正体不明(カウンターストップ)と言われ、虚数学区の一部とも人工天使とも呼ばれた風斬氷華の頭の中は、未曾有の大混乱の真っ最中だった。
それと言うのも、
「ママー」
自分の右手を引いていた少女・とうかが嬉しそうに振り返りながら風斬に呼びかけてくる。
長い黒髪のストレートヘアから一房だけ束ねられた髪がゆれる。
この子はまだいい。
「パパー」
自分の左手を引いていた少女・きんかが嬉しそうに振り返りながら風斬に呼びかけてくる。
長い銀髪のストレートヘアから一房だけ束ねられた髪がゆれる。
これだ!!
仮に人間で無い風斬とは言え、自分には女と言う自負がある。たぶんある。あるはず、だと思う。
二人の少女に手を引かれながら「あの……ね、その……ね」と泣きそうな顔で尋ねるのだが、
「ママー、なにかな?」
「パパー、なにかな?」
と二人に小首を傾げて尋ね返されると「あ……何でもない……の」と泣き笑いで返すしかなかった。
実の所、風斬は真実を知るのが怖かった。
今、学園で何かが起きているのは知っていたが、自分には関係の無いことだと思っていた。
自分は人間ではない。だから子孫は残せない。だから関係無いと。
しかし現実は自分の想像を遥か斜め上を行き、目の前に『自分の娘』を名乗る子供が現れた。
正確には、街の一角で佇んでいた自分を彼女たちが強制的に『召還』したのだ。
その時の彼女たちの頭に輝いていた環っかも、背中に見えた輝く翼も悪夢でしかなかった。
そしてそれ以上に悪夢なのは、銀髪の少女はある少女を思い出させる事だった。
風変わりな格好の常識知らずの自分の可愛い友達を。