暗いバスルームの中。  
上条当麻は小さく丸まりながらバスタブで寝息を立てている。  
今現在、彼の部屋は同居人である禁書目録(インデックス)に占拠されている。  
彼の安眠の地も…。  
そのバスタブの中、彼と一緒に居る携帯電話は主人と同じく何も言わずに、しんと静まりかえっている。  
ふいに、その携帯が眠りから目を覚まし、けたたましく鳴り出す。  
「ふぁい、上条さんはまだねむいんですよぉ…。」  
と上条は携帯電話に話しながら開き、画面を見る。  
画面には【御坂美琴】と表示されている?  
「こんな時間になんなんですか?」  
といいながら通話ボタンを押し、耳に当てる。  
『お、おはよう。美琴さんからお電話ですよ。』  
「はいはい、おはよう。上条さんは寝ていいですか? いいんですよね? いいんです。ではおやすみ…。」  
と耳から離そうとしたとき。  
『ま、まちなさい! 話があるのよ。』  
「ふぁい?」  
仕方ないといった感じで上条はまた耳に携帯の受話口をつける。  
『きょ、今日は…時間ある?』  
「ありますよ。」  
と上条は普通に反応する。  
受話口越しに『よし』とか『落ち着いて』とか聞こえる気もするが、気にしない。  
『じゃ、じゃあ。駅前にモールができたじゃない? いかない?』  
「あー…いいぞ。」  
特に断る理由もなく上条がそう言うと。  
『じゃあ、11時に駅前の時計下で待ち合わせね。…ちゃんと来てね。』  
最後のほうは呟く形で言うと、プツっと通話が切れる。  
上条は携帯をたたむとサブ画面で時間を見る。  
時刻は6時を少し回ったぐらい。  
「朝っぱらから…、言うのもだるい。寝よう。」  
と上条は二度寝を決め込んだ。  
 
目が覚めると11時五分前。  
一気に眠気が覚める。  
無論、隣の部屋に居るであろう少女の様態を気にしてだ。  
上条は急いでバスルームを出ると、台所を見る。  
そこにはいつも居る少女はいず、紙が一枚。  
【とうま。私はお腹がすいたんだよ? だから、小萌えのところにご飯食べてくる。トウマのせいだからね。反省するまで帰ってこないかも。】  
上条はそれを見て安心する。  
「よかった。インデックスは小萌先生のとこか、さて…。あ。」  
そこで気がついた。  
そういえば、11時に待ち合わせ。  
時計を見ると、11時を指していた。  
上条はササッと着替えると、必要なものだけ持ち急いで部屋をでる。  
「やばい!!」  
 
電車の中、ギリギリ間に合った車内で、携帯で連絡を取るために携帯を探すが、どこにも見当たらない。  
「…忘れてきた。」  
その後、いつもの台詞が出るのは当たり前のことだろう。  
「くっそ…、美琴は大丈夫だと思うけど…。」  
と電車の先。十五学区のほうを見る。  
 
駅に着いたのは12時を少し回ったぐらい。  
「怒って帰ってても文句は言えんし…どうするか。」  
と薄めのダウンジャケットの下に巻いたマフラーを直しながら歩く。  
駅を出て、時計の方へと歩いていく。  
「あ…美琴。」  
時計のした。  
時計にもたれかかりながら、下を向いたままの御坂は立っている。  
その横には知らない男が、話しかけているみたいだが、御坂はただ下を見ている。  
「悪い美琴、遅れた。」  
上条は急いでそう言って近づくと、男は舌打ちをしながら去っていく。  
御坂は上条の声を聞くと少しだけ顔をあげる。  
「…来ないかと思った。」  
その声は少しかすんでおり、御坂の目には涙が浮かんでいる。  
「ご、ごめん! 連絡取ろうと思ったんだけど携帯忘れ…て…。」  
上条は途中でいえなくなる。  
御坂の頬に一筋涙がこぼれた。  
「いいのよ…。来てくれたんだから。」  
こぼれた涙を、指でぬぐいながら言う。  
そんな御坂を見て上条は思わず抱きしめる。  
「ごめん…。」  
「うん…いいの。」  
と上条は御坂の頭をなでる。  
 
「落ち着いたか?」  
少しそうして、その後は近くのファーストフード店に入る。  
「大丈夫、さっ食べよう。」  
と笑顔で言うが、上条には少し落ち込んでるように思えた。  
「よし、美琴。今日はとことん付き合ってやるぞ。」  
上条は屈託のない笑顔で言う。  
「うん。よし、どこ行こう。」  
と御坂はハンバーガーを口に入れながら言う。  
こんな感じでご飯は進んでいく。  
 
「くったぁ。」  
上条は自分のトレーの上を一通り片付けると、席に深くもたれかかる。  
「あんた食べるの早いわね。」  
上条見、少し元気になった御坂がまだ半分も片付いてないトレー越しに言う。  
「美琴、今ぐらいあんたじゃなくて、上条か当麻って呼ばないか?」  
と上条は笑いながら言う。  
「わ、わかったわよ。と、とうま。」  
「おう。なんだ?」  
噛みながら言った御坂は言ったとたん顔を真っ赤にして俯く。  
上条はそんな御坂を見て。  
「急にどうした? 顔真っ赤だぞ。」  
と、体を前のめりにしながら、右手を御坂の額へと持っていく。  
ぺた。と触れた額は特に熱くもなく。熱がないなら大丈夫だなと上条は安心し、また深く座りなおす。  
御坂はというとさらに赤くなりながら、トレーを上条のほうへ少し出すと。  
「と、当麻はまだ食べたりないでしょ? わ、私の少し食べていいわよ。」  
と語尾が小さくなりながら言う。  
「ホントか? ありがとうな、美琴。」  
と笑いながら上条は御坂のトレーにあるフライドポテトに手を伸ばす。  
「やはりここのポテトはうまいな。」  
と次々に手を伸ばしていく上条を御坂は微笑んでみているが、そんな事を上条はまったく気がつかなかった。  
 
少しして、御坂のトレーも片付いたのが1時少し前。  
「で、美琴、今からどこ行くんだ?」  
「えーと…。服買いたいんだけど、いいかな?」  
「服か、いいぞ。」  
「けってー。」  
と店を出た。  
駅前のモールには数多くの婦人服の店があり、御坂はその一軒一軒をショーウィンドウ越しに眺めながら、好みのを置いてそうな店を探す。  
上条はというと、少し後ろから楽しそうな御坂を眺めている。  
上条がぼーっと見つめていると、御坂は気づいたのか顔を赤らめながら。  
「な、なに? なんか付いてる?」  
と店のガラスを鏡にしてゴミ等を探し始める。  
「なんもないですよ。ただ、楽しそうだなと上条さんは思ってただけです。」  
そう言われて御坂はさらに顔を真っ赤にする。  
「そ、そう。」  
とだけ言うとまたガラス越しに服を見始める。  
だが、先ほどとは違って、ガラスに反射した上条をチラチラと見ながら。  
 
「あ、この店よさそう。」  
と、御坂は上条に告げると、店の中に入っていく。  
その後を追って上条も入っていく。  
中はいろいろなタイプの服を置いており、御坂は(上条が見る限り)少し子供っぽい服を楽しそうに見ている。  
「ふむ、これなんかどうだ?」  
と上条も御坂がいろいろと服を出しながら聞いてくるのを答えながら、目だけで御坂に合いそうな服を探し出す。  
「え?」  
御坂が振り向くと、上条の手には白いワンピースが一着収まっている。  
「…とうま? いま冬だよね?」  
「あぁ。」  
「それって夏服だよね?」  
「そうだな。」  
「さすがに寒くないかな?」  
「夏に着ればいいだろ?」  
と会話が続く。  
その間にも、上条は不満そうな御坂のためにもう一着服を見つける。  
今度は冬用だが…。  
「それって、子供に夢を与える人じゃ…。」  
「そうだな、でも、美琴には似合うと思ったんだが…。着てみないか?」  
手に取った服。サンタの服にも見えなくないソレを上条は御坂に渡す。  
御坂はしぶしぶといった感じで受け取ると、試着室へと入っていく。  
服を渡した上条は、試着室の前でのんびりと待つ。  
「とうま?」  
試着室の中から御坂の声が聞こえる。  
「なんだ?」  
「下も何かいいのない?」  
「した?」  
困惑しながらもいろいろと探す。  
ふと、ひとつのスカートが目に入る。  
「これなんかどうだ?」  
と目に付いたスカートをカーテンから少し出た手に渡す。  
スカートをつかむと手が中に入る。  
シャーっと音を立てながらカーテンが開くと、サンタのような服を着た御坂が見えた。  
「美琴サンタか。かわいいな。」  
「っちょちょっと、サンタって…。」  
「でも似合ってるぞ。」  
少し怒りそうな御坂をなだめるために上条は言う。  
「…ホント?」  
「うん。」  
「じゃあ、買おうかな。」  
とカーテンを閉めて脱ぎ出す。  
その間、上条はまた別の服を探し出す。  
 
 
結局。  
御坂はそのあと上条が見つけた服も買い、紙袋を二つほど持ってまたショーウインド越しに店を眺める。  
「そうだ、美琴。上条さんは行きたいところがあるんだがいいか?」  
「行きたいところ? 別にいいわよ。」  
と店を見ていた御坂は上条のほうへ振り向く。  
「すぐそこなんだ。」  
と上条が指を差したのは…。  
「ド○=キ○ーテ?」  
「そうそう。ちょっとな。」  
と上条はその店へと入っていく。  
中は雑貨屋のようにいろいろな物が置いており、上条はその中からコスプレ用の衣服が置いてある場所に一目散に行くと、御坂にばれないようにひとつの服を掴み、レジへと持っていく。  
むろん、レジでも御坂にばれないように細心の注意を払って。  
その間御坂はというと、香水やらを品定めしており、上条の買い物には興味はあるが、極力見ないようにしているようだった。  
さて、上条の努力と御坂の努力。二つの甲斐があり、何とか上条の品物は御坂にばれないように購入できた。  
それを持って、上条は御坂と合流すると店をでる。  
「ねぇ、何買ったのよ?」  
「ん? 内緒です。」  
と上条は、紙袋(レジの人に頼み込んだ)を両手で抱える。  
「これはお楽しみです。」  
「…まぁいいわ。とうまが買ったものだしね。」  
そういうと、また二人はモールの中を散策しだす。  
 

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