夜の学園都市を一台の車が猛スピードで駆け抜ける。
「で愛穂、何で私まで呼ばれたのかしら?」
車のドアガラスに映る芳川の顔は心なしか不機嫌そうに見えた。
そんな心情など汲む気も無いように黄泉川は、
「私が知るわけ無いじゃんよ。上からの連絡、よっと」
「きゃっ!」
黄泉川が乱暴にハンドルを切ったので芳川は体を支える暇も無くドアに押し付けられる。
しかしそんな状態の芳川をさらっと無視して、
「で貴女を連れてけって言われたじゃん」
と黄泉川は何事もなかったように話を続けた。
しかし芳川も黙ってやられっぱなしではいられないと髪をかき上げながら、
「もっと丁寧に運転しなさいって――」
しかし苦情の言葉は、
「お、目標発見じゃーん」
黄泉川の暴挙とも言える急ブレーキで中断された。
「きゃっ!」
再びの芳川の悲鳴。
しかし、そんなものはお構い無しに黄泉川はエンジンをそのままに車のドアを開けると外に出た。
何度言えば判るのよこの馬鹿乳女は、と芳川がため息混じりに言ったのが聞こえたが、後でとっちめる事にして今は無視しておく事にした。
そして車のライトに照らし出されて硬直する小さな影に向かって、
「そこのお譲ちゃんたち待つじゃんよ。悪いけどお姉さんたちに付いて来るじゃん」
と言った所で
「あ、眩しかった? めんごめんご~」
開いたままのドア越しに室内に手を突っ込んで、ライトをスモールに切り替えた。
そして車の前に回りこんで話しかけようとした所で、
「お、母さん?」
二人の少女の内、背が高い方の子の呟きに、
「「へ?」」
黄泉川も、後から降りてきた芳川もらしからぬ間抜けた声を上げた。
そんな
「やっぱりお母さんじゃーん!」
背が高い方の女の子が黄泉川に抱き付いた。
「「え~!?」」
抱きつかれた黄泉川と、芳川は素っ頓狂な声を上げる。そして、
「やっぱりその胸って出産経験で――」
淡々とそんな事を口にする芳川に黄泉川は、
「ち、違う、違ーう、私はまだ経験なんてないじゃんよー」
慌てて否定する黄泉川に、
「え? 愛穂って、まさか、ヴァ――」
「ス、ススス、ストォォォップ!! それ以上はお子様の前じゃ駄目じゃんよ」
黄泉川は慌てて芳川の話を中断する。
「ねェかずほちゃん、ゆりのお母さ――」
そんな騒ぎの中、1人取り残された少女が寂しそうに3人の輪の中に呼びかけようとして、
「?」
芳川と目が合った。
少女の瞳が見る間に大きく見開かれ、自然と芳川の頬が小さく引き攣った。
「お母さァん!」
「「え~!?」」
素っ頓狂な叫び声再び。
黄泉川は少女を抱きしめつつもここぞとばかりに
「芳川、貴女こそ子持ちって、相手誰じゃんよー」
「え、何言ってるの? 私は貴女と違って身持ちが堅いのよ。そんな事あるわけ無いじゃない」
こちらも少女を抱きしめつつ、芳川は慌てず切って返す。
そして腕の中にいる少女に優しく微笑み掛けると、
「えっと、ゆりちゃんだったかしら?」
「なァに、お母さァん?」
元々小学校教師を目指していた為か、はたまた母性が目覚めたのか、「お母さん」と言う言葉に内心グラッと来たが、
「あはは、えっとね、お父さんの名前言える?」
芳川は何とか平静を保ってそれだけは言えた。すると、
「お父さァん? えっとねェ、あくせられェた!」
「「……」」
黄泉川と芳川の知るある少年の名前に2人は沈黙する。
「そう! かずほのお父さんと同じなまえじゃんねー。お母さん、これって『異母兄弟』って言うんでしょ? あ、でもこの場合は『異母姉妹』じゃんねー」
そこに黄泉川に抱きしめられていた少女・かずほがメガトン級の爆弾を投下した。
「「!!」」
黄泉川と芳川の体がビクンと跳ね上がり、キッとお互いを見据えると、
「「貴女、未成年相手に何したの(じゃん)!!」」
大声で一言ののしりあうと、ふぅーと、2人は火でも噴きそうなため息をつく。
そして芳川は、今のやり取りで怯える少女・ゆりに「ごめんね」と謝ると、
「と、取り合えず落ち着きましょう。愛穂、貴女何て言われてここに来たの?」
「え? 『少女2名の父親の名前を確認の上保護する事』だったじゃん」
「(で、この自称『私の娘』は一体何なの? こんな研究に加担した覚えは無いわ)」
芳川は子供たちに気を使ってその部分は小声で話したのだが、子供たちには聞こえたようで、
「『いちじのきのまよい』ってお母さんはいつも言ってたじゃん」
とかずほが言うと、
「ゆりのお母さんも言ってたァ。後ね『でもこうかいしてないわ』って」
相槌を入れて、2人は顔を見合わせつとにっこり微笑んで、
「「ねー」」
と楽しそうに言った。その姿はまるで本当の姉妹の様である。
今、2人の心の中には、昔流行った某アニメの主人公の台詞が木霊する。
(逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、……)
黄泉川と芳川は再び見詰め合う。
「愛穂」
「芳川」
その瞳の奥には炎が見えた気がした。
「集合場所に向かうじゃん」
黄泉川の運転する車は、後部座席に芳川を挟んでかずほとゆりを乗せて、一路少女たちを保護する場所に向かった。
――番外・その後――
そこはまさに子供達の海と化していた。
「どうなってるじゃん!?」
現状を見て黄泉川は素っ頓狂な声を上げる。
そこに、金髪、サングラス、アロハシャツと言う目立ついでたちの男が近づいてきた。
「にゃー、黄泉川先生。ご苦労様ですたい」
「ん、土御門? 君はここでなにしてるじゃん?」
自分の学校の生徒を見て驚く。黄泉川の記憶では彼はただの一般生徒のはずだが。
そんな黄泉川の疑問に答えるように土御門は、
「いやー、ちょっと学校を休みすぎたんで、単位を免除してもらうのに、ここでボランティア活動ですにゃー」
そして名簿をぺらぺらめくりながら、
「で、先生、『旦那さん』は誰ですかにゃー?」
「「だ、旦那って!?」」
黄泉川と芳川は、本日何度目か判らない素っ頓狂な声を上げる。
そんな2人の疑問に答えるかのように土御門はボールペンを振りながら、
「今回の件て、子供達が自称誰かの『娘』を名乗ってるにゃー。で迎えに行かされるのは『父親』か『母親』って事になってるにゃー」
土御門のサングラスがキラリと光る。
「と言うことは先生とそっちの人が迎えに行ったんなら、俺の勘違いじゃなければ2人は『母親』って事になるにゃー」
違いますか と、土御門はペンを立ててそう言った。
「で、先生、2人の『旦那さん』は誰ですかにゃー?」
それに答えたのは、かずほとゆりだった。
「「あくせられェた」」
その瞬間、子供達の海の中から見慣れた白い頭がビコンと持ち上がる。
その頭がギギギと錆付いた機械のように回転して、赤い双眸が黄泉川と芳川を捕らえた。
2人には見えた、ひくひくっと引き攣る一方通行(アクセラレータ)の口元が。
すると、一方通行(アクセラレータ)はひゅーっと力なく子供達の海に消えて行った。
そこからは「お父さん」だの「お母さん」だの「パパ」だの「ママ」だの、世の日本の親を呼ぶ時の代名詞が飛び交う。
その時2人は思った。
(あの子の方が大変だ(じゃん))
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