「ふふ、ふふふ」  
私は歓喜の笑みを抑えられずいました。  
何故なら一番の恋敵が自滅したのですから。  
しかも、隠し子発覚などという致命的問題付きで。  
まあ、この情報はお姉様から断片的に聞いたもので、  
事実かどうかは分かりませんが、  
重要なのは、お姉様がどう捉えるかですわ。  
そして、それは今の滅入っているお姿を見れば一目瞭然。  
「お姉様、美味しい紅茶が手に入りましたの。一緒にいかがです?」  
傷ついた時、優しく接して距離を縮めるのは恋愛の定石。  
もちろん、お姉様の事は心配ですけど、  
悩み事があの男の事である以上、  
打算が入ってしまうのは仕方がないと思いません?  
「ごめん黒子。今はいいわ」  
しかし、私の目論見は失敗。  
これはそうとうな落ち込み様ですわね。なら……  
「そうですか。では、私は少し出掛けて来ますので、  
もし気が向いたら試してみてください」  
お姉様に茶葉を渡し、私は部屋を出ました。  
焦って無理に事を進めては全ては台無し。  
ここはじっくり攻めるべきですわ。  
それに出掛ける用事が無いわけじゃありませんし。  
お姉様が言っていたあの男とその隠し子の話。  
嘘にしろ本当にしろ利用するなら事実を知っておくべきですし、  
本当ならそれこそ『風紀委員』の出番ですわ。  
◇◆◇  
あの類人猿を見付けるのは然程難しい事ではないと思っていましたわ。  
お姉様の行動は代々把握していましたし、  
そこから寄り道としか思えない場所を当たっていけばいいんですから。  
お姉様があの類人猿に会うために寄り道をしているという仮説を  
信じるかどうかは、この際考えないことにします。  
「しかし、こうもあっさり見付かると拍子抜けしますわね」  
私は数メートル先にいる特徴的な髪型の男性を眺めながら呟きました。  
適当に公園を初めの場所に選んでみれば、  
目標物は小さな女の子と話している所でしたの。  
あれが隠し子?  
年齢にして大体4、5才くらい。  
黒髪ショートでバランスの整った顔立ちは将来性を感じます。  
男と楽しそうに話す時のいたずらっ子のような表情が、  
どこか小悪魔ぽい少女。  
後の特徴と言えば、親が裕福なのか親バカなのか、  
ブランド物と解る服を着ている事ぐらいでしょうか。  
あの若造と似ていると言えば似ている、  
似ていないと言えば似ていない。  
どう判断するべき迷っていると二人の会話が聞こえてきました。  
「そういえば、名前聞いてなかったな」  
 
「あーっ、パパったら私の名前忘れるなんてヒドイです!」  
「あー悪かった。忘れたのは謝るから教えてくれないか?」  
パパ!?しかも、そう呼ばれるのを否定しなかった。  
これは決定的ですわ。  
(ちなみに、この時上条当麻が否定しなかったのは、  
パパと呼ばせない限りこの少女が話をしてくれないからなのだが、  
白井黒子が知るわけもない)  
私は勝利の笑みを浮かべながら二人の前に歩み出ました。  
「ごきげんよう。談笑中に水を差して申し訳ないのですが、  
先程看過出来ない言葉を聞いてしまったもので……  
たしか、パ「ママーッ」」  
私が勝利の一言の下す寸前、  
若造と一緒に居た女の子によってそれは阻まれましたの。  
この娘は折角いい所で。  
いえ、それより今何と?  
母親が誰か分かれば、この男も言い逃れ出来ないでしょう。  
さあ、どちらの方がそうなのです?  
て、何で私に抱きついて来ますの!?  
「何をしてますの!私は貴方のママじゃありませんわ!」  
「そんなっひどっグス、ママはッス…ママだ…も…ウワーン」  
私が慌てて否定すると、声の大きさに驚いたのか、  
女の子は泣きだしてしまいました。  
こうなると完璧にこちらが悪者。  
周りに人はまばらですけど、その人達からの視線が痛すぎますわ。  
「大きな声を出して申し訳ありませんでしたわ。  
だから、泣きやんでくださいませ」  
「ウワーン、マ…がママ…グッないって…グスッ」  
あぁ、全然こちら話を聞いてくれませんわ。  
どうすれば……  
「て、貴方は何を呆けてますの!貴方はこの子の父親なんでしょう!」  
女の子が泣き出した事で取り乱してしまいましたが、  
こういうのはこの少女に「パパ」と呼ばれていた  
この若造の役目じゃありませんの。  
「ほら、しっかりなさい」  
私が軽く叩いてやると、赤く腫れ上がった頬を押さえながら  
類人猿は正気を取り戻しました。  
「イテテ、いや〜悪い悪い。  
未来の自分が余りにチャレンジャーだった事が、  
上条さんには衝撃的すぎたのですよ」  
「わけがわかりませんわ。まだ呆けてますの?  
それより、この子を泣きやませてくださいまし」  
「あ〜分かった分かった。」  
頭をかきながら、若造は少女の傍にしゃがみこむと、  
女の子の頭を撫で、優しく話しかけましたの。  
「ほら、なんで泣いてるか話してくれるか?」  
「グスッ、ママはママなのにママじゃないって」  
 
まだグズついているものの、あっさりと泣きやますなんて、  
随分と子供の扱いに慣れていますのね。  
「あのさ、ママってやっぱり白井のこと?」  
男がそう言って私を指差すと少女はコクリと頷きました。  
「私はママじゃありませんわ!」  
「ヒッ、ウワーン」  
「バカ、折角泣きやんだのに」  
「う、でも、知らない子供にママなんて呼ばれたくありませんわ」  
「そうかもしれないけど……  
いや、そうだな、お前には迷惑な話だよな」  
言葉の途中で一瞬何を考えたのか、  
この若造は私の助力を諦めたようですわ。  
なんとなく、役立たず扱いされたようで腹が立つのですけど。  
「ほら」  
若造は女の子を抱き寄せると、背中を摩ってあげました。  
そして、数分もしない内に女の子は泣きやみましたの。  
やはり、子供の扱いに慣れているのですね。  
そして、何故かは分かりませんけど、妙にそれが腹立たしいのですわ。  
「パパァ、ママをママって呼んじゃダメなの?」  
女の子が男の腕の中から、こちらを見つめながら訪ねました。  
それは凄く寂しそうな瞳で、胸が締め付けられるようでしたわ。  
「あのな、白井は「待ってください」」  
だからでしょうか、私の口からそんな台詞が出たのは。  
驚いた若造がこちらを見ましたけど、私の方が驚いていますのよ。  
先程の言葉が自分自身が発したものだと、今自覚してるくらいですもの。  
当然の沈黙。  
どこか期待した二対の瞳。  
若造のものはともかく、  
女の子の期待になら応えたいと、私は自然にそう思っていました。  
「私の事をママと呼んでも構いませんわ」  
「ママー!」  
少女は弾かれたように男の腕から飛び出し、私の胸に飛び込んで来ました。  
「ママ、ママ、ママ、ママ、ママ」  
「はいはい、何ですの」  
少女はそう呼べるのが嬉しいのか何度も「ママ」と繰り返しました。  
そして、私もそう呼ばれる度に胸に暖かいものが広がっていきましたの。  
不思議なものですわね。  
先程はあんなに嫌だったのに、  
一度受け入れるとこんなにも心地よい言葉だなんて。  
「白井、良かったのか?」  
「えぇ、ここまで慕ってくれるなら、多少の恥ずかしさは我慢しますわ。  
でも、そうなると貴方がこの子に「パパ」と呼ばれているのが  
気に食いませんわね」  
そんな私の本気半分の軽口に若造はひきつった笑顔になりました。  
◇◆◇  
パリン  
それは公園の外灯が割れる音でした。  
 
次いで、辺りに満ちてくる殺気。  
発生源である後ろを振り向いて、私達は硬直しました。  
「ビリビリ」「お姉様」  
そこに居たのは鬼神。  
いえ体に纏っている電撃を見れば雷神と言った方が正しいかしら。  
ともかく、私が知っている以上の怒りを、今のお姉様は纏っていました。  
「二人共、人が悪いじゃない」  
お姉様は発している殺気に相反して、  
まるで冗談でも言うように話し始めます。  
「付き合ってるなら、付き合ってるって言いなさいよ  
その上、子供までいるなんて、  
全然知らなかった私が馬鹿みたいじゃない」  
うあーッ勘違いされてる。  
しかも、よりにも最悪な相手と。  
私はお姉様一筋なのに。  
「お姉様、それは勘違いですわ。  
私がこんな類人猿と付き合うだなんて……」  
「御坂さんが夢見るお年頃なのは分かりますが、  
それは余りにあり得ない空想だと思いますが。  
てっ白井!類人猿てなんだよ!」  
「ケツの穴の小さい殿方ですわね!  
今はそんな細かい事にこだわってる場合ではないでしょう!」  
「いーえ、今まで散々悪口を言われてきた上条さんですが、  
人類の枠組みから外されては抗議せざるを得ませんよ」  
「私には貴方のちんけなプライドよりお姉様との絆の方が大切ですの!」  
と、口論になりかけた所で、  
二人の間に光の軌跡が走り、空気を引き裂く轟音が響いた。  
言うまでもなくお姉様の『超電磁砲』ですわ。  
「あんたら、人が話してる時イチャついてるんじゃないわよ」  
イチャつく?  
あ、なるほど、  
普段のお姉様の、この若造とのコミュニケーション方法から考えれば、  
今のはイチャついてるように見えると……  
それが分かっても何の解決にもなってませんわ!  
「さぞかし楽しかったでしょうね。  
妻子がいる身で女心を弄ぶのは。  
さぞかし面白かったでしょうね。  
自分の旦那に夢中になってる馬鹿な女を見るのは」  
お姉様、少し壊れてますわ。  
「落ち着け御坂、あの女の子と俺達の年齢を考えれば分かるだろう」  
若造が私が抱いている女の子を視差して説得します。  
ですが、甘いですわ。  
その程度の説得が通用するなら、  
貴方がお姉様に誤解される回数はもっと少ないはずです。  
「なに?「そんなに昔から自分達は愛し合ってる深い仲だ」とでも言いたいの」  
ほ〜ら、ご覧なさい。  
私の予想通りですわ。むしろ予想の上をいく解答。  
全然嬉しくありませんけど。  
 
「まさかの上条さん鬼畜少年説を推してくるとは。  
御坂さん、貴方の脳内上条さんはどんな爛れた幼少期を送ってんですか!」  
「うっさいわね!そんなの自分の胸に手を当てて考えなさいよ!」  
「妄想で作り上げた幼少期を、さも事実のようにおっしゃられても、  
こちらとしても承りかねます」  
「往生際が悪いわよ!そこに物的証拠が存在してんでしょーが!」  
今度はお姉様が私が抱いている女の子を……  
あら?女の子がいない。一体どこに?  
と、辺りを見回すと  
「パパとママをいじめるな!」  
いつの間にか、お姉様と私達を遮るように女の子は立っていました。  
「これ…以上…いじ…めるなら…」  
危ないですわ。  
お姉様が怪我をさせるなんてあり得ませんが、  
万が一という事も……  
「この上条ミコトが許しません!」  
精一杯の勇気を振り絞った女の子の宣言に場が一瞬凍りました。  
もちろん、女の子の迫力におののいた訳ではありません。  
お姉様と同じ名前。その事に硬直してしまったのです。  
しかし、これはチャンスですわ。  
場の流れはリセットされました。  
ここで私が場の主導権を握り、良い流れに変えればいいのです。  
「お姉様、凄い偶然ですわね。  
そうですわ。折角知り合ったんですもの、  
この偶然を祝して、この後一緒にお食事でヒッ」  
今まで止まっていたお姉様がグラリと動き、  
私と目を合わせ、その殺気で私を硬直させました。  
「なるほどね。黒子が私に構ってきたのも、  
この子と名前が同じだったからなのね」  
お姉様はミコトちゃんに一瞬視線を合わせ気絶させると、  
改めて私に視線を戻しました。  
「あんたに慕われて悪い気はしてなかったのに、  
子供の代用品扱いだったなんてね。  
随分と馬鹿にしてくれるじゃない。」  
いやーッ違います!  
そんな!私の恋心を疑われるなんて、この世の終わりですわ!  
しかし、そんな叫びも硬直していては出せない。  
「くだらない冗談もこれで終わりにしましょう」  
お姉様はメダルを取り出すとゆっくりと標準を定めました。  
あぁ、お姉様の手に掛かって逝けるのなら本望ですわ。  
私の恋はさっき散ったんですもの。  
私が死を覚悟し、お姉様の手から光が発せられた瞬間、  
私の体に強い衝撃が加わりました。  
そして、『超電磁砲』は大きく狙いを外し、後ろの方に爆音を響かせます。  
 
「白井!逃げるぞ!」  
私の身体に衝撃を与えた正体であるあの若造は、  
私の胸に何かを押し付けると、私を抱え上げて走り出しました。  
若造はお姉様の攻撃を避けながら、ぐんぐんスピードを上げます。  
「何をするんですの放してください!私はあのまま……」  
「バカヤロウ!お前、ミコトはどうすんだよ!」  
若造が視線を向けた先を見れば、私の胸で気絶しているミコトちゃん。  
「もし、あのままだったら絶対ミコトは泣いてたぞ。  
絶対泣きやまないし、俺も泣きやます方法なんて分かんねぇぞ。」  
私がミコトちゃんをギュッと抱きしめると、その温もりが伝わってきます。  
「だから……」  
「はぁ、貴方に励まされるなんて、よっぽどヘタレてましたのね。  
私にあるまじき失態ですわ」  
私は顔を若造に向けると、弱気な自分を振り払うように強気に出ました。  
「よく考えれば、貴方のトラブルに私は巻き込まれたんですのよ。  
責任を取って、ミコトちゃんの親を見つけるのと  
お姉様の誤解を解く事に協力なさい」  
若造は一瞬キョトンとした後、笑って答えた。  
「あの〜後者の要求は上条さんには荷が重いと思うのですが」  
だから、私も笑って返してやりました。  
「そちらがメインなんですから、最後までちゃんと付き合ってくださいませ」  
若造は「不幸だ」などとほざきましたが知ったこっちゃありません。  
さて、お姉様との事は少し時間を置くとして、  
ミコトちゃんの親の事も本人が目を覚まさない始まりませんし、  
今はミコトちゃんの頭を撫でる事で起こる、  
この何とも言えない穏やかな気持ちを満喫するとしょうか。  
 
 
白井黒子編〜終〜  
 
 
 
おまけ  
 
 
 
 
 
 
 
 
「さっそくだが、名前を教えてくれるかにゃー?」  
「上条ミコトです。5才です」  
「おぉ、よくできました。  
ちなみにミコトちゃんの名前は、  
何か理由が有って付けられたのかい?」  
「えっとね、パパとママの大切な人からもらったって聞いてます。」  
「まぁ、予想通りか。  
じゃあ、今度はそのパパとママの事を教えてくれ」  
「うん。パパとママはすごく仲良しです。  
朝起きたらチュウをして、朝ごはんを食べながらチュウをして、  
行ってきますのチュウをして、お帰りなさいのチュウをして、  
晩ごはん食べながらチュウをして、お風呂でチュウをして、  
おやすみなさいのチュウをするんです」  
「ほほう。そりゃあ、とっても仲良しなパパとママだ。  
他にも二人が仲良しな事が分かるエピソードがあったら教えてほしいんだが」  
「えっと、寝る時大きなベットで私を間に挟んでパパとママと三人で寝ます。  
それでおやすみなさいして暫くすると、  
いつの間にか二人共、裸になって抱き合ってたりします。  
そういう時は暑くて寝苦しくなるので、ちょっと困ります」  
「なんとも大胆な夫婦だぜぃ。  
これで質問は終了だ。協力してくれてありがとうよ」  
「えー、もう終わりですか?  
他にも休日だとお昼から夜中にするようなことしたり、  
それを私に見つかったら、逆に近くで見せてくれて、  
仲間に混「ストップ!」たり、  
ママが凄「だから、ストップ!」うだから、  
パパに私も「カメラ止めろ!」て頼んだら―――  
 
 

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