今日はデザートもある。特別にただで分けてあげる」
昼休みに姫神秋沙と席を向かい合わせ、夕飯の残り物を詰めただけの弁当と姫神の完璧お弁当とのお惣菜トレード。
その様子を少し離れた席から見ながら明らかに不機嫌そうに惣菜パンをガツガツ食べている吹寄制理。
そんな光景が昼食の日常風景となったある日、姫神が巾着に食べ終わったお弁当箱をしまいながらそう言った。
「おー、流石は姫神、パーフェクトなお弁当だけではなくデザートまで!
それにくらべ吹寄はあいかわらず味気なさそうなもん食ってるな」
「貴様の脳は腐ってんのか、何度も言ったけど味気なくない。ちゃんと美味しいっていってるじゃないの!」
「はいはい、負け惜しみはいいからこっちに来て一緒に姫神のデザートを分けてもらおうぜ。
良いよな姫神、可哀相な吹寄にも分けてやっても?」
「だから負け惜しみなんか言ってない、可哀相じゃないって言ってるでしょうが!」
そう言いながら上条の隣に近づきながら姫神にアイコンタクトで了解を取る吹寄。
「……良い。今日の所は断る理由がない」
少し考える素振りを見せた姫神がそう言いながら机の上に広げたのは、二十包ほどの一口サイズの市販チョコレートだった。
「チョコレート?食後のデザートにチョコはどうかと思うけど、上条さんはそんなの気にしません、
貰える物はありがたく頂きますよっと、……うん、なんていうか程よい甘さ?が丁度良くて美味しいですよ」
「君が食べたのはミルクチョコレート。他にもビターチョコレート。ホワイトチョコレートがある。
3種類のどれが好みか教えてくれると嬉しい」
そう言って上条の前にビターチョコとホワイトチョコの包を置く姫神。
その表情からいつもの感情表現に乏しい姫神からは考えられないほど強い意志を感じるのはなぜだろう。
なんだか判らない気迫を感じつつ姫神から薦められた2つを味わう。
最初に食べたミルクチョコと比べて一方は甘みが強く、また一方は苦味が強い。
「うーん、上条さん的にはやっぱり最初のヤツが一番好きかな。なんつーかこの中ではバランスが良いって感じで。
ちなみに吹寄はどれが一番好きだ?」
そう言って自分の隣に移動してきたはずの吹寄を見るとそこには微動だにせず、
姫神が広げたチョコ達を呪い殺さんばかりに睨む吹寄制理の姿があった。
「えーっと、ふっ吹寄さんは、なぜそんな鬼気迫ったオーラを纏っておられるんでしょう?
ひょっとしてチョコがお嫌いでしたでしょうか?、そのご様子から察するに、
お誘いした私に何らかの制裁が科せられるのでしょうか?」
吹寄の放つ暗黒オーラの強さに自然と敬語になる上条当麻。
微動だにしなかった吹寄は上条の言葉をきっかけにゆっくりと拳を握り締め、
「貴様は少しは空気を読むことを覚えろ、ここで私の好みなんて聞くんじゃない!!」
そう言って見事に腰の入った右フックを上条の顎に放ち上条を殴り倒す。
そして姫神を一瞥したあと何故か逃げるように教室から出て行った。
「…なんだったんだいったい。そんなにチョコが嫌いだったのかな?」
上条はのろのろと起き上がって椅子に座り直しながら再びミルクチョコレートに
手を伸ばす。そしてチョコを口に入れながら姫神に意見を求める。
「君はビターチョコの方が好みかと思っていたけど聞いてよかった。頑張って作るから」
そういって机の上のチョコを片付け自分の席に戻っていく姫神。
一人席に残された上条は「作るって何?」と考えたがすぐに誰かが肩を叩いた。
「カミやん、見せ付けてくれるじゃないの。まだ時間もあるし場所変えようか」
そこには土御門と青髪ピアスを筆頭にクラスの男子数名が怒りの表情で上条を睨んでいた。
「…なんだか判らないけど不幸だー」