
「インデックスか? あいつは今家に居ないから別にいらないだろ。」  
「いない…の?」  
「あぁ、なんか小萌先生所行ってる。」  
「そうなんだ…。」  
沈黙が流れる…。  
上条はそれに耐えられなかったのか、近くにあったテレビのリモコンを掴むと、スイッチを入れる。  
『ダメっ、いく。いっ…。』  
テレビをつけると、大画面で本番真っ最中。  
あの有名なゴットフィンガーの持ち主がちょうど女性をイかせたところだった。  
上条は少し呆然と見入った後、光よりも速い速度でスイッチを切る。  
横の御坂は顔を真っ赤にしている。  
「わっわるい、その…知らなくて。」  
「べっ別に…いいわよ。ココ、そういう所なんだし。」  
と御坂は顔を下に向けたまま言う。  
先ほどよりも重苦しい沈黙。  
その沈黙を破ったのは、風呂場から流れてきた給湯器からのお知らせの音だった。  
「風呂沸いたな、美琴。先入ってきていいぞ。」  
「えっと…、うん。じゃあ先入ってくる…。覗いたらわかってるわよね?」  
御坂はそういうと風呂場の中に入っていった。  
 
―御坂視点―  
脱衣所に入ると、何時もつけてる髪留めを外し、近くにあった籠の中に置く。  
「ふぅ…。あいつのことだから覗かないわよね。」  
一枚ずつ脱いでいく。  
一番最初に脱いだ、今日買った赤い服。サンタの衣装にも見えなくないものをじっと見つめ。  
「にあってるのかぁ…。」  
顔を赤くする。  
次に、上条に巻いてもらったマフラーに手をやる。  
外して、それに顔を近づけ…ハッとして離す。  
「何やってんだろわたしっ。」  
その後も、全部脱ぎ終わり、浴室のドアを開ける。  
あけて一番最初に目に入ったのが。  
「なにこれ? 姿見?」  
大きな鏡。それも、右側にも一面そうなっている。  
その大きな鏡には全裸の自分が映し出されており、その自分は顔が赤い。  
「趣味…わるいわね。」  
ここを作った人の顔が見てみたいわとか考えながら浴室のドアを閉める。  
浴室は洋風の造りで、湯船はやたらと広く、ここがそういう場所だと実感する。  
「まぁ、いっか。一緒にはいるなんて…。」  
考えて更に顔を赤くする。  
少しして、寒くなったのか、冷静になると、シャワーヘッドを取り、蛇口をひねる。  
「…早く、体洗いましょ。」  
一通り体を流し、近くにあった椅子もジャワーで流すと腰を下ろし、ヘッドを固定具に置き、シャンプーを手に取る。  
シャカシャカ―と少し泡立ててから髪につける。  
今日はいつもと違い、鼻歌を歌いながら頭をゆっくりと髪を洗い、少しして泡を水で洗い流す。  
「ふぅ。」  
一息つくと、次はリンスに手を伸ばし、コレも手で少し泡立ててから髪につける。  
リンスを洗い流す前に、体を洗うためのボディーソープに手をやる。  
「えーと…。」とあたりを見渡し、ご希望の品を見つける。  
ボディ用の泡立て器。  
最近のお気に入り。一通り、泡を立てると、滑らすように肌を洗っていく。  
一通り、泡をつけ。気になるところを多めの泡で流す。  
「これでいいかな。」  
シャワーヘッドを手に取るとリンスと泡を落としていく。  
「よし。」  
と周りの鏡で、泡の残りが無いか確認する。  
すると、外からドタバタと音が聞こえる。  
「なにしてるのかな?」  
流石に全裸で出るわけにもいかず、とりあえず浴室から脱衣所へ顔を出し。  
「とうまー? 大丈夫?」  
「だっだいじょうぶですよ。カミジョーさんはだいじょーぶです。」  
「? ならいいんだけど…。」  
浴室に戻ると、湯船に目をやる。  
「温度はっと。」  
温度を確かめるために湯船に手を入れる。  
温度はちょうどよく、そのまま湯船につかる。  
湯船の中で手足を伸ばす。  
まだ外(上条の居る場所)は騒がしく感じるが、それほど気にもならなくなった。  
「ふぅ…。」  
そこで、今日何度目かのため息をつく。  
(あいつ、あの子とはどういう関係なのかしら…。記憶も無いんだし。…まさか、だまされてるとか? でも、あの子もあいつのことが…。)  
一人、風呂の中で考え事をする。  
その浴室の中は静かで御坂の動く物音以外何も聞こえない。  
ただ時折、水が滴り落ちる音がするぐらいか…。  
 
ふと気づく。  
どうやら、少しの間考えにふけってたのかもしれない。と御坂は少し冷めた湯船からでて、軽くシャワーで体を流してから浴室をでる。  
脱衣所で体を拭き、下着を身にまとい、服を着ようとして、バスローブがあることに気づく。  
(バスローブか…洗濯機もあるし、服洗うためにこれ着ようかな。)  
と服を洗濯機の中にいれ、バスローブを身に纏って、上着とマフラーを持って脱衣所から部屋に戻る。  
部屋では上条がテレビのスイッチを入れて普通のチャンネルに合わせていた。  
「あれ? 普通のも映るんだ。」  
「おっおう、いろいろ、いっいじってたら映った。」  
上条の反応はこちらを見ようともせず、少し見える横顔は赤く見えた。  
御坂はその反応に気がつかないまま。  
「そっか。あ、とうまもお風呂入るんでしょ?」  
そう聞くと、上条はビクッと体を反応させ。  
「ソウデスネ、カミジョウサンモハイッテキマス。」  
となぜか片言な日本語で脱衣所へと消えていく。  
「どうしたんだろ?」  
気にもなりながらも、御坂はテレビを見ることにした。  
 

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