上条当麻と姫神秋沙は人の少ない道路を並行して歩いていた。  
周囲にある建物は皆学生寮だが、住民は出掛けているか自宅に篭っているかのどちらかなので、道を歩いているのは大抵表通りへと向かっている人しかいない。  
人の流れ(といってもごく少数だが)に逆らうように二人は月詠小萌の在住しているアパートへと向かう。  
「……」  
「……」  
ちなみに二人は地下街から出て今まで一度も会話を交わしていない。  
何がどうという問題がある訳ではなく、単に話題がない為である。  
(か、会話がない……重い……気まずい……)  
ココロの中でネガティブジェットストリームアタック。  
しかし、そんな上条の様子に気付かず姫神は無言で徒行し続ける。  
この空気に常日頃から浸っている(スルーされる)ことに慣れている姫神はいいが、健全な男子高校生である上条が耐えられるはずもない。  
何か話題はないか、と上条は辺りを見回してみる。  
が、そんな都合よく話のネタが見つかる訳ない。  
せいぜいが空き缶が道の端に転がっているとか、野良猫がお魚を咥えて悠々と歩いているとか、風力発電のプロペラが風もないのに回っているとか、頭に大量の花の飾りを付けた中学生くらいの少女の額に野球ボールが飛来したとか―――、  
(……ん?)  
ふと、上条は目に映った光景の中に違和感を覚えた。  
そして、どの部分に違和感を覚えたのかすぐに分かった。  
―――“風力発電のプロペラが、無風なのに回っている”?  
その答えはすぐに脳裏に浮かぶ。  
思い出す光景は御坂妹を絶対能力進化実験から助け出す前に、御坂美琴を捜索していた時の事。  
彼女のような超能力(レベル5)クラスの発電能力者(エレクトロマスター)が無意識に放出している磁場―――つまりAIM拡散力場―――は、風力発電に使われているプロペラのモーターを稼動させる。  
つまり。  
御坂美琴はこの近くにいるという事に―――。  
「……あー、姫神?」  
思い至った上条は姫神に話し掛ける。  
「何。急に」  
「そこら辺に茶色い短髪の活気顔の中学生がいたら報告頼む」  
「……? もしかして。後ろに走ってきてるあの人?」  
上条は姫神が指差す方へ自然と、あくまで自然とした態度で振り返る。  
と、二〇メートルほど後方に活気顔をした少女―――御坂美琴が走ってきているのが見えた。  
隣に並走する御坂妹も。  
 
「あの人……達がどうしたの? 何かこの前。君の家に来ていた人と似てる人がいるけど。……双子?」  
「ああ、ちょっと色々あってな」  
脳内で策を巡らせる上条は気付いていないが、姫神はその言葉を聞いてちょっとムッとした。  
彼女の視線は語る。  
姉妹セットでご購入かコノヤロウ。  
だが、その視線の真意に気付かないまま上条は、  
(さて、どう料理してくれよう。通行人がいる所でヤッちゃうと色々とまずいし、下手したら警備員(アンチスキル)呼ばれそうだし。いっそ気付かないフリしてカウンター決め込むか……)  
色々危ないことを考える。  
その間にも、二組の距離は縮まって行く。  
十八……十五……一〇……、  
五メートルまで来て、上条当麻は体ごと振り返った。  
音で大体の距離感を掴んでいたのだろう。  
彼は拳を握り、  
「隙あぎぷッ!?」  
 
それを振るう前に、御坂美琴のドロップキックが炸裂した。  
ご丁寧にも顔のど真ん中を中心に。  
 
美琴の両足が顔から離れる前に、彼女と並走していた御坂妹が上条の懐深くに潜り込む。  
十二分に射程圏に入ると、がら空きの無防備な鳩尾にストレート一閃、鋭い一撃を決め込んだ。  
「〜〜〜ッ!!」  
上条が痛みにのた打ち回る前に美琴は着地し、待機していた御坂妹の掌と自分の掌を重ね、  
ダブルブリッド。二つの閃光が少年を襲った。  
ゴドンッ!! と光速でぶち当たった電撃に上条の体はノーバウンドで三メートルほど吹き飛び、ゴロゴロと地面を転がる。  
いつもなら右手(イマジンブレイカー)で軽々と防いでいただろうが、今回は右手を使う暇もなく。  
彼はただただ蹲る事しかできなかった。  
そんな上条の前で美琴は仁王立ちし、  
「アンタは……またまたまたまたこれかぁ! 人が心配して探してやってんのにその頃のんびり愉快にラブラブ空間満喫中ですか!? ふ・ざ・け・ん・じゃ・ないわよ!!」  
俺様ぁ燕人御坂!! とでも叫びそうな勢いで怒鳴る。  
バチバチと紫電を散らしている彼女を見て命の危機を悟った上条は顔を上げ、  
「ま、待って御坂……次食らったら、まぢで死ぬる……」  
「主人公補正が効いてるので死には至りませんよ、とミサカは確証を付いた証言をします。現に今さっきの攻撃を受けても生きているではありませんか」  
確証ねぇ、と上条は思う。  
というか、美琴なら分かるのだが何故御坂妹も不機嫌なのか。全く理解できない。  
 
「……やっぱり。君には女難の相が濃く出てる」  
「他人事みたいな発言しないでタスケテボスケテ姫神ぃ」  
「こんのボンクラ……ッ! まだ懲りないのかしら!?」  
「もう手に負えませんね、とミサカはこの人の浮気性に呆れながら呟きます」  
一〇億+五万ボルトの電撃を受けて生きている上条は手を伸ばして救いを求める。  
と、今まで上条(ターゲット)しか眼中になかった美琴は姫神の方に向く。  
「っと、遅れたけど初めまして。姫神さん、でいいんだっけ?」  
「そう。姫神秋沙。あなたは御坂美琴さん?」  
「? フルネーム知ってるの?」  
「うん。超能力者(レベル5)全員の名前は。先生から聞いたことがある。それに。常盤台中学の生徒で。『御坂』って姓の人は。あなたしかいないはず」  
「あー、まぁこの馬鹿がこんだけ喚いてりゃ、ね。貴女はこの馬鹿と何か?」  
「ただのクラスメイト。それ以上でも。それ以下でもない」  
至極自然な対応に上条はちょっぴり寂しくなった。  
とりあえず姫神の発言に不満を感じたので異議を唱えてみる。  
「……オイ、ちょっとそ」  
「あなたは。上条君の彼女?」  
「え? あ、うっ、ぇと……うん……」  
至極自然にスルーされた。  
ここまで来ると悲しさしか残らない。  
というか何故美琴は顔を赤くして俯いているんだろう。  
そして何故御坂妹は無表情でこめかみに青筋を浮かべているんだろう。  
上条が悲嘆に打ちひしがれていると、姫神が非難の視線を送ってきている事に気付く。  
……何なんだこの状況、と上条は修羅場の予感に逃げ出したくなった。  
「……なるほど。ついに。落ち着ける枝を探し出したの。……そう」  
「となると、お姉様(オリジナル)はついに自分に素直になれたのですか、とミサカは舌打ちをします」  
「何なんだオマエラ。片方は太陽の恵みが希薄になってるしもう片方は本気で怨念の目付きをしながらチッとか言ってるしもうそろそろ帰っていいですかどうですか御坂さん?」  
うつ伏せ状態で投げ遣りに言った上条に姫神秋沙の踏み付け攻撃と御坂妹のビリビリ入りローキックがクリティカルヒットしたのは言うまでもない。  
ぐみゃあっ!! という少年の悲鳴と少女達の罵声が辺りに響く。  
 
 

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