「ジャマするぜ、クソ親父」
上条当麻はドアを開けた瞬間、いきなり目の前の少年とも少女ともつかないゆったりとした腹を着た十歳くらいの子供にクソ親父呼ばわりされた。
血の色をそのまま透かした緋色の目。どこまでも、透き通るように、人工的とも思える程に白い肌と髪。その子供の外見は生まれつき色素を生成出来ないアルビノのもので、誰かを彷彿とさせるものだった。
「えー、もしかしなくても」
「忌々しい事に、テメーのガキだよ」
やっぱりかー! と叫び上条は頭を抱えた。
今現在上条の心の中を占めているのは彼の部屋の人口密度を上げている女性陣の殺気がまた増すのだろうか、という恐怖。
帯電して、そろそろ周囲がショートしそうな御坂。
歯をカチカチ鳴らせているインデックス。
今にも鞘から刀を解き放ちそうな神裂。
虚ろな目のまま何か呟きつつフリウリスピアをいじっている五和。
普通の人間なら雰囲気だけで死んでもおかしくない。
それに加えて小萌、白井、吹寄、御坂妹10032号、初春、佐天、及びその子供(しかも父親は全員同じで上条)の冷たい、浮気性の夫(父親)を責めるような視線がくる。
常人なら精神が保たないこと請け合いだ。
因みに最初の五人が凶暴化しているのは自分と上条の子供が現れないからなのだがそれには全く気付いていない、それが上条クオリティ。
「……取り敢えず上がれよ」
いつまでも頭を抱えてばかりではどうしようもないため、部屋の人口密度が凄まじい事になっているのを気にしながらも、ひとまず部屋に招き入れる事にした。
上条の予想通り、部屋の殺気はさらに増えた、多分小動物くらいなら死ねるだろう。
人口密度が凄まじく高いため上条に向けて全包囲から殺気と冷たい視線が降り注ぐ、呪詛のような言葉まで聞こえる。
上条は出来る限りそれを気にしないようにしながら、というか気にしたら精神が崩壊するから必死に意識から振り払いながら、目の前に座っている自分の子供に話しかけていた。
「あー、先ず聞いておきたいんだけど、お前の名前と母親は?」
「俺の名前は上条牡丹、母親は上条百合子、っても殆どの奴は本名じゃなくてアクセラレータって呼ぶけどな」
もう何が起きても驚かないだろうと高を括っていた上条は、この日一番の驚愕に襲われ、脳がフリーズした。
しかし、度重なる衝撃で耐性が出来ていた脳は直ぐさま再起動し、状況を整理、再び言葉を発せるまで回復した。
「一方、通行って、おん、な、だっ、たのか?」
「そーだよ、ンなことにも気付かなかったのかクソ親父」
牡丹の侮蔑の視線が上条に向けられる、上条は目を逸すと他のもっとキツい視線とぶつかるので躱すこともできず、真正面からそれを受けている。
「一応言っとくが俺も女だからな」
「そ、そうなのか」
そろそろ視線に耐えられなくなっていた上条は話題が変わったことに少し安堵した。
「ところでよォ、そろそろ本題に入っていいか?」
「本題?」
「あァ、俺にはここでちゃんとした目的があンだよ」
そう言うと、おもむろに立ち上がり、上半身を覆っていた服を脱ぎ捨てた。
「おい、いきなりな……に、を……し」
それを止めようとした上条の目に衝撃の事実が写り込む。
少女らしい滑らかな身体つき、但しゆったりとした服の上からでは分からなかったが、腹部だけが膨れている。
その場にいた人間の頭の中に『妊娠』という単語が去来した。
「俺の目的はなァ……」
あまりの衝撃に誰もが動けず、言葉も発せないなかで牡丹だけが言葉を紡ぐ。
上条は果てしなく嫌な予感がしていた、今まで幾度となく体験してきた死の予感だ、しかも今までで最大のもの。
「散々浮気してお袋泣かせた挙句に、自分の娘にまで手だして孕ませたテメーをブっ飛ばしに着たんだよ!」
言葉と同時に上条の頭部に衝撃、牡丹の蹴りによるものだ。
しかし上条は衝撃につぐ衝撃で、もはや思考が停止状態になり痛みも何も感じ無かった。
ただ。
コインを取り出しながら立ち上がる御坂と、歯をぎらつかせて飛び掛かるインデックスと、刀を抜いた神裂と、虚ろな目のままフリウリスピアを構えた五和と流石にキレたらしい他の母子を見て。
(今日が、命日か)
とだけ浮かび。
やがて、考えることを止めた。