1  
 
 白井黒子は聖誕祭の夜から、ずっと落ち込んでいた。  
 お姉様の顔がまともに見れない。  
 理由は明白だった。  
 あのマフラーだ。  
 
 
 
2  
 
 始まりは聖誕祭の二週間ほど前。学び舎の園の帰り道に「そろそろマフラーなしでは寒  
さが厳しくなってきましたわね」と隣を歩いているお姉様に話しかけたときのこと。なん  
でもない話題を向けただけのつもりだったが、お姉さまは少し考え込んだ後「そうね。マ  
フラーね」と曖昧な返事をしただけだった。  
 翌日、お姉様は隠すように毛糸と編み針を持ち込んでいた。  
 お姉様はその日から、就寝時間を過ぎてから少しだけ夜更かしをして編み物をするよう  
になった。気取られぬように観察していると、数日のうちに純白のマフラーが出来上がっ  
た。  
 そのマフラーは翌朝からお姉様の首に巻かれることになった。  
 黒子が「暖かそうですわね、そのマフラー」と尋ねると、お姉さまは「うん。けっこう  
気に入ってる」と少しはにかんだのだった。  
 自分が使うマフラーが出来上がったのに、その日の夜もお姉様は編み物をしていた。  
 この時点で黒子は、もしかしたらと、ある希望を抱いていた。ゆっくりとマフラーの形  
が編まれていく。その柄が白と黒のツートンであると分かってからは、白井はそれが自分  
のためのものだと確信していた。  
 黒子の名前にかけたのだろう、その柄も「べ、ベタですわ」とは感じながらも、例えば  
婚后光子あたりに「おほほほほ、白井さん。そのマフラーはキャラ付けですの?」と言わ  
れたとしても、笑って受け流せると思っていた。お姉様から貰った、お姉様が作ったマフ  
ラーを巻いて一緒に歩けるのなら。  
 二つ目のマフラーは、前のものよりゆっくりゆっくり丁寧に編みこまれていた。そのせ  
いで街の気温はどんどん下がっていったが、黒子はマフラーをせずに過ごしていた。ニつ  
目のマフラーが完成したのは聖誕祭の数日前。黒子は、学園都市に来る前、プレゼントを  
配り歩く赤服の聖者を信じていた最後の年と同じくらい聖誕祭を待ち遠しいと思っていた。  
 
 
 だが全て黒子の思い込みだった。  
 今ではもうあのマフラーが誰のためのものだったのかわかっている。  
 聖誕祭の夜。少年と別れてすぐに「急用を思い出した」と帰り道を引き返してしまった  
お姉様の後を、黒子はこっそりとつけた。そして見たのだ。ぶっきらぼうにマフラーを巻  
いてやるお姉様。戸惑う少年。耳まで真っ赤になって逃げるように立ち去ろうとするお姉  
様を、少年の手が引き止めた。彼は道端の露店までお姉様を引っ張って行き、指輪をプレ  
ゼントした。  
 赤と白の服の白髭男に白と黒のマフラーをした姿は少し不恰好だったが、普段の学生服  
とツンツン頭にはきっと似合うことだろう。そして指輪も――お姉様が部屋に一人でいる  
ときにそれを眺めていることを黒子は知っている――きっとお姉様に似合っているのだろ  
う。  
 自分が一人で空回りしているのはわかっている。しかし大好きなお姉様が、あの少年と  
仲良くして自分を無視しているように思えてしまったことが黒子には苦痛だった。  
 自己嫌悪でお姉様の顔を直視できない。取り繕った笑顔を向けてみせても、お姉様に見  
抜かれてしまったらどうしよう。そうすればお姉さまにばれてしまう。勝手に期待してい  
たくせに、裏切られたと感じてしまったことが。それは堪えられなかった。  
 あの日から冬休み。黒子は寮監に外泊許可を取り、前から誘われていた風紀委員の同僚  
の初春飾利の寮に泊りがけで遊びに行くことにした。今はとにかくお姉様から離れたかっ  
た。  
 
3  
 
 着替えの入った鞄を手に常盤台中学校の学生寮を出てからしばらく歩いたところで、バ  
スルームの洗面台に歯ブラシなどを詰めたポーチを置いてきてしまったことに気付いた。  
気分の落ち込んだ時はなにをやってもうまくいきませんわね、と自嘲する。  
 笑ってみてもあれが必要なことには変わりない。途中で買い揃えることもできたが、ミ  
スを取り繕うような気がして嫌だった。幸い自分は空間移動能力者。直接バスルームに転  
移すればお姉様と顔を合わせずに済むだろう。  
 要は依怙地になっていたのだ。  
 
 
 表の道路から見上げる黒子達の部屋は明かりが消えていた。同室のお姉様も出かけてい  
るのだろうか。例えば、彼と。  
 じくりと嫌な想像が頭をよぎって、慌てて振り払う。出かけているとは限らないのだ。  
自室のシャワーを浴びているだけだとか。  
 
「……………………………………………………………………………………シャワー?」  
 
 これはもしかしてチャンスではないだろうか?バスルームに忘れたポーチ。それを取り  
に空間移動した自分。そこにはたまたまシャワーを浴びていたお姉様が、当然全裸で――  
――。  
「うふ」  
 黒子の口から思わず笑いが漏れる。  
「あぁ!これこそ天の配剤。少し遅れたプレゼントをこんなところでいただけるなんて、  
お姉様ったら!!」  
 テンションが一気に上がるが、空間移動をする前に、まず笑みを消す。自分はたまたま  
ポーチを取りに来ただけなのだから。  
 ほんのわずかな時間、精神を集中させると黒子は一一次元を渡った。  
 
 
「(お姉様ー。ってあら?)」  
 転移してそのままお姉様に抱きつこうとしたが、バスルームの中は暗く、無人だった。  
「本当にお出かけなさってるんですのね」  
 呟き、とりあえず目的のポーチを鞄に詰め込む。  
「……はぁ」  
 そろそろ門限も近いが、どこに行っているのか。なんにせよ、寮監の目をごまかすため  
に空間移動で迎えにきてくれと言われたら、笑って応じることはできるないだろう。  
「初春のところに泊まりに行くことは伝えてますから、それはないでしょうが」  
 鞄を手に、再び空間移動しようと呼吸を整える。そのとき、バスルームの外から人の動  
く気配がした。  
「部屋にいらしてたんですの?」  
 しかし部屋の明かりはついていない。侵入者の可能性も考えて、バスルームの扉を薄く  
静かに開く。  
 寝室の、お姉様のベッドの上に横たわる影があった。だがその体格は留守の間にお姉様  
の布団に包まろうという奇矯な侵入者ではないようだ。  
 
「お姉様、もうお休みになられているのでしょうか」  
 起こしてはいけない、あわよくば寝姿を拝もうと、しばらく観察する。こちらに背を向  
けているためよくわからないが、寝ているにしてはもぞもぞとよく動く。背中も、右手を  
挟んだ両足も小さくくねっている。  
「(……………………。こ、これはまさか!?)」  
 今まで決して見ることのできなかった乙女の痴態。  
「(黒子がいないうちにだなんて、お姉様!)」  
 今日は初春の寮に泊まるために不在だということは伝えてある。同居人の不在をついて  
若い性を発散させるのにこれ以上都合のいいタイミングはないだろう。だが、  
「(ぎ、ぎこちない)」  
 彼女の不慣れを表すように、両の手の動きは拙くリズムも悪い。快楽の頂を迎えるには  
まだまだ遠く見える。  
「(ああ、もどかしい。今すぐ飛んでいって黒子の手をお貸ししたい!)」  
 しかし千載一遇のチャンス、短慮でふいにしたくはない。お姉様の前に飛び出して、百  
合んゆりんな展開になる可能性について脳内でシミュレートしてみる。  
 
「お姉様ったら。そんなにして、はしたない」  
「く、黒子!これは、その……」  
「おっしゃらなくて結構ですわ。ほら、ここはこうするのですわよ」  
「あん!黒子。そんな急にしちゃ」  
「一人でされるよりも悦んでいるように見受けますが。あら、ここがよろしいのですか?」  
「ふぅぅん!や、だめぇ」  
「そんなことを言われても、やめられませんわ。もうぐちょぐちょですもの」  
「言っちゃ、いやぁ」  
「お姉様。わたくしのも見てくださいな。お姉様のせいでこんな風になってしまいました  
のよ」  
「くろこぉ」  
 
「(『お舐めになって』……………………はっ、いけない)」  
 本物の迫力に、普段より色彩豊かな妄想へトリップしてしまった。しかもいつもよりサ  
ドっ気に溢れたバージョンだった。慌てて下着を確認するが、既にちょっと『そんな風』  
になっていた。  
 
「(お、お姉様がいけないのですわ)」  
 しかしこの光景を前にして想像世界に浸るのはもったいない。存分に堪能しなくては。  
 妄想よりも圧倒的なビジュアルとサウンド。  
 息を殺せば全ての音が聞こえてくる。時おりもれる甘い吐息。連続的に聞こえる淫靡な  
水音。ジジジ、と蛍光灯のような音は制御が緩んで電流が溢れているのだろう。お姉様も  
徐々に高みに上りつつある。  
 身体は未成熟ながら、どこを見てもなだらかな曲線で構成されて彼女の柔らかさを表し  
ている。肌から生じた青白い電光は鋭角的な軌道を描き、再び彼女の中に。首筋から現れ  
た一際大きな光は肩甲骨の中ほどに消えていき、まるで天使の羽のよう。部屋全体を仄か  
に照らし、確かにそれは天上の美しさだった。  
「お姉様……」  
 凛々しく時に可愛らしいあの方は、しかしあんなにも美しかっただろうか。  
「ん、んん!」  
 お姉様が一段大きく痙攣し、その勢いのまま寝返りを打った。  
「っ!」  
 見つかるかと思って逃げようとするが、身体が思考についていかない。  
 幸いなことにお姉様は気付かずに色事を続ける。覗き見るためにドアを大きく開けてい  
なかったのが良かった。  
「(おおぉ……)」  
 お姉様がこちらを向いたことでいろいろなものが露になる。  
 表情は淫らで、幻想的な雷光の冠と対照的。白い喉は滑らか。なだらかな胸の先を左手  
で摘まみこねまわしている。小さなお臍がかわいらしく。その下の秘所は、あぁ右手で隠  
れてしまっている。  
 
 と、そこで。黒子は見る。  
 
 お姉様の右手。紫電を集めるそこに輝くのは、一つのリング。それは先日、とある少年  
から贈られたもので。  
「(いや)」  
 お姉様が珍しくも自慰に耽っているのは、黒子がいないからとういうだけの理由か。  
「(いやですの)」  
 指輪を嵌めた彼女の指は、何の代用品なのか。  
「(やめてください)」  
 上り詰める彼女の口が誰の名を呼んでいるのか。  
「(お願いですから、もうやめてください)」  
 懇願は届かず。彼女が絶頂を迎えると同時、黒子は逃げ出した。  
   
4  
 
「白井さん。白井さん」  
 自失していた黒子は、誰かが呼ぶ声に気付いた。  
 ゆっくり振り向くと、声の主は初春飾利のクラスメイト佐天涙子だと分かった。  
 どうやら初春の学生寮の前にいるようだった。だが、どうやってここまで来たかは覚え  
ていなかった。何回かは空間移動をしたはずだが、よく制御を誤らなかったものだ。  
 大怪我の可能性に気付くと、とたんに自傷の心が芽生えてくる。本当に、傷ついてしま  
えばよかったのに。  
 自分はよほど酷い顔をしているのだろうか、佐天さんが気遣わしげな顔をしていた。い  
や、多分もっと前から心配されていたのだろう。何度呼びかけても反応が無かったのだろ  
うから。  
 だが、佐天さんは一転して笑顔になると、  
「初春のとこに遊びに来たんですか?部屋まで案内しますよ」  
 と言った。  
 
 
 常盤台の寮とは違ったつくりの扉の前を通り過ぎ、佐天さんは一つのドアをノックした。  
「ういはるー。白井さんが来てるよー」  
 トントン、トントンとノックを繰り返すが返事はない。  
「あれー、出かけてるのかな?……あ、鍵開いてる」  
 中を覗き込むが、部屋は薄暗い。  
「今日来るって約束してるんですよね?中で待たせてもらっちゃいましょうか」  
「…………いいんですの?」  
「お互いの部屋にはちょくちょく出入りしてるし、大丈夫ですよ。同室の子も今里帰りし  
てるはずですから」  
 この頃は忙しいみたいであんまり話せてないんですけどねー。と佐天さんは勝手知った  
るといった様子で中に入って照明のスイッチを押す。明かりが点くと、少しだけ落ち着く。  
錯乱していても持ってきていたらしい荷物を部屋の隅に置かせてもらう。  
「んー。初春はどこに行ってんのかな?あ、なんか書き置きがある。なになにー?『白井  
さんへ。買い物に行ってきますけど、すぐに帰ってくるのでここで待っててください』って  
ここにメモ置いてても意味ないじゃん!私が白井さんを案内したから良かったけど!!」  
「……」  
「よ、良かったけど!」  
「…………」  
 普段なら笑えたのだろうが、今は駄目だった。  
「…………え、と。なにかあったんですか?うちの寮の前にいたから、最初は初春と喧嘩  
でもしたのかなーって思ってたんですけど、これ見る感じそうじゃなさそうだし。その、  
私さりげないやりかたとかわかんないので言っちゃいますけど。私でよければ聞かせても  
らえませんか?」  
「……」  
「……」  
「…………」  
「…………」  
 真っ直ぐな視線を向けてくる彼女の姿は、少しお姉様のそれと似ていた。  
 彼女は。彼女は許してくれるだろうか。  
 
「わたくしの好きな方が……」  
「ラブ話ですかっ!?」  
「どう、なんでしょうかね。好きな人に好きな人がいる、という意味ではそうかもしれま  
せんが」  
 驚き、テーブルの上に身を乗り出してくる佐天さんだが、この話は彼女の期待に応えら  
れるものではないだろう。  
「大好きで、尊敬しているお姉様が、聖誕祭にプレゼントを贈ってました。でもその相手  
はわたくしではなかったんですの。お姉様が、聖誕祭にプレゼントを貰って、嬉しそうに  
笑っていましたの。でもその相手はやっぱりわたくしではありませんでした」  
 黒子は話す。空回りして、嫉妬して、自分がいかに醜かったか。  
 お姉様の名誉のためにも話せないところはあるが、もともとそれは大したことではない  
のだ。置いていかれたと感じてしまう、自分の心が浅ましい。  
 それでも、彼女は黒子の泣き言を最後まで聞いてくれた。  
 
 
「自分が我が侭を言っているだけだというのも分かっているのですけれどね」  
 佐天さんはこめかみに指を当てて、んー、と首を捻る。  
「私にはそういう『好き』はよく分からないかもしれないけど。でもどんな相手でも、自  
分を見てくれないとやだっていうのは、そんなにいけないことかなぁ?」  
 言葉を選んでいるというわけではなく、正直に真摯に思ったことを口にしてくれるのが  
伝わる。  
「私も、いつも初春を連れて行く風紀委員が嫌だなって思ってたことがあるよ。風紀委員  
であったことを楽しそうに話す初春を見るのは少し寂しかったし、風紀委員であったこと  
を話してくれないのはすごく寂しかった」  
「それは――」  
 それは仕方のないことだ。風紀委員の仕事の中には、部外者に話すことを禁じられるも  
のもある。  
「あ、今は全然そんなこと思ってないですよ?私のはほら、風紀委員の高位能力者に対す  
る憧れとかもごちゃごちゃになってたし。それに、もう大丈夫。私は頑張って日常を守る  
って決めたんだ。初春が守ってくれたんだもんね。初春が笑って帰ってこれるようにしな  
いと」  
 えへら、と笑う少女はきっと強くなったのだろう。  
「わたくしは――――」  
 それに比べて自分はどうだろう。お姉様の支えになりたいと願っていたのではなかった  
のか。  
 それがこの様はなんだ。お姉様が自分を構ってくれないと駄々をこねて。お姉様に守ら  
れてばかりの自分は何も変わっていない。お姉様は今、あんなに幸せそうなのに。  
 お姉様にしてほしいことは、もちろんたくさんあるけれど。お姉様にしてあげたいこと  
はもっとある。できることが数少ないのなら尚更に。  
「わたくしも――」  
 
 ガチャ。  
「あれ、白井さん。来られてたんですか?」  
 扉が開いて、初春飾利が帰ってきた。  
「あ、佐天さん。佐天さんが白井さんを案内してくれたんですね」  
「寮の前で、たまたま会ってねー」  
 おじゃましてるよー、と佐天さんは気楽な様子で答えた。  
「ありがとうございます。コンビニでおやつを買ってきてたんですよ」  
 と初春が大きなビニール袋を掲げてみせる。  
「ところで、お二人で何のお話をしてたんですか?」  
「んー?」  
 はぐらかすよう笑う佐天さん。優しい彼女は、黒子が初春に弱いところを見せたくない  
だろうと気を遣ってくれているのだろう。  
 初春も「えー、秘密ですかー?」と笑って抗議の声を上げている。  
「…………ふふ」  
 二人を見ていたら、なんだかおかしくなって思わず声が出てしまった。初春と佐天さん  
が揃って首を傾げている、その様子もおもしろい。  
「佐天さんが『最近、初春と遊べなくて寂しい』とお話してましたの」  
「え?」  
「なっ!し、白井さん!?」  
 佐天さんが慌てているが、気にしない。  
「ここのところ風紀委員の仕事でずっと忙しかったですからねー。あ!じゃあ今日は佐天  
さんもここでお泊りしませんか?」  
 白井さんもいいですよね?と尋ねてくる初春に「もちろんですわ」と髪を払いながら返  
す。  
「むぅー。………………………………パジャマとおやつ持ってくる」  
 佐天さんの恨みがましい視線が楽しい。  
 結局、その日は三人で夜遅くまでお茶を飲んでおしゃべりをして。次の日はお昼まで寝  
てしまった。  
 
5  
 
 翌日。冬休みなんですから遊びましょうよという佐天さんたちの誘いを断ってしまった。  
二人と一緒に出掛けるのは楽しそうだったが、それよりも会いたい人がいた。  
 謝ろうか、どういう顔をすればいいか決めかねていたが、帰り道の途中でお姉様と例の  
少年が一緒にいるのを見つけてしまった。  
 二人は今日もなにやら言い合っていたが、喧嘩をしているわけではなさそうだ。彼の首  
に巻かれたマフラーも、お姉様の右手にある指輪も、めったに見せてくれないお姉様のう  
ろたえた様子も、まだ湿っぽく黒子の心を痛めてくる。  
 それでもきっと向き合える。  
 二人のもとまで跳んで行く。  
 
 
「こんにちは、お姉様」  
 二人の真ん中に降り立ち、お姉様が驚く姿に満足して振り返る。  
「そして。こんにちは、殿方さん。わたくし、お姉様の『露払い』をしている白井黒子と  
いいますの」  
「お、おう。知ってる」  
 少年も戸惑っている。  
 彼とお姉様の前で黒子は宣言する。  
「わたくし、この位置は誰にも譲るつもりはありませんので」  
 一方的に言い切り、彼の反応も見ずに再びお姉様に向き直る。  
「というわけで、お姉様。わたくし自分で決めた自分の使命を果たそうと思いますの」  
「……?」  
「黒子はお姉様の身を案じておりますの。ですのでお姉様。ぜひご自愛くださいませ」  
「な、何よ?」  
「体分泌液のような『電解質溶液』に、シルバークレイのような『金属』をつけて、最高  
一〇億ボルトの『電圧』をかけるなどと、どう考えても体に悪い想像しかできません、と  
申し上げておりますの」  
「何言って……………………あ!き、昨日の。あ、あんた覗いてたわねっ!?」  
 お姉様の髪がバチバチと帯電しているが、お姉様のために言わなくてはならない。  
「といいますか。そんなことされてたらいつか指輪の方が消えてなくなってしまいますわ  
よ?」  
 もっともお姉様がその純潔を銀メッキでコーティングしたいとおっしゃるならば、黒子  
は願ってもないことですが。と付け加えるが、黒子のお姉様はもう聞いていやしない。  
 少年が不用意に「え、指輪がどうかしたの?」と訊ねて、「あんたは何も聞くなー!」  
と雷撃の矛先を向けられている。  
 そんな二人を尻目に、黒子は空間移動する。  
「それではお姉様、また後ほど」  
 
 
 
 
 

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