アイテム壊滅後の話  
 
 
あっ、と麦野が声をあげたときには、すでに机の上でおわんが倒れた後だった。  
幸いにも中身はご飯だったのでそれがこぼれるようなことは無かった。  
麦野は先の戦いで左腕を失っているので、生活が不便になってしまった。  
しかし麦野はそれでも良かった。  
「大丈夫か?俺がおさえといてやるよ」  
浜面が以前より構ってくれるようになったからだ。  
麦野をあそこまで追い詰めた男は初めてだった。それもレベル0の存在にだ。  
最初は憎しみが生まれたが、次第に尊敬へと変わりいつしか恋愛感情へと昇華した。  
隻眼隻腕の彼女がちゃんと生活できるのは彼のおかげなのだ。  
麦野は浜面が違う方向を向いているときに同じ食卓に座っていた別の二人に、笑みを向けた。  
 
 
 
「そうだ、絹旗。映画見に行くのは来週で良いんだよな?」  
「そうです。今から超楽しみなんで、わすれないでくださいよ」  
それは、以前から良く見かけた光景だった。  
絹旗の年齢をごまかすために浜面と共に映画館へと向かう。  
だが、それは昔の話。今の絹旗は浜面と出かける口実に映画を使っているだけだ。  
おそらく浜面と一番デートを多くこなしたのは絹旗だろう。  
浜面は気づいてはいないが、最近絹旗の服は気合の入ったものが多い。  
そして、さりげなくホテルが近くにある映画館を狙ったりするのだがなかなか上手く行ってはいない。  
だがしかし、一緒に出かけられるのだから良いだろうと思っている。  
今度は絹旗が二人に向かってニヤリと笑った。  
 
「さて、俺はバイトに行ってくるからな」  
出かける準備をしだした浜面に向かって滝壺は以前からの疑問を口に出してみた。  
「はまづら、なんでそんなに働くの?」  
『アイテム』としての収入は0だが、この家には『レベル5』という立派な収入源が有る。  
彼女一人の給料だけでも一月は優に過ごせたし、それとは別に『レベル4』も居るのだ。とくにお金が必要なことも無いだろう。  
「薬が欲しいんだよ」  
「薬?」  
「なんでも『体晶』の副作用を緩和できるそうなんだが、かなり高くてな」  
滝壺の思考能力に少し障害があるのを浜面は知っていた。そしてそれが『体晶』の使いすぎが原因だということも。  
そのために浜面はその薬を欲しがったのだ。  
「じゃ、行ってくる」  
そう言って浜面は町へと出かけていった。  
滝壺はフッと笑って二人を見た。  
 
 
 
浜面は知らないだろう。  
最近仲良くなったバイト先の女の子が辞めてしまった理由を。  
町を歩く女の子が自分を避けている事を。  
 
「あの男と少し話しただけでレベル5とレベル4に襲われる」  
 
そんなうわさが流れている事を。  
 
終  
 

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