『ピンポーン』  
とある学生寮の一室にチャイムの音が鳴り響いた。  
 
 
――― とある節分の姫神秋沙 ―――  
 
 
インデックスと共にのんびりテレビを見ていた上条は、チャイムの音に気付き「はいはーい?」と玄関を開けた。  
なぜか『ゴスッ』と鈍い音を立てた玄関の扉の前にいたのは、蹲って頭を抱えている巫女さんだった。  
 
「あ!?姫神、大丈夫か?どうしたいきなり。あーインデックスか、ちょっと待ってろよ」  
と、上条はバタバタとインデックスを呼びに部屋に戻ってしまった。  
そんな上条を見て、無表情な姫神の顔がほんの少しだけ寂しそうに呟く。  
 
「挨拶すら。させてもらえない。」  
 
頑張れ私。負けるな私。と項垂れる姫神の前に、インデックスと呼ばれた白いシスターがとてとてと小走りに出てきた。  
 
「どうしたの?あいさ。も、もしかしてもしかして小萌の家でまた焼肉パーティなのかな?」  
目をキラキラさせ、涎をダラダラ流しながらシスターさんが巫女さんににじり寄る。  
なんとなく背徳的な光景だ。もちろん、話の内容を除けばの話だが。  
 
「違う。今日は何の日か。知ってる?」  
「ふっふーん♪今日は節分で、年の数だけお豆食べる日ってことくらい私だって知ってるんだよ」  
「正解。でも。豆だけじゃなく。恵方巻きというものもある。」  
「あー、どっかの方角向いて食べると幸せになれるっていうアレか?」  
話が聞こえたのか、上条も部屋の奥から出てきた。  
「その年の福徳を司る吉神、歳徳神がいる方角を向いて食べるんだぜい。ちなみに今年は東北東なんだにゃー」  
いつの間にか隣の玄関から顔だけ出した土御門が解説を始めた。  
 
「参拝者に。恵方巻きをくれる神社がある。行く?」  
「いくー!!とうまとうま!えほーまきー食べにいこう」  
「そうだな。んじゃ、みんなで行ってみるか」  
義妹と家で食べるという土御門に別れをつげ、三人は恵方巻きを求めて神社へ向かった。  
 
「おー、結構人来てるもんだな。まぁ、無料でもらえるんじゃ人も集まるか」  
「どうして幸せを求めてきた人たちだとは思えないのかな?」  
微妙な笑顔のシスターの隣で、巫女さんがうんうんと頷いている。  
 
「うっ。上条さんちは毎月火の車なんですよ?主に食費で…と、とりあえずさっさと貰いに行くか」  
インデックスが視界の端でくぱぁっと口をあけたのは見なかったことにした。  
 
 
 
出店に吸い込まれていくインデックスを引っ張りながら、進んでいく三人。  
予想以上に時間がかかってしまい、辿り着いた頃には配布場は人だかりが出来ていた。  
「すげー混み具合だな。俺がもらってくるから、ちょっとここで待っててくれ」  
「とうまー!わ、私も私もー」  
といって上条とインデックスは人ごみに消えていった。  
ぽつんと取り残された姫神は参道の端っこで二人が飲み込まれていった人ごみを眺めていた。  
 
「あ、君!休憩中に悪いんだけど、あっちの配布場で人手が足りないらしいんだ。手伝ってあげてくれるかな」  
ぼけっとしていた姫神は、神主さんと思われる壮年の男性から声をかけられたことに気付いた。  
「え。違う。私は。バイトじゃない。」と慌てて答えるも、神主さんの耳には届いていないようだ。  
あたふたしている内にテントに連れてこられ、大量の恵方巻きを渡されてしまった。  
「あっちに見えるテントで残りが少なくなってきたらしいから、持って行って配っておくれ。頼んだよ」  
と言い残して、神主さんはどこかへ行ってしまった。  
 
 
 
「あれ?姫神、どこ行っちまったんだ?」  
「あいさー?えほーまきー貰ってきたよー」  
恵方巻きを勝ち取り、姫神と別れた場所に戻ってきた上条とインデックスだったが、そこに姫神の姿はなかった。  
「出店にでも見に行ったんかな。すぐ戻るだろうし、食べながら待ってようぜインデックス」  
そういって参道脇のスペースで戦利品の恵方巻きを食べていた上条たちだったが、姫神はまだ戻ってこない。  
 
あれから数十分経った。  
途中、上条が出店に買出しに行ったものも全て食べ終わってしまった。  
 
「さてと…もう腹もいっぱいだし、そろそろ帰るか」  
「あ!帰ってカナミンインテグラルのさいほーそー見なきゃなんだよ!!」  
すっかり腹も膨れ、満足した二人は姫神のことをすっかり忘れていた。  
 
 
 
――― 一時間後 ―――  
 
 
二人は学生寮に戻り、ごろたらしていた。  
「なーんか忘れてる気がするんだよなー」  
「とうまとうま!まだ豆まきしてないんだよ」  
「そうだったな。んじゃ豆まきして寝るか」  
恵方巻きや小さなお祭りを満喫した二人は、姫神を思い出すこともなく、  
いつも通り、いやいつも以上に平和に仲睦まじいひと時を過ごしていた。  
 
「うふふ。絶対。忘れられた。ふふふふ。」  
その頃、神社には自嘲気味に笑いながらも律儀に片付けまで手伝う姫神がいた。  
 
 
                          終わり。  
 

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