prrrrrr、prrrrrrrガチャッ  
「はいもしもし上条でーす」  
と、上条 当麻宅の据え置き電話に出たのは、茶髪のセミロングヘア、驚くべき巨乳の少女、上条 愛子。  
彼女は片方の手で自分と似た容姿の少女、上条 マナと遊びながら受話器に耳を傾ける。  
「え?はい、うちは上条 当麻の家ですけど、って答えてみたり。はい?ナニさんですか?はい、はい」  
発達しまくった肢体と比べれば、若干子供っぽい口調の愛子を、上条 当麻はじっと見ていた。  
「(…………自分の家にいる女の子が自分の代わりに「はい上条です」って電話に出るシチュ、すげえよくね?)」  
とか、すごくマニアックで賛同し辛いことを考えながら。  
「はーい、お待ちしてまーす」  
がちゃり。  
そうこうしている内に、愛子が通話を終えたようだ。そのままきゃいきゃいとマナに懐かれている。  
「あー、えーと、愛子?今の電話って誰からだった?」  
たずねて見る。  
愛子は「ぅ、若いお父さんから名前で呼ばれた……」と嬉しそうに顔を赤らめつつ、  
「えぇと、女の人が物凄い剣幕でよく分からないことを言ってた、って思い出してみる。よく分からなかったけど、とりあえずうちに来るらしいよ?って伝えてみる」  
「女の人?物凄い剣幕?うちに?………………誰だ?」  
この場合の「誰だ?」は、心当たりが無いからか、心当たりが有りすぎるからか、判断が難しい。  
「他に特徴とか、分からなかったか?」  
重ねて訊いてみると、マナをその柔らかそうな胸に抱いた愛子はんー、と一考。やがてぱあと笑顔を作り、言う。  
 
「CV:伊藤 静だったよ、ってヒントを出してみる」  
 
「神裂くるうううううううううううあああああああああああ!!!」  
絶叫。  
やばい。まじやばい。  
神裂 火織が。物凄い剣幕で。うちに。  
凄まじく死亡フラグ臭い。  
どうしようどうしようと慌てふためく上条。それをきょとんと見ている愛子とマナ。  
と言うか、愛子の方はむしろ「お父さんったらまーた女性関係のトラブル?」とでも言いたげな目をしている。  
 
ピンポーン。  
 
その時、玄関から聞こえる慎ましいチャイムが一つ。  
「あ、はーい」  
「待ちなさい!」  
と、立とうとする愛子の肩を上条さんがガシィと掴む。  
そのままトスンと無理やり座らせる。揺れた。  
「………………俺が行ってくる」  
「……えーと、お父さんは何で来客一つでそんな死を覚悟した表情をするのかな、って問いかけてみたり」  
苦笑いの愛子に背を向け、上条 当麻は往く。  
ドアノブに手を掛け、その向こうに待ち構えているであろう聖人の阿修羅すら凌駕する形相を幻視しつつ、ドアを、開ける――!  
 
「お父様!」  
 
……知らない子が、そこにいた。  
 
父様。  
上条をそう呼んだ少女は、背も低めの150cm前半と言った所。  
ジーンズに包まれた脚も驚く程細く、すらりと長い。  
……そのジーンズの右側は、脚の付け根の辺りでバッサリと切られていて、真っ白な太ももが覗いていた。。  
シンプルなTシャツを下から押し上げるふくらみは、些か自己主張の足りていないようにも見える。  
……そのTシャツは、裾を絞って結んであり、可愛らしいおへそが覗いていた。  
髪の毛は長い。そのままにすれば膝裏、くるぶしまでは届きそうな長い黒髪を、侍のようなポニーテールに結い上げていた。  
幼い面影を残しつつも凛とした顔立ち、感動に潤んだ瞳、紅潮した頬、何かを堪えるようにきっと結ばれた唇。  
とんでもない美少女が、上条 当麻を「父様」と呼んだ。  
「ぅ、え……ぁ……?」  
涙目美少女に上目遣いで熱く見つめられ、しどろもどろとする上条。  
そして、気付く。  
その美少女が、背負っているものの存在を。  
どうして今の今まで気付かなかったのだろう、彼女は――日本刀を持っていた。  
しかも、上条はそれに見覚えがあった。  
2mを越す長い刀――それは紛れも無く、神裂 火織の七天七刀だった。  
愕然とする上条。後ろからはなんだなんだと愛子とマナまで顔を出してきた。  
 
そんな時。  
 
「火澄っ!一人で行っては危な……ぃ……」  
 
やってきたのは、神裂 火織その人であった。  
慌てた様子で姿を見せた神裂は、その視界に上条を認め、その途端言葉も出せず、油が切れたように動きを鈍らせた。  
「母様っ!」  
火澄と呼ばれた美少女が歓喜の色濃い声を出した。  
背中の七天七刀をガチャガチャ鳴らして、神裂の腕を取る。  
「この方が私の父様です、母様!」  
嬉しそうに、心から嬉しそうに、上条を指差す火澄。  
「――」  
絶句。上条は絶句。それは神裂も一緒だ。お互いにギシギシと硬い動きで視線を通わせた。  
そこに、愛子がひょいと首を突っ込む。  
「とりあえず……玄関で立ち話もあれだから、奥にどうぞ?ってお招きしてみる」  
火澄はその誘いに乗り、上条に礼儀正しく一礼をしてから部屋の奥へ入っていった。  
残されたのは上条と神裂。  
長い長い沈黙。  
上条は冷汗三斗と言った具合だし、神裂は茹蛸の顔に涙目で小刻みに震えている。  
気まずい気まずい沈黙。  
やがて、神裂が口を開く。  
 
「……………………………………………………責任、取ってください」  
 
不幸だーっ、と、上条 当麻の叫びが響いた。  
 
 
 

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